弓道 射法八節

弓道

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/16 07:32 UTC 版)

射法八節

全日本弓道連盟では、射の基本動作を8つの節に分けて説明・指導をしている。これを射法八節(弓道八節)といい、戦後に日本弓道連盟(全弓連の前身)の射法制定委員により制定された。詳細な技術内容は、流派や個人の考え・体格・思想などにより異なる。以下は全弓連発行の「弓道教本」により説明されている射法八節の基本的内容である。

足踏み(あしぶみ)

射位(しゃい:弓を射る位置)で的に向かって両足を踏み開く基本動作。

  • 最初に「執り弓の姿勢」(弓を左手、矢を右手に持ち両拳は腰に、両足を揃えて立つ姿勢)を取り、続いて「射位」に入り「足踏み」を行う。「射位」で的右手方向を正面にして立ち、両足爪先を結ぶ線の延長に的の中心が来るように両脚を左右に踏み開く。両足底は外向きに約60度開き、両足爪先の間隔はおおよそ身長の半分程度。踏み開き方には以下二種の様式がある。
    1. 「一足開き」…顔を的に向けたまま左足を的に向かい半歩踏み開き、次に右足を一旦左足に引きつけて右外側へ扇のような軌道を取りつつ踏み開く。
    2. 「二足開き」…顔を的に向けたまま左足を的に向かい半歩踏み開き、一旦目線を足下に取り右足を外側に半歩踏み開く。
  • 礼射系に由来する射法の場合は「一足開き」、武射系に由来する射法の場合は「二足開き」。

胴造り(どうづくり)

足踏みを基礎として、両の上に上体を安静におく動作・構え。

  • 弓の下端を左頭に置き、弓を正面に据える。右手は右の辺りに置く。
  • 「足踏み」と共に弓を引く為の基本姿勢を作る。

弓構え(ゆがまえ)

矢を番えて弓を引く前に行う準備動作。

  • 「取懸け」(とりかけ:ゆがけで弦・矢を保持すること)、「手の内」(てのうち:弓を保持する左手)を整える。
  • 「取懸け」、「手の内」、「物見」(ものみ:的を見定める)の動作が含まれる。「弓構え」には大別して以下二種の様式ある。
    1. 「正面の構え」…体の正面にて取懸けて構える。
    2. 「斜面の構え」…体の正面にて取懸けて左斜め前(自分から見て)にやや弓を押し開き、手の内を整え構える。
  • 礼射系に由来する射法の場合は一足開きの足踏みで正面の構え、武射系に由来する射法は斜面の構えか、二足開きの足踏みで正面の構え。

打起し(うちおこし)

弓道の打起し

弓を引き分ける前に、弓矢を持った両拳を上に持ち上げる動作。

  • 次の「引分け」へ繋げるための動作。「打起し」には大別して以下二種の様式がある。
    1. 「正面打起し」…正面の構えからそのまま弓矢共々両拳を垂直に持ち上げる。
    2. 「斜面打起し」…やや弓を押し開いた斜面の構えから両拳を左前方に打起す。
  • 礼射系に由来する射法の場合は一足開きの足踏みで正面打起こし、武射系に由来する射法の場合は斜面打起しか、二足開きの足踏みで正面打起し。

引分け(ひきわけ)

打起こした位置から弓を押し弦を引いて、両拳を左右に開きながら引き下ろす動作。

  • 「引分け」には以下三種の様式ある。
    1. 正面に打起した状態から左拳を的方向へ送り腕を伸ばし、右腕は弦を支え右拳を左拳と高さを合わせながら肘を張り、途中止めずに左腕は弓を押し開きつつ右腕を引き下ろし、次の会へ繋げる。礼射系に由来する射法の引分け方。
    2. 正面に打起し、引分けの途中「大三」(だいさん:押大目引三分一(おしだいもくひけさんぶんのいち)の略。弦を3分の1程引き取った状態。)で一旦動作を止め、一呼吸置いた後、さらに引分けて会へ繋げる。武射系に由来する射法の引分け方だが、足踏みは一足開き・二足開き双方とも組み合わせられる。
    3. 斜面に打ち起こした状態から弓を押し開きつつ右腕を引き下ろし、会へ繋げる。あるいは、引分けの途中「三分の二」(矢が眉毛の高さ、弦を3分の2程度引き取った状態)で一旦動作を止め、一呼吸置いた後、さらに引分ける。武射系に由来する射法の引分け方。

会(かい)

会は形の上では引分けが完成され(弓を引き切り)、矢が的を狙っている状態をいうが、射手の心理からいえばむしろ無限の「引分け」である。

  • 矢は右頬に軽く添え(頬付け)、小鼻の下部から上下唇の間(口割り)の高さ以内に収める。
  • 見た目上は静止して見えるが身体的には「会」に入った後も力を掛け続け、次の離れへと繋げる。

離れ(はなれ)

矢を放つ、あるいは放たれた時の動作の事。

  • 右腕が大きく右方向に伸びる「大離れ」、右拳が右方向に僅かに移動するに留まる「小離れ」、その中間の「中離れ」がある。
  • 三種の内どの離れに至るかは「引分け」〜「離れ」に至る力の掛け様により異なってくる。

残心(ざんしん)

矢が放たれた後の姿勢。「残身」とも書く。

  • 「離れ」後、そのままの姿勢を数秒保ち、心身ともに一息置く。
  • 精神を意味して「残心」、身体で意味して「残身」と書く。

注釈

  1. ^ 対象物に善く中て、強く貫き、精度を維持する事「中貫久」(本来は「貫中久」である)。
  2. ^ 香川県の岡内木、東京の関口源太・本多利実浦上直置、京都府の石崎反求・岡田透、佐賀の森川秀実、愛知の奥村閑水・横浜有仲、岡山の富田忠正、長崎県の市川虎四郎、熊本県の生駒新太郎 ら
  3. ^ 本多利実の弟子、大平善蔵(射仏)談「自分が20年前(大正2年頃)京都の武徳祭に出場したときは、前面(正面)打起は自分一人であったから妙なやり方もあるものだと言った人も多かったが、今日(昭和7年)では出演者の九割は前面打起となっている。」
  4. ^ 後の日本剣道形
  5. ^ 大日本武徳会柔道形に改称。武徳会解散後は講道館柔道形に統合
  6. ^ 大平 善藏(日置流道雪派・東京)、浦上 榮(日置流・東京)、西牟田 砥潔(日置流竹林派・東京)、根矢 熊吉(日置流竹林派・東京)、鱸 重康(小笠原流・静岡)、渡邊 昇吾(日置流竹林派・茨城)阿波 研造(日置流竹林派・宮城)、三澤 喜太郎(日置流竹林派・愛知)堀田 義次郎(日置流竹林派・滋賀)、酒井 彦太郎(日置流雪荷派・兵庫)、大島 翼(小笠原流・武徳会・日置流・兵庫)、河毛 勘(一貫流・鳥取)、小西 武次郎(日置流竹林派・香川)、村河 (大和流・京都)、石原 七蔵(日置流吉田大蔵派・福岡)、三輪 善輔(日置流竹林派・福岡)、祝部 至善(日置流竹林派・福岡)、坂本 茂(日置流・熊本)、宇野 東風(日置流道雪派・熊本)、溝口 武夫(日置流・鹿児島)、種子島 常助(日置流・鹿児島)、小笠原 (武徳会本部)、跡部 定次郎(武徳会本部)田島 錦治(武徳会本部)、膳鉦次郎(武徳会本部)高倉 永則(武徳会本部)
  7. ^ 大日本武徳会解散時、宇野要三郎は副会長という要職に就いており、武徳会がGHQにより強制解散させられた際に追放(パージ)された。(旧)全日本弓道連盟結成後暫くして、「追放された者が会長を務めている「(旧)全日本弓道連盟」は大日本武徳会の延長である」との趣旨の噂が司法界や文部省で囁かれ、国民体育大会から「弓道」が除外される懸念も出始め、宇野会長は辞任。(旧)全日本弓道連盟も解散させる形をとった。
  8. ^ 弓道教本第2巻-射技篇、弓道教本第3巻-続射技篇、弓道教本第4巻-理念と射技詳論に詳説。
  9. ^ 男子と同じ腰板付の袴を着用することもある。
  10. ^ 一部流派や学校ではあえて着用しない場合もあるが、多くの弓道場では裸足が禁止されている。
  11. ^ はね返った場合は「はずれ」となる。
  12. ^ 以前は矢が的にあたる前に地面に触れた場合と区別せずに「はずれ」としていたが、現在の規則ではあたった後に筈が地面についた場合は「あたり」としている。
  13. ^ 1.スタンス(足構え)、2.セット(胴構え)、3.ノッキング(矢つがえ)、4.セットアップ(射ち起こし)、5.ドローイング(引き分け)、6.フルドロー(会)、7.リリース(離れ)、8.フォロースルー(残身)

出典

  1. ^ 全日本弓道連盟「令和三年度事業報告書」 (PDF)
  2. ^ a b 令和4年度加盟登録状況 (PDF)全国高等学校体育連盟
  3. ^ 史料稿本』文久2年9月5日「幕府、講武所の弓術・犬追物を廃し、柔術も亦た之を停む」 [1]





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