古英語 方言

古英語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/16 06:07 UTC 版)

方言

ノーサンブリアNorthumbrian)、マーシアMercian)、ケントKentish)、ウェセックスWest Saxon)の4方言に大別される。これらは当時の王国の境界に対応するが、このうちノーサンブリアとケントは9世紀ヴァイキングの侵略により衰えた。マーシアも侵略を受けたが、一部は防衛に成功し、ウェセックス王国に編入された。ノーサンブリアとマーシアはアングル人の王国、ケントはジュート人の王国、ウェセックスはサクソン人の王国とされる。

ウェセックスでは878年デーンロー地方以外のアングロ・サクソン人のイングランドを統一したアルフレッド大王のもと、聖書の翻訳や過去の伝承や史実の蒐集が盛んに行われた。アルフレッド大王自らもラテン語を解し、翻訳に従事したと思われる。ウェセックス方言は9世紀末には古英語の標準語となり、また今日残る古英語資料の大半を占めている。このため現代の研究にとって、ウェセックス方言の占める割合は大きい。

発音

母音には、短母音・長母音・二重母音があり、長短を区別する。現在出版する書籍では、長母音字の上に長音記号(マクロン)を書いて、短母音と区別する。古英語においては y は母音字である。

子音は、現代英語の子音に加えて、ð/þ(文字の名称はエズ(eth)とソーン(thorn)。表す音は[ð]と[θ])および ƿ(ウィン, wynn) [w]が用いられる。また、現在の出版では c, gと ċ, ġを区別する場合がある。

アルファベットと発音

アルファベット 発音
a [ɑ] 舌が後ろよりのア、当時の表記ではaとoがときおり混同した。
ā [ɑː] 上記 a の長音
æ [æ]
ǣ [æː] 上記 æ の長音
b [b]
c [tʃ] あるいは [k] と発音する。現代の表記では [tʃ] の音を表すときに上にドットをつけて ċ とすることもある。
cg [dʒ]
d [d]
ð/þ [θ] 有声音の間に挟まれたときは [ð] と発音する。二者は別の字だが区別なく使われる。
e [e]
ē [eː] 上記 e の長音
ea [æɑ] 後母音の前の c, g, sc[tʃ], [j], [ʃ]と発音されるのを表す e と混同しないように注意。
ēa [æːɑ] 上記 ea の長音
eo [eo] ea に同じ
ēo [eːo] 上記 eo の長音
f [f] 有声音の間に挟まれたときは [v] と発音する。
g [g] 異音に[ɣ], [j], [dʒ] がある。[j][dʒ] の音を表すときに上にドットをつけて ġ とすることがある。またアイルランドに由来する ȝ の字体(yogh、音は同じ)が使われることがある。
h [h] [ç, x]の異音がある。
i [i]
ī [iː] 上記 i の長音
ie [ie]
īe [iːe] 上記 ie の長音
k [k] あまり使われない
l [l]
m [m]
n [n] 後ろに g が来て Template:-ng となったときは [ŋg] と発音する。
o [o]
ō [oː] 上記 o の長音
oe [ø] 合字の œ も使われる
ōe [øː] 同上
p [p]
q [k] 直後に来る u と一組で [kw] の音を表すがあまり使われない。 古英語では cƿ あるいは cw と書く。
r [r] 詳しい音価は確定していないが現代の英語と同じ [ɹ] か、ふるえ音の [r] とされる。
s [s] 有声音に挟まれたときは [z] と発音する。
sc [ʃ] 異音に [sk] がある。
t [t]
u [u]
ū [uː] 上記 u の長音
ƿ [w] 現代の表記では代わりに w を用いる。
x [ks] [xs ~ çs] と発音されたという説もある
y [y]
ȳ [yː] 上記 y の長音
z [ts] まれに ts と音が並んだときに使われる(beztbetst、ともに [betst] と発音する。意味は best)。

二重子音の ðð/þþ、ff、ss は有声音に挟まれても有声音にならない。

音韻

子音

両唇音 唇歯音 歯音 歯茎音 後部歯茎音 硬口蓋音 軟口蓋音 声門音
閉鎖音 [p  b]     [t  d]   [k  g]  
破擦音 [tʃ  (dʒ)]
鼻音 [m] [n] [(ŋ)]
摩擦音 [f  (v)] [θ  (ð)] [s  (z)] [ʃ] [(ç)] [(x)  (ɣ)] [h]
接近音       [r]   [j] [w]  
側音 [l]

括弧内で示されるのは異音である。

  • [dʒ][j]の異音で、[n]の後ろあるいは子音重複となったとき起こる。
  • [ŋ][n]の異音で、[k][g] の前で起こる。
  • [v, ð, z]無声音[f, θ, s]有声化したもので、母音あるいは有声子音に挟まれたとき起こる。
  • [ç, x][h]の異音で、前者は前舌母音、後者は後舌母音の後ろでそれぞれ起こるが音節の末尾であることが条件である。
  • [ɣ][g]の異音で、母音の後ろで起こる。

母音

単母音 短母音 長母音
前母音 後母音 前母音 後母音
閉母音 [i  y] [u] [iː  yː] [uː]
中央母音 [e  (ø)] [o] [eː  (øː)] [oː]
開母音 [æ] [ɑ] [æː] [ɑː]
二重母音 短音(1モーラ 長音(2モーラ)
第一単音が閉音 [iy] [iːy]
両単音とも中音 [eo] [eːo]
両単音とも開音 [æɑ] [æːɑ]






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