妖怪 端境

妖怪

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/09/22 00:12 UTC 版)

端境

丑の刻参り」『北斎漫画』:葛飾北斎

古神道においては、神奈備(かんなび)という「神が鎮座する[注釈 2]」山や森があり、この神奈備が磐座(いわくら)・磐境(いわさか)[注釈 3]や神籬(ひもろぎ)[注釈 4]に繋がっていった。これら鎮守の森や神木霊峰夫婦岩神域や神体であると共に、「現世」と「常夜・常世」の端境と考えられ、魔や禍が簡単に往来できない、若しくは人が神隠しに遭わないよう結界として、注連縄(しめなわ)[注釈 5]が設けられている。逢魔刻(大禍刻)や丑三つ刻だけでなく、丑の刻参りという呪術があり、古くは神木神体)に釘を打ち付け、自身が鬼となって恨む相手に復讐するというものである。丑の刻(深夜)に神木に釘を打って結界を破り、常夜(夜だけの神の国)から、禍をもたらす神(魔や妖怪)を呼び出し、神懸りとなって恨む相手を祟ると考えられていた。

「逢魔時」『今昔画図続百鬼』:鳥山石燕

これらに共通するのは「場の様相」(環境状況)が転移する(変わる)空間時間を表していて、夕方明け方は、という様相が移り変わる端境の時刻であり、昼間はどんな賑やかな場所や開けた場所であっても、深夜には「草木も眠る丑三つ時」といわれるように、一切の活動がなくなり、漆黒の闇とともに、「時間が止まり、空間が閉ざされた」ように感じるからである。また神奈備などの自然環境の変化する端境の場所だけでなく、、集落の境[注釈 6]など人の手の加わった土地である「道」の状態が変化する場所も、異界(神域)との端境と考えられ、魔や禍に見舞われないように、地蔵道祖神を設けて結界とした。社会基盤がもっと整備されると、市街の神社[注釈 7]などから、伝統的な日本家屋[注釈 8]敷地の間の垣根や、屋外にあった便所納戸、住居と外部を仕切る雨戸障子なども、常世と現世の端境と考えられ、妖怪と出会う時間や場所と考えられた。


注釈

  1. ^ 草双紙の分類の一つ。安永から文化にかけての約30年間に出版された。それまでの青本などに洒落本などの影響が加わり大人向けの言語遊戯などを取り入れた作品が多く見られた。
  2. ^ 古語では神留まる(かんづまる)
  3. ^ 磐境の境は境界や坂を意味し、このときの坂も神域との境界の意味を持つ。
  4. ^ 神籬の籬も垣の意味で、同様に神域との境界を意味する。
  5. ^ 結界としての神祭具でもある。
  6. ^ ヨーロッパやその他の大陸は、城壁の中に居住していることが多く、集落と自然環境が隔絶されている。
  7. ^ 町奉行が管轄した町場()に設けられた、時間制限で閉じられてしまう集落の出入り口にある門。門限の語源となっている。
  8. ^ 配置や間取りや構造が、自然と居住空間の境が曖昧な作りになっている。

出典

  1. ^ 宮田登 2002, p. 24、小松和彦 2015, p. 53
  2. ^ 宮田登 2002, p. 24、小松和彦 2015, p. 48-49
  3. ^ 近藤瑞木・佐伯 孝弘 2007
  4. ^ 小松和彦 2015, p. 24
  5. ^ 小松和彦 2011, p. 16
  6. ^ 小松和彦 2011, p. 16-18
  7. ^ 宮田登 2002, p. 14、小松和彦 2015, p. 201-204
  8. ^ 宮田登 2002, p. 12-14、小松和彦 2015, p. 205-207
  9. ^ a b c 小松和彦 2011, p. 21-22
  10. ^ 小松和彦 2011, p. 188-189
  11. ^ 民俗学研究所『綜合日本民俗語彙』第5巻 平凡社 1956年 403-407頁 索引では「霊怪」という部門の中に「霊怪」「妖怪」「憑物」が小部門として存在している。
  12. ^ a b 小松和彦 2011, p. 20
  13. ^ 『今昔物語集』巻14の42「尊勝陀羅尼の験力によりて鬼の難を遁るる事」
  14. ^ 小松和彦 2011, p. 78
  15. ^ 小松和彦 2011, p. 21
  16. ^ 小松和彦 2015, p. 46
  17. ^ 小松和彦 2015, p. 213
  18. ^ 宮田登 2002, p. 12、小松和彦 2015, p. 200
  19. ^ a b 太刀川清 『百物語怪談集成』国書刊行会、1987年、365-367頁。 
  20. ^ 世説故事苑 3巻”. 2015年12月16日閲覧。
  21. ^ 『江戸化物草紙』アダム・カバット校注・編、小学館、1999年2月、29頁。ISBN 978-4-09-362111-3 
  22. ^ 『『江戸怪談集 上』』高田衛岩波書店、1989年、369-397頁。ISBN 4-00-302571-7 
  23. ^ 尾崎久弥 編著 『大江戸怪奇画帖 完本・怪奇草双紙画譜』国書刊行会、2001年、5頁。 
  24. ^ 石川純一郎 『新版 河童の世界』時事通信社、1985年、27-34頁。ISBN 4-7887-8515-3 
  25. ^ 兵庫県立歴史博物館,京都国際マンガミュージアム 『妖怪画の系譜』河出書房新社、2009年、58-59頁。ISBN 978-4-309-76125-1 
  26. ^ 石上敏 『森島中良集』国書刊行会、1994年、372-373頁。 
  27. ^ 多田克己 2008, p. 272-273
  28. ^ 湯本豪一 2008, p. 30-31
  29. ^ 湯本豪一 『今昔妖怪大鑑』パイインターナショナル、2013年、158頁。ISBN 978-4-7562-4337-9 
  30. ^ 渋谷保 訳補 『西洋妖怪奇談』博文館、1891年。"凡例"。 
  31. ^ 竹柴金作 『日本戯曲全集 河竹新七及竹柴其水集』春陽堂、1929年、716頁。 
  32. ^ 西本晃二『落語『死神』の世界』 青蛙房 2002年 289-290頁 ISBN 4-7905-0305-4
  33. ^ 泉鏡花 『夜叉ヶ池・天守物語』 岩波書店<岩波文庫> 134頁 1984年 ISBN 4-00-310273-8 澁澤龍彦「解説」
  34. ^ a b 山口敏太郎 2007, p. 9
  35. ^ 湯本豪一 2008, p. 2
  36. ^ a b c と学会 2007, p. 226-231
  37. ^ a b c 妖怪王(山口敏太郎)グループ 2003, p. 16-19
  38. ^ 水木しげる 1974, p. 17
  39. ^ 諸橋轍次 『大漢和辞典 巻三』大修館書店、1956年、645-647頁。 
  40. ^ 朝鮮総督府 編 『朝鮮の鬼神』国書刊行会、1972年、87-98頁。 






妖怪と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

妖怪のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



妖怪のページの著作権
Weblio 辞書情報提供元は参加元一覧にて確認できます。

  
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの妖怪 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2022 GRAS Group, Inc.RSS