大気安定度
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/03/06 09:26 UTC 版)
気象予報では、多くの場合大気の安定度といえば静的安定度、特に対流不安定のことを指す。これを一般には「大気の状態が不安定」と言い換え、一般向けの天気予報などではより分かりやすい「不安定な天気」または単に「不安定」と言い換えることが多い。
概説
擾乱とは、例えば厚みのある(平衡状態の)大気の中で空気の塊を持ち上げることであり、これが起こると、空気は上昇し続けるかもとの場所に下降しようとする。大気の状態により、その空気の上昇幅・下降幅が異なってくる。また擾乱とは、例えば偏西風のよう南北に波打つ気流に別の波を発生させることであり、これが起こると、この波は増幅するか減衰して元の状態に戻ろうとする。大気の状態により、その気流の波の増幅度・減衰度が異なってくる。
前者の例えは静的安定度(せいてきあんていど)または静力学的安定度、後者の例えは動的安定度(どうてきあんていど)または動力学的安定度にあたる。静的安定度は、静止した成層安定の大気での安定度を指す。動的安定度は、平衡運動をしている大気での安定度を指す。
静的安定度
大気の安定度を考える上で、静的安定度(static stability)という考え方がある[1]。
静水圧平衡の状態にある大気の中で、空気塊を鉛直方向に変位させる(物理学的に安定し静止した大気の中で、空気を上下に移動させる)と、元の位置に戻ろうとするか、そのまま変位し続けるかのどちらかとなる。前者を静的安定、後者を静的不安定な大気と呼ぶ。ここで、静的安定度は以下のように定義される:
ここで、a は比容、g は重力加速度、θは温位、pは気圧を表す。これを理想気体の状態方程式などを用いて変形すると、以下のようになる:
ここで、∂θ/∂z は温位勾配である。静的安定度が正か負か、つまり安定か不安定かは、この温位勾配の正負によって決まる。
∂θ/∂z ≦ 0 のとき、絶対不安定となる。また、∂θ/∂z > 0 のときは、その時点では安定であるが、さらに上昇したときの状態を他の変数を用いて考える必要がある。
ここで用いるのが相当温位θeと飽和相当温位θe*である。∂θe/∂z ≦ 0 のときは、更に空気塊が上昇すれば不安定となり、下記の対流不安定にあたる。また、∂θe*/∂z ≦ 0のときは、その地点で空気塊中の水蒸気が飽和すれば不安定となり、下記の条件付不安定にあたる。
成層安定度
成層安定度とは、大気の成層状態の安定度を表す用語。静的安定度の1つ。大気はふつう、高度が上昇するとともに一定の割合(100 mにつき約0.6度程度=気温減率)で気温が下がり、湿度は少しずつ下がる。長期間大気の調査をするとこれが平均的な状態だが、これが変わる場合がある。
成層状態が変わって、大気の対流が発生しやすくなり雲が発達するような大気を成層不安定(instable stratification)な大気または不安定成層と言い、これが起こりにくい大気を成層安定(stable stratification)な大気または安定成層と言う。
安定成層のもとでは、天候の変化は緩やかである。不安定成層のもとでは、成層の不安定度が高いと、積乱雲が発達しやすく、短時間強雨、雷、突風、急激な温度・湿度・気圧の変化などが起きやすい。
成層不安定には、いくつかの種類がある。
大気の地上に近い層の温度が高く、上空の温度が低いとき、条件付不安定や絶対不安定という状態になる。温度差が大きいほど不安定の度合いは大きい。風の作用で地上の空気が持ち上げられ、その空気中で雲が発生し、更に持ち上げられると、対流が成長し雲も成長する。上空に寒気特に寒冷低気圧がやってきたとき、地上が晴天などによって高温となったときになりやすい。
大気の地上に近い層の湿度が高く、上空の湿度が低いとき、対流不安定(または潜在不安定、ポテンシャル不安定、熱的不安定とも)という状態になる。湿度差が大きいほど不安定の度合いは大きい。大気が対流不安定のときに風の作用で空気が持ち上げられると、条件付不安定や絶対不安定の度合いが大きくなる。気流の影響で、地上に湿った空気(湿暖気流)がやってきたとき、上空に乾いた空気がやってきたときになりやすい。
ただし、条件付不安定や対流不安定であっても、対流が発生して発達するかどうかは、その大気中を流れる風(多くの場合上昇気流)に左右される。風が対流のきっかけを作り、風が無ければ対流が起こらないからである。
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