家制度 戸主

家制度

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/30 21:17 UTC 版)

戸主

戸主は、家の統率者としての身分を持つ者であり、戸籍上は筆頭に記載された。このため、戸籍の特定は戸主の氏名と本籍で行われることになる。

戸主権・戸主の義務

戸主は、家の統率者として家族に対する扶養義務を負う(ただし、配偶者直系卑属直系尊属による扶養義務のほうが優先)ほか、主に以下のような権能(戸主権)を有していた。

  • 家族の婚姻養子縁組に対する同意権(改正前民法750条)
    • ただし、離籍の制裁を覚悟するなら、戸主の同意の無い婚姻・縁組を強行することは可能(改正前民法776条但書・849条2項)[7]
  • 家族の入籍又は去家に対する同意権(ただし、法律上当然に入籍・除籍が生じる場合を除く)(改正前民法735条・737条・738条)
  • 家族の居所指定権(改正前民法749条)
  • 家籍から排除する権利
    1. 家族の入籍を拒否する権利
      • 戸主の同意を得ずに婚姻・養子縁組した者の復籍拒絶(改正前民法741条2・735条)
      • 家族の私生児・庶子の入籍の拒否(改正前民法735条)
      • 親族入籍の拒否(改正前民法737条)
      • 引取入籍の拒否(改正前民法738条)
    2. 家族を家から排除する(離籍)権利(ただし未成年者と推定家督相続人は離籍できない)
      • 居所の指定に従わない家族の離籍(改正前民法749条)
      • 戸主の同意を得ずに婚姻・養子縁組した者の離籍(改正前民法750条)

戸主の権利義務は少なくとも起草者の主観においては、妥当な範囲に制限しようとする意図が働いていた[8]

法律は、依然として、戸主といふものを認めてゐるが、唯だ、其一家の代表者として認めてるほどの事で、決して、生殺与奪といふが如き、強力の権力を認めてゐない。故に、家族に対して、懲罰権をもたぬのみか…戸主は、相続によって、其家の財産を持ってゐるから、家族を扶養する義務を負はした。かうなってみれば、其財産は、たとへ、戸主の名義でも、其実は、其一家の共有と同じ事だ。…要するに…戸主といふ者は、殆んど、必要がない様になった。 …男女が、互に、想ひ想はれて夫婦になり度いといふても、戸主、又は、親が許さぬといふ場合…其戸主の監督を離れて離籍する事の出来るやうにしてある[9] — 梅謙次郎「二十世紀の法律」『読売新聞』1900年(明治33年)1月5日
戸主は絶対にその家族の行動を束縛すること能わず。故に家族にして独立するの力あらば戸主の束縛を受けず自己の意に従いて行動を為すことを得べし。唯戸主の恩恵に頼り生活を為さんと欲せば唯々、諾々その意に従うの外なきなり。是れ今日の時勢に於いては最も適当なる程度に於いて戸主権を保護するものと謂うべきか[10] — 梅謙次郎『民法要義』

女戸主

戸主は男性であることが原則であるが、女性であっても家督相続や庶子・私生児などによる一家創立など、女戸主もあり得た。しかし男戸主に比べ、いくつかの差異があった。

  • 隠居するには、年齢その他の要件を満たしている必要があるが、女戸主の場合は年齢要件を満たす必要がない(改正前民法755条)
  • (男性の)戸主が婚姻して他家に入るには、女戸主の家に婚姻で入る場合と婿養子縁組(婚姻と妻の親との養子縁組を同時に行うこと)に限られたが、女戸主が婚姻するためであれば裁判所の許可を得て隠居・廃家ができた(改正前民法754条)
  • 婚姻により夫が女戸主の家に入る(入夫婚姻)際、当事者の反対意思表示が無い限り入夫が戸主となった(改正前民法736条)。ただし1914年大正3年)以降の戸籍法では、入夫婚姻の届書に入夫が戸主となる旨を記載しなければ、女戸主が継続する扱いであった。

戸主の地位の承継(家督相続)

戸主の地位は、戸主の財産権とともに家督相続という制度により承継される。相続の一形態であるが、前戸主から新戸主へ全ての財産権利が譲り渡される単独相続である点が現在の民法と大きく異なる。但し遺言等による意思表示がある場合において相続分の指定があり遺言が有効であると認められれば、法律上「当然」にそれは有効であった。

家督相続は次の場合に行われる。

  • 戸主が死亡したとき
  • 戸主が隠居したとき
  • 戸主自身が婚姻し別戸籍に去ったとき
  • 女戸主が入夫婚姻を行い夫に戸主を譲るとき
  • 入夫婚姻により戸主となった夫が離婚により戸籍を出るとき
  • 戸主が日本国籍を失ったとき

家督相続人(新戸主)となる者は、旧戸主と同じ家に属する者(家族)の中から、第一順位として直系卑属のうち親等・男女・嫡出子庶子・長幼の順で決められた上位の者(ただし、親等が同じ場合女子といえども嫡出子及び庶子が優先された。)、被相続人(旧戸主)により指定された者、旧戸主の父母や親族会により選定された者などの順位で決めることになっていた。なお、代襲相続の規定もあり、例えば第一推定家督相続人である長男に孫が生存したまま長男が戸主の死亡前に亡くなっていた場合には、長男の孫のなかから男女・嫡出子庶子・長幼の順で家督相続がなされた。特に事情が無い場合、一般的には長男が家督相続人として戸主の地位を承継した。

親族会

戸主に行為能力がなくかつ親権者や後見人がおらず戸主の代行を要する場合や親族中の婚姻などにおいて同意をなすべき父母がいない場合などには、関係人などの請求によって、裁判所は、親族・縁故者の中から3人以上を選任して、親族会を招集し、戸主権を代行させることなどができた。


注釈

  1. ^ このうち広島新田藩浅野家は廃藩後に華族となることを辞退した。
  2. ^ 松崎家(松崎万長家)・玉松家(玉松操家)・岩倉具経家(岩倉具視の三男)・北小路家北小路俊昌家)・若王子家(聖護院院家若王子住職家)
  3. ^ 徳川御三卿のうち2家(一橋徳川家田安徳川家)、徳川御三家附家老家5家(成瀬家・竹腰家(尾張徳川家)、安藤家水野家紀伊徳川家)、中山家水戸徳川家))、毛利氏の家臣扱いだった岩国藩吉川家、1万石以上の所領を持つ交代寄合6家(山名家池田家山崎家平野家本堂家生駒家)、1万石以上の所領を持つ高家だった大沢家。ただし大沢家は所領の水増し申告が露見し1万石以下であることが確認されたことから、後に華族の身分を剥奪され士族に編入された。
  4. ^ 徳川御三卿の清水徳川家は当主不在であり、翌年華族に列せられた。
  5. ^ 旧民法が効力を持っていた戦前期(及び2021年現在でも各家庭・地域によっては)「家系の祭祀」を継ぐことが名誉ある責務と考えていたため、この規定が定められていた。

出典

  1. ^ 中村清彦「我国の家政と民法(三)」『日本之法律』4巻8号、博文館、1892年
  2. ^ 村上一博「『日本之法律』にみる法典論争関係記事(4)」『法律論叢』第81巻第6号、明治大学法律研究所、2009年3月、 289-350頁、 ISSN 03895947NAID 120001941063
  3. ^ 公爵11、侯爵24、伯爵76、子爵327、男爵74に授爵 伊藤博文伝 春畝公王頌会編
  4. ^ 岩田新『親族相続法綱要』(同文館、1926年)59-61頁
  5. ^ 宇野文重「明治民法起草委員の「家」と戸主権理解 : 富井と梅の「親族編」の議論から」『法政研究』第74巻第3号、九州大学法政学会、2007年12月、 523-591頁、 doi:10.15017/8837ISSN 03872882NAID 120000984402
  6. ^ 大蔵省印刷局『官報第4535号』。国立国会図書館。
  7. ^ 梅謙次郎『民法要義 巻之四親族法』和佛法律学校、1902年、50、111頁
  8. ^ 栗原るみ「ジェンダーの日本近現代史(3)」『行政社会論集』22巻2号、福島大学行政社会学会、2009年、90頁
  9. ^ 平野義太郎『日本資本主義の機構と法律』明善書房、1948年、52-53頁
  10. ^ 梅謙次郎『民法要義 巻之四親族法』和仏法律学校、1902年、35-36頁
  11. ^ 我妻榮『民法研究VII 親族・相続』有斐閣、1969年、131頁、中村敏子『女性差別はどう作られてきたか』集英社、2021年、125頁
  12. ^ 杉之原舜一『親族法の研究』日本評論社、1940年、3-8頁
  13. ^ 我妻栄遠藤浩川井健補訂)『民法案内1私法の道しるべ』(勁草書房、2005年)103-104頁, isbn 978-4326498444
  14. ^ 山本起世子「民法改正にみる家族制度の変化 : 1920年代~40年代 (PDF) 」 『園田学園女子大学論文集』第47号、園田学園女子大学、2013年1月、 119-132頁、 NAID 110009534405
  15. ^ 我妻榮『民法研究VII 親族・相続』有斐閣、1969年、149頁
  16. ^ 穂積重遠『百萬人の法律学』(思索社、1950年)112頁
  17. ^ 我妻榮編『戦後における民法改正の経過』日本評論新社、1956年、42頁
  18. ^ 「夫婦同姓も中絶禁止もその価値観を他人に強制することではない」、iRonna、2015年12月16日
  19. ^ a b 「時代遅れの戸籍制度」、週刊金曜日、第838号、2011年3月11日





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