国勢調査 (日本)
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歴史
国勢調査の起源と名称について
日本の国勢調査の原型は、明治12年(1879年)、杉亨二が中心となって現在の山梨県で行われた「甲斐国現在人別調」とされている。この調査は、本格的な全国規模の国勢調査(人口センサス)に向けての試験調査として行われたものであったが、当時の社会情勢ではまだ本調査の実施の機運は十分に高まらなかった。
日清戦争(明治27年(1894年)8月 - 28年(1895年)4月)の終わった明治28年(1895年)9月、欧米諸国の統計局長及び著名な統計学者により構成される国際団体である国際統計協会 International Statistical Instituteから日本政府に対して「1900年世界人口センサス」への参加の働きかけがあった。これを契機として国勢調査の実施の機運が高まることとなった。
このような背景から、明治29年(1896年)、貴族院及び衆議院では「国勢調査ニ関スル建議」が可決された。日本の公的な資料において国勢調査の語が登場したのはこれが最初である。この建議では、国勢調査について、「国勢調査ハ全国人民ノ現状即チ男女年齢職業…(中略)…家別人別ニ就キ精細ニ現実ノ状況ヲ調査スルモノニシテ一タビ此ノ調査ヲ行フトキハ全国ノ情勢之ヲ掌上ニ見ルヲ得ベシ、…」との記述があり、このことから、「国勢調査」という名称は「国の情勢」を調査するという意味で名付けられたものと考えられている。
国勢調査を実施するための根拠となる「国勢調査ニ関スル法律」は、この建議から6年後の明治35(1902年)12月2日に成立し、公布された。これに基づき、第1回国勢調査は明治38年(1905年)に行われることになっていたが、日露戦争(明治37年(1904年) - 38年(1905年))のため、実施は見送られた。さらにその10年後の大正4年(1915年)にも、その前年から日本も参戦した第一次世界大戦の影響で実施が見送られ、最初の国勢調査の実施は大正9年(1920年)10月1日となった。
「国勢調査」の語源については諸説があり、論文に登場する最も古い用例としては、臼井喜之作の明治26年(1893年)の学会誌論文に「国勢大調査」という語が見られる。この中には、「彼の日本新聞は客年既に国勢調査の必要性を論じて曰く…」との記述があり、このことから、実際に「国勢調査」の語を使用した最も古い事例は日本新聞と考えられている。
なお、「国勢」という語は、国勢調査以前にも大隈重信などにより用いられている。大隈重信は、明治14年(1881年)に建議した「統計院設置の件」の冒頭で、「現在ノ国勢ヲ詳明セサレハ 政府則チ施政ノ便ヲ失フ 過去施政ノ結果ヲ鑑照セサレハ 政府其ノ政策ノ利弊ヲ知ルニ由ナシ …(中略)…現在ノ国勢ヲ一目ニ明瞭ナラシムル者ハ統計ニ如クハナシ」と述べている(大意:現在の国の情勢を詳しく明らかにしなければ、政府は施政の手段を失う。過去の施政の結果を詳しく調べなければ、政府はその政策の利点や弊害を知る方法がない。…現在の国の情勢を一目で明瞭にするものとして統計に並ぶものはない)。「国勢」という語は、statistics(語源はstate=国)の訳語に充てられていた「国勢学」にも用いられていたことからも分かるように、明治初期以降、一般に用いられていたものと推定される。
なお、一説には横山雅男ら当時の統計学者の中には人口調査などとはせず、あえて「国勢(国家の勢力)調査」としたとの見方もある。これは、当時の「国の力を増し、欧米に追いつき追い越せ」という風潮に乗り、「国の勢力を調べる調査」というイメージを含ませることによって国家指導者の調査への賛同を得るという思惑があったためだとの見方もある[7]。
沿革
国勢調査の萌芽は、統計学者・杉亨二による駿河国の「沼津政表」「原政表」(明治2年(1869年)実施)や、甲斐国現在人別調(明治12年(1879年)実施)に見ることができる。特に甲斐国現在人別調は、人口センサスのノウハウを得る貴重な機会であった。ここで調査を経験した呉文聰ら統計学者が、後の国勢調査実施の中心的役割を担うことになる[7]。
統計学者や政治家・内藤守三らの尽力により、国勢調査ニ関スル法律が議会を通り、国勢調査は1905年に実施予定となった。しかし日露戦争により延期され、結局1920年(大正9年)10月1日に第1回の調査が行われた[10]。
以後、基本的には5年に一度10月1日に行われているが、1945年に実施される予定であった調査は、太平洋戦争直後のため行われず、代わりに1947年に臨時で国勢調査が実施された。
各回の実施年は以下のとおり。西暦で下一桁が0の年が大規模調査、5の年が簡易調査となっている。
回 | 実施年 | 調査方法 | 調査人数 |
---|---|---|---|
第1回 | 1920年 | 大規模調査 | 55,963,053 |
第2回 | 1925年 | 簡易調査 | 59,736,822 |
第3回 | 1930年 | 大規模調査 | 64,450,005 |
第4回 | 1935年 | 簡易調査 | 69,254,148 |
第5回 | 1940年 | 大規模調査 | 73,114,308 |
第6回 | 1947年 | 臨時調査 | 78,101,473 |
第7回 | 1950年 | 大規模調査 | 83,199,637 |
第8回 | 1955年 | 簡易調査 | 89,275,529 |
第9回 | 1960年 | 大規模調査 | 93,418,501 |
第10回 | 1965年 | 簡易調査 | 98,274,961 |
第11回 | 1970年 | 大規模調査 | 103,720,060 |
第12回 | 1975年 | 簡易調査 | 111,939,643 |
第13回 | 1980年 | 大規模調査 | 117,060,396 |
第14回 | 1985年 | 簡易調査 | 121,048,923 |
第15回 | 1990年 | 大規模調査 | 123,611,167 |
第16回 | 1995年 | 簡易調査 | 125,570,246 |
第17回 | 2000年 | 大規模調査 | 126,925,843 |
第18回 | 2005年 | 簡易調査 | 127,767,994 |
第19回 | 2010年 | 大規模調査 | 128,057,352 |
第20回 | 2015年 | 簡易調査 | 127,094,745 |
第21回 | 2020年 | 大規模調査 | 126,226,568 |
第22回 | 2025年 | 簡易調査 | 予定 |
このほか戦中・戦後、軍需関連に要する人員の確保や必需物資の配給統制の確立を目的として、人口調査が実施された。これらは「国勢調査」とは称されなかったが、人口及び世帯に関する銃後人口の全数調査を実施しており、不完全ながらもセンサスである。
実施年月日 | 調査方法 | 調査人数 |
---|---|---|
1944年2月22日 | 人口調査 | 73,456,141 |
1945年11月1日 | 71,998,104 | |
1946年4月26日 | 73,114,136 | |
1948年8月1日 | 常住人口調査 | 80,216,896 |
米軍占領下の沖縄でも独自に国勢調査が実施された。
実施年月日 | 調査方法 | 調査人数 |
---|---|---|
1950年12月1日 | 大規模調査 | 917,875(奄美群島を含む) |
1955年12月1日 | 臨時国勢調査(簡易調査) | 801,065 |
1960年12月1日 | 大規模調査 | 883,122 |
1965年10月1日 | 臨時国勢調査(簡易調査) | 934,176 |
1970年10月1日 | 大規模調査 | 944,111 |
2005年の国勢調査では、国民の個人情報保護に対する意識の高まりや、オートロックマンションの増加などによって調査実施の困難度が高まってきたことから、調査方法の見直しが行われてきた[11]。その検討結果を踏まえ、2010年の国勢調査では、調査票の封入提出方式、郵送提出方式など新たな調査方法が導入されることとなった。その詳細については、『平成22年国勢調査実施計画』(総務省統計局)を参照のこと。
注釈
出典
- ^ 総務省統計局. “統計用語辞典 か行|なるほど統計学園”. 2020年9月23日閲覧。
- ^ 3ヶ月以上滞在予定がある、または永住権がある外国籍
- ^ a b c d e “国勢調査が「存亡の危機」に!?” (日本語). NHK NEWS WEB. 2020年10月6日閲覧。
- ^ “「国勢調査、無視しよう」はダメ。避難者の数を予測しづらくなったり、企業があなたの街に出店をやめるかも? | ハフポスト”. www.huffingtonpost.jp. 2020年10月6日閲覧。
- ^ 平成27年国勢調査の調査項目について(調査項目の意味、記入方法) 総務省
- ^ 統計法(平成十九年法律第五十三号)
- ^ a b c d e f g 『近代統計制度の国際比較』安本稔編集 2007年12月 日本経済評論社 ISBN 9784818819665
- ^ 樋畑雪湖『日本郵便切手史論』、2020年1月31日閲覧。
- ^ 統計図書館ミニトピックスNo. 22 第1回国勢調査の記念切手をデザインしたのは? - 国勢調査に係る統計史料を訪ねて【その7】 (PDF) - 統計局、2020年1月31日閲覧。
- ^ #横山雅男、p.p.20「内国統計史」
- ^ 『平成22年国勢調査の実施に向けて(検討状況報告) 』 総務省統計局 2009年4月
- ^ a b 統計法を参照。
- ^ a b c d 国勢調査、勤務先やマンション階数、なぜ言わないといけないの? 総務省に聞いてみた - 毎日新聞
- ^ “令和2年国勢調査の概要”. 総務省. 2020年10月1日閲覧。
- ^ [1]
- ^ [2]
- ^ “平成27年国勢調査(簡易調査)で追加・廃止を検討する調査事項(案)”. 総務省. 2015年10月1日閲覧。
- ^ [3]
- ^ [4]
- ^ 新型コロナウイルス感染症対策を踏まえた令和2年国勢調査の実施について - 統計局
- ^ 国勢調査の回答率 4割に届かず 武田総務相が協力呼びかけ - NHK
- ^ 国勢調査のネット回答、20日まで延長 - 共同通信
- ^ “国勢調査回答率80.9% ネットと郵送、19日時点 総務省(時事通信)” (日本語). Yahoo!ニュース. 2020年10月20日閲覧。
- ^ a b c d 国勢調査が「存亡の危機」に!? - NHK
- ^ 国勢調査のイメージキャラクター紹介
- ^ “第一回国勢調査記念品(統計資料館)”. 総務省統計局. 2020年10月5日閲覧。
- ^ “第一回国勢調査記念章(統計資料館)”. 総務省統計局. 2020年10月5日閲覧。
- ^ 「国勢第一回の任命書」『中国新聞』2020年(令和2年)10月6日備後版22面
- ^ 国勢調査、「手間省ける」と自治会の集会で回収 読売新聞 2010年10月6日
- ^ 国勢調査:管理人が勝手に記入…マンション50世帯分 毎日新聞 2015年10月10日
- ^ 背伸びやめ 胸を張る 読売新聞 2007年9月1日
- ^ 羽幌町人口水増し事件
- ^ 市制施行の見送りについて(PDF)
- ^ “人口水増しで前副町長逮捕 市政移行目指した愛知・東浦町”. msn産経ニュース (2013年2月22日). 2013年2月22日閲覧。
- ^ 市昇格を狙い人口を水増しか 愛知・東浦町、国勢調査で - asahi.com,2012年2月26日
- ^ 愛知・東浦町長、意図的な人口水増しを否定 - 日テレnews,2012年3月2日
- ^ 平成22年国勢調査にかかる不適切な事務処理について - 東浦町サイト,2012年3月2日
- ^ 人口水増し疑い、前副町長を逮捕 愛知・東浦町 - 日本経済新聞,2013年2月22日
- ^ 東浦町前副町長を逮捕へ=人口水増しの疑い-愛知県警 - 時事ドットコム,2013年2月22日
- ^ マンション管理者のみなさまへ - 国勢調査2020総合サイト
- ^ 【独自】国勢調査で住基情報転用…15年 8市区集計ルール違反 読売新聞 2020年8月12日
- ^ 毎日新聞の読者投稿欄『みんなの広場』2010年10月9日版に、居留守を使われた調査員の嘆きが記載されている。
- ^ “国勢調査100年”. 日本郵便. 2020年9月28日閲覧。
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