南関東直下地震 被害

南関東直下地震

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/10 09:57 UTC 版)

被害

中央防災会議

2013年(平成25年)12月に発表された中央防災会議の報告[32]によると、最も大きい場合、死者約23,000人、全壊の建物約61万棟、経済被害約95兆円という甚大な被害が出ると想定されている。

東京都防災会議地震部会が2022年(令和4年)5月に発表した「東京都の新たな被害想定」では、被害が最も大きい都心南部直下地震の場合で死者は6148人とされた[33]

主な地震の種類別に見ると、次のような想定である。

都心南部直下地震、M7.3、冬夕方、風速8m/秒
  • 建物の被害194,431棟(焼失も含む)、死者数約6,148人、負傷者93,435人、避難者299万人、帰宅困難者約453万人
多摩東部直下地震、M7.3、冬夕方、風速8m/秒
  • 建物の被害161,516棟(焼失も含む)、死者数約4,986人、負傷者81,609人、避難者約276万人

大正関東地震、冬夕方、風速8m/秒

  • 建物の被害54,962棟(焼失も含む)、死者数約1,777人、負傷者38,746人、避難者約151万人

立川断層帯地震、冬夕方、風速8m/秒

  • 建物の被害51,928棟(焼失も含む)、死者数約1,490人、負傷者19,229人、避難者約59万人

首都直下地震防災・減災特別プロジェクト

文部科学省・首都直下地震防災・減災特別プロジェクト[34]では、首都圏地震観測網を構築し東京大学地震研究所を中心に44億円を使い直下地震対策を研究している。首都圏の学校などに300カ所の地震計を置くなどの作業を進めていた[35]

プロジェクトの研究チームが、東京湾北部を震源とする地震による揺れが従来を上回る震度7になると予想したことにより、中央防災会議はチームの最終報告に基づき首都直下地震の被害想定を見直す事にした[36]。同チームは2012年にプレートの深さが従来より10km浅いと推定している。

予測されている主な事象

  • 仮設住宅の建設費(最大3兆円)[注 11]、維持費。
  • 水門破壊によるゼロメートル地帯への浸水。
  • 持病の悪化、寒さ暑さ、感染症の流行、エコノミークラス症候群、水分や食物の欠乏、アスベストの飛散などの関連した病気による被害。
  • 長周期地震動による高層建築物へのダメージ。
  • 建物の崩壊による死亡・負傷の一部[注 12]
  • エレベーターの停止に伴う閉じ込め。
  • 高層ビルの高層階にいる多くの人が大怪我、又は孤立する。
  • 高層ビルから看板や割れたガラスが路上に大量に落下する。
  • 繁華街や住宅街での治安の悪化。
  • 東京証券取引所商品取引所東京工業品取引所為替手形決済システム、銀行間取引システムの取引停止・株価暴落、通貨下落、倒産などの金融市場への影響。
  • 輸出の減少による外貨獲得不足、経常収支赤字、諸外国へのODAや国連分担金などの不足、日本が供給する部品に頼る世界産業の不振、有効需要の喪失による全世界的不況、世界情勢の不安定化。
  • 消費者心理の変化による需要の衰退(阪神・淡路大震災時に例あり)。
  • インターネットの通信交換所(ハブ、IX、ISP、DCなど)の被災による損害。
  • サプライチェーンの分断による被害。
  • 人が集まる場所でのデマやパニック。
  • 余震の発生や大量の降雨による二次災害の発生。
  • 行政・情報の麻痺による首都機能の停止。
  • 電気などのライフラインが止まる。
  • 東京湾沿岸全域に津波液状化現象などの被害が出る。
  • 地盤の変形でレールが曲がり、電車が脱線する。また正面衝突。
  • 電車進入時に多くの人が駅の線路に落下する。
  • 深層崩壊
  • 地下鉄の軟弱な地盤を走る区間におけるトンネルの崩壊。
  • 地下鉄駅の天井が崩落し、道路が陥没する。
  • 揺れで車が横転し、大規模な衝突事故が各所で起きる。道路、特に高速道路における衝突・横転・火災事故[注 13]
  • 火災地の密集による火災旋風(炎の竜巻)の発生。(関東大震災で死亡例あり[注 14]。)
  • 東京湾炎上による発送電停止[注 15]、航路閉鎖と有毒ガス、火災、通信網破壊[37]
  • 各地(住宅地を含む)に散在するガスタンク、石油タンク[注 16]などによる火災と有毒ガス。
  • 避難者が炎に囲まれて脱出できない場合[注 17]

被害想定に関する動き

政府による被害想定発表後、メディアはこのニュースを大きく取り上げ、社会的にも話題となった。この背景には、被害想定発表前後に日本国内外の各地で2004年(平成16年)のスマトラ島沖地震新潟県中越地震、2007年(平成19年)の能登半島地震などの地震災害が相次いだことがあった。また、被害想定発表後に発生した千葉県北東部地震や千葉県北西部地震では実際にエレベーターへの閉じ込めなどが発生し、再びこの話題が取り上げられた。[要出典]

この被害想定が出されたおかげで人々の認識が改まり、後に構造計算書偽造問題事件が発生・発覚した時にも、構造計算書を偽造することの問題の大きさ、偽造が招くであろう悲惨な結果を人々が正しく認識することができた。そのおかげで、偽造問題・事件を過小評価しうやむやに放置してしまう状態には陥らず、その犯罪性の高さも正しく認識することができ、結果として、その後の計算書偽造防止策の構築へと繋げてゆくことができた。[要出典]

なお、この想定は直下地震発生のケースの場合であるため、(大正時代関東大震災の様な)海溝型地震によって併発されると言われている津波の発生については想定されていない。東京湾に関しては入口がすぼまり、中が膨らむ「フラスコ型」であるために周辺海域からの影響を受けにくく津波が発生しづらいといわれている[38]が、小松左京原作の『日本沈没』ではフラスコ型の入口である東京湾口に近い洲崎の西南西沖を震源とした海溝型地震による津波が湾内にそのまま浸入する想定がされている。

更にそれ以外の地域(関東の中でも地震がより多い茨城県南部以外の北関東3県房総半島沖など)での地震も否定できない。その場合には政府の被害想定とは違った被害状況も成り立ち得る。


  1. ^ 地震調査委員会による推定(2011年時点)。
  2. ^ 相模トラフ沿いの巨大地震は更に2つのタイプに分けられると考えられ、200 - 400年間隔で神奈川県~千葉県付近の相模トラフ西側半分が滑るM7.9-8.2前後の「大正型」と、2,000 - 2,300年程度の間隔で神奈川県~千葉県南東沖の相模トラフ全体が滑るM8.1-8.5前後の「元禄型」がある。なお、「元禄型」は「大正型」の震源域に加えて、相模トラフの東側半分にあたる千葉県南東沖の震源域が同時に破壊される(固有の両震源域における)連動型地震との見方もある。
  3. ^ 政府の想定では三浦半島断層群や箱根ヶ崎断層帯などの既知の活断層は評価に含まれていない。
  4. ^ 深川区などで推定震度6(小)[9]
  5. ^ 本震から約3分後に発生。東京においては本震と同程度(震度6)の揺れ[18]
  6. ^ 本震から約4分半後に発生[18]
  7. ^ 相模トラフ沿いの地震活動の長期評価について (PDF) 表5 pp.24-25および表6 pp.26
  8. ^ ひらたなおし。1998年から地震予知研究推進センター教授(観測地震学)、2011年よりセンター長。元東京大学地震研究所長。文部科学省の首都直下地震防災・減災特別プロジェクトリーダー(NHK そなえる 防災|執筆者|平田 直 より)。
  9. ^ 平田は2012年1月26日発行の夕刊フジで、1894年明治東京地震以降データと1965年以降のデータを比較したものだとしている。また「8月以降地震の数が減ってきたので、5-7年以内に70%」と述べている。
  10. ^ 1999年東北大学博士・東京大学地震研究所助手
  11. ^ 仮設住宅の建設は最良の条件下で3ヶ月で約7万戸、相模トラフ沿いの巨大地震では約3年かかる。
  12. ^ 5,000人の建物関連の死者を想定。
  13. ^ 鉄道、道路すべてを含めての想定は死者200人。
  14. ^ 東京大空襲関東大震災当時は木造家屋がほとんどだったが、ドレスデン大空襲では現在の東京より木造家屋は少なかったのに、大被害が出た。
  15. ^ 新京葉変電所からの電気は、軟弱地盤を通り新豊洲変電所から都心部に供給されている。湾内の発電所が海面の油などにより冷却水を取り入れられず、燃料船も接岸できない。地盤自体が弱く損傷の可能性がある。
  16. ^ 東京湾内には約5、600基あり、9割が市原市と川崎市の沿岸部に集中している。
  17. ^ 帰宅困難者が郊外の自宅へ帰宅するために、木造住宅の多い都心周辺部を通るときに火災にはばまれてパニック状態になったり、炎に囲まれる場合が心配されている。
  1. ^ 首都直下地震対策専門調査会報告 平成17年7月 中央防災会議p4 (PDF)
  2. ^ 3月11日以降の首都圏の地震活動の変化について|東大地震研 広報アウトリーチ室 Archived 2012年1月27日, at the Wayback Machine.
  3. ^ 二線以上の鉄道接続駅。独立行政法人防災科学技術研究所「地震ハザードステーション」 による。
  4. ^ 河角広(1970): 関東南部地震69年周期の証明とその発生の緊迫度ならびに対策の緊急性と問題点 『地學雜誌』 1970年 79巻 3号 p.115-138, doi:10.5026/jgeography.79.3_115
  5. ^ a b c d e f g h i j 松浦律子ら (2012-2014). “立川断層帯における重点的な調査観測 史料地震学による断層帯周辺の被害地震の解明”. 地震調査研究推進本部. 2018年1月6日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g h i 過去地震の類別化と長期評価の高度化に関する調査研究 首都直下地震防災・減災特別プロジェクト ①首都圏でのプレート構造調査、震源断層モデル等の構築等 平成23年度成果報告書 3.3.4 (PDF)
  7. ^ a b 植竹富一; 野口厚子; 中村操 (2010). “天明相模の地震及び嘉永小田原地震の被害分布と震源位置” (PDF). 歴史地震 25: 39-62. http://www.histeq.jp/kaishi_25/HE25_039_062_Nakamura.pdf 2016年11月6日閲覧。. 
  8. ^ 宇津, 徳治、嶋, 悦三、吉井, 敏尅 ほか 編『地震の事典 (第2版)(普及版)朝倉書店、2010年。ISBN 978-4-254-16053-6http://www.asakura.co.jp/books/isbn/978-4-254-16053-6/ 
  9. ^ 萩原尊禮 (1972年). “明治27年東京地震・安政2年江戸地震・元禄16年関東地震の震度分布”. pp. 27-31. 2019年12月2日閲覧。
  10. ^ “明治二十七年六月二十日東京激震ノ調査”. 震災豫防調査會報告 28: 71-78. (1899). https://hdl.handle.net/2261/16804 2018年1月7日閲覧。. 
  11. ^ a b 勝間田明男 (2001). “古い地震計から読み取れる明治以降の南関東地域の地震の特性”. 月刊地球 号外 34: 61-69. 
  12. ^ a b c 宇津徳治 (1979). “1885年~1925年の日本の地震活動 : M6以上の地震および被害地震の再調査”. 東京大學地震研究所彙報 54 (2): 253-308. https://hdl.handle.net/2261/12728 2018年1月7日閲覧。. , hdl:2261/12728
  13. ^ a b c d 野口(1998)、勝間田(2001)、地震調査委員会(2004)による。
  14. ^ a b c d 石橋克彦 (1975). “多層構造モデルのもとで多点のS-P時間をもちいた古い地震の震源再計算”. 地震 第2輯 28 (3): 347-364. doi:10.4294/zisin1948.28.3_347. https://doi.org/10.4294/zisin1948.28.3_347 2018年1月7日閲覧。. 
  15. ^ 宇津 (1979)では龍ケ崎市付近北緯36度00分秒 東経140度12分秒を、石橋 (1975)[14]ではつくば市北緯36度04分秒 東経140度10分秒付近を震央としている。
  16. ^ 勝間田明男 (2000). “1921年12月8日に茨城県南西部で発生した地震の発震機構と地震モーメント”. 地震 第2輯 53 (1): 83-88. doi:10.4294/zisin1948.53.1_83. https://doi.org/10.4294/zisin1948.53.1_83 2018年1月7日閲覧。. 
  17. ^ a b 石橋(1975)、勝間田(2001)、地震調査委員会(2004)による。
  18. ^ a b 武村雅之 (1999). “1923年関東地震の本震直後の2つの大規模余震”. 地学雑誌 108 (4): 440-457. doi:10.5026/jgeography.108.4_440. 
  19. ^ a b c 地震調査委員会(1999, 2004)による。
  20. ^ 相模トラフ沿いの地震活動の長期評価について”. 地震調査研究推進本部 地震調査委員会 (2004年). 2018年1月6日閲覧。
  21. ^ 相模トラフ沿いの地震活動の長期評価(第二版)について”. 地震調査研究推進本部 地震調査委員会 (2014年). 2018年1月6日閲覧。
  22. ^ 宇津徳治『地震活動総説東京大学出版会、1999年。ISBN 978-4-13-060728-5http://www.utp.or.jp/book/b301879.html 
  23. ^ 図3 南関東におけるM7程度の地震の評価領域と過去に発生した主要な地震, 図8 相模トラフ沿い及び南関東で発生した主な地震 (宇津,1999)
  24. ^ 2005年千葉県北西部の地震 ─震源メカニズム・強震動─ 東京大学地震研究所 強震動グループ、2005年
  25. ^ “首都直下地震:地震の種類で揺れ度合い変化 文科省が中間報告”. 毎日新聞. (2010年6月1日). http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20100601ddm016040005000c.html 2010年6月3日閲覧。 
  26. ^ 監修:神沼克伊、平田光司、共著:神沼克伊、島村英紀、杉原英和 ほか、『地震予知と社会』 地震予知と社会 古今書院 2003-03-20, ISBN 4772240462
  27. ^ 2011年 東北地方太平洋沖地震 過去に起きた大きな地震の余震と誘発地震 東京大学地震研究所
  28. ^ 『地震研の手法は観測データが増えると再計算が必要で、そのたびに確率も変わる。』「首都直下型M7地震「4年内50%以下」 東大地震研が再計算、観測データ増加で」日本経済新聞2012年2月6日
  29. ^ 酒井の週刊文春のインタビュー記事によれば「プラスマイナス30%」。
  30. ^ 3月11日以降の首都圏の地震活動の変化について|東大地震研 広報アウトリーチ室
  31. ^ 首都圏M7級地震、京大は「5年以内に28%」 朝日新聞デジタル
  32. ^ 首都直下地震対策の概要 (PDF)
  33. ^ 東京都の新たな被害想定 ~首都直下地震等による東京の被害想定~”. 東京都. 2023年11月30日閲覧。
  34. ^ 首都直下地震防災・減災特別プロジェクト
  35. ^ 首都直下地震 隠された「震度7」AERA2012.2.20 p10-15
  36. ^ 首都直下地震:震度7を予想…「6強」見直し 文科省 毎日新聞 2012年3月8日閲覧。
  37. ^ 『AERA』8月22日号「封印された"東京湾炎上"」、元は国土交通省関東地方整備局「臨海部の地震被災影響検討委員会報告書」2009年3月
  38. ^ 首都直下地震に備える!江戸川区江東区の「ハザードマップ」(NEWSポストセブン/『女性セブン』2020年2月20日号より)





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