噴射ポンプ 噴射ポンプの概要

噴射ポンプ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/12 21:08 UTC 版)

12気筒ディーゼルエンジンの列型噴射ポンプ

歴史と概要

1938年のボッシュ製噴射ポンプ(ダイムラー・ベンツ 90馬力/1700rpm 6気筒エンジン)

圧縮点火内燃機関であるディーゼルエンジンには噴射ポンプは必要不可欠なものであり、その歴史はディーゼルエンジンの開発とともにあったといっても過言ではない。圧縮行程で高圧となった燃焼室内で燃料を霧化するには高度な技術が必要で、当初は霧吹きやスプレーのように空気の力を借りて行っていた[1]

近年までは噴射ポンプはクランクシャフトカムシャフト、OHCエンジンの場合にはタイミングチェーンタイミングベルトからエンジンの駆動力を受け取って機械的に動作するものが主流であった。4ストローク機関の場合には噴射ポンプはクランク回転数の半分の速度で駆動されることになる。噴射ポンプはピストンの圧縮上死点の手前でシリンダー内部に軽油を噴射させるため、その噴射圧力はガソリンエンジンの燃料ポンプと比較して非常に高く、200MPaを超える圧力が掛かることが一般的である。

しかし近年では各国で強化されつつある自動車排出ガス規制への対応のために、ディーゼルエンジンも高度な燃料制御が必要となり、電子制御式のコモンレールディーゼルエンジンが主流となってきている。コモンレール式も当初は機械式の噴射ポンプに電子制御式燃料噴射装置を組み合わせることが一般的であったが、最新式の噴射ポンプは電動ポンプとなり、エンジンの駆動損失を起こさない形式のものに置き換わりつつある。

機械式噴射ポンプはその構造上内部部品の摩耗を防ぐために軽油にある程度以上硫黄分が含まれていることが必須であった。しかし、日本におけるディーゼル車規制条例平成17年排出ガス規制などをクリアするためには軽油の脱硫化を行うことが不可避な情勢となったため、こうした事情も噴射ポンプの電磁ポンプ化の流れに拍車を掛ける要因[2]となっている。

噴射ポンプは、ガソリンエンジンにおいても極めて初期の機械式燃料噴射装置にディーゼルエンジンと同じ動作原理のものが用いられた例がある。歴史上初のガソリンエンジン用噴射ポンプは1951年、ドイツのGoliath GP 700 Eで初めて用いられ、その3年後の1954年にはメルセデス・ベンツ・300SLにも搭載された。しかし、機械式燃料噴射装置は機構が複雑なことと、ガソリン自体に軽油程の潤滑能力がないことなどから、製造コストと信頼性の面でキャブレターを完全に置き換えるには至らなかった。

噴射ポンプの圧力と安全性

噴射ポンプは圧縮行程にあるシリンダー内の高圧に打ち勝って燃料の噴射を行う必要があるため、ポンプや配管自体に極めて高い圧力が掛かることになる。通常のもので平均15,000Psi(100MPa)、圧縮比が高いエンジンの場合には200MPaを超える圧力が掛かる。この圧力は衣服皮膚を容易に切断出来る程のもののため、噴射ポンプや分配パイプには概ね非常に強固な構造を持つことが求められている。そのため、ディーゼルエンジンのシステム全体が大型化し、小型車やオートバイへの搭載が困難ともなる大きな要因となっている。[3]


  1. ^ 無気噴射 - Weblio(2015年版。大辞林のみ2004年版)。
  2. ^ なお、旧来の機械式噴射ポンプの潤滑対策として、ガソリンスタンドでは専用の潤滑添加剤を用いることで対処を行っている。
  3. ^ High-pressure injection injuries to the hand
  4. ^ ECD-U2 - 日本の自動車技術180選
  5. ^ デンソーテクニカルレビュー Vol.7 No.1 2002 (PDF)
  6. ^ New Powertrain Technologies Conference”. autonews.com. 2008年4月8日閲覧。
  7. ^ Land Rover Defeder Workshop Manual 1999-2002


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