弦楽器 分類

弦楽器

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/29 08:59 UTC 版)

弦楽器(げんがっき、絃楽器とも)とは、に何らかの刺激を与えることによって得られる弦の振動とする楽器の総称である。弦の振動を得るために、弦とそれを張力をもって張っておく装置を備え、多くの場合は得られた音を共鳴させて音を拡大するための装置を持つ。

楽器分類学では弦鳴楽器と呼ぶ。

音の出し方

弦をはじく、または弓のつるで弦をこする、または弦を叩くことによって、弦に刺激を与えると、弦が振動して音が得られる。主たる刺激の与え方により、撥弦楽器、擦弦楽器、打弦楽器に分類することができる。

撥弦楽器
弦をはじく。はじくには、指、爪、またはそれに変わるもの(義甲、プレクトラムという)を使う。三味線ギターエレキベースチェンバロなどがこうして音を出す。
擦弦楽器
弦を弓のつるでこする。ヴァイオリン仲間や、胡弓の仲間、モリンホール(馬頭琴)の仲間などがこうして音を出す。弓のつるは馬の尾の毛のような摩擦の大きいものを使い、さらに松脂などによって摩擦を大きくする。韓国の牙箏(アジェン)のように、弓ではなく木の棒で擦るものもある。
打弦楽器
弦を打つ。ピアノ、一部の打楽器や、和楽器の一部もこれに入る。弦を打つのは、ハンマーばちなどである。

ただし、一般的に楽器を含む物理的な物に設計時に考えられていない振動などの外乱を加えることで想定外の音を発音させる事は可能である。また、それが正規の演奏法となる場合がある。以下は一例である。

  • 擦弦楽器であるヴァイオリン属の楽器には弦を撥弦楽器のように弾いて音を出すピチカートという奏法(コントラバスポピュラー音楽で使う場合にはむしろその方が一般的である)。
  • 撥弦楽器であるには弦を叩いて音を出す打ち爪という奏法。
  • 三味線の撥音には弦だけでなく皮の振動音も複合されており打楽器的な効果もある。
  • ギターの胴を手で叩いて打楽器的効果を出だす。弦を弓などで擦って音を出す。
  • 三味線、箏には「すり手」「すり爪」といって、爪で弦をこすって「ズー」という効果音的な音色を出す技法
  • ピアノの弦を手で擦り音を出す。
  • エレキギターなどの電気楽器に電磁気的な信号を送り込む。
  • 単なる破壊行為による発音。

など上記分類以外の方法でも演奏可能である。

チェンバロ、ピアノ等の演奏者が直接弦に触れないものは普通弦楽器ではなく、鍵盤楽器に分類される。

弦楽器では、共鳴体によって音の高さが決まる管楽器と違い、発音体たる弦の振動数(周波数)によって音の高さが決まる。弦の振動は一般には非線形現象だが、多くの弦楽器では以下のような1次元の波動方程式によって十分に近似できる。

ヴァイオリンの緒止めとあごあて
  • ギターのテールピース
  • ヴァイオリンの糸巻き
  • コントラバスの糸巻き
  • カヤグムの糸巻き
  • ギターのようにフレットが付いていたり開放弦を多く使う楽器や、コントラバスのように弦の張力が大きい楽器では、演奏中の調弦の安定性を高め微調整がやりやすいようにウォームギアを使った機械式のものを使う。

    駒、柱(箏)

    ヴァイオリンの駒
    ギターの下駒。緒止めと近接している
    電子ギターの駒

    弦の途中で弦を押さえ(実際には下から押し上げるような形になる)、弦の振動長を限定するとともに弦同士の間隔を適正に保つ(複数弦の場合)部品を駒(ブリッジ)という。駒は、緒留めや糸巻きの手前に付けられる。特に共鳴胴や響板の上に付けられる駒は、弦の振動を共鳴胴に伝える重要な働きを持つ。糸巻き側を「上駒」、胴側を「下駒」ということがある。

    エレキギターなどでは、下駒の位置を各弦ごとに弦の長さ方向にねじで微調整できる「イントネーション」機構を持つものが多い。これは、弦を押さえたときの張力の増大による弦の「延び具合」が弦の材質や太さによって微妙に異なるため、実効的な弦長が設計値と一致ぜず、高フレット位置で音程が全般的にずれることを補正するためである。イントネーション機構は、弦高(弦と指板との距離)の微調整機構も兼ね備えていることが多い。粗悪な製品では、そもそもイントネーション機構がなかったり、あっても音程のずれが調整範囲を超えていたりして、あるフレットポジション(例えば開放弦)で音高を正確に調弦しても他のフレットを押さえたときに音程が明らかに狂っている、いわゆる「フレット音痴」のことがある。

    駒には、ツゲや竹な木材や、牛骨や硬質プラスティックのような、内部損失が少なく軽くて変形しにくい材質が用いられる。エレクトリックギターなどでは、弦の振動を積極的に胴に伝える必要があまりないことや、上記のような調整機構を容易に実現するために、金属製の下駒が用いられる。

    ことのほか三味線では、その音楽ジャンルにより、きわめて多彩かつデリケートな駒のヴァリエーションが存在する。さらに個別のジャンル内においても、いくつもの種類の駒が使用される。特に地歌では、一人の演奏家でも、その日の天候や曲の雰囲気、皮の張り具合などによって多数の駒を使い分けることが普通に行われる。

    指板・勘所

    弦の振動長を自由に短くするためには、指や爪やそれに変わるもので弦を押さえるが、弦を押さえつける板を指板という。リュート属の楽器では、ネック(棹)と指板とが一体化しているものも多い。

    フレット、柱(琵琶)

    ギターのフレット

    指板に指で弦を押さえつけると、指が弦の振動を吸収する。これは高音の撥弦で著しい。このため、指が弦の振動に直接当たらないように、指板上に駒状のものを取り付けることが行われる。これをフレットといい、ギターなどで備えている。フレットは半音刻みの間隔で打たれている。フレットのある楽器では、フレットを挟んで振動しない側の弦を指で押さえる。琵琶ではという。

    響口、f字孔

    共鳴胴に穿った通気口を響口ひびきぐちという。音色に大きな影響を与える。リュートやギターでは1個で円形ないし楕円形である。ヴァイオリン属ではf字形の穴を左右対称に2つ持ち、f字孔と呼ぶ。琵琶も同様だが半月形をしており、「半月」と呼ぶ。

    魂柱

    ヴァイオリンの魂柱

    ヴァイオリン属の楽器では、表板と裏板の間に魂柱という柱が立っていて、駒から伝えられた弦の振動を裏板に伝える。

    ブレーシング

    ギターでは、響板の裏に複数の角材を貼り付け、薄い(約3mm)響板を補強するとともに、固有振動数を分散させて音色をまろやかにする。

    サワリ

    琵琶(楽琵琶を除く)、三味線シタール、タンブーラなどでは、楽器、フレット、駒などに、弦が振動したときに一部が触れて「ビーン」という音が出るしくみがある。これを日本では「さわり」(サワリ)、インドでは「ジュワリ英語版」(ジャワリ)という。

    用語

    開放弦

    指で弦を押さえて音を変える楽器において、指で押さえていない状態を開放弦という。ヴァイオリン属の楽器のようにフレットのない楽器では他の(指で振動が吸収される)音と音色が違ったり、ヴィブラートがかけられないので、使用が控えられることがあるが、音としては、指で押さえて出す音よりも、音量も大きく、豊かな良い音がでるので、意図的に指定して使用することもある。バッハの無伴奏チェロ組曲の第6番は、5弦のチェロでの演奏を前提としており、これを現代の4弦のチェロで演奏しようとすると、本来あるべき5番目の弦の開放を使用できないので、苦労することになる。

    逆に三味線などの和楽器は、開放弦に音階上の主要音を設定し多用することが多い。こうすることにより、演奏をしやすくしたり、共鳴を豊かにする効果がある。同様の例は、西洋楽器でもヴィオールなどにみられる。

    調弦、チューニング

    調弦、チューニングとは、糸巻きで弦の張力を変えるなどして、(開放弦の)音の高さを設定すること。

    作曲者の指示などにより、楽器本来の調弦法と違う音に合わせることを、スコルダトゥーラという。ヴァイオリン族ではほとんどの場合どんな曲でも同じ調弦で演奏されるが、三味線や箏にはたくさんの調弦の種類がある。また途中で調弦を変える曲も非常に多い。ギターでは、ほとんどの場合標準チューニングが使われるが、変則チューニングを好む奏者も多い。また、スティールギターではスライドバーを使って弦の振動長を変えるため、和音の音程(音高ではない)が開放弦といつも同じなので、調弦の異なる複数のギターを並べて演奏することがある。

    チョーキング、押し手

    弦の張力を変えて音の高さを変える奏法。楽器によって、弦を横に引いたり、縦に押し込んだりする。

    ピッツィカート

    ピッツィカートとは、撥弦楽器でない楽器で弦をはじく奏法。 撥弦楽器であるギターでは、ブリッジ上またはその近くの弦上に手の平の小指側を置き、弦の振動を制限することにより、濁ったポツポツをいう音にする奏法のこと。

    ヴィブラート

    ヴィブラートとは、音を揺らす奏法。弦を押さえる指などを揺らして、弦長、張力、弓の当たり方、楽器全体の位置を変えることにより、音高、音色、音強、響き方を小刻みに変化させる。ヴィブラートは耳には音色の変化として捉えられることが多い。ヴィブラートの使用により、音に空間的な響きが与えられ、ピチカート奏法では音の持続時間を多少長くすることができる。また、音高に幅ができるため、音程が合わない不快さが軽減される。和楽器では意味のニュアンスは若干異なるが「揺り」という。

    弱音器

    ヴァイオリン属の楽器では、駒に弱音器を付けて、音色を和らげ、音強を弱めることがある。三味線には「忍び駒」という弱音用の駒がある。

    地域ごとの弦楽器とその大まかな歴史

    西洋

    東洋

    日本

    中国

    モンゴル

    朝鮮

    インド亜大陸

    中央アジア

    中東

    アフリカ

    弦楽合奏

    弦楽合奏ストリングス・オーケストラ)とは、弦楽器の合奏形態あるいはその形態で演奏される楽曲のことを指す。ここでいうとは、ヴァイオリン属の楽器のことをさす。すなわち、ヴァイオリンヴィオラチェロコントラバスで編成される。

    弦楽器の合奏形態は他にギターオーケストラマンドリンオーケストラなどがある。

    三曲合奏

    江戸時代、当道座に属する盲人音楽家が専門とした三種の弦楽器である地歌三味線胡弓を総称して三曲と呼び、またこれらの音楽のことも指した。また三曲による合奏を三曲合奏と呼ぶ。幕末、明治以降尺八が参入し、現在は三味線、箏、尺八の編成で行なわれることが多いが、本来の胡弓入り合奏も行なわれている。

    脚注

    注釈

    1. ^ 芸術ユニットの明和電機が「ゴムベース」と言う弦にゴムバンドを用いたアコースティックフレットレスベースを独自に製作し、音楽作品において使用している。「ゴムベース」は後にスピーカーを備えて市販化した。99年にはボディをエレキベース風にした「ゴムベースII」も製作。

    弦 (楽器)

    出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/19 01:54 UTC 版)

    (げん)とは、弦楽器の発音体、すなわち、最初に振動する部分である。糸状になっており、材質や太さはなるべく均質に作られている。両端または片方の端は、さまざまな方法によって弦楽器の本体に固定され、張力を持って張られている。表記については、とするのが正式である。また、和楽器においては (いと)と呼ばれる。








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