失業 計測

失業

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/26 10:04 UTC 版)

計測

失業率は一国の地域によっても大きく異なる。失業率の高さは、紫<青<緑<黄<赤となっている。(ドイツ、2020年10月)

失業を測る尺度である失業率(Unemployment rate)は、労働力人口に対する失業者数の割合パーセントで定義される。

国際労働機関の定義による失業者(unemployed workers)は、現在働いていないが、給与を得るために働く意思と能力があり、現在働くことが可能で、積極的に仕事を探している人をさす[38]

求職活動を積極的に行っている人とは、過去4週間以内に雇用主との接触、面接、職業紹介所への連絡、履歴書の送付、応募書類の提出、求人広告への問い合わせ、何らかの方法で積極的に就職活動を行う努力を行っている者のことである。単に求人広告を見るだけで問い合わせを行っていなければ、積極的に仕事を探しているとはみなされない。すべての失業者が政府機関によって把握されているとは限らないため、失業に関する公式統計は正確でない場合がある[39]

なお、仕事探しをあきらめた人は就業意欲喪失者 (discouraged worker)と呼ぶ。

米国

アメリカ合衆国労働省労働統計局(BLS)では、失業率のほか、失業の異なる側面を測定する6つの代替指標U1~U6を定義している[40]

  • U1: 15週間以上失業している労働力の割合[41]
  • U2: 失業、もしくはパートタイム契約を満了した労働力人口の割合。
  • U3: ILO定義による公式の失業率、すなわち無職であり、かつ過去4週間以内に積極的に仕事を探している場合[42]
  • U4: U3に就業意欲喪失者を加えたもの。すなわち現在の経済状況から自分には仕事がないと考え、仕事を探すのをやめた者。
  • U5: U4に、"marginally attached workers"、"loosely attached workers,"、働きたく考えているが仕事を最近は探していない者を加えたもの。
  • U6: U5に、フルタイム雇用を希望するが、経済的理由でパートタイムで働いている不完全雇用者を加えたもの。

日本

 
 
 
 
 
 
 
 
15歳以上の人口
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
労働力人口
 
 
 
 
 
 
非労働力人口
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
就業人口完全失業者
 
 
潜在労働力人口通学/家事/その他
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
就業者
 
休業者
 
拡張求職者
 
就業可能非求職者

日本において失業率という場合、完全失業率を指す[43]。失業者とは「働く意思と能力があるのに仕事に就けない状態にある人」を指すので、仕事探しをあきらめた人(就業意欲喪失者)は失業者には含まれない。

「働く意志がある」とは、労働力調査においては、ハローワークに通って職探しをするなど仕事を探す努力や事業開始の準備をしていること、とされている。仕事に就けない状態には仕事をしなくても職場から給与などを受け取っている場合を含まず、こうした場合は休業者として扱われる。

景気等との関係

失業率は、国全体の景気動向を知る上で重要な指標となっている[43]。不況による失業率の上昇は、労働力が有効に活用されていないという経済的な無駄が増えていることを意味する[44]

失業率は様々な経済活動と関連しながら変動する労働市場においての需給の引き締め度合いを表すシグナルとなる[45]

失業率の抑制は経済政策の重要な目標とされる[46]。また、失業率を減らすことは、労働の経済学の重要な課題である[47]

失業率は、

  1. 様々な経済活動の「結果」
  2. 失業率を契機とした景気変動などに影響を与える「要因」

というの二つの側面がある[46]

失業率は景気と相関があると言われているが、動きが一致するとは限らない。失業率は、景気循環要因以外にも、経済構造に関連する要因によっても動く[48]。伝統的な日本的経営のもとでは、企業は従業員の雇用を守ることを企業の社会的使命の1つと考えており、整理解雇、特にリストラをなるべく忌避し、ぎりぎりまで状況を見極めようとするからである。その反面、採用についても、大企業になるほど、慎重で計画性や人員構成のバランスを重んじ、不要不急の採用は避ける傾向にある(一方で、近年非正規雇用の採用は柔軟に行っており、雇用関係指標を見る際にはその点も考慮に入れる必要がある)。

また、労働者側も、不況が長期化すると就業意欲喪失者が増加するが(不況で求人が少なくなり「どうせ就職できない」とあきらめる人が増える)、このため失業者数が減り、失業率を押し下げる要因になり、表面上は景気が回復したかに見える。逆に、景気回復局面では(景気が良くなって求人が増えるだろう、と)新規に仕事探しを始める人が現れるので、かえって就労を希望する「失業者」が増えて、失業率を押し上げることになる。

以上のようなことから、失業率は景気に対して遅行指標となっており[46]、失業率のみならず他の景気指標を併せてみる必要がある。失業率は景気動向と比較して、通常1年から1年半送れて変動する。また、景気の先行指数の代表である株価と、遅行指数の一つである失業率は、一時的に正反対の動きを見せることがある。


注釈

  1. ^ この有効需要は、貨幣供給量・貨幣選好・期待利潤率・消費性向に依存する。ケインズは、賃金切り下げの影響は、これらの要因に対する影響を通じて考慮されなければならないとし、新古典派の議論が、全産業での賃金切り下げには当てはまらないと考えていた。

出典

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  3. ^ OECD glossary - FULL EMPLOYMENT, OECD, (2004-08), https://stats.oecd.org/glossary/detail.asp?ID=6266 
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  24. ^ この節はポール・クルーグマン『マクロ経済学』15章を参照。
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