印象派 印象派の概要

印象派

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/04 01:15 UTC 版)

モネ印象・日の出

印象派の絵画の特徴としては、小さく薄い場合であっても目に見える筆のストローク、戸外制作、空間と時間による光の質の変化の正確な描写、描く対象の日常性、人間の知覚や体験に欠かせない要素としての動きの包摂、斬新な描画アングルなどがあげられる。

印象派は登場当初、この時代には王侯貴族に代わって芸術家たちのパトロン役になっていた国家(芸術アカデミー)に評価されず、印象派展も人気がなく絵も売れなかったが、次第に金融家、百貨店主、銀行家、医師、歌手などに市場が広がり、さらにはアメリカ合衆国市場に販路が開けたことで大衆に受け入れられていった[2]ビジュアルアートにおける印象派の発展によって、ほかの芸術分野でもこれを模倣する様式が生まれ、印象主義音楽印象主義文学英語版 として知られるようになった。

ドガ『舞台の踊り子』(1878年、オルセー美術館

前史

ドラクロワ『民衆を導く自由の女神』(1831年、ルーブル・ランス)

フランスでは17世紀以来、新古典派の影響下にあるアカデミーが美術に関する行政・教育を支配し、その公募展(官展)であるサロンが画家の登竜門として確立していた。アカデミーでは、古代ローマの美術を手本にして歴史や神話、聖書を描いた「歴史画」が高く評価され、その他のジャンルの絵は低俗とされた。筆跡を残さず光沢のある画面に理想美を描く画法がアカデミーの規範となった[3]。しかし19世紀になると、その規範に従わない若い画家たちが次々に現れ始めた。

ウジェーヌ・ブーダン『トルヴィルの浜辺』(1868年、個人蔵)

これらの画家たちが印象派の先駆けとなった。

概要

ピエール=オーギュスト・ルノワールムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏場』(1876年、オルセー美術館

初期の印象派の画家たちはその当時の急進派であり、アカデミー絵画のルールを無視した。彼らはウジェーヌ・ドラクロワJ.M.W.ターナーのような画家たちに影響され、線や輪郭を描くのでなく、絵筆で自由に絵の具をのせて絵を描いた。また当時の実生活の風景を描き、ときには戸外でも描いた。それまでは静物画肖像画はもちろん、風景画でさえもアトリエで描かれていた(例外はカナレットであり、彼は屋外でカメラ・オブスクラを使って描いたらしい)。

印象派は戸外で制作することで、瞬間的な日の光だけでなく、それが変化していく様子もとらえられることを見つけた。さらに、細部ではなく全体的な視覚的効果を狙って、(従来のように滑らかさや陰影にこだわらず)混色と原色の絵の具による短い断続的なストロークを並べて、あざやかな色彩をそれが振動しているかのように変化させた。

印象派がフランスに現れた時代、イタリアマッキアイオーリグループやアメリカ合衆国のウィンスロー・ホーマーなど、多くの画家たちが戸外制作を試み始めていた。しかし印象派は、そのスタイルに独特の技法を持ち込んだ。賛同者によれば観察の仕方が変わったのであり、そのスタイルは瞬間と動きとのアート、自然なポーズと構図のアート、色彩を明るく変化させて表現される光の効果のアートである。

批評家や権威者が新しいスタイルを認めなくても、最初は敵対的であった人々までもがだんだんに、印象派は新鮮でオリジナルなモノの見方をしていると思い始めた。細部の輪郭を見るのではなく対象自体を見る感覚を取り戻し、さまざまな技法と表現を創意工夫することで、印象派は新印象派ポスト印象派フォービズムキュビズムの先駆けになった。


注釈

  1. ^ 広義の写実主義は西洋美術の伝統であり、アカデミーや新古典派も見えるとおりに描きながら理想的な形へ整えていく写実描写を実践している。ここで言及しているのは、そのような理想化は一切しないで、ありのままに捉えようとする運動としての19世紀の写実主義(レアリスム)のこと。
  2. ^ ゴーギャンは、出展したが、カタログ作成には間に合わず記載されていない。新関 (2000: 75)。
  3. ^ モネは、出展を希望しなかったので、カイユボットが借り集めて出展した。新関 (2000: 75-76)。
  4. ^ マリー・ブラックモン、メアリー・カサット、ベルト・モリゾの女性3名はポスターへの名前掲載を拒否したのでポスター上は15名。新関 (2000: 76)。

出典

  1. ^ シルヴィ・パタン; 村上伸子訳 『モネ-印象派の誕生』 (1版) 創元社、2010年、42頁。ISBN 978-4-422-21127-5
  2. ^ 海野 弘『パトロン物語-アートとマネーの不可思議な関係』(初)角川書店、2002年6月10日、62-71頁。ISBN 4-04-704087-8 
  3. ^ 島田紀夫 2004, p. 22-25.
  4. ^ テオドール・ジェリコー-メデュース号の筏-(画像・壁紙)” (2008年3月17日). 2014年11月2日閲覧。
  5. ^ ≪7月28日-民衆を導く自由の女神≫”. 2014年11月2日閲覧。
  6. ^ 島田紀夫 2004, p. 27.
  7. ^ 「美術検定」実行委員会 2008, p. 67.
  8. ^ 島田紀夫 2004, p. 80.
  9. ^ 「美術検定」実行委員会 2008, p. 68.
  10. ^ 島田紀夫 2004, p. 26-27.
  11. ^ Nathalia Brodskaya, Impressionism, Parkstone International, 2014, pp. 13-14
  12. ^ a b Samu, Margaret. "Impressionism: Art and Modernity". In Heilbrunn Timeline of Art History. New York: The Metropolitan Museum of Art, 2000 (October 2004)
  13. ^ [The Art Book, 1994 Phaidon Press, page 33, ISBN 91-0-056859-7 http://uk.phaidon.com/store/art/the-art-book-mini-format-9780714836256/]
  14. ^ Bomford et al. 1990, pp. 21–27
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  17. ^ Denvir (1990), p.133
  18. ^ Denvir (1990), p.194
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  20. ^ Denvir (1990), p.32
  21. ^ Rewald (1973), p. 323
  22. ^ クリストフ・ハインリヒ; ABC Enterprises Inc. (Mikiko Inoue)訳 『モネ』 TASCHEN、2006年、32頁。ISBN 978-4-88783-012-7
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  27. ^ Rewald (1973), p. 603
  28. ^ Rewald (1973), pp. 475–476
  29. ^ Bomford et al. 1990, pp. 39–41.
  30. ^ Renoir and the Impressionist Process Archived 2011年1月5日, at the Wayback Machine.. The Phillips Collection, retrieved May 21, 2011
  31. ^ a b Wallert, Arie; Hermens, Erma; Peek, Marja (1995). Historical painting techniques, materials, and studio practice: preprints of a symposium, University of Leiden, the Netherlands, 26-29 June, 1995. [Marina Del Rey, Calif.]: Getty Conservation Institute. p. 159. ISBN 0-89236-322-3.
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  33. ^ Stoner, Joyce Hill; Rushfield, Rebecca Anne (2012). The conservation of easel paintings. London: Routledge. p. 178. ISBN 1-136-00041-0.
  34. ^ Rosenblum (1989), p. 228
  35. ^ Metropolitan Museum of Art
  36. ^ a b c Levinson, Paul (1997) The Soft Edge; a Natural History and Future of the Information Revolution, Routledge, London and New York
  37. ^ Sontag, Susan (1977) On Photography, Penguin, London
  38. ^ Gary Tinterow, Origins of Impressionism, Metropolitan Museum of Art,1994, page 433
  39. ^ 新関公子「幕末から明治初期の西洋体験」(東京美術学校物語 西洋と日本の出会いと葛藤―2)岩波書店『図書』2023年2月、42‐47頁、引用は47頁。
  40. ^ Baumann; Karabelnik, et al. (1994), p. 112.
  41. ^ 新関 (2000: 74-78)。






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