南方澳大橋
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/27 10:07 UTC 版)
立地
漁港周辺は寺院も多く、海岸も風光明媚な観光地となっている。
交通
- 蘇澳港すぐ
- 蘇澳駅から台2戊線で南東へ約3km弱
- 宜蘭県市区公車緑28路(国光客運運行)が、この橋を経由して漁港を周回している[20]。
- 台北市の圓山転運站から国光客運南方澳站までを直通する、同社の国道客運(高速バス)1879路が運行されている。
周辺
- 西岸
- 海巡署南興安検所
- 南方澳南天宮
- 南方澳進安宮
- 南方澳金龍寺
- 珊瑚法界博物館
- 東岸
- 豆腐岬
- 豆腐岬海水浴場
- 内埤海灘
崩落事故
以下の日時は全て現地時間(UTC+8)。
軍の救出活動(2019年10月1日夕刻) | |
日付 | 2019年10月1日 |
---|---|
時間 |
9時30分ごろ(台湾標準時) (10時30分ごろ JST) |
場所 | 宜蘭県蘇澳鎮の南方澳大橋 |
死者 | 6人[21] |
負傷者 | 12人[21] |
2019年10月1日午前9時半ごろ、橋の中央部分が崩落した。3隻の漁船が巻き込まれ、橋上を通行中に落下したタンクローリーが橋脚付近に衝突したはずみで発火した[22]。13時時点で10人(フィリピン籍6名、インドネシア籍3名、タンクローリーの運転手中華民国籍1名)が医療機関に搬送され、少なくとも6人が漁船に取り残され行方不明となった[23][24]。また、救助活動の一環で海上にオイルフェンス敷設作業中だった海巡署職員2名が負傷し、近隣医療機関で手当てを受けた[25]。
橋の下には台湾電力(台電)の高圧電線があり、この事故の影響で2,400戸あまりが停電した。台電はバックアップ経路を使い、午前10時48分に全戸で復旧を完了している[26]。
不明者のうち2名は当日に、2名は翌2日に遺体が発見された[27][28]。3日午前11時、行方不明となっていた最後の1人が発見され、死者は6名となった[21]。
タンクローリーの運転手は橋の対岸にある漁港の台湾中油加油站(ガソリンスタンド)へ配送中だったが、事故を目撃した加油站職員により、火災が激しくなる寸前に救出された[29]。
国籍 | 負傷[23] | 死亡[30] |
---|---|---|
フィリピン | 6 | 3 |
インドネシア | 3 | 3 |
中華民国(台湾) | (民間人)1 | 0 |
公務員(海巡署)2 | ||
計 | 12 | 6 |
対応
行政
道路行政の監督官庁である交通部は橋の崩落原因調査のための調査チーム派遣を、漁港内の600隻以上の漁船が出港できないことに対しては行政院農業委員会が補償を表明している[31]。
8月に発足したばかりの国家運輸安全調査委員会は「道路事故と水路事故の複合は委員会として初の事例であり、正式な調査報告は最短でも半年後になる」と表明した[32]。
仮復旧
国防部はM3 水陸両用自走架橋車による支援を表明した[33]。海軍は2日より崩落した桁を切断し、航路を確保するための準備作業を開始した[34]。
3日午前9時25分、臨時航路(水深4メートル、残されたアーチの高さ11メートル)が開通し、小型漁船の通行が可能となった[35]。
4日、交通部は11月15日までにアーチ橋の撤去作業を完了させる方針であることを表明した[36]。
5日、交通部は10月9日午前8時から24時間港内を封鎖し、クレーン船を投入して撤去作業に着手すると発表した[37]。
10日、総重量200トンになるアーチリブ部分の鋼材が撤去された[38]。
14日、橋桁部分の撤去作業を開始した[39]。
23日、崩落に巻き込まれた漁船3隻の引揚と撤去が完了した[40]。
11月4日に橋桁の撤去作業が完了したことで5日から航路は正常化[13]。
民間
1日、鴻海精密工業創業者の郭台銘は、自身の慈善団体永齡教育慈善基金会を通じて宜蘭県政府に1,000万ニュー台湾ドルの、宜蘭出身でシャープ社長も務める鴻海副総裁の戴正呉も台湾シャープ(台灣夏普)名義で県政府に100万ニュー台湾ドルの寄付を表明した[41]。
また、慈済基金会が捜索活動に従事する軍の後方支援を行った[42]。
10月31日、台湾中油は事故当日に自社タンクローリーから運転手を救出したスタッフや漁民に感謝状を授与した[43]。
調査
南方澳大橋の完成後は、交通部傘下の公企業であり、基隆港務局などの再編と港湾業務分離民営化により2012年に発足した台湾港務公司が財産権を保有し、施設管理業務を行っていた。2016年に宜蘭県政府が健行科技大学に委託して橋梁の検査を実施し、判明した改善事項は港務公司により2017年から2018年の間に約1,000万ニュー台湾ドルを投じて補修されている。補修はコンクリートの修復や、鉄筋の錆取り、排水管修復、角鋼のエキスパンションジョイント交換などが含まれていた[3]。
施工を担当した立永営造公司については法人登記上は1985年に設立され、2002年ごろには廃業し、創業者も不明となっている。現在登記された住所には清掃業者が入居している[44]。
交通部では橋の基本資料は保有していたものの、政府調達や入札に関する「採購法」が施行された1999年以前の竣工であり、竣工図面は行政院公共工程委員会も把握していなかった[45]。
管理者の港務公司では前日9月30日の台風18号(アジア名:ミートク、現地名:米塔)や、当日未明に発生し、隣の南澳郷で震度4を観測した地震(M3.8)の影響を排除しないと述べている[46]。 この日は台風接近に備え、県全域で停班停課(県市単位で事前に予告される休業休校措置)が発令されていた[47])。しかし交通部によると、2016年から実施された外部委託による定期検査項目にケーブルのワイヤーの錆が含まれていなかったことが2日に判明し[48]、時代力量所属立法委員の黄国昌が追及の構えをみせている[49]。
2日、港務公司が天災を強調していたことについて、2016年の検査を担当した業者は「橋に深刻な錆が生じていたことに気づき、何度も港務公司に報告したが受理されなかった。」と証言し、構造工学者[注 5]の業界団体である新北市結構工程技師工会の理事長も「絶対に台風とは無関係」と反論している[50]。同様に現場を視察した台中市結構工程技師公会の理事長も、「崩落はワイヤーの錆が原因で、海上橋であることを考慮すれば、点検と補修が3年に1度では不十分で、毎年やらなければならないだろう」と述べた[51]。
新黨所属立法委員の李鴻鈞が立法院交通委員会での質疑で港務公司に対し橋の活荷重を尋ねたところ、港務公司は『49.27トン』と回答した。交通部公路総局によると台湾にある橋の大部分は40トン強(42トン)であり、南方澳大橋は設計では国の基準を大幅に上回りながら崩落するという矛盾した答弁となった[52]。
黄国昌は3日、立法院質疑および自身のFacebookで[53]、南方澳大橋は特殊設計の橋梁であり、ケーブルは交通部が定めた特殊橋梁における必須点検項目にもかかわらず同社の点検項目に含まれていなかったこと、および点検が目視によるものだけだったことを批判した [54]。台湾港務は2016年のみ点検を行ったと答弁で延べ、董事長は3日に交通部長に対し口頭で辞意を表明した[55]。
点検業務入札の不透明さ
健行科大が受注した点検業務自体についても同大教授が運営する自社企業に再発注していることや、入札審査の宜蘭県政府担当者が毎回同一人である不透明さを問題視している[56][57]。
7日、黄国昌は立法院質疑で「2018年の宜蘭県政府の点検報告書は点検担当者の氏名とともに担当者の顔写真を添付する様式だが、記入欄に健行科大教授とその妻の氏名があるものの、顔写真は教授本人のものしかないことや、目視検査のみだったにもかかわらず記録は「D=1(良好)」であるため、点検報告自体が杜撰ではないか?」と指摘した[58]。
8日、中鼎集団傘下の萬鼎公司が受注した新北市石門区の第二石門橋の検査業務について[59]、二重チェックのために検査と品質保証の2工程を別々の組織が行うべきところをいずれも健行科大教授が運営する萬喬豊公司に再委託にしていることが判明し、黄国昌は「プレーヤーと審判が同じ」と批判している[60]。[61]。
15日、黄国昌は立法院の質疑で、萬喬豊公司が請け負った南方澳大橋を含む複数の点検業務で無資格者を雇用していたことや、臨時職員に近親者の名が連ねられていたことを指摘、公路総局が管轄する橋ではその低水準のまま検査報告を受理されていたことなどを追及した[62]。
崩落のメカニズム
浙江工業大学教授を含む中華人民共和国の土木学者2名は、動画を解析して崩落のメカニズムを土木学会『中国公路学会』が発行している業界誌の『中国航路学報』で解説した。タンクローリーが通過後に13本あるケーブルのうち中央から東側へ1本隣のものが破断、中央から西隣の2本も破断し、橋が両岸から収縮する圧力が桁とアーチにかかり破断したと述べた[63][64]。
余波
交通部運輸研究所によると全国21県市にある21,000ヶ所のうち長さ6メートル以上の橋梁16,328ヶ所について23%が補修未着手であることが判明した。港務公司設立の2012年以降は同社に財産権も移転しており、直接の監督対象ではない[65]。 以下のように全国に数万ヶ所ある橋梁の管理組織は分散しており、橋梁局の設立が提唱されている[66]。
機関 | 橋梁数[65] | 検査頻度[65] | 備考 | |
---|---|---|---|---|
交通部直轄 | 公路総局 | 3,698ヶ所 | 最低毎年1回 | |
高速公路総局 | 2,753ヶ所 | 2年ごと | ||
台湾鉄路管理局 | 1,599ヶ所 | 毎年1回 | 6日、全国375ヶ所の橋梁を重点的に点検、1ヶ月以内に結果を公表すると表明した。特に本件と同様のアーチ橋(花蓮県の客城第1・第2鉄橋、苗栗県の鯉魚潭拱橋)も含めるとしている[67]。 | |
交通部 | 台湾港務公司 | 17ヶ所 | 自主検査 | |
(花蓮港務分公司) | 4ヶ所 | 前年落成の1ヶ所を除くコンクリート橋3ヶ所は2014年に点検と修理が完了しており、異常はなかった。2019年末から翌2020年にかけて再度定期検査を行う予定である[70]。 | ||
台湾高速鉄路公司 | 26ヶ所 | 毎年1回+2年ごとに精密検査 | ||
地方政府 | 21,526ヶ所 | 2-4年ごと |
|
関連事故
- 中興橋(台北市/新北市) - 1986年12月に崩落[76]
- 高屏大橋#崩落事故(屏東県/高雄市) - 2000年8月27日にの高屏渓に架かる高屏大橋で発生した崩落事故。22人が負傷した[77][78][79][80]。ただし原因は集中豪雨による増水によるもの。
- 東門橋(台中市) - 2001年に崩落、その後先述のアーチ橋が再建[76]。ただし原因は集中豪雨による増水によるもの。
- 后豊大橋(台中市) - 2008年に崩落[76]。ただし原因は集中豪雨による増水によるもの。
註釈
出典
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