口髭 口髭の概要

口髭

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/31 03:52 UTC 版)

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「ハンガリアン」の口髭を立てたエミリアーノ・サパタ
髭のパターン:2 が典型的な口髭

英語「moustache」について

英語では口髭のことを「ムスタッシュ (moustache)」と言う[1]。ただし、アメリカ英語では「mustache」という綴りが優勢であり[2]母音の発音やアクセントもイギリス英語とは少し異なる。

英語の moustache は、16世紀のフランス語moustache、さらには14世紀のイタリア語mostaccio、あるいは16世紀のイタリア語方言に見られた mustaccioに由来するが、さらに遡れば、8世紀の中世ラテン語mustacium、9世紀の中世ギリシア語moustakion、そしてコイネー(ヘレニズム時代の共通ギリシア語)の mustax に至る。この mustax は、おそらくヘレニズム時代のギリシア語で「唇」を意味する mullon に由来する語であろう[3]

歴史

スキタイ騎馬像・紀元前300年頃・パジリク古墳より
ガンダーラから出土した、口髭のある釈迦立像、1〜3世紀頃(ギメ東洋美術館・蔵)

新石器時代には、剃刀のような石器があったが、これでひげを剃ることは技術的に不可能であった。ひげを含め、体毛を剃ることは、金属器(銅器)の使用が始って以降に広まった習慣と考えられているが、それ以前にも貝殻などを使って剃毛することは行われており、意図的に一部のひげを残して他の部分のひげを剃ることも行われていた可能性はある。

口髭を蓄え、他のひげを剃った人物の姿を捉えた最も古い造形は、ウラル山脈に連なるウコク高原パジリク古墳から出土した、紀元前300年頃のスキタイ人の騎馬像である。

初期の仏教は、釈迦を人の姿で表現するのを避けていたが、1世紀頃から仏像が作られるようになり、現在のパキスタンにあるガンダーラでは、ギリシア彫刻の影響も受けた、いわゆるガンダーラ仏が作られるようになった。ガンダーラ仏では、頭髪を束ね、口髭を立てた姿が表現されているものがよくある[4]ギメ東洋美術館が所蔵している、ガンダーラから出土した、1〜3世紀ころの釈迦立像にも、口髭が表現されている。仏像では、このように口髭だけを表現し、他のひげは表現しない例が多い。

近代では、口髭は軍人に好まれた。多くの国々において、部隊や階級ごとに様々なスタイルやバリエーションが見られた。一般的に、若い下級の兵士は、比較的小さな、あまり手の込んでいない口髭を立てる。やがて昇進していくと、口髭はより分厚くなり、さらには全てのひげを伸ばすことが許されるようになる。

一般的に、西洋文化においては、女性はひげを伸ばさない。伸ばそうと思えば可能な女性は多いが、そうした女性のほとんどは、ひげを取り除くために何らかの処置を行っている。しかし、中には、ひげが、しばしば薄い口髭のような形で伸びることを、肯定的に捉える女性もいる。メキシコの画家フリーダ・カーロが、口髭と、左右がつながった眉を、作品中の彼女自身の肖像に書き込んでいたことはよく知られている。この伝統は、その後も一部の女性アーティストたちによって継承されている[5][6][7]

思春期男性と髭

思春期の男性に、通常は決まった順番で徐々にひげが生えてくるが、その過程において、口髭は一つの段階となっている[8]

  • 最初のひげは、上唇の両端から生え始める傾向がある。
  • このひげは徐々に上唇全体に広がり、口髭を形成する。
  • 次いで、頬の上部にひげが生じ、下唇の下にもひげが現われる。
  • 最後に、頬の前面と顎の下にもひげが広がり、顔の下半分をひげが覆って、フル・ビアードになる。

人間の生物学的プロセスの多くがそうであるように、この特定の順序にも、遺伝や環境などの要因によって、個人差が見られることがある[9][10]


  1. ^ 日本語の表記では、「マスタッシュ」と音写されること(例えばマスタッシュ/memoriesなど)もあれば、「マスターシュ」、「ムスターシュ」などとされることもある。
  2. ^ アメリカ英語では mustache が優勢だが、例外的に『Webster's Third New International Dictionary』(1961年)は「moustache」を主たる項目とした。しかし、その後の『Webster's New Collegiate Dictionary』の諸版(1973年以降)では、主たる項目は「mustache」に戻されている。
  3. ^ OED s.v. "moustache", "mustachio"; Encyclopædia Britannica Online - Merriam-Webster's Online Dictionary
  4. ^ 博物館情報庫 関西大学博物館
  5. ^ Matheson, W (2005年12月12日). “Let us now praise famous mustaches”. USA TODAY. 2010年3月11日閲覧。
  6. ^ Hoggard, L (2003年11月2日). “Who says women can't be sexy with a five o'clock shadow?”. The Observer. 2010年3月11日閲覧。
  7. ^ Adrenal virilism”. thefreedictionary.com. 2010年3月11日閲覧。
  8. ^ Adolescent Reproductive Health (PDF)”. UNESCO Regional Training Seminar on guidance and Counselling (2002年6月1日). 2010年3月11日閲覧。
  9. ^ (Chumlea, 1982).
  10. ^ The No-Hair Scare”. PBS. 2009年2月20日閲覧。
  11. ^ The World Beard & Moustache Championships
  12. ^ Official Movember website”. 2008年5月6日閲覧。
  13. ^ Bergman, Ron, Mustache Gang: The swaggering saga of Oakland's A's, Dell, 1973.
  14. ^ Byrne, Stacy (2007年3月30日). “The facial hair protest is an Air Force tradition”. Great Falls Tribune. 2007年4月25日閲覧。
  15. ^ Longest moustache ever in the world”. The longest list of the longest stuff at the longest domain name. 2006年12月2日閲覧。
  16. ^ Philippe Halsman & Salvador Dali, Dali's Moustache. A Photographic Interview by Salvador Dali and Philippe Halsman, Simon and Schuster, New York 1954.






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