失業 影響

失業

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/12 21:59 UTC 版)

影響

高い失業率の問題は、国全体としての所得の低下にとどまらず、

  1. 所得分配の不平等化の要因となる
  2. 貧困をもたらす
  3. 人々の幸福感を大きく阻害する
  4. 犯罪利率・自殺率を高める

といった痛みを人々に対して与える[77]

失業率と犯罪発生件数は相関があり、失業率が下がると犯罪発生件数が下がると2006年版犯罪白書で報告されている。

失業者の生活支援

日本

  • ハローワークによるもの
    • 訓練・生活支援給付 - 生活費を支給。ただし訓練を受講することが条件
    • 長期失業者支援 - 民間事業者に委託して再就職を支援。生活資金を貸付
    • 就職困難者支援 - 民間事業者が住居を用意して再就職を支援。生活・就職活動費を給付
    • 就職安定資金融資 - 住宅入居費、家賃補助(雇用保険非受給者のみ)、生活・就職活動費(同じ)を貸付
  • 福祉事務所などによるもの
    • 住宅手当緊急特別措置 - 生活保護に準じた住宅手当を支給
  • 社会福祉協議会によるもの
    • 総合支援資金 - 生活支援費、住宅入居費などを貸付
    • 臨時特例つなぎ資金貸付 - 生活費を貸付。公的な給付制度が決定されるまで

失業に関する議論

経済学者の橘木俊詔は「失業は人間に生じる不幸の最たるものの一つである。職を失うということは、生きるための所得がゼロになることを意味するからである」と指摘している[78]。経済学者のジョセフ・E・スティグリッツは、失業こそ人間価値の既存を伴う最悪の事態の一つであり、これを解消することが人間の幸福を促すと指摘している[79]

経済学者の竹中平蔵は「最も重大な経済の問題は、明らかに失業の問題である。失業は人の生活に直接的に影響を与える。失業とは、貴重な資源が遊んでいる状態、有効に使われていない状況であり、経済の効率性という観点からこれほど非効率なことはない。失業の問題は、最大の政策課題である[80]」「もちろん時代によって違うが、経済学・経済政策の最大の目標は失業を防ぐことである[81]」と指摘している。

経済学者の田中秀臣は「失業者が大量に漂流すると、様々な社会的コストが発生する。生活保護の増加、最低賃金の引き下げ、親の低所得による子どもの学力低下、犯罪率の増加などである。そう言った形で社会が負担を背負うのと、税金で直接雇用するのとでは、歳出という点で代わりがない」と指摘している[82]。田中は「経済停滞の中で効率性だけを追求すると、失業問題はさらに悪化する」と指摘している[83]

経済学者の高橋洋一は「失業率が下がれば、自殺率や犯罪率が低下することが知られている。さらに、生活保護率も下がる。ブラック企業も淘汰できる。いずれにしても、失業率は最も重要な経済指標の一つである」と指摘している[84]

経済学者の伊藤元重は「失業率という数字だけでなく、実際に失業した人がどの程度の期間、失業者の状態であるかが問題となる。失業者がどのような状況にいるのかを詳しく見る必要がある」と指摘している[85]

経済学者の大竹文雄は「不況では失業が発生し、努力と無関係に仕事に就けない人が出てくる」と指摘している[86]

統計

アメリカの失業統計について、経済学者のスティーヴン・ランズバーグは「失業統計には、失業者の数だけでなく、平均失業期間も含まれる。こうした数値は、特定の日の失業者を調査し、失業期間を訊ねてその回答を平均して算出される。結果、過大となる。長期失業者が調査日に失業している確率は高く、短期失業者が調査日に失業している確率ははるかに小さい。よって、特定の日・週に集められたサンプルに長期失業者が相対的に多く含まれる」と指摘している[87]

日本の統計

労働者は、自分の能力に適合した職場を見つけるのが困難であったり、技術の向上に期間がかかったりするため、すみやかに転職できない[88]。これを「雇用のミスマッチ」という[88]

厚生労働省の2002年度版『労働経済白書』では、2001年の完全失業率5%のうち、3.9%は構造的ミスマッチ失業であり、1.1%が需要不足による失業と推計されている[89]第一勧銀総合研究所の推計によると、2000年の労働需給のミスマッチによって発生した失業者数は、失業者全体の7割程度を占めているしており、雇用を改善させるためには景気回復によって労働需要を増加させるとともに、労働需給のミスマッチの解消が欠かせないとしている[90]

エコノミストの小峰隆夫は、ミスマッチは、1)職能、2)年齢、3)地域、4)産業、などの違いによって起こるとしている[91]

経済学者の浅田統一郎は「日本の『完全失業率』という指標は、欧米の指標に比べて『失業率』が極端に低く出るバイアスを持っている」と指摘している[92]。経済学者の飯田泰之は「日本の失業統計は、就職活動を止めると失業者として計上されない。そのせいで不況下でも一時的に失業率が下がったりする」と指摘している[93]。経済学者の原田泰は「現在(2013年)の日本の失業率は4%程度であるが、この内の1%は雇用調整助成金で失業率を無理やり抑えている」と指摘している[94]

経済学者の橘木俊詔らの研究によると日本の潜在失業率は10%に達するとしている(2001年時点)[58]

経済学者の岩田規久男は「日本経済の場合、フィリップス曲線・オーカン法則から判断すると、失業率2.5%程度が完全雇用の目安となる」と指摘している[95]。田中秀臣は、2004年の時点で「日本では、インフレが加速しない失業率(NAIRU、非インフレ加速失業率)が2.3-2.4%程度と推測できる。NAIRUよりも失業率が高いときには、この失業率を低下させてもインフレは加速せず、デフレが解消すれば失業率は劇的に低下する」と指摘していた[96]。また田中は2009年の時点では「日本の自然失業率は3%台前半か、2%台後半と言われている」と指摘している[97]。原田泰は、2015年時点で「日本の完全雇用の失業率は2%台である」と指摘している[98]。原田は2013年の時点で「日本の場合、失業率が2%に近づくと急激なインフレとなる。その直前のインフレ率が2%程度である」と指摘している[99]。高橋洋一は、2015年の時点で「日本の完全雇用失業率は、3-3.5%程度であろう」と指摘している[100]

企業内失業は日本独特の現象であり、日本の統計上の失業率を低く抑えている要因と指摘されている[101]

飯田泰之は「日本の場合、失業率より有効求人倍率の方が労働市場の状態を表す統計として参考となる。日本では、有効求人倍率と失業率の間にラグがある」と指摘している[102]

対策

1943年の『ベヴァリッジ報告書』では、完全雇用は政府の適切なマクロ経済政策によって実現されると報告されている[103]

池田信夫は「失業者を『労働需給に対して需要が不足して失業が起きるのは、労働市場が歪んでいるからであり、失業者に責任があるわけではない」と指摘している[104]。池田は「『雇用対策』として雇用規制を強化するのは、労働コストを引き上げて雇用を減らすだけである。GDPを引き上げて雇用を創出することが、最大の雇用対策である」と指摘している[105]

経済学者の野口旭、田中秀臣は「ケインズ後の時代を生きる人々にとって、雇用・物価の変動は受け入れなければならない『運命』ではない。政府・中央銀行がマクロ経済政策によって総需要を適切に管理すれば、適正な失業率・物価上昇を維持することは可能だからである」と指摘している[106]。野口、田中は「政府・中央銀行が、マクロ安定化という機能の行使を怠れば、そのツケは必ず手に負えないほどのデフレ・失業となってはね返ってくる」と指摘している[107]

明治大学国際総合研究所フェローの岡部直明は「雇用創出には、マクロ経済政策と産業政策が必要である」と指摘している[108]

岩田規久男は「長期的に潜在成長率が維持できなければ、非自発的失業は長期にわたって存在してしまう」と指摘している[109]

賃金との関係

伊藤元重は「日本の場合、多くの労働者は企業に雇われているため、日々賃金が動いて労働供給が増減するわけではない。ただし、パート労働・アルバイト・派遣労働など、市場状況によって賃金が上下するところで経済全体の労働供給が調整されていることも事実である。また、退職年齢が近い労働者も賃金の高さによっては、退職するかどうかを選択できる。このようにマクロ的に考えると、賃金が上がれば労働供給が増え、賃金が下がれば労働供給も減ると考えられる」と指摘している[110]。伊藤は「常識的に考えて、賃金が高ければ企業はできるだけ労働者を使わず、機械・設備に依存した生産・販売をとる。一方で、賃金が安ければ企業は高価な機械・設備を使わず、労働集約的な生産をとる。企業の生産方法や労働者に頼る活動は、賃金によって大きな影響を受ける。一般的に、賃金が安いほど企業による労働需要は増え、賃金が高いほど企業による労働需要は減る」と指摘している[111]

飯田泰之は「失業率が高くなればなるほど、賃下げがされやすくなる。労働者にとって待遇改善の最大の条件は、労働者が不足することである」と指摘している[112]

竹中平蔵は「失業の問題を拡大させずに、雇用の調整を進めるための解決策と考えられるのは、賃金を抑えるという方法である[113]」「雇用を守るためには、賃金を抑えなくてはならない[114]」と指摘している。竹中は「不況になった場合、賃金が下がらなければ、企業は雇用をしなくなる。労働需要が減り、失業者が大量に出る。しかし、賃金を大幅に引き下げることができれば、雇用の減少は抑えられ、失業者は増えず、社会不安も増幅しない」と指摘している[115]

大和総研は「名目賃金の上昇率と失業率の関係は、フィリップス曲線で逆相関となる」と指摘している[116]

高橋洋一は「実質雇用者報酬は、実質賃金と就業者数を掛け合わせたものであり、経済全体としてみれば、実質賃金の低下は、就業者数の増加によって補われる」と指摘している[117]

田中秀臣は「実質賃金は企業にとってはコスト以外のなにものでもない」と指摘している[118]。経済学者の飯田泰之は「実質賃金の上昇は、労働者を雇う企業からすると費用の増加を意味するため、企業は労働時間の縮小や正社員の解雇で対応しようとする」と指摘している[119]

「賃金を上げて消費を拡大させれば、景気が回復ある」という議論について、竹中は「このような意見は、所詮ゼロサムの議論である。逆に『賃金を下げて企業の利益を拡大させれば、設備投資が拡大し、景気が回復する』と言われれば反論できない。つまり、賃金の引き上げが経済を活性化させるかは、経済状況によって決まる」と指摘している[120]

橘木俊詔は「低賃金にすれば失業者の数を削減できるという新古典派経済学の命題は、賃金の低い非正規労働者の増加という政策によって実行されていると解釈できる。これら非正規労働者の生活は苦しくてよいのかという課題は残る」と指摘している[121]

岩田規久男は「デフレ下で、企業が雇用の維持のため、賃金を引き下げると、企業にとって残ってほしい優秀な労働者から辞めていってしまう。優秀な労働者ほど転職が可能であるからである。企業にとって賃金の引き下げは最後の手段である」と指摘している[122]

伊藤元重は「失業が発生した場合、賃金を下げれば失業は解消されるかと言えば、現実はそう簡単なものではなく、賃金は様々な理由で動く性質があり、深刻な失業が発生しても、賃金調整が行われないことが多い(賃金の下方硬直性)」と指摘している[123]

野口旭、田中秀臣は「高コストの問題は名目賃金ではなく『実質賃金』の上昇であり、実質賃金が上昇すれば、企業は雇用を縮小させるしかない。つまり、完全雇用をマクロ経済的に実現させるためには、実質賃金を低下させるしかない。そのためには、名目賃金を低下させるか、物価水準を上昇させるかのどちらかが必要となる」と指摘している[124]

ジョン・メイナード・ケインズは、労働組合の圧力によって賃金が引き下がらない性質に着目し、「非自発的失業」の存在を指摘した[125]。ケインズの論理では、名目賃金の低下は消費者の購買力を低下させ、更に物価下落による実質賃金の低下を抑制するため、雇用を増加させないとしており、購買力の低下は国民所得の低下を生じさせ、有効需要の低下、雇用の減少を招くとしている[126]。ケインズの論理では、名目賃金の低下は雇用を増加させず、失業を減少させないとしている[126]。ケインズは「需要さえあれば、普通は現行貨幣賃金の下でも雇用量は増える」と指摘している[127]

田中秀臣は「名目賃金の下方硬直性の緩みこそ[128]、人員整理・解雇の増加、成果主義という建前の賃金の引き下げなど、日本の雇用環境の荒廃を示すものである[129]」「不況期における名目賃金の下方硬直性を損ねることが、長期的な労働者のモラル・信頼性・チームワークの精神などを破壊してしまうことは、日本やアメリカで知られている[130]」と指摘している。田中は「名目賃金を切り下げない政策が重要となる。企業の賃金は実質賃金ではかられるため、名目賃金を切り下げないで実質賃金をいかに低下させるかを考える必要がある。名目賃金を下げないとなると、残された手段は物価を上げることしかない」と指摘している[131]。田中は「企業が雇用を増やすためには、実質賃金の下落が必要である。つまり、物価が上昇すれば雇用が増え、名目所得が増える」と指摘している[132]

野口旭、田中秀臣は「物価が穏やかに2-3%ほど上昇すれば、経営側の賃金コスト削減努力はかなり緩和される」と指摘している[133]

岩田は「労働者は、賃金の引き下げには強く抵抗するが、賃金を引き上げる場合には、賃金の上昇率がインフレ率より低くても強く抵抗しない。そのため、2-3%程度のインフレ下で、賃金上昇率をインフレ率よりも低い1%程度に抑えれば、実質的な人件費負担が軽減でき、雇用の維持・拡大ができる」と指摘している[134]

解雇規制

「雇用の流動化」とは、離職・転職のしやすさを示し、人的資源の効率的使用を意味する[135]

経済学では、解雇規制と失業率に関する統計調査があり、その多くが社員を自由に解雇できるようにしたほうが、失業率が下がるという結果となっている[136]。池田信夫は「解雇しやすいほうが雇用は増える。解雇が自由なアメリカの失業率が手厚く保護しているヨーロッパの失業率よりも低いことで実証されている」と指摘している[137]。池田は「規制強化は、『ワーキングプア』を仕事のない『プア』にしてしまう。非正社員が失業すると、失業率は上がる」と指摘している[138]

飯田泰之は「正社員の好待遇・解雇規制を変えないと底辺から首切りが起こる。労組系はそれでも拒絶する[139]」「正社員の表面上の待遇を下げないで人件費を下げるために、非正規雇用が増えた[140]」と指摘している。また飯田は「不況下で雇用の流動化政策をやると、首切りだけをしやすくする状況となる」と指摘している[141]

田中秀臣は「日本では、技能・専門性が高い人たちの雇用の流動性が促されるのではなく、立場の弱い人たちを企業の都合でリストラしやすくするために、雇用の流動化が利用されている」と指摘している[142]。田中は「産業構造が高い生産性をもつものに転換できたとしても、需要が不足したままでは、失業を悪化させるだけである[143]」「経済全体の労働需要が減退しているときに、雇用の流動化を促すことは、縮小するパイの奪い合いをさせる行為に等しい。人を失業の谷底に落としてから、自分を変えろ、失敗は自己責任だと言い放つのは問われるべき社会的罪悪である[144]」と指摘している。また田中は「日本で派遣労働を全面禁止してしまうと、派遣で働けた労働者の仕事を奪うことになりかねない。派遣の仕組みを残し、待遇改善をはかったほうがよい」と指摘している[145]

岩田規久男は「労働者派遣の規制緩和が進んでいなかった場合、むしろ派遣で働く道を閉ざされ、失業者は増加したはずである。失業者が増加すれば格差は拡大する」と指摘している[146]

大竹文雄は「仮に失業を防ぐために解雇を抑制しても、新規採用が減る。若者の失業率が高くなることによる潜在的なコストは大きい」と指摘している[147]

森永卓郎は「必要なときに必要なだけ雇うのがアメリカ企業の基本原則である。アメリカは中途採用の市場が整っているので、中高年の解雇がやりやすいという違いがある」と指摘している[148]

日本の整理解雇の判例

日本の労働市場では、正社員を非正社員より優遇する雇用慣行を支えている判例がある(整理解雇の判例)[149]。この判例では、会社が倒産の危機に直面し整理解雇が必要な場合でも、1)解雇の必要性、2)解雇回避の努力などの要件を満たしていなければ、正社員を解雇することができない[150][151]。解雇回避の努力には正社員の解雇の前に、新規採用の抑制・非正社員の雇用契約更新の停止が含まれている[152]。つまり、裁判所が正社員を解雇する前に、非正社員の雇い止め(派遣切り)を求めている[152]

田中秀臣は「日本は景気が悪くなってもなかなかリストラしない。人員配置とかよその会社に出向させるなどの手法をとっている。だから非正規雇用の人たちのリストラで調整する。ここ20年くらいで、20代後半-30代後半くらいの若い人たちがかなり増えてきた。この人たちを大きく含む現在(2010年)の非正規雇用者に対して大規模なリストラが生じてしまうと、直接生活を脅かすことになるため、それが若い世代の逼迫感にも繋がってる。アメリカやイギリスに比べて、日本の若い世代の生活価値がより低下している」と指摘している[153]

「正社員の賃金を下げ解雇しやすくすれば、正社員と派遣社員の垣根が低くなり、派遣社員が雇用される機会が増える」という議論について、田中は「単なる椅子取りゲームであり、正社員の賃金の低下だけで終われば、さらに景気を悪化させる可能性がある」と指摘している[154]。田中は「企業の業績が悪化する不況期に解雇法制の規制を緩めれば、リストラしやすくなり、失業率を増加させてしまう」と指摘している[155]

飯田泰之は「日本は守らなくてもよい法律が多い。解雇規制は事実上大企業だけのものであり、中小・零細企業は気にしていない」と指摘している[156]

セーフティーネットの強化について

原田泰、大和総研は「政府に求められることは、不況期に賃上げ・雇用維持を企業に迫ることではなく、政府自体がセーフティーネットを行うことである」と指摘している[157]

岩田規久男は「失業し場合のセーフティーネットとして、雇用保険の加入資格拡大と公的家賃補助が有効である」と指摘している[158]

ドイツでは家賃補助制度などがあり、失業で突然ホームレスになることはない[159]。 経済学者のロバート・H・フランクは「失業した場合、アメリカとドイツでは状況が大きく異なる。アメリカでは失業者が生計を立てていくのは困難であるが、ドイツでは失業者は政府から援助を受けられるため、基本的な生活を無期限に維持することができる。失業して発生する機会費用はアメリカよりもドイツのほうが少ない」と指摘している[160]

失業保険

大竹文雄は「典型的な失業リスクに備える公的政策は、失業保険制度である。完全な失業保険があれば、人々が失業しても消費水準を下げなくてすむ。失業保険の最大の問題は、就職をする気も無い人が失業したと偽り失業保険をもらったり、真剣に職探しをしないことである。多くの国では、不真面目な失業保険需給者を排除するために、失業給付の水準を低くしたり、失業給付期間を短縮したりしている」と指摘している[161]

大竹は、失業給付条件の緩和・給付期間の延長は、失業者のモラル・ハザードを生みやすいと指摘している[162]

みずほ総合研究所は「欧州の例では、雇用保険を手厚くするとその分失業者の失業期間が長期化している。失業者が雇用機会を取得する努力を怠り、モラルハザードを引き起こす。失業給付が充実していれば失業状態を続けようとする意思が働いてしまう。失業保険を安易に拡大することは避けなければならない。欧州では、失業保険拡充の失敗を教訓に、雇用政策の重点を失業保険から教育訓練・職業紹介へ移行させている」と指摘している[163]

職業訓練

伊藤元重は「構造調整によって失業が発生した場合、構造調整に対応する形で地域的な対策、衰退産業から成長産業へ労働者が移動できるような技能取得の支援・職業の斡旋が必要となる」と指摘している[164]

大竹文雄は「失業が増えている分野ではなく、私たちの生活を豊かにする分野での技能訓練は有効である。具体的には、生産性を高めないが生活環境を改善する投資・公的サービスの分野である」と指摘している[165]

岩田規久男は「セーフティー・ネットと称して、失業者を適材適所ではない公的部門で雇用したり、役に立ちそうにない教育・訓練投資に税金を投入しても大きな無駄である」と指摘している[166]

森永卓郎は「職業訓練制度は必ずしも再就職の役には立たない。ホワイトカラーの場合、失業してから受ける短期間の職業訓練はほとんど意味を成さない。ただし、低賃金労働者にとっては、ワープロ・パソコンのエクセルが使えるというのは職業能力になりえる」と指摘している[167]

野口旭、田中秀臣は「日本の資格制度の大半は、労働者の技能を上昇させようとする意図に基づいたものではなく一種の『記号』であり、資格制度を維持することによって得られる便益のためだけに存在している」と指摘している[168]

田中秀臣は「深刻な失業下では、技術があっても働き口がないという状況が当たり前となる。職業訓練など人的資本の質を高める政策は、副次的な効果しかない」と指摘している[169]。野口旭、田中秀臣は「『低生産性』産業から追い出された労働者に教育・訓練を行い、別の産業に押し込むことができたとしても、総需要が拡大しない限り、そのことによって誰かが失業するしかないのである」と指摘している[170]

飯田泰之は「国が直接的に職業訓練を供給するというのは、硬直的なシステムになりがちである。ガイドラインだけをつくって、民間に任せたほうがよい」と指摘している[171]

自殺との因果関係

経済学者のダニエル・ハマーメッシュは、失業率が高くなると長期的に所得が低くなる人が多くなり、満足な生活を得られないと考えて自殺を選ぶ人が増えてくると指摘している[172]

中野剛志は「失業の増大は、自殺者を増やし社会を不安定化させるが、それは単に経済的に困窮するだけではなく、人間としての尊厳を破壊する。経済的な困窮だけなら役所が失業手当を支給するだけで解決する。解雇による疎外感・孤独感は、お金では解決できない」と指摘している[173]

澤田康幸、上田路子、松林哲也は、多くの実証研究を示した上で、経済と自殺の関係を明らかにしている[174]。日本の場合、失業率と自殺の相関関係が他のOECD諸国に比べて大きく、男性の就業年齢層(35-64歳)では、特に失業率が自殺率を高めている、としている[174]。また、40-50歳代男性の職業別自殺率を見ると、無業者・無業者の内の失業者において特に高くなっているとしている[174]。国際データ・県別データでの分析によっても、失業率・個人の自己破産率が、男性(特に40-59歳)の自殺率の上昇をもたらしているとしている[174]

自殺予防総合対策センター室長の川野建治は「日本全国で見た場合、完全失業率と自殺率は見事に相関しているが、都道府県別にすると大分ばらつきがある。失業という自殺の危険因子に対して、福祉・周囲のサポートなどの保護因子が、地方によってまちまちだということを示している。失業率と自殺率は、例えばスウェーデンの場合、全国レベルで対応していない。失業率が上がっても自殺率は下がっていたりする。つまり、失業しても死ぬほど追い込まれることはない社会システムがあると考えられる」と指摘している[175]

大竹文雄は「スウェーデンは失業給付が高い上に、失業対策として職業紹介・職業訓練・公的部門での直接雇用といった積極的な雇用政策を行っている。このことは、失業率と自殺率の関係が、雇用対策のあり方によって変わってくることを示唆している」と指摘している[176]

原油安の影響

経済学者の浜田宏一は「原油安という外生変数の変化は、雇用によい影響をもたらす」と指摘している[177]

日本の失業に関する議論

戦前は国の「無職はお国の寄生虫」のようなスローガンに見るように、無職に対する風当たりはきつかった。大竹文雄は「高度経済成長期の完全雇用の時代は、無職で貧しいというのは、真面目に働かない場合のみ発生するという状態であった。真面目に働いても貧困に陥るという認識が日本人には無かったのであろう」と指摘している[178]

飯田泰之は「現在(2010年)の日本の失業率の増大の大きな原因は、デフレによる実質賃金の上昇にある。つまり、日本で増加している失業者は非自発的失業者である」と指摘している[179]

池田信夫は「現在(2009年)の失業保険・生活保護は、セーフティー・ネットとして不十分であり、重要なのは所得の再分配ではなく、転職機会の拡大である」と指摘している[180]

山崎元は「現在(1999年3月)の不況は非常に良いことである。企業倒産は必要であり、それによって失業率が高くなることをもっと肯定的に捉えなければならない。高失業率と共存できる社会にならなければならないのであり、労働者が無駄なところからそうではないところに移るためには、マクロ的なある程度の失業率が必要である」と指摘している[181]。山崎は「民間の能率がよいところに労働者が早く移るという意味では、余計なことはする必要は無い」と指摘している[182]

竹中平蔵は「日本の失業については、中長期的に見ればさほど悲観的になる必要はない。理由は、人口が減っていくからである。人口が減っていく社会は、長期的に失業が深刻になる社会ではない。短期的には、職業訓練・教育を通じて、需給のミスマッチを解消させる必要がある」と指摘している[183]

若年失業と生涯所得・貯蓄水準

大竹文雄は「現在(2005年)の日本状況では、一度失業するとなかなか賃金の高い仕事に就けない。若年層の失業率の上昇は、生涯所得格差の拡大に直結する」と指摘している[184]

UFJ総合研究所調査部は「日本の若年失業の増加は、フリーターの増加とあいまって貯蓄水準を低下させている」と指摘している[185]

経済学者の八代尚宏は「経済成長をしなければ新規雇用は生まれない。今雇われている人々は、経済成長をしなくてもよいかもしれないが、一番の被害者は若年層である。日本より成熟したアメリカは成長している。日本にも成長できる余地はいくらでもあり、それをしないのは、『人災』である」と指摘している[186]

政府の割り当て

エコノミストの伊藤洋一は「世界の中央銀行の中には『物価の安定』と同じくらい『雇用の維持』を使命としているところが多い」と指摘している[187]。アメリカのFRB(連邦準備制度)には法律上、物価の安定と雇用の維持が求められている[188]

高橋洋一は、「日本の雇用への取り組み方には疑問を持たざるを得ない。厚生労働省が雇用の所管官庁になっているのは経済学的には問題である。厚生労働省設置法第4条第59号『失業対策その他雇用機会の確保に関すること』と定められているので法的にはいいとしても、マクロ経済を所掌していない厚労省に真の意味での失業対策はできない。構造的失業率を低くするのはもちろん重要であるがその実行は難しい。失業率には構造的な部分と需要不足部分があるが、厚労省では後者の需要不足に対して何ら有効な手を打てない。アメリカでは雇用の最大化はFRBの責務で、需要不足部分に対する失業率を下げることは中央銀行の責任である」と指摘している[189]。高橋は「インフレ率が上がると失業率が下がるという関係性は明らかだが、日本では失業率を日本銀行ではなく厚生労働省が扱っているというところに大きな問題がある。失業率を出来るだけ少なく見せたい厚生労働省は、雇用調整助成金をばら撒いている。助成金をなくせば現在(2012年)の日本の失業率はアメリカと同じ7%台であり、こんなことは到底まともな政策とはいえない」と指摘している[190]。高橋は「ミスマッチを減らすという点で厚労省の施策に意味はあるが、失業率の水準を大きく増減させるほどのものではない」と指摘している[191]

原田泰は「日銀は、物価の安定に制約がない限り、雇用の安定も実現させるべきである」と指摘している[192]

野口旭、田中秀臣は「『労働需要のミスマッチによる構造的失業』とされるものも、実際には需要不足失業の一種であり、総需要の拡大によって労働需要が改善すれば『ミスマッチ』も解消する」と指摘している[193]

関連番組




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