嫌儲 発祥と経緯

嫌儲

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/05 01:16 UTC 版)

発祥と経緯

2006年5月末に、「2ちゃんねる」にある電子掲示板 (BBS) のひとつ「ニュース速報(VIP)板」の話題を収集して紹介していた「VIP系ブログ」と呼ばれるブログサイト群が相次いで炎上して閉鎖される出来事があった[5][6]。その騒動を傍観する立場から取り上げたブロガーにより、アフィリエイト付きのブログに対して強い批判を持つユーザーがなぜ多数いるのかを説明するために、嫌韓韓国などに対する嫌悪などの感情を意味する語)をもじって提唱された[4][6]

提唱者による原義では、物語などでステレオタイプな悪者として描かれがちな金持ちに対する偏見と、悪者を懲らしめたいという欲求が、正義感という形をとって現れた感覚であるとする旨の説明がされている[4]。その後、ネット上の話題を収集する「まとめサイト」にアフィリエイトを付けることに嫌悪感を示すような感情を指す表現として使用されるようになる[3]。2008年には『現代用語の基礎知識2008』(自由国民社)に「ウェブのことば」として収録されている[7][8]

自分たちの発言がアフィリエイトつきのサイトに引用されることに嫌悪感を抱く人々は「嫌儲厨」とも呼ばれるが[3]、これは「嫌儲」的な発想をする人々に対して批判的な意味合いが強い表現である。

2ちゃんねるの「嫌儲」板

前述の出来事を経た2007年末、「2ちゃんねる」には、営利目的の転載を禁止するルールを掲げた「ニュース速報(嫌儲)板」と名づけられたBBSが新設された[6]。2ちゃんねるにおける「嫌儲」の支持者たちは当初は小さな勢力であったものの[6]、幾度かの騒動を経て多大な影響力を持つようになった[6][1]。彼らはまとめブログ運営者の個人情報を特定して漏洩させてサイトを閉鎖に追い込んだり[6][1]、2ちゃんねる内において「嫌儲」の思想に同調しない他のBBSの勢力に対して荒らし行為を行ったりといった活動を行っているとされる[9]

2ちゃんねるにおいては、中傷や流言飛語を含んだ掲示板の書き込みをまとめブログなどに転載し、それが第三者に迷惑をかけることを、2ちゃんねるにとって不利益になることであると規定している[10][11]2012年6月4日には2ちゃんねるの運営側から、幾つかのまとめブログが名指しで指名され、2ちゃんねるの内容を転載することを全面的に禁止する警告文が公表された[10][11]。さらに2014年3月には、サーバー管理者ジム・ワトキンスが営利目的の2ちゃんねるまとめブログや、まとめブログに対する同情的な意見が多数派であるかのように見せかけるための自作自演工作を行う利用者に対し、「アフィカス (Afikasu)」という蔑称を用いて批判した上で、全面的な転載禁止を宣言した[9]

ジャーナリストの松谷創一郎は、嫌儲板は5ちゃんねるのネガティブな要素が濃縮され、厳しい社会環境で苦しむ人々が集って不満をぶちまけている場であるとしている[12]


注釈

  1. ^ ただし、オンライン百科事典「ウィキペディア」はコンテンツが商用利用されることを禁じておらず、また逆に商用利用不可能な文章・画像・その他メディアの投稿を受け入れていない。ウィキペディア日本語版の案内「Wikipedia:ガイドブック 著作権に注意#ウィキペディアのライセンス」や「Wikipedia:ウィキペディアを二次利用する」などにその旨の記載がある。
  2. ^ ファンが対象に入れ込んだ結果、ファン自身が自分のことを対象のグループの一員であるかのように錯覚してしまうこと自体は、スポーツファンなどにも見られる認知バイアスの一種である
  3. ^ その後しばらくの間は、ニコニコ動画で発表されたり『初音ミク』を用いて作られたりした楽曲を著作権管理団体に登録することに対して、批判的な意見が支配的になった[19]。しかし、2008年頃から、それらの楽曲がカラオケで流行の兆しを見せるようになると、彼らが著作権管理団体に楽曲を登録していないために正当な対価を受け取れず、著作権管理団体を利用する音楽家たちとの間に報酬の格差があることに対して、そもそも不平等を是としないインターネットの利用者の間から批判の声が上がるようになる[19]。やがて、インターネットから流行が発祥した楽曲を著作権管理団体に登録することは当たり前のことになっていった[19]

出典

  1. ^ a b c d ネットの「嫌儲」 徹底リサーチと卓越した攻撃力で影響力大」『週刊ポスト』2014年3月28日号、小学館、2014年3月17日、2014年3月18日閲覧 
  2. ^ a b c d e f 佐藤信正 (2008年1月21日). “ネット発キーワード「嫌儲」~ユーザーコンテンツに広告を付けると嫌われる”. 日経トレンディネット. 日経BP社. 2008年1月21日閲覧。
  3. ^ a b c d e 榎本秋(編) 編『オタクのことが面白いほどわかる本』(第1刷)中経出版、2009年6月5日、91,96頁頁。ISBN 978-4-8061-3358-2 
  4. ^ a b c d しっぽ (2006年5月28日). “「嫌儲」についてと、vip系ブログを叩き潰すとどうなるか。”. しっぽのブログ. 2007年11月25日閲覧。
    しっぽ (2006年6月2日). “「嫌儲」の心理と正義感、資本主義、あと転載について。”. しっぽのブログ. 2007年11月25日閲覧。
  5. ^ 鷹木創 (2006年6月1日). “2ちゃんネタは誰のもの? スレ紹介ブログの閉鎖相次ぐ”. ITmediaニュース (ITmedia). https://www.itmedia.co.jp/news/articles/0606/01/news066.html 2015年2月3日閲覧。 
  6. ^ a b c d e f 第三次ブログ連戦争へ:なぜ2ちゃんねるは「転載禁止」を選んだのか――「まとめサイトVS住民」繰り返す歴史”. ねとらぼ. ITmedia (2014年3月6日). 2014年4月11日閲覧。
  7. ^ 『現代用語の基礎知識2008』にはてなダイアリーキーワードが掲載されます”. はてなダイアリー日記. はてな (2007年11月14日). 2007年11月25日閲覧。
  8. ^ “「アサヒる」「初音ミク」「ローゼン麻生」、現代用語の基礎知識に”. ITmediaニュース (ITmedia). (2007年11月14日). https://www.itmedia.co.jp/news/articles/0711/14/news075.html 2011年12月21日閲覧。 
  9. ^ a b 「アフィカスに振り回されるのにはうんざり」 2ch一斉「転載禁止」なぜまた? 管理人の意図、影響は”. ねとらぼ. ITmedia (2014年3月20日). 2014年3月24日閲覧。
  10. ^ a b 2chまとめブログに「転載禁止」の警告”. ガジェット通信. 未来検索ブラジル (2012年6月4日). 2012年6月10日閲覧。
  11. ^ a b 「悪質」まとめサイトが大ピンチ 2ちゃんねるから「転載禁止」通告”. J-CASTニュース. ジェイ・キャスト (2012年6月4日). 2012年6月10日閲覧。
  12. ^ “「中世ジャップランド」と「ヘル朝鮮」──SMAPとJYJで繋がった日韓のネットスラングの共通性”. Yahoo!ニュース. (2016年3月22日). https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/37371c9635cf4dbd0078aabffc4233884dd197d6 2022年10月11日閲覧。 
  13. ^ ちきりん (2012年6月11日). ““嫌儲”の人、“好儲”の人”. Business Media 誠. アイティメディア. p. 1. 2015年3月22日閲覧。
  14. ^ 川上量生(インタビュアー:山田俊浩)「ドワンゴ川上会長、「炎上は放置、謝らない」 「ネットが生んだ文化」、コピー、炎上、嫌儲 (5/5)」『東洋経済ONLINE』、2014年11月24日http://toyokeizai.net/articles/-/54092?page=52015年3月22日閲覧 
  15. ^ 濱野智史(インタビュアー:小田嶋隆清野由美)「「日本ではネットで金儲けしようとするやつが嫌われる」「そう、いわゆる『嫌儲』ですね」」『日経ビジネスオンライン』、2011年5月2日http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20110428/219683/2015年3月22日閲覧 
  16. ^ a b 「嫌儲」 ピュアさと他人の不幸喜ぶメシウマの二面性が同居」『週刊ポスト』2014年3月28日号、小学館、2014年3月18日、2015年3月23日閲覧 
  17. ^ a b c d “座談会 UGCの可能性を考える(前編):「ニコ動作家はもうけちゃダメ?」「才能、無駄遣いしていいの?」”. ITmediaニュース (ITmedia). (2008年7月18日). https://www.itmedia.co.jp/news/articles/0807/18/news048.html 2011年12月21日閲覧。 
  18. ^ logu_ii (2015年2月2日). “スポーツファンが応援するチームを自分自身と混同してしまう心理とは?”. GIGAZINE. 2015年2月3日閲覧。
  19. ^ a b c 川上量生; 加藤貞顕(インタビュー)「「アップル、アマゾンはクリエーターの天国にはなれない」 川上量生氏が語った、コンテンツビジネスの未来」『logmi』、2015年3月6日https://logmi.jp/business/articles/394072015年3月22日閲覧 





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