原子力潜水艦 通常型潜水艦の特徴

原子力潜水艦

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/07/21 12:02 UTC 版)

通常型潜水艦の特徴

原子力動力との対比のために通常動力での潜水艦(通常型潜水艦)の特徴を以下に示す。なお、以下の通常型潜水艦にはAIP動力潜水艦は含まれないものとする。

通常型潜水艦は水中では蓄電池を動力とし、この充電のために適宜、浅深度を航走してシュノーケルから空気を取り入れ、内燃機関であるディーゼルエンジンで発電機を動かさなければならない。通常型潜水艦は通常の潜水航行では充電したバッテリーとモーターしか使えないため、バッテリーを消耗すると潜水航行できなくなる(連続潜航時間の制約)。また、内燃機関の燃料が尽きればそれ以上の航海は不可能である(連続航海日数の制約)。通常型潜水艦の連続潜航時間および連続航海期間を延長する努力は長年にわたって行われてきたが、単に「潜ることができる艦 (submersible ship)」ではなく「潜ることが専門の艦」、すなわち潜航状態を常態とする艦が達成されたのは、原子力機関の長所を生かした原子力潜水艦が登場してからのことである。

潜航中の通常動力潜水艦の動力は蓄電池に蓄えられた電力のみで、これによる水中速力は最大でも20数ノットが限界であり、また、その速度で航行した場合には、短時間で蓄電池の電力を使い切ってしまう。

代表的な艦種

原子力潜水艦は、当初、第二次世界大戦までの潜水艦の延長線上において魚雷を用いた水上艦への攻撃を主な任務とした。だが、水中性能の向上にともなって、潜水艦を水上や空中から探知することが困難になり、脅威の度合いが増すにつれて、潜水艦を潜水艦で「狩る」水中戦の重要度が増すこととなった。こうして、遅くとも1960年代末以降には、潜水艦に対する最も有効な兵器は潜水艦であるとの認識が一般化した。このような艦種は攻撃型原子力潜水艦 (SSN) と呼ばれることが多い。

その特性上、秘匿性が非常に高いことを活かし、核戦略の一端を担う海中ミサイル基地とでも言うべき艦種も登場した。こうした潜水艦を弾道ミサイル原子力潜水艦/戦略ミサイル原子力潜水艦(戦略原潜)などと呼ぶ。初期のポラリス原潜では、核弾頭1発を搭載した長射程の潜水艦発射弾道ミサイル (SLBM) 16基を装備していたが、MIRV技術の進歩により、現在では1発あたり10 - 14発の核弾頭を搭載した多弾頭式の弾道ミサイルを16 - 24基搭載するまでになっている。弾道ミサイル原潜は大陸間弾道ミサイル (ICBM) の固定サイロよりも発見されにくいという特徴があるため、先制攻撃の手段としてではなく攻撃を受けたあとの反撃手段・第二次攻撃手段としての意味合いが強い。こうした潜水艦の登場は冷戦を背景にしたものである。アメリカ海軍のジョージ・ワシントン級(1番艦は1959年就役)を嚆矢として、まずアメリカ・ソ連、次いでイギリス・フランスが弾道ミサイル原潜を保有するようになると、攻撃型原子力潜水艦の重要な任務には、味方弾道ミサイル原潜の護衛、または敵方弾道ミサイル原潜の捜索・追尾・攻撃が加わった。

その後に、弾道ミサイル原潜を原型に対地攻撃や対艦攻撃用の巡航ミサイルを装備した型も造られ、このような艦種は巡航ミサイル原子力潜水艦 (SSGN) などと呼ばれることとなった。これは、旧ソ連海軍において、仮想敵たるアメリカ海軍の空母戦闘群(現:空母打撃群)への対抗上の観点から特に大きく発展した。しかし、旧ソ連海軍は、母国から遠く離れた地上発進の航空機兵力においてアメリカに大きく劣るため、戦略ミサイル原子力潜水艦 (SSBN) とは別の種類の専用の巡航ミサイル原子力潜水艦 (SSGN) を何十隻も建造し、3種類の原潜 (SSN, SSGN, SSBN) を運用していた。

日本の原子力潜水艦保有の検討と議論

1958年、帝国海軍時代より通常動力潜水艦の建造実績を積み重ねてきた川崎重工業は、原子力潜水艦を建造した場合のコスト、必要な設備などについて81ページのレポートをまとめ、後年にこれが明らかとなった。このレポートによれば、当時の試算では後の攻撃型原子力潜水艦に相当する艦1隻を建造するためには通常動力艦10隻分の資金を要すると結論されたという[5]

1960年3月11日、衆議院内閣委員会において当時の中曽根康弘科学技術庁長官は、アメリカが豊富な原子力推進艦艇の建造実績をもって商業原子力船「サヴァンナ」を建造していることと比較して「日本は原子力潜水艦なんかを作る力も意思もありません。従ってやはり商業採算ベースに合うということが非常に大事」と答弁しており、商業化によってコストの問題が解決されない限りは「(原子力潜水艦を建造する、しないという)政治力が働く余地がない」としていた[6]。作家の谷三郎は、1986年に出版された著書で「ソ連海軍力の伸長が続けば1990年代には必要性が高まる一方、日本には建造する能力があり、1950年代よりは通常動力艦と比べたコストを5倍程度まで低減させることが可能」であると主張していた[5]

1986年、海上自衛隊は原子力潜水艦の導入について具体的な検討に入っており、原潜導入の意向をアメリカ海軍にも非公式に打診し、昭和66年度(平成3年度)以降の中期防衛力整備計画に組み込もうとしていた。核ミサイルや核魚雷搭載型ではなく、非核の攻撃型原潜を検討対象としていた。当時、日本周辺にいる外国の潜水艦の大半が原潜という状況の中で、海自内には「作戦行動をとるには通常型ではもう限界」との声が強まっていた。さらに、海自は1986年の5月から6月にかけて中部太平洋で行われたリムパック86(環太平洋合同演習)に初めて「たかしお」を派遣したが、アメリカ海軍の原潜に比べて足が遅く「通常型の限界が明白になった」(海自幹部)との声が出ていた。このため、海上幕僚監部は原潜導入を検討すべき時に来ていると判断したという。原潜の導入にはアメリカの同意が重要となるため、海幕幹部がアメリカ海軍の幹部に原潜導入の意向を伝え、非公式に意見を求めたが、アメリカ海軍側は海自に対して具体的な反応を示さなかった。日本初の原子力船むつ」が膠着状態に陥っている中で国内での原潜開発は難しい状況にあるため、海幕は原子力推進の部分だけを外国から購入し、海自の潜水艦に組み入れる方法も検討していた。原子力の利用については、原子力基本法で「平和目的に限る」と定められているが、防衛庁は「推進力として原子力が普遍的になれば使っても同法に違反しない」との考え方をとっており、海幕は「原潜は世界的にも主流となっており、推進力として使うだけなら問題ないはず」と判断している。海自は昭和65年度(平成2年度)までの中期防ではイージス艦こんごう型護衛艦)を2隻導入することを計画しており、次期中期防で原潜の導入を盛り込みたい考えであった。ただし、防衛庁内局は「船舶の推進力として原子力が普遍的になったとはまだいえない。今は原潜導入を考えていない」として海幕の動きをけん制している。以前にも海自が原潜導入の検討を開始した際にも、国会で問題になり、原潜導入計画が中止になっていた。そのため、海幕は今回の原潜導入計画を表立って検討することを避けていた[7]。海幕による原潜導入計画について、毎日新聞の取材を受けた軍事アナリストの小川和久は、「海上自衛隊は(昭和)40年代ごろまでは原潜の技術的検討をしてきたが、最近は導入の実現可能性について検討を始めている。防大出身者が指導的立場に立ってから防衛面での独立志向が強まったためと思う。わが国が原潜を導入するには米国との関係と国民の核アレルギーの問題があるが、最大のネックは日米関係。海自は戦後ずっと米国の戦略に組み込まれ、対潜能力と掃海機能を充実してきた。しかし最近は米国内にも日本の主体性を一定程度認めようという機運ができつつある。原潜は対潜能力の一環でもあるので米国を説得しやすいのではないか。同日選での自民圧勝で防衛面でも独立国家の姿勢をとろうという意識が強まりつつあり、原潜導入の可能性はかなり高まってくると思う」と指摘していた[7]

2004年の防衛計画の大綱の策定時に、防衛庁の「防衛力の在り方検討会議」において、中国が潜水艦戦力の近代化を急ピッチで進めていることに対抗するため、海上自衛隊の原子力潜水艦保有の可否が検討されていた。平成16年12月に防衛大綱を策定するのに合わせ、防衛庁では平成13年9月に「防衛力の在り方検討会議」が設置され、その際に「日本独自の原子力潜水艦保有の可能性」が検討された。検討対象となったのは、SLBMを搭載して「核抑止」を担う「戦略原潜」ではなく、艦船攻撃用の「攻撃型原潜」であり、日本が自主開発する案や、アメリカから導入する案が俎上に載せられていた。防衛庁幹部によると、「防衛力の在り方検討会議」では、原子力の平和利用を定めた原子力基本法との法的な整合性や、日本独自で潜水艦用の原子炉が開発できるかといった技術論に加え、運用面にも踏み込んだ議論が行われたとされる。16大綱では潜水艦は16隻態勢を維持することになったため、その上限内で原潜を保有した場合に海自の潜水艦戦力全体の警戒監視任務に与える影響や、乗員の確保策や訓練方法なども総合的に検討した結果、原潜の導入は時期尚早と判断したという[8]

2008年、自由民主党石破茂農林水産大臣が、大臣在任中に「日本は原子力潜水艦を持つべきである」との論文を発表していた[9]




注釈

  1. ^ アメリカ合衆国大統領ジミー・カーターは、海軍在職時リッコーヴァーの指揮下で原潜実用化に携わった。
  2. ^ 「スケート」は、潜水艦としては世界最初に北極点に達し、その氷を割って浮上したことで知られる。
  3. ^ 世界初の戦略ミサイル原潜「ジョージ・ワシントン」に用いられたのが、マネジメント手法として今日でも知られるPERT (Program Evaluation and Review Technique) である。

出典

  1. ^ 多田智彦、「圧倒的な強さを保持する米原潜戦力」『軍事研究』(株)ジャパン・ミリタリーレビュー、2017年5月号、208-221頁、ISSN 0533-6716
  2. ^ 岩狭源清著『中国原潜技術&漢級侵犯事件』 軍事研究2005年4月号 ジャパン・ミリタリー・レビュー2005年4月1日発行 ISSN 0533-6716
  3. ^ デイリー新潮 (2017年11月16日). “おバカ映画のような不祥事次々… 英潜水艦「セックス&ドラッグ」事件” (日本語). 2020年6月24日閲覧。
  4. ^ 米軍原子力空母原子炉事故の危険性と情報の非開示-「合衆国原子力軍艦の安全性に関するファクトシート」に対する反論書-”. 原子力資料情報室(CNIC) (2006年6月16日). 2006年8月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年4月29日閲覧。
  5. ^ a b 谷三郎 第5章『精鋭・日本自衛艦隊 : 世界が瞠目する“海軍"の実力』(世界大戦文庫スペシャル)サンケイ出版 1986年6月
  6. ^ 第034回国会 内閣委員会 第15号 昭和三十五年三月十一日(金曜日)
  7. ^ a b 原潜導入 海自が検討 核兵器抜き 推進力に限定 非公式に米に打診 「通常型、能力劣る」平和利用に抵触、論議必死 内局は消極的 毎日新聞 1986年(昭和61年)7月14日
  8. ^ 原潜保有 政府が検討 16年防衛大綱 中国に対抗も断念 産経新聞 2011年(平成23年)2月17日
  9. ^ 小林よしのり 『希望の国・日本 9人の政治家と真剣勝負』 飛鳥新社 p.114


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