双対ベクトル空間 双対ベクトル空間の概要

双対ベクトル空間

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/01/05 01:22 UTC 版)

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一般に双対空間には、代数的双対連続的双対の二種類が用いられており、代数的双対は任意のベクトル空間に対して定義することができるが、位相線型空間を扱うときは代数的双対よりもその部分線型空間として、連続線型汎函数全体の成す連続的双対空間を考えるのが自然である。

双対空間

F 上の任意のベクトル空間 V の(代数的)双対空間 V*V 上の線型写像 φ: VF(すなわち線型汎函数)全体の成す集合として定義される。集合としての V* には、次の加法とスカラー乗法

を定義することができて、それ自身 F 上のベクトル空間となる。この代数的双対空間 V* の元を、余ベクトル共変ベクトル)あるいは一形式と呼ぶこともある。

双対空間 V* の元である汎函数 φV の元との対をしばしば括弧を用いて φ(x) = [φ, x][1] あるいは φ(x) = φ, x[2]で表す。この対の記法は非退化な双線型形式[注釈 1] [·,·]: V* × VF を定める。このとき、[,]V*V との間に双対性を定める、V*V を双対にする、あるいは VV*双対性を表す内積 (duality pairing) であると言う。

有限次元の場合

V有限次元ならば、V*V と同じ次元を持つ。V基底 {e1, …, en} から双対基底と呼ばれる特別な V の基底を定義することができる。それは V 上の線型汎函数の集合 {e1, …, en} で、係数 ciF の選び方に依らず

を満たすものとして定義される(上付きの添字がを意味するものではないことに注意せよ)。特に、一つの係数を 1, 残りをすべて 0 とすることにより、関係式は

に帰着される。ここに δijクロネッカーのデルタである。例えば V が座標平面 R2 でその標準基底 {e1 = (1, 0), e2 = (0, 1)} に選べば、e1, e2e1(e1) = 1, e1(e2) = 0, e2(e1) = 0, e2(e2) = 1 を満たす線型形式である。

特に Rn実数を成分とする n-項「列」ベクトル全体の成す空間と見做すとき、その双対空間は典型的には実数を成分とする n-項「行」ベクトル全体の成す空間として書かれ、その Rn への作用が通常の行列の積によって与えられるものと見做すことができる。

V が平面上の幾何学的なベクトル(有向線分)からなる空間であるとき、V* の元の等位曲線は V の平行線の族からなる。故に V* の元は直観的には平面を被覆する特定の平行線族と見做すことができる。このとき、与えられたベクトルにおける汎函数の値を計算するには、そのベクトルが平行線族のどの線上にあるかを知るだけでよい。イメージとしては、そのベクトルが何本の平行線と交わるかを数えればよいことになる。より一般に、V を任意有限次元のベクトル空間とするとき、V* に属する線型汎函数の等位集合V の平行超平面族であり、汎函数の各ベクトルにおける値はこれら超平面を用いて理解することができる[3]

無限次元の場合

ベクトル空間 V が有限次元でない場合にも適当な無限集合 A で添字付けられる基底 eα は持つ[注釈 2]から、有限次元の場合と同様の構成によって、双対空間の線型独立な元の族 eα (αA) を作ることはできるが、これは必ずしも基底とならない。

例えば、有限個の例外を除く全ての成分が 0 であるような実数全体の成す空間 R を考えると、これは自然数全体の成す集合 N で添字付けられる標準基底、すなわち各 iN に対して ei は第 i-項が 1 で他はすべて 0 となるようなものを持つ。R の双対空間は全ての実数列からなる空間 RN である。数列 (an)(xn) ∈ R への作用は
an xn
で与えられる(これは xn の非零項が有限個しかないことから有限和である)。R次元は可算無限だが、RN の次元は非可算である。

このような考察は任意の体 F 上の任意の[注釈 2]無限次元ベクトル空間に対して一般化できる。基底 {eα : αA} を一つとって Vfα = f(α) は有限個の例外を除く全ての αA に対して 0 となるような写像 f: AF 全体の成す空間 (FA)0 と同一視すれば、写像 fV のベクトル
αA
fα eα
と同一視される(f の仮定からこれは有限和だから意味を持ち、また基底の定義により任意の vV はこの形に書ける)。

そして V の双対空間は A から F への写像全体の成す空間 FA に同一視される。実際、V 上の線型汎函数 TV の基底におけるその値 θα = T(eα) によって一意に決定され、また任意の写像 θ: AF (θ(α) = θα) は

と置くことにより V 上の線型汎函数 T を定める(fα は有限個の α を除いて全て 0 だから、やはりこの和が有限であることに注意)。

(FA)0F をそれ自身 F 上一次元のベクトル空間と見做したものの A で添字付けられた無限個のコピーの直和と(本質的には定義によって)同一視できる。即ち線型同型

が存在する。他方 FA は(やはり定義によって)A で添字付けられる F の無限個のコピーの直積英語版に同型である。同一視

は加群の直積と直和に関する一般の場合の結果の特別の場合である。

従って無限次元のとき、代数的双対は必ずもとの空間よりも大きな次元を持つ。これは連続的双対の場合には無限次元の場合でももとの空間と同型となる場合があることと対照的である。

双線型な乗法と双対空間

V が有限次元のとき、V はその双対 V* とは同型であるが、それらの間に自然な同型は存在しない[4]V 上の任意の双線型形式 •,•V から双対 V* への写像

を与える。この右辺は 各 wV をスカラー v,w へ写す V 上の線型汎函数である。即ち、双線型形式は線型写像

を定義するのである。もとの双線型形式が非退化ならば、この線型写像は V* の中への同型を与える。特に V が有限次元ならば V* の上への同型である。逆に、V から V* の部分集合(あるいは V* 全体)への任意の同型 Φ は、

と置くことにより、V 上の非退化双線型形式 •,•Φ を一意的に定める。従って、V から V* の部分集合(あるいは V* 全体)への同型写像と V 上の非退化双線型形式との間には一対一対応が存在する。

ベクトル空間 V複素線型ならば、双線型形式よりも半双線型形式を考えたほうが自然なこともある。この場合、半双線型形式 •,•V からその双対空間の複素共軛英語版への線型写像

を定める。共軛空間 V* は加法的複素数値函数 f: VC

を満たすもの全体の成すベクトル空間と同一視される。




注釈

  1. ^ 量子力学などの多くの分野では ·,·V × V 上の半双線型形式 を表すのに用いている。
  2. ^ a b c 本項においていくつかの事項を正当化するために、ある種の選択公理が必要であることを言っておかなければならない。例えば、任意のベクトル空間が基底を持つこと(特に RN が基底を持つこと)を示すには選択公理(に同値なツォルンの補題)が必要である。あるいはまた、無限次元ベクトル空間 V の双対が零でないとき、V からその二重双対への自然な写像が単射であることを言うためにも必要である。

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