失踪宣告
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/07/02 14:48 UTC 版)
失踪宣告の取消し
失踪宣告を受けた者が生存していること、または失踪宣告による死亡時とは異なる時に死亡したこと(異時死亡)が判明し、本人ないし利害関係人より請求があった場合、家庭裁判所は失踪宣告を取り消さなければならない(32条1項前段)。
異時死亡の立証の場合には、失踪宣告で死亡したとみなされた時期とは異なる時期に死亡したことを立証すれば足り、実際の死亡時期まで立証する必要はない[7]。
失踪宣告は取り消されるとはじめから存在しなかったことになる[7]。しかし、失踪宣告は「生死不明の者を死んだものとみなして法的状況を確定すること」を目的とした制度であるため、取り消しによって失踪宣告の効果を全面的に覆すこととすると、実際の事実関係を知らずに失踪宣告によって確定された法的状況を信頼し、これに基づいて法律行為を行った者が失踪宣告の取り消しによって不測の損害をこうむることになるおそれがある。そこで、民法は失踪宣告の取消しについて、まず第一に失踪宣告からその取り消しまでの期間に行われた善意の行為(=実は生きているということを知らずになされた法律行為)の効力には影響を及ぼさず(32条1項後段)、また、第二に失踪宣告によって財産を得た者については失踪宣告の取消によって権利を失うが、現存利益(=まだ残っている範囲)で返還すれば足りる(32条2項)。
善意の行為の効力(32条1項後段)
失踪宣告の取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない(32条1項後段)。
善意の意味
32条1項後段の「善意」は法律行為のすべての当事者に要求される(通説[8]・判例[9])。
なお、通説は財産行為の最初の両当事者が善意であれば、以後の転得者は悪意であっても有効に所有権を取得できると解する(絶対的構成)。
失踪宣告の取消しと身分行為
- 失踪宣告の取消しと婚姻
- 通説は32条1項後段は身分行為にも適用があるとし、失踪宣告を受けた者の配偶者であった者が再婚した後に失踪宣告が取り消された場合、後婚の当事者の双方が失踪宣告を受けた者の生存について善意であった場合には後婚は前婚に優先する(通説では新たな婚姻の当事者双方が善意であればこれと矛盾する旧婚姻は復活しない[10])と解する。一方、後婚の当事者のうち一方または双方が失踪宣告を受けた者の生存について悪意であった場合、前婚が復活して前婚と後婚との重婚状態となり、前婚については離婚原因(770条)を生じ、後婚については取消原因(732条・744条)を生じると解する。なお、身分行為については32条1項後段の適用を否定すべきとする有力説がある。
- 失踪宣告の取消しと相続
失踪宣告によって財産を得た者の返還義務(32条2項)
失踪宣告によって直接財産を得た者については失踪宣告の取消によって権利を失うが、現存利益(=まだ残っている範囲)で返還すれば足りる(32条2項)。相続人、受遺者、保険金受取人等である[11]。通説は32条2項により現存利益の限度で返還すれば足りるのは失踪宣告が事実と異なることについて知らない取得者(善意の者)のみである(つまり32条2項は703条と同じ趣旨である[11])とし、失踪宣告が事実と異なることを知っている取得者(悪意の者)については悪意の受益者として704条の規定に従い全部の返還義務を負うとする[11][12]。受益者が即時取得や時効取得といった他の権利取得の要件を満たしているときには返還義務はない(通説[13]・下級審判例[14])。
- ^ a b c d e f 水本浩ほか『注解法律学全集 民法1 総則1 第1条〜第89条』青林書院、1995年、136頁。ISBN 978-4417009399。
- ^ a b 水本浩ほか『注解法律学全集 民法1 総則1 第1条〜第89条』青林書院、1995年、137頁。ISBN 978-4417009399。
- ^ 我妻栄著『新訂 民法総則』106頁、岩波書店、1965年
- ^ 水本浩ほか『注解法律学全集 民法1 総則1 第1条〜第89条』青林書院、1995年、138頁。ISBN 978-4417009399。
- ^ a b c 水本浩ほか『注解法律学全集 民法1 総則1 第1条〜第89条』青林書院、1995年、139頁。ISBN 978-4417009399。
- ^ 我妻栄著『新訂 民法総則』109頁、岩波書店、1965年
- ^ a b 水本浩ほか『注解法律学全集 民法1 総則1 第1条〜第89条』青林書院、1995年、141頁。ISBN 978-4417009399。
- ^ 我妻栄著『新訂 民法総則』111頁、岩波書店、1965年
- ^ 大判昭和13年2月7日民集17巻59頁
- ^ 水本浩ほか『注解法律学全集 民法1 総則1 第1条〜第89条』青林書院、1995年、143頁。ISBN 978-4417009399。
- ^ a b c 水本浩ほか『注解法律学全集 民法1 総則1 第1条〜第89条』青林書院、1995年、142頁。ISBN 978-4417009399。
- ^ 水本浩著『民法(全)体系的基礎知識 新版』19頁、有斐閣、2000年
- ^ 我妻栄著『新訂 民法総則』112頁、岩波書店、1965年
- ^ 熊本地判大正15年2月15日
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