年次有給休暇 年次有給休暇の概要

年次有給休暇

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/11 13:53 UTC 版)

法的規制

国際条約

年次有給休暇は1936年国際労働機関(ILO)第52号条約[1] によって定められた。

1970年6月24日の第54回総会ではILO第132号条約が採択された[2]。これは「年次有給休暇に関する条約(1970年の改正条約)en:Holidays with Pay Convention (Revised), 1970」と呼ばれている。132号条約では船員をのぞくすべての被用者に対し、下記のような条件を定めている[2]

  • 労働者は1年につき3労働週(5日制なら15日、6日制なら18日)の年次有給休暇の権利を有すること。
  • 各国の権限のある機関または適当な機関は、年次有給休暇の分割を認めることができるが、その場合でも分割された一部は連続2労働週以上でなければならない。
  • 勤務期間によって受給資格制限を設けられるが、それは6か月を超えてはならない。
  • 祝日や慣習上の休日は、有給休暇の日数として数えてはならない。
  • 一定の病気やけがでの欠勤は年休の一部として数えないことができる。

第52号条約の批准国は欧州、中南米諸国を中心に54か国、第132号条約の批准国は38か国である。一方、日本、韓国、中国、アメリカ、カナダ、イギリス等は両条約とも未批准である。

船員の有給休暇については一般の労働者とは別建てで、1936年の第54号条約によって定められ、「海洋航行船舶に乗り組む船長、職員、無線通信士については年に最低12労働日、その他の船員については最低9労働日の有給休暇」の権利を定めた。しかしわずか6か国の批准にとどまり未発効のまま終わった。その後、1946年の第72号条約、1949年の第91号条約、1976年の第146号条約で改正され「休暇は、いかなる場合にも、一年の勤務につき30暦日を下回ってはならない。」とされた。現在は海上労働に関する包括的な条約である2006年の海上の労働に関する条約によって定める。2006年条約の批准国は97か国で、日本は2013年8月5日に同条約を批准している[3]

欧州連合

欧州連合労働時間指令(Working Time Directive 2003, 2003/88/EC)では、加盟国における条件を満たす労働者に対しては、最低4週間の有給休暇を付与するよう規制している[4]

Article 7 - Annual leave

Member States shall take the measures necessary to ensure that every worker is entitled to paid annual leave of at least four weeks in accordance with the conditions for entitlement to, and granting of, such leave laid down by national legislation and/or practice.

加盟国は、各労働者が国内法令および/または慣行により定められた休暇の受給資格および付与の条件に従って、少なくとも4週間の年次有給休暇を確保するために必要な措置を講じなければならない。

—  欧州連合指令 2003/88/EC[5]

ヨーロッパでは国によっては、有給休日という制度がある。日本では民間の労働者については法で制定されていないが[注 1]、事業場で特定した休日、例えば、国民の祝日、会社の創立記念日メーデー年末年始等があるが、これらの特定休日に休業した労働者に対しても通常支払われる賃金の全額または一定額(率)が支払われる場合を有給休日と呼んでいる。有給休日が最も多い国はオーストリアポルトガルイタリアの13日である。フィンランドは有給休日が9日のため実に39日も有給休暇・休日がある。イタリア共和国憲法第36条では、労働者は毎週の休息及び年次有給休暇に対する権利を有し、この権利は放棄することができないと定めている。

森永卓郎は「ヨーロッパの企業は、残業・休日出勤は無く、有給は完全消化が当たり前であり、夏休みは一カ月取れる」と指摘している[6]。欧州では、総じて最低賃金、有給休暇・休日共に多い。これは、フランス革命ロシア革命から続く労働者と資本家の階級闘争の結果、労働者が勝ち取った、歴史に裏打ちされた権利であり、当該諸国の国民の間ではそうした権利を享受することが当然であるという価値観が根付いているためである。

日本では労働者が有給休暇を取るタイミングを指定できるが、ヨーロッパの有給休暇は強制的な休暇であり、労働者は有給休暇を取るタイミングは指定できない[7]

統計

有給休暇を使い切る労働者の割合

ヨーロッパでは、有給休暇の消化率は90%を超えているが、日本では2000年代では47%近辺で推移している[8]

2010年8月6日、ロイターが調査会社のイプソスと協力し、24か国において有給休暇を使い切る労働者の割合を調査しまとめた結果を公表した。日本は33%で、22位のオーストラリアと南アフリカ共和国の47%に大きく差を開けられたうえでの最下位であった[9]

国名 順位(高率順) 完全取得率
フランス 1 89%
アルゼンチン 2 80%
ハンガリー 3 78%
イギリス 4 77%
スペイン
サウジアラビア 6 76%
ドイツ 7 75%
ベルギー 8 74%
トルコ
インドネシア 10 70%
メキシコ 11 67%
ロシア
イタリア 13 66%
ポーランド
中国 15 65%
スウェーデン 16 63%
ブラジル 17 59%
インド
カナダ 19 58%
アメリカ合衆国 20 57%
韓国 21 53%
オーストラリア 22 47%
南アフリカ
日本 24 33%

有給休暇の給付日数と取得日数

旅行会社のエクスペディアジャパンが、日本を含めた12カ国における有給休暇の取得状況の調査結果を公表している。2010年の調査において、日本は最下位(平均給付日数と平均取得日数ともに最低)という調査結果が得られている[10]

国名 順位(平均取得日数順) 平均給付日数 平均取得日数
フランス 1 37.4 34.7
スペイン 2 31.9 28.6
デンマーク 3 29.2 26.9
イタリア 4 32.3 26.5
ノルウェー 5 27.7 25.6
イギリス 6 27.9 25.5
ドイツ 7 27.6 25.5
スウェーデン 8 27.4 24.2
カナダ 9 19.7 17.5
オーストラリア 10 20 16.5
アメリカ 11 16.9 14
日本 12 16.6 9.3

注釈

  1. ^ 公務員について、国民の祝日及び12月29日から1月3日については、有給休日扱いをしている(一般職の職員の勤務時間、休暇等に関する法律14条、一般職の職員の給与に関する法律9条の2第4項、15条)
  2. ^ 常時300人以下の労働者を使用する事業に係る第39条の規定の適用については、施行後3年間は日数引き上げの適用を猶予され、さらにその後3年間については「10労働日」とあるのは「8労働日」とする段階的引き上げがなされた(第134条)。
  3. ^ 第39条は、8割以上出勤した翌年度に与えなければならないとは明文化していないが、通達上翌年度に与えなければならないとされている(昭和23年7月15日基収2437号)
  4. ^ 平成3年の育児介護休業法施行当初は、育児休業取得日は「全労働日」に含まないとしていたが、平成6年より取り扱いを変更し「出勤日」に含むとした。
  5. ^ 当事者の合意によって出勤したものとみなしても差支えない(昭和23年7月31日基収2675号)。
  6. ^ a b c 労使委員会が設置されている事業場において、その5分の4以上の多数による議決による決議が行われたときは、当該決議はこれらに係る労使協定等と同様の効果をもつ(第38条の4第5項)。当該決議を行政官庁に届出る必要はない。
  7. ^ 時季変更権は、派遣元の使用者が自らの事業の正常な運営を妨げる場合に行使できるものであることから、派遣先の事業の運営に係る事情は直ちにはその行使の理由とはならないものであること。さらに、派遣元の使用者は、代替労働者を派遣する、派遣先の使用者と業務量の調整を行う等により、派遣先の事情によって派遣労働者の年次有給休暇の取得が抑制されることのないようにすること(平成21年3月31日基発第0331010号)。
  8. ^ 聖心女子学院事件(神戸地判昭和29年3月19日)では、退職に伴い未消化の年次有給休暇の日数に相当する賃金の支払を求めた事案について、「行使されなかった休暇請求権は退職とともに消滅」するとして、労働者側の請求を認めなかった。
  9. ^ ただ法的にはそう記載されているものの、実際は多くの企業の就業規則で時効を長めに設定しているなど融通を利かせていることが多い。
  10. ^ 民法第147条に基づき請求(裁判上の請求)をすれば、時効は中断し、中断事由の終了時から更に2年の消滅時効にかかるが、これに該当する場合は法律上極めて稀有である(昭和23年4月28日基収1497号、昭和23年5月5日基発686号)。また実際上の取り扱いとして勤怠簿等に有給休暇の取得日数等は記載されているが、これをもって使用者が「債務の承認」をしたことにはならない(昭和24年9月21日基収3000号)
  11. ^ 船舶における勤務が中断した場合において、その中断の事由が船員の故意又は過失によるものでなく、かつ、その中断の期間の合計が一年当たり6週間を超えないときは、その中断の期間は、船員が当該期間の前後の勤務と連続して勤務に従事した期間とみなす(船員法第74条5項)。
  12. ^ この許可を受けるためには、所轄地方運輸局長に対し必要事項を記載した申請書2通を提出しなければならない(船員法施行規則第49条)。
  13. ^ 国土交通大臣は、必要があると認めるときは、交通政策審議会の決議により、漁船に乗り組む船員の有給休暇に関し必要な国土交通省令を発することができ(船員法第79条の2)、現在「指定漁船に乗り組む船員の有給休暇に関する省令」(平成7年運輸省令第4号、最終改正令和2年12月1日)によって、漁船についてもおおむね船員法本則と同内容の有給休暇の内容となっている。

出典

  1. ^ ILO第52号条約 - 国際労働機関
  2. ^ a b c ILO第132号条約 - 国際労働機関
  3. ^ 2006年の海上の労働に関する条約(改正) - 国際労働機関
  4. ^ 労働時間と働き方:EU 労働時間政策とワーク・ライフ・バランス (Report). 独立行政法人労働政策研究・研修機構. 2005-05. {{cite report}}: |date=の日付が不正です。 (説明)
  5. ^ 2003/88/EC
  6. ^ 森永卓郎 『「騙されない!」ための経済学 モリタク流・経済ニュースのウラ読み術』 PHP研究所〈PHPビジネス新書〉、2008年、103頁。
  7. ^ 大竹文雄 『競争と公平感-市場経済の本当のメリット』 中央公論新社〈中公新書〉、2010年、172頁。
  8. ^ 大竹文雄 『競争と公平感-市場経済の本当のメリット』 中央公論新社〈中公新書〉、2010年、171頁。
  9. ^ 有給使い切る国の1位はフランス、日本は最下位”. ロイター (2010年8月10日). 2011年7月12日閲覧。
  10. ^ 有給休暇調査 2010”. エクスペディア. 2011年10月19日閲覧。
  11. ^ 野田進「「休暇」概念の法的意義と休暇政策─「休暇として」休むということ」『日本労働研究雑誌』第625巻、労働政策研究・研修機構、2012年8月、NAID 40019394013 
  12. ^ 神吉知郁子「休日と休暇・休業」『日本労働研究雑誌』第657巻、労働政策研究・研修機構、2015年4月。 
  13. ^ 平成21年5月29日基発0529001号
  14. ^ a b c d e f 昭和48年3月6日 基発第110号
  15. ^ a b c d e 昭和48年3月2日 最高裁第二小法廷判決 白石営林署事件
  16. ^ 昭和22年11月26日基発389号
  17. ^ 経済財政白書/経済白書 - 内閣府
  18. ^ 第2節 個人消費を巡る論点
  19. ^ 「新基本法コメンタール第2版 労働基準法・労働契約法」日本評論社、p.181
  20. ^ 昭和23年10月14日基収1509号
  21. ^ 年次有給休暇とはどのような制度ですか。パートタイム労働者でも有給があると聞きましたが、本当ですか。”. 厚生労働省. 2011年10月30日閲覧。
  22. ^ Q10.年次有給休暇は、法律上どのような要件が充たされれば取得できますか。 独立行政法人労働政策研究・研修機構
  23. ^ 令和元年度民間企業の勤務条件制度等調査 人事院
  24. ^ a b 昭和63年3月14日基発150号
  25. ^ 「新基本法コメンタール第2版 労働基準法・労働契約法」日本評論社、p.186
  26. ^ 此花電報電話局事件、最判昭和57年3月18日
  27. ^ a b c 最高裁判所第三小法廷判決 平成4年2月18日 エス・ウント・エー事件
  28. ^ a b 横浜地方裁判所判決 昭和51年3月4日 大瀬工業事件
  29. ^ 昭和22年9月13日基発第17号
  30. ^ 電気化学工業事件、新潟地方裁判所判決昭和37年3月30日
  31. ^ 昭和23年12月25日基収4281号、昭和63年3月14日基発150号
  32. ^ 昭和24年12月28日基発1456号
  33. ^ 労働に関するご相談 年次有給休暇について Q3有給休暇取得の申し出があった場合、会社は拒否できますか。”. 熊本県. 2012年4月18日閲覧。
  34. ^ 職場のトラブルQ&A 退職間際の有給休暇取得”. 福井県 (2009年6月17日). 2011年10月19日閲覧。
  35. ^ 労働相談事例 年休Q1 『退職予定者には年休を与えなくてもよいか』”. 沖縄労働局. 2011年10月19日閲覧。
  36. ^ 弘前電報電話局事件、最判昭和62年7月10日
  37. ^ 「新基本法コメンタール第2版 労働基準法・労働契約法」日本評論社、p.188
  38. ^ 昭和27年9月20日基発675号
  39. ^ 昭和23年11月2日基収3815号
  40. ^ a b c 平成6年5月31日 基発330号
  41. ^ 平成28年度民間企業の勤務条件制度等調査 人事院
  42. ^ a b 労働省労働基準局編著「労働基準法」上巻:「精皆勤手当や賞与の算定に際して、年休を取得した日を欠勤又は欠勤に準じて取扱うほか、年休の取得を抑制するような全ての不利益な取扱いが含まれる。」
  43. ^ a b 平成5年6月25日 最高裁第二小法廷判決 沼津交通事件
  44. ^ a b c 独立行政法人 労働政策研究・研修機構 データベース 個別労働関係紛争判例集 4.労働条件(32)【年次有給休暇】年休の取得と不利益な取扱い
  45. ^ a b c 弘文堂 菅野和夫著『労働法 第六版』326ページ - 327ページより ISBN 978-4335303104
  46. ^ 労働相談Q&A 年次有給休暇~労働基準法、解釈例規(Q2の項目参照)
  47. ^ 「年次有給休暇制度の解説とQ&A」(労働調査会出版局編)119ページより ISBN 978-4897829074
  48. ^ 業界Q&A - 年休の端数時間は時効消滅か”. 社団法人 日本生産技能労務協会 (2010年7月12日). 2012年3月26日閲覧。
  49. ^ 平成12年までは前年12月31日時点、平成13年からは1月1日時点の調査。
  50. ^ a b 「追跡働き方改革4 年5日の有給取得義務化」読売新聞2021年3月16日付朝刊社会保障面
  51. ^ a b 厚生労働省・令和2年就労条件総合調査結果の概況
  52. ^ 太田肇『「承認欲求」の呪縛』新潮社(2019年)
  53. ^ 厚生労働省・平成29年就労条件総合調査結果の概況
  54. ^ 厚労省:有休取得率に目標 時短ガイドライン改正、来月から適用 - 毎日新聞 2010年3月19日配信
  55. ^ 労働相談 こんなときどうする?Q&A 精皆勤手当や賞与の算定に際して、年次有給休暇の欠勤扱いは違法”. 茨城労働局. 2011年2月5日閲覧。
  56. ^ おしごと三重 有給休暇と皆勤手当について”. 三重県生活・文化部 勤労・雇用支援室. 2011年2月5日閲覧。
  57. ^ 有給休暇と皆勤手当について”. 三重県. 2011年2月5日閲覧。
  58. ^ a b c d e 海外のバカンス事情とは?!年次有給休暇制度の国際比較”. ソニーネットワークコミュニケーションズ. 2018年4月3日閲覧。
  59. ^ “意外と残念なアメリカ人の休暇事情”. International Business Times. (2013年11月23日). http://jp.ibtimes.com/articles/363827 2015年2月14日閲覧。 
  60. ^ 臼井冬彦「実態としての日本の有給休暇制度 有給休暇未取得分に関する国際会計基準・経営実務からの考察」観光創造研究No.4 2008年10月31日
  61. ^ 鈴木宏昌「フランスのバカンスと年次有給休暇」『日本労働研究雑誌』第625巻、2012年8月。 


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