対人恐怖症 治療

対人恐怖症

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/10/03 05:19 UTC 版)

治療

心理療法

認知行動療法

対人恐怖の治療には、認知行動療法が有効であるとされる[7]。そこでは、受容的かつ共感的に耳を傾けながら、個々の患者の心理や状況に即した対人恐怖の認知行動モデルが作成され、治療が開始される[8]。患者を責めることなく、具体的かつ詳細な部分にも丁寧に耳を傾けることが大切である[9]

その後展開される具体的な治療技法として、以下のようなものがある。

  • ビデオフィードバック
    他者から見える自己像を修正するため、不安を感じる場面における患者自身を撮影した動画(ビデオ)を見せ、不安に思っていること(手が震えているかもしれないということ等)は、実際には他者からは見えない・気づかれないということを認識できるよう支援する場合がある[10]
同時に、他者とのやり取りをしている場面を動画撮影することで、自分だけが過剰にやっていると思っていたことを、他者も同程度にやっているということに気づくことができるようサポートする場合もある[11]
  • 注意シフトトレーニング
    他者からどう思われるかという点から注意をそらし、会話の内容そのものや色・音などの外的なものに注意を向けることができるよう患者をサポートする[12]
  • 行動実験
    「~したら(~のとき)、・・・と思われるだろう」といった、対人恐怖に関する特定の予測の妥当性を、実際に検証できるようサポートする[13]。たとえば、「頭に浮かんだことをそのまま話したら、馬鹿だと思われるだろう」という予測を持った患者が、頭に浮かんだことをそのまま話した際に、他者がその話題に関心を持って楽しそうに会話に参加をしたことを確認し、予測の妥当性を検証した事例が報告されている[14]
このような行動実験を通じて、「自分自身にとって大きな心配事でも、他者はそのことをまったく気にしていない[15]」・「実際には他者は、自分が不安に思っている事柄に全く気づいていない[16]」・「ありのままでいても、大丈夫である(他者に受け入れてもらえる)[17]」・「他者は決して、自分を否定的にとらえていない[18]」ということに気づけるようサポートを行う[19]
  • 認知再構成法と曝露療法
    認知行動療法において、認知再構成法と曝露療法の組み合わせも有効である[20]
まず、認知再構成法を用いて、症状の原因となっている様々な認知(例:自己関連付け=実際には無関係な他者の言動などを、自分に対するもの・関係のあるものだと捉えること)を見つけ、治療者と共にそのような認知の根拠・妥当性を考え直したり、治療者が客観的に新たな捉え方を提示したりして、現実に即した機能的な認知を身につけられるようサポートする[21]。対人恐怖に関する専門書において「(気にしていること・悩んでいる症状は)客観的にはほとんど気づかれない程度で、まして、人に不快感を与えるということはまずないものです[22]」・「(他人の言動は、自身の症状とは)全く無関係な偶然的出来事にすぎないのです[23]」と述べられており、このようなことに気づけるよう患者をサポートしていく[24]
次に、曝露療法を用いて、不安を感じる場面や状況に身をおくことをサポートし、「何度も不安場面に身をおくことで、慣れが生じ不安感が減少してくる」・「不安場面に身を置いても、心配していたことが実際には起こらない」といったことを体感できるよう支援する[25]

  1. ^ a b 笠原嘉、(編集)加藤正明ほか「対人恐怖」 『精神医学事典』弘文堂、1975年、427-428頁。 
  2. ^ アメリカ精神医学会、(翻訳)高橋三郎、大野裕、染谷俊幸『DSM-IV精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院、1996年初版。p.811.より引用
  3. ^ 永田法子1992「対人恐怖症」(『心理臨床大事典』、培風館、pp.800-801)
  4. ^ a b c 『人間関係の心理と臨床』p.138
  5. ^ 鍋田恭孝1989「対人恐怖症」(『性格心理学 新講座 3 適応と不適応』金子書房、pp.299-315)
  6. ^ 『人間関係の心理と臨床』p.139
  7. ^ クラーク, D. M. & エーラーズ, A. 丹野義彦(訳)(2008). 対人恐怖とPTSDへの認知行動療法――ワークショップで身につける治療技法―― 星和書店, 14-60頁.
  8. ^ クラーク, D. M. & エーラーズ, A. 丹野義彦(訳)(2008). 対人恐怖とPTSDへの認知行動療法――ワークショップで身につける治療技法―― 星和書店, 14頁.
  9. ^ 塩路 理恵子 (2014). “社交不安障害・対人恐怖症の診療における助言と指導”. 臨床精神医学 43: 1129-1134. 
  10. ^ クラーク, D. M. & エーラーズ, A. 丹野義彦(訳)(2008). 対人恐怖とPTSDへの認知行動療法――ワークショップで身につける治療技法―― 星和書店, 43-44頁.
  11. ^ クラーク, D. M. & エーラーズ, A. 丹野義彦(訳)(2008). 対人恐怖とPTSDへの認知行動療法――ワークショップで身につける治療技法―― 星和書店, 44頁.
  12. ^ クラーク, D. M. & エーラーズ, A. 丹野義彦(訳)(2008). 対人恐怖とPTSDへの認知行動療法――ワークショップで身につける治療技法―― 星和書店, 48-49・59-60頁.
  13. ^ クラーク, D. M. & エーラーズ, A. 丹野義彦(訳)(2008). 対人恐怖とPTSDへの認知行動療法――ワークショップで身につける治療技法―― 星和書店, 49-52頁.
  14. ^ クラーク, D. M. & エーラーズ, A. 丹野義彦(訳)(2008). 対人恐怖とPTSDへの認知行動療法――ワークショップで身につける治療技法―― 星和書店, 52-54頁.
  15. ^ クラーク, D. M. & エーラーズ, A. 丹野義彦(訳)(2008). 対人恐怖とPTSDへの認知行動療法――ワークショップで身につける治療技法―― 星和書店, 57頁.
  16. ^ クラーク, D. M. & エーラーズ, A. 丹野義彦(訳)(2008). 対人恐怖とPTSDへの認知行動療法――ワークショップで身につける治療技法―― 星和書店, 56-57頁.
  17. ^ クラーク, D. M. & エーラーズ, A. 丹野義彦(訳)(2008). 対人恐怖とPTSDへの認知行動療法――ワークショップで身につける治療技法―― 星和書店, 51頁.
  18. ^ クラーク, D. M. & エーラーズ, A. 丹野義彦(訳)(2008). 対人恐怖とPTSDへの認知行動療法――ワークショップで身につける治療技法―― 星和書店, 50-51頁.
  19. ^ クラーク, D. M. & エーラーズ, A. 丹野義彦(訳)(2008). 対人恐怖とPTSDへの認知行動療法――ワークショップで身につける治療技法―― 星和書店, 51・56-57頁.
  20. ^ 長尾 博 (2014). やさしく学ぶ認知行動療法 ナカニシヤ出版, 53・55頁.
  21. ^ 長尾 博 (2014). やさしく学ぶ認知行動療法 ナカニシヤ出版, 23・55・58頁.
  22. ^ 吉松 和哉 (1981). 対人恐怖の症状と分類 飯田 真(編)対人恐怖――人づきあいが苦手なあなたに――(20頁, 4-5行) 有斐閣.
  23. ^ 青木 勝 (1981). 重症対人恐怖症 飯田 真(編)対人恐怖――人づきあいが苦手なあなたに――(36頁, 3-4行) 有斐閣.
  24. ^ 森田 正真・高良 武久 (1953). 赤面恐怖の治し方 白揚社, 263-264頁.
  25. ^ 長尾 博 (2014). やさしく学ぶ認知行動療法 ナカニシヤ出版, 53・55-56・65頁.


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