川崎病 川崎病の概要

川崎病

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/30 07:34 UTC 版)

川崎病
分類および外部参照情報
診療科・
学術分野
免疫学, 小児科医[*]
ICD-10 M30.3
ICD-9-CM 446.1
OMIM 611775
DiseasesDB 7121
MedlinePlus 000989
eMedicine article/965367
Patient UK 川崎病
MeSH D009080
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病名の由来と発見

病名は川崎富作によって発見されたことに由来する[2]

神奈川県川崎市川崎医科大学など上記以外の「川崎」を称する事物とは関係がない。かつて川崎市海岸部の工業地帯大気汚染による公害川崎公害)が問題化し、気管支喘息が多くみられた当時は地域特有の公害病と誤解される例も多かった[2]

1961年(昭和36年)、日本赤十字社中央病院(後の日本赤十字社医療センター)に勤務していた川崎富作が、発熱後に手や足の皮膚が剥がれ、抗生物質が効かない子供を初めて診察した[1]。さらに同様の症状の患者を診療したことをきっかけに、従来の症例に当てはまらない新しい病気であることを確信した[3]。川崎は1967年に日本語論文、1974年に英語論文を発表[3]。当初は一介の小児科医の報告ととられ受け入れられなかったが、アメリカ合衆国で同様の症例が出現したことで、新しい病気として認知されるようになった[3]

1978年、世界保健機関(WHO)の国際疾病分類に掲載された[1]

症状

初期は急性熱性疾患(急性期)として全身の血管壁に炎症が起き、多くは1-2週間で症状が治まるが、1ヶ月程度に長引くこともあり、炎症が強い時は脇や足の付け根の血管にが出来る場合もある。心臓の血管での炎症により、冠動脈の起始部近くと左冠動脈の左前下行枝と左回旋枝の分岐付近に瘤が出来やすい。急性期の血管炎による瘤の半数は、2年以内に退縮(リグレッション)するが、冠動脈瘤などの後遺症を残す事がある。

主要症状は以下の6つである。

  1. 5日以上続く原因不明の発熱(ただし治療により5日未満で解熱した場合も含む)
  2. 両側眼球結膜充血
  3. 四肢の末端が赤くなり堅く腫れる(手足の硬性浮腫、膜様落屑)
  4. 皮膚の不定型発疹
  5. 口唇が赤く爛れる、いちご舌(=が真っ赤になる)、口腔咽頭粘膜のびまん性発赤(※「びまん性」とは病変が比較的均等に広がっている状態であることを意味する医学用語)
  6. 有痛性の非化膿性頸部リンパ節腫脹

以上6つの主要症状のうち5つ以上を満たすものを本症と診断するが、5つに満たない非典型例も多い。発熱、発赤、リンパ節腫脹などは乳幼児期のウイルス感染症でも極一般的に認める症状であり、確定診断には困難を伴う。主要症状には含まれていないが、乾癬様皮疹[4]、麻痺性イレウス低アルブミン血症BCG接種部位の発赤・痂皮形成などは留意すべき所見とされる[5]

疫学

特徴

欧米に比べると日本をはじめとするアジアの国々に多い[6](日本や中華人民共和国大韓民国など[1])。男女比は女児よりも男児に多い傾向がある[6]。好発年齢は4歳以下で特に1歳前後に多い[6]。冠動脈径 8mm以上(通常 2mm以下)が約0.5%発生し、死亡率は約 0.05%程度。年齢により症状は異なる。

患者数

日本では、1980年代後半から1990年代において年間およそ6,000人が発症している。1999年は約7,000人、2000年には8,000人と増加傾向にある。日本では1982年に16,000人、1986年に13,000人の流行があった。2000年以降も患者の発生は続き、2004年には患者数10,000人を超え、2008年の患者数は11,756人が報告されている。また、2008年は、10万人当たりの罹患率(0-4歳児)も上昇傾向で、218.6人と史上最高を記録している[7]。2018年は約1万7000人。過去50年間で、患者数が増える「流行」期が度々見られる[1]


  1. ^ a b c d e 「川崎病 新型コロナで注目/発熱・発疹…欧米で子どもに類似症状 日本人が発見、免疫系が暴走?」日本経済新聞』朝刊2020年6月5日(ニュースな科学面)同日閲覧
  2. ^ a b c d 三浦 2019, p. 1.
  3. ^ a b c 三浦 2019, p. 2.
  4. ^ 和田力光, 後藤靖「乾癬様皮疹を示した川崎病の1例」『皮膚』 Vol.43 (2001) No.2 p.93-96, doi:10.11340/skinresearch1959.43.93
  5. ^ 手代木正、若林恒郎, 「川崎病の臨床像」『日本医科大学雑誌』 Vol.52 (1985) No.3 P342-346_1, doi:10.1272/jnms1923.52.342
  6. ^ a b c d 三浦 2019, p. 3.
  7. ^ 川崎病の罹患率「史上最高」はなぜ? 日経メディカル オンライン 記事:2010年5月10日 閲覧:2010年5月11日
  8. ^ 村田久雄, 飯島肇, 直江史郎「カンジダの菌体抽出物によるマウスの実験的冠状動脈炎に関する研究 第1報」『真菌と真菌症』1979年 20巻 3号 p.214-219, doi:10.3314/jjmm1960.20.214
  9. ^ 山浦昇, 秋山武久「コッホの postulates と川崎病のA群溶連菌感染症説 : II.川崎病をA群溶連菌による感染症と考えたい」『北里医学』20巻 1号 p.6-12, 1990-02-28, NAID 110004704558
  10. ^ 臼井大介, 石井良樹, 赤池洋人 ほか「川崎病の診断基準を満たし, 播種性血管内凝固を合併したYersinia pseudotuberculosis 4a感染症の1例」『感染症学雑誌』2005年 79巻 11号 895-899頁 doi:10.11150/kansenshogakuzasshi1970.79.895
  11. ^ “川崎病、複数細菌原因か…抗菌薬で治療成功”. YOMIURI ONLINE (読売新聞社). (2009年11月17日). http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20091117-OYT1T00758.htm 2009年11月17日閲覧。 
  12. ^ Nagata, Satoru; et.al. (2009). “Heat shock proteins and superantigenic properties of bacteria from the gastrointestinal tract of patients with Kawasaki disease”. Immunology 128 (4): p.p.511-520. doi:10.1111/j.1365-2567.2009.03135.x. 
  13. ^ 川崎病の病原因子は風に運ばれてくるのか Infectious disease: Causal agent of Kawasaki disease may be wind-borne Scientific Reports, 記事:2011年11月11日 閲覧:2011年11月11日
  14. ^ 国際研究チーム、川崎病の原因をほぼ特定」ScicnceNewsLine 2014年5月19日
  15. ^ 川崎病、中国からの風が関与か…原因物質運ぶ?」『読売新聞』2014年5月20日
  16. ^ 川崎病、中国からの菌類が原因か 自治医大など国際チーム共同通信2014年5月20日
  17. ^ 川崎病の原因物質 中国東北部から飛来かしんぶん赤旗』2014年5月20日
  18. ^ a b c d e f 団藤保晴「川崎病の流行ピークと中国農業改革の節目が一致」Yahoo!Japanニュース[リンク切れ]
  19. ^ 川崎病の発症に関わる「ORAI1遺伝子の多型」を発見-日本人に多い遺伝子多型が関与-”. 理化学研究所 (2016年1月21日). 2017年2月18日閲覧。
  20. ^ NEWS◎日本川崎病学会による緊急アンケート速報 川崎病症状を伴うCOVID-19、日本では認めず 日経メディカルホームページ(2020年5月8日)2020年6月6日閲覧
  21. ^ 川崎病急性期治療のガイドライン(平成24年改訂版)
  22. ^ Kobayashi T, et al. Efficacy of immunoglobulin plus prednisolone for prevention of coronary artery abnormalities in severe Kawasaki disease (RAISE study): a randomised, open-label, blinded-endpoints trial. Lancet 2012;379(9826):1613-20. doi:10.1016/S0140-6736(11)61930-2
  23. ^ 川崎病急性期治療のガイドライン
  24. ^ Hamada H, and others. Efficacy of Primary Treatment With Immunoglobulin Plus Ciclosporin for Prevention of Coronary Artery Abnormalities in Patients With Kawasaki Disease Predicted to Be at Increased Risk of Non-Response to Intravenous Immunoglobulin (KAICA): A Randomised Controlled, Open-Label, Blinded-Endpoints, Phase 3 Trial. Lancet 2019;393 (10176):1128-1137.


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