工学 社会的状況

工学

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/04/18 04:22 UTC 版)

社会的状況

工学は本質的に社会や人間の行動に左右される。現代の製品や建設は必ず工学設計の影響を受けている。工学設計は環境・社会・経済に変化を及ぼす強力なツールであり、その応用には大きな責任が伴う。多くの工学系の学会は行動規約や倫理規約を制定し、会員や社会にそれを周知させようとしている。

工学プロジェクトの中には論争となっているものもある。例えば、核兵器開発、三峡ダム建設、SUVの設計と使用、重油抽出などである。これに対して、企業の社会的責任について厳しい方針を設定している工学企業もある。

工学は人間開発の重要な駆動力の1つである[21]。アフリカのサハラ砂漠周辺の工学的キャパシティは非常に低く、そのためアフリカ諸国の多くは独力で重要なインフラストラクチャを開発することができないでいる。ミレニアム開発目標の多くを達成するには、インフラストラクチャの開発と持続可能な技術的開発ができるだけの十分な工学的キャパシティを必要とする[22]

海外での開発や災害救助を行うNGOは技術者を多数抱えている。次のようないくつかの慈善団体が人類のために工学を役立てることを目指している。

他の学問分野との関係

科学

科学者はあるがままの世界を研究し、技術者は見たこともない世界を創造する。

現代のタービン。タービンが自然界にそのままあったわけではない。自然界に存在しなかったものを創造したわけである。また、その創造のために、様々な自然科学的な理論を大いに活用するが、実際に用いるのはそうした純理論だけではない。経験則も用いたおかげで、こうしたタービンも実現しているのである。

Fung らは古典的な工学教科書 Foundations of Solid Mechanics の改訂版の中で、次のように書いている。

工学は科学と全く異なる。科学者は自然理解しようとする。技術者は自然界に存在しないものを作ろうとする。技術者は発明を強調する。発明を具現化するには、アイデアを具体化し、人々が使える形で設計しなければならない。それは装置、道具、材質、技法、コンピュータプログラム、革新的な実験、問題の新たな解決策、既存の何かの改良である。設計は具体的でなければならず、形や寸法や数値が設定されていなければならない。新しい設計にとりかかると、技術者は必要な情報が全て揃っているわけではないことに気づく。多くの場合、科学知識の不足によって情報が制限される。そこで技術者は数学や物理学や化学や生物学や力学を勉強する。そうして工学における必要性から関連する科学に知識を追加することも多い。こうしてengineering sciences(理工学) が生まれた。[23]

科学的手法と工学的手法にはオーバーラップする部分がある。工学的手法は、科学的手法と、科学的に厳密には解明されていないが過去の同様の事例から確からしいと思われる経験則を組み合わせたものである。しかし、いずれの手法もその基本は現象などの正確な観察である。観察結果を分析し伝達するため、どちらも数学や分類基準を使う。

Walter Vincenti は著書 What Engineers Know and How They Know It[24] において、工学の研究は科学の研究とは違う性質を持っているとしている。工学は物理学化学が基本的によく理解している分野を扱うが、問題自体は正確な方法で解くには複雑すぎる。例えば、航空機における空気力学的流れをナビエ-ストークス方程式の数値近似で表したり、材料の疲労損傷の計算にマイナー則を使ったりする。また、工学では半ば経験則的な手法もよく採用している。科学では考えられない特徴であり、例えばパラメータ変化法がある。

歴史的に見ると工学は理学と相互に影響しながら発達してきたと言える。例えば、蒸気機関の効率についての研究からについての認識が深まっていった。熱についての理学的な研究が進められることによって冷却も可能になったと言える。[要出典]」とも言う[誰?][いつ?]

医学と生物学

目的や方向性は異なるが、医学と工学の一部の分野の共通部分として人体の研究がある。医学においては、必要ならテクノロジーを使ってでも人体の機能を維持・強化し、場合によっては人体の一部を代替することも目指すことがある。

現代医学は既に一部の臓器の機能を人工のものと置換することを可能にしており、心臓ペースメーカーなどがよく使われている[25][26]医用生体工学は生体への人工物の埋め込みを専門とする領域である。

逆に人体を生物学的機械として研究対象とする工学分野もあり、テクノロジーによってその機能をエミュレートすることを専門とする。それは例えば、人工知能ニューラルネットワークファジィ論理ロボットなどである。工学と医学の学際的な領域もある[27][28]

医学も工学も実世界における問題解決を目的としている。そのためには、現象をより厳密かつ科学的に理解する必要があり、実験や経験的知識が必須となっている。

医学はその一部として人体の機能も研究する。人体を生体機械と捉えた場合、工学的手法でモデル化できる多数の機能を持っている[29]

例えば心臓ポンプによく似た機能を有し[30]骨格てこを繋げたような構造をしている[31]と理解することも可能である。また電気信号を発している[32]。このような類似性や医学における工学の応用の重要性の増大により、工学と医学の知識を応用した医用生体工学が生まれた。

システム生物学のような新たな科学の分野は、システムのモデリングやコンピュータを利用した解析など工学で使われてきた解析手法を採用して、生命を理解しようとするものである[29]

芸術

蒸気機関車の設計図。工学をデザインに適用することで、機能が強調され、数学と科学がデザインに生かされる。

工学と芸術の間にも関連がある[33]建築造園インダストリアルデザインといった分野はまさに工学と芸術の直接交わる部分である(大学では工学系の学部にも芸術系の学部にも関連する学科が存在する)。他にも間接的に関連する分野がある[33][34][35][36]

シカゴ美術館は、NASAの航空宇宙関連のデザインについての展覧会を開催したことがある[37]ロベール・マイヤールの設計した橋は芸術的と評されている[38]。南フロリダ大学ではアメリカ国立科学財団の支援を受けて、工学部に芸術と工学を組み合わせた学科を開設した[34][39]

レオナルド・ダ・ヴィンチルネサンス期の芸術家兼技術者として有名である[13]

その他

政治学に「工学」という言葉を導入した社会工学や政治工学は、工学の方法論や政治学の知識を利用し、政治構造や社会構造の形成を研究する。

工学の分野一覧

工学の一覧を参照


  1. ^ a b c 平凡社『世界大百科事典』1988年版【工学】
  2. ^ a b 8大学工学部を中心とした 工学における教育プログラムに関する検討」(PDFファイル) 工学における教育プログラムに関する検討委員会、1998年5月8日。
  3. ^ Fung らの Foundations of Solid Mechanics の改訂版(古典的な工学教科書)に沿った解説。詳細は他の学問分野との関係#科学にて説明。
  4. ^ Oxford English Dictionary
  5. ^ Origin: 1250–1300; ME engin < AF, OF < L ingenium nature, innate quality, esp. mental power, hence a clever invention, equiv. to in- + -genium, equiv. to gen- begetting; Source: Random House Unabridged Dictionary, Random House, Inc. 2006.
  6. ^ https://en.wiktionary.org/wiki/engineer
  7. ^ a b c d e f g Engineers' Council for Professional Development definition on Encyclopaedia Britannica (Includes Britannica article on Engineering)
  8. ^ Barry J. Kemp, Ancient Egypt, Routledge 2005, p. 159
  9. ^ "The Antikythera Mechanism Research Project", The Antikythera Mechanism Research Project. Retrieved 2007-07-01 Quote: "The Antikythera Mechanism is now understood to be dedicated to astronomical phenomena and operates as a complex mechanical "computer" which tracks the cycles of the Solar System."
  10. ^ Wilford, John. (July 31, 2008). Discovering How Greeks Computed in 100 B.C.. New York Times.
  11. ^ Wright, M T. (2005). “Epicyclic Gearing and the Antikythera Mechanism, part 2”. Antiquarian Horology 29 (1 (September 2005)): 54–60. 
  12. ^ Britannica on Greek civilization in the 5th century Military technology Quote: "The 7th century, by contrast, had witnessed rapid innovations, such as the introduction of the hoplite and the trireme, which still were the basic instruments of war in the 5th." and "But it was the development of artillery that opened an epoch, and this invention did not predate the 4th century. It was first heard of in the context of Sicilian warfare against Carthage in the time of Dionysius I of Syracuse."
  13. ^ a b Bjerklie, David. “The Art of Renaissance Engineering.” MIT’s Technology Review Jan./Feb.1998: 54-9. Article explores the concept of the “artist-engineer”, an individual who used his artistic talent in engineering. Quote from article: Da Vinci reached the pinnacle of “artist-engineer”-dom, Quote2: “It was Leonardo da Vinci who initiated the most ambitious expansion in the role of artist-engineer, progressing from astute observer to inventor to theoretician.” (Bjerklie 58)
  14. ^ Merriam-Webster Collegiate Dictionary, 2000, CD-ROM, version 2.5.
  15. ^ Jenkins, Rhys (1936). Links in the History of Engineering and Technology from Tudor Times. Ayer Publishing. pp. 66. ISBN 0836921674. 
  16. ^ Imperial College: Studying engineering at Imperial: Engineering courses are offered in five main branches of engineering: aeronautical, chemical, civil, electrical and mechanical. There are also courses in computing science, software engineering, information systems engineering, materials science and engineering, mining engineering and petroleum engineering.
  17. ^ Van Every, Kermit E. (1986). “Aeronautical engineering”. Encyclopedia Americana. 1. Grolier Incorporated. pp. 226. 
  18. ^ Wheeler, Lynde, Phelps (1951). Josiah Willard Gibbs — the History of a Great Mind. Ox Bow Press. ISBN 1-881987-11-6. 
  19. ^ Arbe, Katrina (2001年5月7日). “PDM: Not Just for the Big Boys Anymore”. ThomasNet. 2010年9月8日閲覧。
  20. ^ Arbe, Katrina (2003年5月22日). “The Latest Chapter in CAD Software Evaluation”. ThomasNet. 2010年9月8日閲覧。
  21. ^ 人間開発とは 国連開発計画 (UNDP) 東京事務所
  22. ^ Engineering Civilisation from the Shadows Archived 2006年10月6日, at the Wayback Machine.
  23. ^ Classical and Computational Solid Mechanics, YC Fung and P. Tong. World Scientific. (2001). 
  24. ^ Vincenti, Walter G. (1993). What Engineers Know and How They Know It: Analytical Studies from Aeronautical History. Johns Hopkins University Press. 
  25. ^ Ethical Assessment of Implantable Brain Chips. Ellen M. McGee and G. Q. Maguire, Jr. from Boston University
  26. ^ IEEE technical paper: Foreign parts (electronic body implants).by Evans-Pughe, C. quote from summary: Feeling threatened by cyborgs?
  27. ^ Institute of Medicine and Engineering: Mission statement The mission of the Institute for Medicine and Engineering (IME) is to stimulate fundamental research at the interface between biomedicine and engineering/physical/computational sciences leading to innovative applications in biomedical research and clinical practice. Archived 2007年3月17日, at the Wayback Machine.
  28. ^ IEEE Engineering in Medicine and Biology: Both general and technical articles on current technologies and methods used in biomedical and clinical engineering...
  29. ^ a b Royal Academy of Engineering and Academy of Medical Sciences: Systems Biology: a vision for engineering and medicine in pdf: quote1: Systems Biology is an emerging methodology that has yet to be defined quote2: It applies the concepts of systems engineering to the study of complex biological systems through iteration between computational and/or mathematical modelling and experimentation. Archived 2007年4月10日, at the Wayback Machine.
  30. ^ Science Museum of Minnesota: Online Lesson 5a; The heart as a pump
  31. ^ Minnesota State University emuseum: Bones act as levers Archived 2008年12月20日, at the Wayback Machine.
  32. ^ UC Berkeley News: UC researchers create model of brain's electrical storm during a seizure
  33. ^ a b Lehigh University project: We wanted to use this project to demonstrate the relationship between art and architecture and engineering
  34. ^ a b National Science Foundation:The Art of Engineering: Professor uses the fine arts to broaden students' engineering perspectives
  35. ^ MIT World:The Art of Engineering: Inventor James Dyson on the Art of Engineering: quote: A member of the British Design Council, James Dyson has been designing products since graduating from the Royal College of Art in 1970. Archived 2006年7月5日, at the Wayback Machine.
  36. ^ University of Texas at Dallas: The Institute for Interactive Arts and Engineering
  37. ^ Aerospace Design: The Art of Engineering from NASA’s Aeronautical Research
  38. ^ Princeton U: Robert Maillart's Bridges: The Art of Engineering: quote: no doubt that Maillart was fully conscious of the aesthetic implications...
  39. ^ quote:..the tools of artists and the perspective of engineers.. Archived 2007年9月27日, at the Wayback Machine.





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