垂直離着陸機 実用機

垂直離着陸機

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/31 04:28 UTC 版)

実用機

開発中

主な形式

回転翼機以外の垂直離着陸機は、国際民間航空機関(ICAO)ではパワード・リフトと類別している。

コンバーチプレーン

メインエンジンのノズルの噴射やプロペラの主軸の方向を変え、推力を離着陸時には下方に、水平飛行時には後方に変更するもの。飛行特性を固定翼機から回転翼機へ転換できることから『転換式航空機』(Convertible Aircraft)と呼ばれていた[5][6]

ティルトローター

垂直離着陸機において、エンジン(とプロペラ)の方向を転換する方式のもの。推力転向式とも呼ばれる[6]

垂直離着陸時(と低速飛行時)には、上方を向いたプロペラは、ヘリコプターのローターのように用いられる。そのため、通常のプロペラ機よりかなり直径が大きなプロペラを用いる(ただしローターとみなせば、通常のヘリコプターよりは小型となる)。

ティルトウイング

垂直離着陸機において、エンジン(とプロペラ)のみならず、主翼も同時に方向転換するもの。後流偏方式とも呼ばれる[6]

リフトエンジン

水平飛行用のエンジンとは別に、垂直離着陸専用のエンジン(リフトエンジン)を持つもの。複合推進式とも呼ばれる[6]

フランスが開発したバルザック Vに代表されるように、この方式では水平飛行用と垂直離着陸用にそれぞれ専門のエンジンを用いるが、後述の欠点も大きく、完全な実用性を持つものは前節で述べた推力偏向式のエンジンとリフトエンジンを併用する場合が多い。

リフトエンジンは水平飛行時には推力源として用いないため、デッドウエイトとなって全体的な性能低下を招くが、エンジンとしては短時間駆動させるだけで用が足りるため、同じ推力の通常のジェットエンジンよりも小型軽量化が可能であり、ある程度はこの欠点は緩和される。しかし、ジェットエンジンは静止時の効率が悪いという欠点があり、リフトエンジンにジェットエンジンを用いることにはその点で問題がある。また、リフトエンジンを集中して配置すると機体全体の重量バランスとの兼ね合いが難しいが、分散配置すると各エンジンの推力を完全に同調させなければならない(同調が不完全では体勢を崩して墜落してしまう)、という技術的困難があった。

この方式の航空機の開発には特にソビエトが熱心で、ヤコブレフ設計局がほぼ専任的に担当していた。ソビエトが実戦配備した唯一の垂直離着陸戦闘機である Yak-38、実用化には成功したが量産されずに終わったYak-41(Yak-141)はいずれも推力変更式エンジン併用のリフトエンジン方式である。

なお、2018年現在ほぼ唯一の実用機であるF-35Bは、離着陸用に別個のエンジンを持つのではなく、メインエンジンから伸びたシャフトで駆動される大推力のリフトファンを用いることで小型・軽量化を図っている。

コレオプター

コレオプター(Coleopter)は垂直離着陸機の一形式で胴体の尾部にダクテッドファンを備える。全体的に見て尾部に樽の様な外観のファンを備え、小型の操縦席が先端部にある。大半のダクテッドファンの設計と同様にコレオプターは離着陸時に尾部から接地する。代表的な機種は1950年代にフランスのスネクマが開発したC450やアメリカのヒラー VXT-8である。

最初のコレオプターの概念は第二次世界大戦中にドイツで考案された。大戦末期の1944年、飛行場が破壊されて使用不能になってもどこからでも離着陸の可能なVTOL迎撃機の開発が検討された。ハインケル社ではWespeとラーチェを提案した。Wespeはベンツの2,000 hpターボプロップエンジンを使用する案だったが実現せず、Lercheは2基のDB 605をピストンエンジン動力とした。両方とも実現しなかった。

第二次世界大戦後、大半のVTOLの研究はヘリコプターを中心として行われたがその一方で単純な回転翼の限界が明らかになりジェットエンジンの噴射を直接利用する方法等、他の方法の開発へ開発方針が転換された。スネクマは1950年代にアターVolantシリーズの一環として開発を進めた。最終的に環状翼を持つC450が開発され1959年5月6日に初飛行したが、7月25日に不安定な特性により、大破して開発は打ち切られた。

アメリカでも同様にヒラー・エアクラフト英語版社がチャールズ・ツィンマーマン英語版によって独自に設計された複数のダクテッドファン式のVTOLの開発を進めていた。いくつかの初期の成功の後、陸軍は大きさと重量を増やすように要求を転換したことにより新しい安定性の問題が生じた。これらは全体的に大きさと出力が必要だったが満足のゆく結果は得られなかった。その一方でヒラー社は海軍にコレオプターの設計の概念を提案した。この結果ヒラー VXT-8が提案されたがこれはスネクマの設計に似ていたがジェットエンジンではなくプロペラを使用していた。しかしながら、導入されたタービン式のUH-1のようなヘリコプターと比較してピストンエンジン式のVXT-8は著しく性能が劣っていたため、海軍は興味を失った。モックアップのみが完成した。

テイルシッター

XFY-1

テイルシッターは垂直離着陸機の一形態でマクドネルダグラスDC-Xデルタクリッパーのように尾部を下にして離着陸する。この種の航空機として最も有名なのがライアン・X-13である。プロペラ式ではロッキードXFV-1とコンベアXFY-1がある。艦載機としてF-16のテイルシッターが調査され風洞実験用模型が作られた。それは機首が折れ曲がる構造だった。

ナチス・ドイツ空軍でも同様にテイルシッター計画としてフォッケウルフ トリープフリューゲル(回転翼)戦闘機があった。この計画は翼端の小型ジェットエンジンを噴射することにより主翼を回転させる構造でいわば主翼そのものがプロペラになっていた。完成はしなかったが構造上、通常の着陸は不可能で困難が伴ったと考えられる。またフランスではC450 コレオプテールと言うジェットエンジンの実験機も製造されている。

テイルシッターの飛行において離陸時に垂直から水平、着陸時に水平から垂直への遷移飛行では操縦が困難であった。また着陸時に操縦者が地面を直接見る事が困難であり、操縦が極めて難しかった。また着陸時に地面に対して完全な垂直姿勢を保つ事が要求され、手動操縦でも自動制御でも困難であった。付け加えて艦載機として用いる場合は、揺れる艦上において完全な垂直姿勢を保つことが要求され、全くもって不可能と言わざるを得なかった。着陸時の視界の問題は、機体姿勢に関わらず操縦席を傾けて水平を保つ事で、ある程度の解決がみられたが、他の問題は解決困難であり、実用化しなかった。テイルシッターは最下部に必ずキャスター状の車輪が取り付けられているが、これは着陸時に横風が少しでもあると風に流れて横移動しながら着陸することを余儀なくされるため、車輪が無いと地面に引っかかって重心の高い機体が簡単に倒れてしまうからである。

垂直離着陸あるいはホバリング時は、プロペラ機の場合プロペラ後流が動翼に当たることによって空中停止状態でも操縦が可能である。ジェット機の場合は推力偏向で操縦する。また、プロペラ機の場合は回転翼の反動(トルクロール)を打ち消すために同軸反転プロペラが採用されている。

近年は単段式宇宙輸送機惑星探査機UAVなどでも試みられている。

主なテイルシッター

個人用垂直離着陸機

アメリカ

1970年代初頭のアメリカ海兵隊のSTAMP (Small Tactical Aerial Mobility Platform)計画で開発が行われていた物で、兵士一名が搭乗して低空を飛行する超小型の航空機。固定翼機ともヘリコプターとも異なる特異な形態をしており、厳密には垂直離着陸機とは異なる航空機である。

何種類かの試作機が作成されたが量産された物は無く、開発計画は終了しており、一部の試作機が博物館に展示されている。ジェットエンジンやロケットエンジンを用いたものは、駆動時間が極めて短く、実用のものとはならなかった。ローターを用いた形式も人間ひとりを載せて飛行するのが精一杯の代物であり、それ以外の目的に使える余力が無かった。十分な能力を具備させるために機体規模を拡大してしまうと、単にヘリコプターの形を奇抜なものに変えたに過ぎない機体となってしまうのが明らかであった。

日本

日本ではGEN CORPORATIONが開発した、固定ピッチ式の同軸二重反転式ローター[7]を採用した一人乗りの垂直離着陸機であるGEN H-4が存在する。ローター径4.0m、全高2.5m、重さ75kg。自社開発のGEN125型エンジン(125cc空冷式平対向エンジン)を4基搭載。1998年にアメリカで開催された一大航空イベント、EAA エアベンチャー・オシュコシュにて初飛行に成功。機体記号を取得しており(JX0076とJX0077)実際に人や荷物を乗せた機体試験によって、無人での自立飛行を可能とするH-4Rや電動(eVTOL)化したH-4Eなども試作されている。

また、産業技術短期大学講師の久保田憲司が、過去のVZ-1シリーズを参考に、災害時の情報収集・人命救助用の個人用垂直離着陸機(MicroVTOL、M-VTOLと呼称)を研究・開発している[8][9][10]。直径約2m、高さ約2.5m、重さ180kg。円盤の下に取り付けた700ccのエンジン2基で全長1.5mの可変ピッチ式の二重反転式ローターを駆動。姿勢制御は人間のバランス感覚のみに頼らず、ジャイロ装置とコンピューター制御で機体の安定性を確保。設計上、垂直に離陸後、高さ3-5mまで上昇し、最高時速30kmで移動できる。2m四方のスペースがあれば離着陸可能で、土砂崩れなどで車両やヘリコプターが入れない場所にも行けるという。遠隔操作による無人での移動も将来的に考えられている。

ビデオ


注釈

  1. ^ VTOLについては「ブイトール」と片仮名表記されることもある[1]

出典

  1. ^ a b VTOL機』 - コトバンク
  2. ^ a b c d e 齊藤 2006.
  3. ^ 野木 1997.
  4. ^ 浮上実験に成功 垂直離着陸機『朝日新聞』1970年(昭和45年)12月19日朝刊 12版 22面
  5. ^ 転換式航空機 - 日本航空航空実用事典
  6. ^ a b c d 将来の航空機 - 昭和39年度 運輸白書
  7. ^ このローターのブレードの設計には宇宙航空研究開発機構の研究員も携わっていた。
  8. ^ 空飛ぶ絨毯プロジェクト|産業技術短期大学
  9. ^ 9/1 産業技術短期大学オープンキャンパス : 世界の大学めぐり
  10. ^ 60年前に米軍断念、幻の1人乗り飛行円盤完成 : 科学 : YOMIURI ONLINE(読売新聞) 2013年12月11日付


「垂直離着陸機」の続きの解説一覧



英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「垂直離着陸機」の関連用語

垂直離着陸機のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



垂直離着陸機のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの垂直離着陸機 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS