地役権 概説

地役権

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/17 03:25 UTC 版)

概説

地役権の意義

地役権とは設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利である(第280条前段)。地役権が設定された場合に、便益を供する側の土地を承役地(しょうえきち)、便益を受ける側の土地を要役地(ようえきち)という[1][2][3]。地役権は承役地の利用により要役地の使用価値を高めるものでなければならない[2][4][5]

地役権に限らず一般に役権(えきけん)とは、他人の所有物を一定の人あるいは物のために利用する権利を指すローマ法以来の概念で、前者を人的役権、後者を物的役権といい、自己の土地の便益のために他人の土地を利用することを内容とする物的役権が地役権ということになる[6]

地役権の具体例としては、用水地役権(引水地役権)、通行地役権、眺望地役権(観望地役権)、送電線地役権、湧水池地役権、浸冠水地役権(遊水地地役権)などがある[1][2][7]。なお、用水地役権については285条に規定がある。

土地賃借権との差異

賃借権の場合には賃借人が排他的に土地を占有して利用することになるが、地役権の場合は占有を排他的に取得するものではなく、その効力は目的達成のため必要最小限度にとどまり、これと両立しうる承役地の権利者による承役地の利用は排斥されない(地役権の非排他性・共用的性格、共同便益)[1][2][8][9]

地役権の分類

地役権の行使の態様によって以下のように分類される[10][11]

継続地役権と不継続地役権

承役地の利用が間断なく続いている場合を継続地役権(観望地役権など)、そうでない場合を不継続地役権という(汲水地役権など)[10][8][12]。この区別は地役権の時効取得において意味を持ち、地役権の時効取得の要件の1つとして継続的に行使される地役権(継続地役権)であることが要件とされている(283条#取得時効参照)。

表現地役権と不表現地役権

内容を外部から認識しうる事実状態を伴う場合を表現地役権(通路を開設した通行地役権、地表に敷設した送水管による引水地役権、汲水地役権など)、そうでない場合を不表現地役権という(通路を開設しない通行地役権、地下に埋設した送水管による引水地役権、観望地役権など)[10][8][12]。この区別は地役権の時効取得において意味を持ち、地役権の時効取得の要件の1つとして外形上認識することができる地役権(表現地役権)であることが要件とされている(283条#取得時効参照)。

作為地役権と不作為地役権

一定の行為を要する場合を作為地役権あるいは積極地役権(通行地役権など)、そうでない場合を不作為地役権あるいは消極地役権という(観望地役権など)[4][12]

地役権の性質

  • 地役権の非排他性(先述、#土地賃借権との差異参照)。
  • 地役権の付従性随伴性
    地役権は権利としては独立しているものの、権利の目的上、要役地の所有権に従属する従たる権利とされ、要役地の所有権の移転に伴って当然に移転し又は要役地について存する他の権利の目的となる(281条1項本文)[13]。移転につき当事者間に意思表示は不要である(大判大10・3・23民録27輯586頁)。設定行為により付従性を制限する特約も可能であるが(281条1項但書)、登記がなければ対抗できない(不動産登記法80条1項3号参照)[14]。ただし、地役権は要役地から分離して譲り渡し又は他の権利の目的とすることができず(281条2項)、これに反する特約は無効である[15][16]
  • 地役権の不可分性
    要役地や承役地が共有地の場合にも、地役権の発生・消滅にかかわる事項は一律に扱われる(282条1項・2項、284条1項・2項・3項、292条)。これらは地役権の不可分性として説明されることが多いが、「不可分性」の語は多義的・包括的であるため本来適切でないとする指摘がある[17]

  1. ^ a b c 内田貴著 『民法Ⅱ 第3版 債権各論』 東京大学出版会、2011年2月、176頁
  2. ^ a b c d 近江幸治著 『民法講義Ⅱ 物権法 第3版』 成文堂、2006年5月、282頁
  3. ^ 川井健著 『民法概論2 物権 第2版』 有斐閣、2005年10月、209頁
  4. ^ a b c d e f g h i j 川井健著 『民法概論2 物権 第2版』 有斐閣、2005年10月、211頁
  5. ^ 遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法2 物権 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1996年12月、256頁
  6. ^ 遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法2 物権 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1996年12月、261頁
  7. ^ 遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法2 物権 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1996年12月、258-259頁
  8. ^ a b c d 川井健著 『民法概論2 物権 第2版』 有斐閣、2005年10月、210頁
  9. ^ 遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法2 物権 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1996年12月、256-257・259-260頁
  10. ^ a b c d e f 近江幸治著 『民法講義Ⅱ 物権法 第3版』 成文堂、2006年5月、284頁
  11. ^ 川井健著 『民法概論2 物権 第2版』 有斐閣、2005年10月、210-211頁
  12. ^ a b c 遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法2 物権 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1996年12月、258頁
  13. ^ 近江幸治著 『民法講義Ⅱ 物権法 第3版』 成文堂、2006年5月、283頁
  14. ^ a b 川井健著 『民法概論2 物権 第2版』 有斐閣、2005年10月、215頁
  15. ^ 川井健著 『民法概論2 物権 第2版』 有斐閣、2005年10月、215-216頁
  16. ^ 遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法2 物権 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1996年12月、259-260頁
  17. ^ 川井健著 『民法概論2 物権 第2版』 有斐閣、2005年10月、216頁
  18. ^ a b 遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法2 物権 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1996年12月、263頁
  19. ^ a b c 川井健著 『民法概論2 物権 第2版』 有斐閣、2005年10月、212頁
  20. ^ a b c 近江幸治著 『民法講義Ⅱ 物権法 第3版』 成文堂、2006年5月、287頁
  21. ^ a b 川井健著 『民法概論2 物権 第2版』 有斐閣、2005年10月、214頁
  22. ^ 遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法2 物権 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1996年12月、260頁
  23. ^ a b 近江幸治著 『民法講義Ⅱ 物権法 第3版』 成文堂、2006年5月、289-290頁
  24. ^ 近江幸治著 『民法講義Ⅱ 物権法 第3版』 成文堂、2006年5月、286頁
  25. ^ a b 遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法2 物権 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1996年12月、265頁
  26. ^ 川井健著 『民法概論2 物権 第2版』 有斐閣、2005年10月、214-215頁
  27. ^ 川井健著 『民法概論2 物権 第2版』 有斐閣、2005年10月、219頁






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