卍
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/27 08:31 UTC 版)
用語
サンスクリット語でSvastika (デーヴァナーガリー表記: स्वस्तिक、スワスティカ、スヴァスティカ)と呼ばれる。英語の swastika やフランス語の svastika もこの語に由来する。現在の日本語では「まんじ」は漢字「卍」の訓読みとされているが、由来は漢語「卍字」または「万字」の音読みである。
「卍」は「左まんじ」・「左向きまんじ」・「正まんじ」、「卐」を「右まんじ」・「右向きまんじ」・「逆まんじ」と呼ぶ場合もある。「卍」は「和の元」、「卐」は「力の元」とされている。なお漢字では卐は卍の異体字である。
卍あるいは卐が変化した字が「万」であるとする説もある。大漢和辞典によれば「西域では萬の數を表はすに卍を用ひる。万の字はその變形である。」[3]藤堂明保らもこの説を採用している。[4]一方、『新字源』などでは「万」を浮き草の象形とする。「卍」の日本における訓読みは「まんじ」であり、「万字」の意である。音は「万」と同じく呉音「マン」、漢音「バン」。現代中国語では wàn と読む。康熙字典では「十」部4画に属し、総画数は6画である。
なお「卍山」で「かずやま」「まんざん」と読む[5]。
歴史
最も古いと知られている卍はウクライナのメジネで発見された、旧石器時代の紀元前1万年に象牙で彫られた鳥の置物での複雑な蛇行パターンの一部である。
ブルガリアの洞窟(en:Devetashka cave)では紀元前6000年頃に儀式で使用されたと思われる、対になった左向きと右向きの卍が発見された[6]。
インド亜大陸では紀元前3000年頃より考古学的証拠が見られる。
ドイツのハインリヒ・シュリーマンはトロイの遺跡の中で卍を発見し、卍を古代のインド・ヨーロッパ語族に共通の宗教的シンボルと見なした[7][8]。
ヒンドゥー教ではヴィシュヌ神の胸の旋毛(つむじ)、仏教では釈迦の胸の瑞相が由来で、左旋回の卍は和の元といわれ、右旋回の卐は、力の元といわれる。メソポタミアでも先史時代から見られ、その後アッシュルの新アッシリア神殿に天然アスファルトで描かれている[9]。
北イランのギーラーン州で発見された3200年前のネックレス
アジア
インド
インドにおいては卍は現在も吉祥の印として非常によく使われている。建物や機械の竣工式、新車の安全祈願などには、日本と同様神職(インドではバラモン祭司)が祭事を行うが、その時に吉祥の卍が水で溶いたサフラン色の顔料で描かれる(右写真参照)。祭事で卍を書く際には必ず右手の薬指が使われる。この模様は自然に消えるにまかせられ、清掃等で消さないよう配慮される。グジャラート州の結婚式では、米で卍の形を描き、その上に椅子を置いて花婿が座る、という儀式が行われる。
中国
中国には仏典を通して伝わり、シュリーヴァットサの音訳で「室利靺蹉」、意訳で「吉祥喜旋」、「吉祥海雲」などと漢訳された。鳩摩羅什や玄奘はこれを「徳」と訳したが、北魏の菩提流支(6世紀)は『十地経論』のなかで「萬字」と訳している。また、5世紀に翻訳された『長阿含経』「大本経」にも仏の三十二相の第十六として「胸有萬字」をあげている。武則天の長寿 2 年(693年)、「卍」を「萬」と読むことが定められた。吉祥万徳の集まる所の意味である。これにより卍が漢字として使われることにもなったが、熟語(卍巴・卍果など)は少ない。
日本
日本では、奈良時代の薬師寺本尊である中尊の薬師如来の掌と足の裏に描かれたものが現存最古の例とされる。卍を組み合わせた、紗綾形(さやがた)は安土桃山時代に明から輸入された織物に見られた文様で、染め物や陶磁器などに使用される(画像)。「卍崩し」「卍繋ぎ」「雷紋繋ぎ」ともいい、英語では key fret と呼ばれる。また、法隆寺など飛鳥時代から奈良時代の建築に見られる「卍崩しの組子」の組高欄(画像)は、卐を崩したものである。
家紋
卍紋、万字紋(まんじもん)は、仏教の吉祥を表す紋として用いられる。形状から日本のキリシタンが十字架の代わりともした。
卍紋を家紋として用いた氏族としては、平安後期から鎌倉初期の武蔵七党筆頭(小野)横山氏が「丸に左万字」、戦国時代から江戸時代以降では、加賀八家横山家が「丸に左万字」、大名では大給松平家、高木家は「左万字」、津軽家は「五つ割左万字」、蜂須賀家は「丸に左万字」、江戸幕府家臣では、60家ほどが『寛政重修諸家譜』に掲載されている[10]。幕末に活躍した吉田松陰の家紋は「五瓜(ごか)に左万字」である。津軽家の本拠であった青森県弘前市は卍紋を市章にしている。
地図記号
寺院を表す地図記号は卍の漢字を記号化したものが元になっている。1880年(明治13年)に決められた「佛閣」の記号として表記されたのが始まりである[11]。現在でも国土地理院が定めた地図記号として変わっていない。
文字コード
文字コードには、最初電波産業会が定めた FM 文字放送の放送規格である ARIB STD-B3(FM 多重放送の運用上の標準規格)で ARIB外字の道路交通情報用の文字として、国土地理院地形図の表示形態と同一になる文字として導入された[12]。この記号は正式にARIB STD-B24(デジタル放送におけるデータ放送符号化方式と伝送方式)で定められた文字と対応している[13]。データ放送で使用されている文字を国際標準とするため Unicode に提案され、2010 年にUnicode 5.2 に ARIB 外字が対応するように定められ、U+0FD6 の「࿖」(LEFT-FACING SVASTI SIGN) がこの文字に対応するとされた[14]。したがって、 U+0FD6 の文字は国土地理院の地図記号の形状にすることがよいとされる。
その他
台湾では台湾素食専門店を表すマークとして看板に表示した食堂、レストランを多くの街角にみることが出来る。
他には世界紅卍字会などでも使用された。
台湾の素食専門店を表す卍マーク
- ^ a b Powers, John (2007). Introduction to Tibetan Buddhism. Shambhala Press. p. 509. ISBN 978-1-55939-835-0
- ^ a b Chessa, Luciano (2012). Luigi Russolo, Futurist: Noise, Visual Arts, and the Occult. University of California Press. p. 34. ISBN 978-0-520-95156-3
- ^ 『大漢和辞典 巻一』(諸橋轍次著、大修館書店)104ページ「万」項「参考」欄
- ^ 『学研 新漢和大字典』(藤堂明保・加納喜光編、学習研究社)21ページ「万」項「解字」欄
- ^ 藤堂明保・松本昭・竹田晃・加納喜光 編『漢字源』学研教育出版、2011年、改訂第5版。ISBN 978-4-05-303101-3。P.208
- ^ Dimitrova, Stefania. “Eight Thousand Years Ago Proto-Thracians Depicted the Evolution of the Divine - English”. Courrier of UNESCO .
- ^ Schliemann, Heinrich (1875), Troy and its remains, London: Murray, pp. 102, 119-120
- ^ Boxer, Sarah (2000), “One of the world's great symbols strives for a comeback”, The New York Times, 2000-07-29[リンク切れ]
- ^ アンソニー・グリーン監修『メソポタミアの神々と空想動物』p52
- ^ 高澤等著『家紋の事典』東京堂出版 2008年
- ^ 地図のQ&A Q23:「卍」の記号を、寺院として地図記号に使用するようになったのはいつ頃? (日本語)
- ^ FM多重放送の運用上の標準規格
- ^ デジタル放送におけるデータ放送符号化方式と伝送方式
- ^ ARIB-Unicode Mapping Table
- ^ 視覚デザイン研究所編『ヨーロッパの文様事典』視覚デザイン研究所、2000年、ISBN 4881081519 p.215.
卍と同じ種類の言葉
- >> 「卍」を含む用語の索引
- 卍のページへのリンク