強制性交等罪
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/24 21:11 UTC 版)
集団強姦罪(廃止)
2人以上の者が共同して強姦(準強姦含む)した場合、平成16年刑法改正で『集団強姦罪(刑法178条の2)』として法定刑が加重されていた。なお、集団強姦罪の場合は、性別不問で実際に性行為に参加していなくても、その場に居れば刑罰が成立していた[6]。
この規定は、暴力的性犯罪に関する国民の規範意識に鑑み、集団による強姦・準強姦という悪質性[7]に対して従来の強姦罪等よりも厳しい刑罰を課す趣旨で設けられたものであるが、平成29年改正により強制性交等罪・準強制性交等罪の法定刑の下限が引き上げられ集団強姦罪の法定刑の下限を超えることとなったので、改正法に吸収される形となり廃止された。
監護者性交等
18歳未満の者に対して、その者を現に監護する者(監護者)であることによる影響力があることに乗じて性交等をした場合には、強制性交等罪(第179条第2項)が成立する。なお、同条第1項には、監護者が性交等に至らずともわいせつな行為に及んだ者は、強制わいせつの罪に問われる(監護者わいせつ罪)ことが規定されている[8]。監護者わいせつ罪および監護者性交等罪については、脅迫・暴行がなく、または同意があったとしても罪の成立を妨げない。
立法趣旨
平成29年刑法改正以前において、不同意のわいせつ乃至性交等であっても、監護者と被監護者の間では、脅迫・暴行の事実が認められず、強姦罪等よりも法定刑の軽い児童福祉法違反等が適用された例が少なからず見られた。しかし、こうした事案の中には、監護者の庇護がなければ年少の被監護者が生活上の不利益を大きく受けるなど、監護者の要求を拒絶しがたいという事情があるなど、脅迫・暴行と同一視すべきものも見られ、また、監護者が自らの欲望について年少の被監護者をほしいままにするという社会倫理としてもとる面も見られることから、影響力に乗じて性交等を行った場合、強制性交等と同一視したものである。
監護者
本条項の主体は、(18歳未満の者を)「現に監護する者」であり、真正身分犯である。
「現に監護する者」の範囲は、民法第820条による親権の効果としての「監督保護」を行う者をいい、法的権限に拠らなくてもそれと同等の監督保護を行う者を含む。具体的には養親に加え、養護施設等の職員が含まれ得る。一方で、教師等は、この立場から除かれると解されている。
影響力があることに乗じて
「影響力があることに乗じて」は、明示的に示される必要はなく、暗黙の了解でも足りる。「影響力があることに乗じて」いない例としては、監護者であることを隠匿して性交等に及ぼうとした場合が挙げられている。
強制性交等致死傷罪
従前から強制わいせつ、ないし強姦の機会に被害者に外傷を生じさせたり死亡させた場合、結果的加重犯として重い犯罪類型を構成していた。平成29年改正においても同趣旨は継続されている。なお平成29年改正にあわせ、以下の判例等において、「女性」に「人」、「姦淫」に「性交等」、「強姦(致傷)罪」に「強制性交等(致死傷)罪」をそれぞれ読み替えるべく適宜【】内に付記している。
結果的加重犯
強制性交等罪、準強制性交等罪若しくは監護者性交等罪又はこれらの未遂罪を犯し、それによって被害者を死亡・負傷させた場合は、強制性交等致死傷罪(刑法181条2項)が成立し、無期又は6年[9]以上の懲役に処せられる。姦淫【性交等】に着手しその途中で死傷させれば、姦淫【性交等】は未遂でも、強姦致傷罪【強制性交等致死傷罪】が既遂で成立する[10]。
被害者につき、処女を姦淫して処女膜を裂傷させた場合は強姦致傷罪【強制性交等致傷罪】に当たる[11]。その他、性器、肛門や口腔に裂傷を生じさせた場合も同罪を構成すると考えられる(判例未確定)。姦淫【性交等】の行為そのものや、姦淫【性交等】の手段である暴行・脅迫によって死傷した場合のほか、姦淫【性交等】をされそうになった人が逃走を図り、その途中で体力不足などのために倒れたり、足を踏み外して負傷した場合なども強姦致傷罪【強制性交等致傷罪】が成立する[12]。また、この罪が成立するための「傷害」の程度については、「強姦行為【強制性交等】を為すに際して相手方に傷害を加えた場合には、たとえその傷害が、『メンタム一回つけただけで後は苦痛を感ぜずに治』つた程度のものであつたとしても」罪が成立するとされている[13]。
なお、強姦致傷罪【強制性交等致傷罪】には同時傷害の特例の適用はないとした下級審の判決がある[14]。
殺意がある場合
殺意をもって人に性交等をし、死亡させた場合、どの条文が適用されるかについて争いがある。まず、刑法181条2項に殺意がある場合を含むと考えるか否かに分かれる。
181条2項は結果的加重犯である点を重視し、殺意がある場合を含まないという説は更に、強制性交等致死罪と殺人罪の観念的競合となるという説と、強制性交等罪と殺人罪の観念的競合となるという説に分かれる。判例は前者の説をとっている(大判大正4年12月11日刑録21輯2088頁、最判昭和31年10月25日刑集10巻10号1455頁)。判例に対しては、死の結果を二重評価することになるとの批判があり、結局殺人罪で処断されて刑の不均衡を生じないのであるため、後説によるべきとの指摘がある[15]。
一方、181条2項には殺意がある場合を含むという説は更に、強制性交等致死罪の単純一罪であるという説と、刑のバランスを考えて[16]、強制性交等致死罪と殺人罪の観念的競合となるという説に分かれる。
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- ^ “改正刑法:性犯罪を厳罰化、成立 「非親告罪」化などが柱”. 毎日新聞. 毎日新聞社 (2017年6月16日). 2017年6月19日閲覧。[リンク切れ]
- ^ 以下、2017年(平成29年)7月13日施行の改正刑法を言う。
- ^ “性犯罪に関する刑法~110年ぶりの改正と残された課題”. NHK (2018年10月22日). 2020年7月13日閲覧。
- ^ 西田典之『刑法各論』第三版81頁
- ^ http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/193/0004/19306070004021c.html
- ^ “川崎逃走男「金は返すから逮捕は勘弁して」”. 日テレNEWS24. (2014年1月11日) 2014年1月11日閲覧。
- ^ 制定の直接の契機となったのは、2003年(平成15年)に発覚したスーパーフリー事件である。
- ^ 以下、前澤貴子. “調査と情報第962号”. 性犯罪規定に係る刑法改正法案の概要. 国立国会図書館. 2017年10月22日閲覧。による。
- ^ なお、平成29年改正以前、法定刑の下限は5年であった。
- ^ 最高裁判所第三小法廷 昭和31年(あ)第2294号 窃盜、強姦致傷 昭和34年7月7日 決定 棄却 集刑130号515頁
- ^ 最高裁判所第二小法廷 昭和34年(あ)第1274号 強姦致傷 昭和34年10月28日 決定 棄却 刑集13巻11号3051頁
- ^ 最高裁判所第二小法廷 昭和46年(あ)第1051号 強姦致傷 昭和46年9月22日 決定 棄却 刑集25巻6号769頁等
- ^ 最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)第1260号 強姦致傷 昭和23年7月26日 判決 棄却 集刑第12号831頁
- ^ 仙台高等裁判所第二部 昭和32年(う)第366号 強姦致傷被告事件 昭和33年3月13日 判決 高刑11巻4号137頁
- ^ 大谷實『新版刑法講義各論[追補版]』成文堂、2002年、127頁
- ^ 強姦致死罪には死刑が規定されていないため、単純な殺人よりも、殺意をもって強姦し死亡させた場合の方が法定刑が軽くなってしまう。
- ^ “法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会 第1回会議(平成27年11月2日開催)議事録”. 中村幹事による法務省資料1諮問第101号別紙要綱(骨子)第四に関する説明. 法務省. 2017年10月23日閲覧。
- ^ “法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会 第1回会議(平成27年11月2日開催)議事録”. 森悦子委員(最高検察庁)、田邊三保子委員(名古屋高等裁判所)発言. 法務省. 2017年10月23日閲覧。
- ^ 「強姦罪「告訴なしで起訴可能に」 内閣府専門調査会が提言 」日本経済新聞2012/7/25付
- ^ この場合、犯罪の成立の判断は被害者の感情をくみ取って、これが犯罪を成立させるか行為の文脈的な解釈に応じて司法に委ねられることになる。
- ^ 「性犯罪の罰則に関する検討会」取りまとめ報告書 p5 平成27年8月6日性犯罪の罰則に関する検討会
- ^ 刑法12条、14条
- ^ 3年ちょうどで、初犯の場合だと執行猶予5年を言い渡すこともある。
- ^ 「尻」ばかり狙った前代未聞「連続暴行魔」
- ^ 国際人権(自由権)規約委員会の総括所見
- ^ 国連の自由権規約委員会の2008年11月の最終見解
- ^ 犯罪率統計-国連調査(2000年)とOECDのデータ他
- ^ 法制審議会 第175回会議配布資料 刑1 諮問第101号 - 法務省
- ^ 刑法の一部を改正する法律案
- ^ “改正刑法施行は7月13日 性犯罪を厳罰化”. 日本経済新聞 (日本経済新聞社). (2017年6月23日) 2017年7月5日閲覧。
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