川崎病 予防

川崎病

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/30 07:34 UTC 版)

予防

原因がはっきりしていないため、決定的な予防法や検査法は確立されていない[6]

治療

川崎病治療の目的は、急性期の炎症反応を可能な限り早期に終息させることで、冠動脈瘤の形成を予防することである[21]。初期治療としては免疫グロブリン[22]プレドニゾロンアスピリンを併用される。この併用療法により48時間以内に解熱しない、または2週間以内に再燃が見られる場合を不応例とする[23]

不応例には、免疫グロブリンとシクロスポリン[24]あるいはインフリキシマブの併用投与を行うか、ステロイドパルス療法が有用な例も報告されている。また冠動脈が拡張を来していないか、心エコーによりフォローする必要がある。冠動脈病変が好発する第10病日で行い、異常が認められない場合には発病後6週で再検する(実際は各施設により心エコーを行う時期はまちまちと思われる)。冠動脈病変が認められない場合、その時点でアスピリンを中止する。

5日以上持続する発熱が診断基準の1つとなっているものの、他の診断項目から明らかに川崎病と医師によって診断される場合には、発熱5日まで治療開始を待つ必要はない。遅くとも、発症7日以内に治療開始することが望ましいとされる。

予後と後遺症

血管造影検査での左前下行枝の動脈瘤。最大径 6.5 mm

冠動脈障害がない場合も成人後の遠隔期での心疾患リスクのコントロールに留意する必要がある。発症から1-3週間後ぐらいに10-20%の頻度で冠動脈に動脈瘤が認められ、まれに心筋梗塞により突然死に至ることがある。冠動脈瘤の約半数は、1-2年程度で退縮(リグレッション)するが、残りの半数は退縮せず残る。冠動脈障害が治った場合でも、冠動脈の状態は成長と共に変化し心臓障害のリスクが高くなる。従って、定期的な検査が必要になる。巨大な瘤を発生した患者では、15年で約70%は冠動脈に狭窄や閉塞が見つかるが、60%程度は無症状で無症候性心筋梗塞と呼ばれる。

免疫グロブリン静注療法によって冠動脈瘤の頻度が低下していることが明らかになっている一方、依然として巨大冠状動脈瘤の頻度には大きな変化がなく、未だにより有効な治療法に向けて研究が進められている。

冠動脈障害(狭窄)により血行が十分に確保されない(心筋虚血)場合は、血行再建術英語版外科手術)により治療を行う。具体的には、カテーテルによる経皮的冠動脈形成術(PTCA)と冠動脈バイパス術(CABG)で、発症後2年以内に行うと治療効果が高い。一方、発症から10数年経過し、血管壁が厚く血管内部で石灰化している場合は、ロータブレーターにより内壁を削る。しかし、カテーテルやロータブレーターで治療では再び狭窄が進行することがある。根本治療は冠動脈バイパス手術で、心臓への血行が回復すると運動制限は無くなる。

心筋虚血がない場合は運動制限を行う必要はない。

脚注

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  1. ^ a b c d e 「川崎病 新型コロナで注目/発熱・発疹…欧米で子どもに類似症状 日本人が発見、免疫系が暴走?」日本経済新聞』朝刊2020年6月5日(ニュースな科学面)同日閲覧
  2. ^ a b c d 三浦 2019, p. 1.
  3. ^ a b c 三浦 2019, p. 2.
  4. ^ 和田力光, 後藤靖「乾癬様皮疹を示した川崎病の1例」『皮膚』 Vol.43 (2001) No.2 p.93-96, doi:10.11340/skinresearch1959.43.93
  5. ^ 手代木正、若林恒郎, 「川崎病の臨床像」『日本医科大学雑誌』 Vol.52 (1985) No.3 P342-346_1, doi:10.1272/jnms1923.52.342
  6. ^ a b c d 三浦 2019, p. 3.
  7. ^ 川崎病の罹患率「史上最高」はなぜ? 日経メディカル オンライン 記事:2010年5月10日 閲覧:2010年5月11日
  8. ^ 村田久雄, 飯島肇, 直江史郎「カンジダの菌体抽出物によるマウスの実験的冠状動脈炎に関する研究 第1報」『真菌と真菌症』1979年 20巻 3号 p.214-219, doi:10.3314/jjmm1960.20.214
  9. ^ 山浦昇, 秋山武久「コッホの postulates と川崎病のA群溶連菌感染症説 : II.川崎病をA群溶連菌による感染症と考えたい」『北里医学』20巻 1号 p.6-12, 1990-02-28, NAID 110004704558
  10. ^ 臼井大介, 石井良樹, 赤池洋人 ほか「川崎病の診断基準を満たし, 播種性血管内凝固を合併したYersinia pseudotuberculosis 4a感染症の1例」『感染症学雑誌』2005年 79巻 11号 895-899頁 doi:10.11150/kansenshogakuzasshi1970.79.895
  11. ^ “川崎病、複数細菌原因か…抗菌薬で治療成功”. YOMIURI ONLINE (読売新聞社). (2009年11月17日). http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20091117-OYT1T00758.htm 2009年11月17日閲覧。 
  12. ^ Nagata, Satoru; et.al. (2009). “Heat shock proteins and superantigenic properties of bacteria from the gastrointestinal tract of patients with Kawasaki disease”. Immunology 128 (4): p.p.511-520. doi:10.1111/j.1365-2567.2009.03135.x. 
  13. ^ 川崎病の病原因子は風に運ばれてくるのか Infectious disease: Causal agent of Kawasaki disease may be wind-borne Scientific Reports, 記事:2011年11月11日 閲覧:2011年11月11日
  14. ^ 国際研究チーム、川崎病の原因をほぼ特定」ScicnceNewsLine 2014年5月19日
  15. ^ 川崎病、中国からの風が関与か…原因物質運ぶ?」『読売新聞』2014年5月20日
  16. ^ 川崎病、中国からの菌類が原因か 自治医大など国際チーム共同通信2014年5月20日
  17. ^ 川崎病の原因物質 中国東北部から飛来かしんぶん赤旗』2014年5月20日
  18. ^ a b c d e f 団藤保晴「川崎病の流行ピークと中国農業改革の節目が一致」Yahoo!Japanニュース[リンク切れ]
  19. ^ 川崎病の発症に関わる「ORAI1遺伝子の多型」を発見-日本人に多い遺伝子多型が関与-”. 理化学研究所 (2016年1月21日). 2017年2月18日閲覧。
  20. ^ NEWS◎日本川崎病学会による緊急アンケート速報 川崎病症状を伴うCOVID-19、日本では認めず 日経メディカルホームページ(2020年5月8日)2020年6月6日閲覧
  21. ^ 川崎病急性期治療のガイドライン(平成24年改訂版)
  22. ^ Kobayashi T, et al. Efficacy of immunoglobulin plus prednisolone for prevention of coronary artery abnormalities in severe Kawasaki disease (RAISE study): a randomised, open-label, blinded-endpoints trial. Lancet 2012;379(9826):1613-20. doi:10.1016/S0140-6736(11)61930-2
  23. ^ 川崎病急性期治療のガイドライン
  24. ^ Hamada H, and others. Efficacy of Primary Treatment With Immunoglobulin Plus Ciclosporin for Prevention of Coronary Artery Abnormalities in Patients With Kawasaki Disease Predicted to Be at Increased Risk of Non-Response to Intravenous Immunoglobulin (KAICA): A Randomised Controlled, Open-Label, Blinded-Endpoints, Phase 3 Trial. Lancet 2019;393 (10176):1128-1137.


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