千日デパート火災 概要

千日デパート火災

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/05 14:35 UTC 版)

概要

1972年(昭和47年)5月13日、千日デパートの閉店時刻21時から1時間半ほど経った22時27分ごろ[4]、同デパート3階ニチイ千日前店北東側フロアの布団売場付近より出火した[15][24][33]。火は防火シャッターが閉まっていなかったエスカレーター開口部や階段出入口から上下階に燃え広がり、フラッシュオーバーを起こしながら2階から4階までの範囲に延焼した[24][34]。一方、火災で燃焼した建材や内装材、化繊商品から発生した一酸化炭素と有毒ガスを含んだ多量の煙がエレベーターシャフトや階段、空調ダクトなどの竪穴を通じて上層階へ流れ込み[35][36]、火災発生当時に7階で営業していたアルバイトサロン[注釈 6]「チャイナサロン・プレイタウン(千土地観光経営)」に充満した[37][38]。同店内に滞在していた181人の客やホステス、従業員らは[注釈 11]、火災の通報を受けられずに逃げ遅れ、煙に巻かれて7階に取り残された[39]。その結果、一酸化炭素中毒や窓からの飛び降り、救助袋の誤った使用方法によって脱出途中に地上へ落下するなどして死者118人、負傷者81人(プレイタウン関係者47人、消防士27人、警察官6人、通行人1人)にもおよぶ人的被害を出すに至った[9][39][40]。本件火災は、日本のビル火災史上最大の惨事である[注釈 7][注釈 8][41]

7階からの生還者は、消防隊のはしご車やサルベージシート(救助幕)で救助された者が53人(はしご車50人、サルベージシート3人)[42][43]、階段またはエレベーターを使用するなどして自力で7階から脱出した者が8人(救助袋の外側を馬乗りになって降下して助かった5人を含む)[39][43]、7階窓からデパートビル東側の商店街アーケード屋根へ飛び降りて助かった者が2人の合計63人である[43]。大阪市消防局は、管内の全消防車両の3分の1にあたる85台(救急車12台を含む)を消火防御および救助作業に投入した[5][44]。はしご車は、管内保有8台のうち7台が出場した[5][45]。消火作業にあたった消防士は596人にのぼった[5]。火災は翌朝14日5時43分に鎮圧した[5]。そして火災発生から9時間14分後の同日7時41分に鎮火した、と一旦は市消防局から発表された。しかし、15日未明に6階で再び小火(再燃火災)が発生したことから消火および防御活動が再開されたため、最終的に鎮火が確認されたのは15日17時30分であった。延焼範囲は2階から4階までで、床面積合計8,763平方メートルが焼失した[5]

火災の原因は、3階で電気工事を行っていた工事関係者によるタバコの不始末であると推定されたことから[46][47]、火災発生翌日の14日深夜、電気工事監督の男性が現住建造物重過失失火などの容疑で大阪府警・南署に逮捕された[48]。しかしながら、容疑者による失火の明確な証拠はなく、火災発生時の容疑者の行動が特定できないことや、警察での取り調べに対して供述を二転三転させるなど信用性が疑われたため、最終的に電気工事監督の男性は不起訴処分となった[49]。のちの防火管理者などに対する刑事裁判の判決理由において、出火原因は不明とされた[6][7]。また日本ドリーム観光・千日デパート管理部の管理部次長と同管理課長[50]、プレイタウンの支配人[50]、プレイタウンの経営会社代表取締役業務部長[50]の計4名が防火管理責任と注意義務を怠ったとして業務上過失致死傷の容疑で書類送検され、その後に同罪で起訴された[48]。公判中に死亡したデパート管理部次長(公訴棄却)を除く3名の被告が、それぞれ一審で無罪となった[51]。その後、検察側が控訴し、控訴審で原判決破棄により一転して有罪となり[52]、判決を不服として被告側が上告した。上告審では上告棄却決定により被告3名の有罪が確定した[53]

本件火災の犠牲者遺族会および千日デパートに入店していたテナント団体によって、日本ドリーム観光(デパート経営者)やニチイ(出火元)などに対して損害賠償請求訴訟が提起された[54][55]。また日本ドリーム観光とニチイの双方間でも損害賠償請求訴訟が提起された(提訴と反訴)[56]。遺族会は、日本ドリーム観光などの火災関係4社が91遺族に対して総額18億5,000万円の賠償金を支払うことで合意したことを受け、和解に応じた[57]。テナント訴訟は、テナント側が日本ドリーム観光に対して保安管理契約に基づく債務不履行による責任の有無、休業損失とその補償、商品や資産損失に対する賠償、火災以前と同じ条件で再出店できる保証を求めて争った[58]。その結果、中間判決を経て賠償金約8億円と保証が一部を除いて認められ[58][59]、新ビルオープンの際には以前と同じ条件で再出店できる保証を日本ドリーム観光に認めさせ、双方の間で即決和解が成立した[60]。テナント側とニチイ間の損害賠償請求訴訟も双方が和解し、ニチイがテナント側に慰謝料1億5,000万円を支払うことで決着した[61]。日本ドリーム観光とニチイの間で争われた損害賠償請求訴訟は、ニチイ側が日本ドリーム観光に対して解決金として16億5000万円を小切手で支払うことで和解が成立した[62]

千日デパート火災は、高層ビル火災においては炎による「火害」よりも煙や有毒ガスによる「煙害」こそが最も恐ろしいことを日本国民に知らしめた[63]。閉店後に売場や階段、エスカレーターの防火シャッターを閉めることの重要性が指摘され、火災時にエレベーターシャフトやダクトなどの「竪穴」を閉鎖することも被害軽減には必要不可欠であると認識されたが、本件火災では、そのいずれもが疎かになっていたことで被害が拡大した[63]。多くのテナントがいくつも入店する複合用途として使われる商業雑居ビルでは、異なる管理権限者が共同防火管理を行い、平素から災害時における避難誘導などの対応を協議しておくことが必要であるが、千日デパートでは、ビルの管理者とテナントの間で防火管理者同士の話し合いや取り決めは何も成されておらず、効果を伴う避難誘導訓練もほとんど実施されていなかった[15][64][65]。その不手際によってビル管理者から7階風俗店への火災通報の欠如を招き、人的被害拡大に繋がる最大の要因になった[9]。またスプリンクラーなどの消防用設備、救助袋などの避難設備、非常階段や非常扉の建築設備面などに未設置や保守点検の不備が多くあり、7階風俗店の防火管理者や従業員による客らに対する避難誘導の欠落、救助袋の誤った使用なども相俟って人的被害拡大に更なる追い打ちをかけた[66][67]

本件ビル火災は、未曾有の人的被害を出したことから日本社会全体に危機感が広がり、雑居ビルや商業ビルを中心に消防当局による緊急の査察が全国規模で実施された。その流れを受けて全国で避難訓練や消防訓練を行う事例が相次ぎ、国民の間で防火および避難に対する関心が高まった。消防当局の査察結果から、ビル火災の再発防止および避難の円滑化、煙害軽減への提言が成され、国や地方自治体が対策に乗り出した。その結果、国会審議などを経て消防法令および規則の改正、建築基準法令の改正が公布、施行されるきっかけとなった。また翌年11月に起こった大洋デパート火災と本件火災を契機に、既存の消防用設備および建築設備を最新の法令や技術基準に適合させるための遡及適用を行う法改正も実施された[68][69]

当記事では、冒頭で千日デパートおよび千日デパートビルについて、火災によって多くの犠牲者を出した7階プレイタウンについて説明を加え、その後に火災の詳細を記述する。








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