千日デパートビル火災事件 上告審決定

千日デパートビル火災事件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/17 02:01 UTC 版)

上告審決定

1990年(平成2年)11月29日、最高裁判所第一小法廷(裁判長裁判官・大堀誠一)で開かれた上告審において、裁判官全員一致の意見で決定が言い渡され[5]、主文は「本件上告を棄却する」とされ[115]、最高裁は原審判決を支持した。これにより3被告人の有罪が確定した[21][23]

最高裁判所は、被告弁護人1名の上告趣意のうち、憲法38条3項違反を主張したことについて、被告人C(プレイタウン支配人=同店防火管理責任者)の捜査段階での自白調書のみによって同被告人を有罪にしたものでないことは明らかであるから前提を欠く、とした。また、その他の主張については、意見を言うことを含めて、実質は事実誤認および法令違反の主張であり、さらに被告弁護人4名の上告趣意についても、事実誤認および単なる法令違反の主張であるから、いずれも適法な上告理由に当たらない、とした。最高裁判所は、決定にあたり被告人A(日本ドリーム観光・管理部管理課長=千日デパート防火管理者)、同B(千土地観光・代表取締役業務部長=プレイタウン管理権原者)、同Cの過失責任について、職権によって検討を加えた[115]

被告人Aの過失について

(論旨)最高裁は被告人Aの過失について「千日デパートを経営管理する日本ドリーム観光は、夜間閉店後に店内工事が行われる場合、売場に大量の商品や可燃物が置かれている状況では火災が発生した場合に延焼拡大する恐れがあったので、可能な限りの防火対策を講じる注意義務があった。防火区画シャッターを可能な範囲で閉鎖し、保安係員を工事に立ち会わせたうえで、万が一に火災が発生した際には速やかに同シャッターを全て閉鎖し、消火作業を行うと同時にプレイタウンに火災発生を通報することで被害は最小に抑えられるのであり、右限度において同社は注意義務を負っていた。そのうえで被告人Aには、デパートビルの防火管理者として防火対策を実行する権限および履行可能性があったのであるから、各注意義務に違反して本件結果を招いた同被告人には過失責任がある」とした。

  • 原判決では「本件火災の拡大を防止するためには、デパート閉店後に1階から4階までの売場内の防火区画シャッターを全部閉め(3階の自動降下式の4枚を除く)、工事が行われている場合は、工事に関連する防火区画シャッターのみを開け、保安係員を工事に立ち会わせ、あらかじめ開けておいたシャッターについては、いつでも閉鎖できるような体制を整えておくべきであり、被告人Aが右義務を履行できなかったような事情は認められない」として、その注意義務を肯定した[1]
  • 閉店後の千日デパートで火災が発生した場合、従業員が不在になった各売場には多量の商品や可燃物が置かれているのであり、また5名体制の保安係員による防火および防犯等の保安管理は脆弱な状況下にあったので火災が容易に拡大する恐れがあった。したがって日本ドリーム観光としては、火災の拡大を防止するために法令上の有無を問わず、可能な限り様々な措置を講ずるべき注意義務があったことは明らかである。本件火災に限定して考えると、夜間工事が行われていた3階売場の防火区画シャッターを一部を除き全部閉鎖し、保安係員またはこれに代わるものを工事に立ち会わせ、出火に際しては直ちに出火場所側の防火区画シャッターを閉める措置を講じるとともに、プレイタウン側に火災発生を連絡する体制を採っておきさえすれば、煙は防火区画シャッターで区切られた部分に封じ込められ、7階プレイタウンへの煙の流入量を減少させることができたはずであり、保安係員またはそれに代わるものが保安室を経由してプレイタウン側に火災発生の連絡が入ることと相俟って、同店の客及び従業員を避難させることができたと認められる。日本ドリーム観光としては、すくなくとも右の限度において注意義務を負っていたと言うべきであり、原判決においても肯定されていると解される[1]
  • 日本ドリーム観光の千日デパート管理部管理課長であり、千日デパートの防火管理者である被告人Aとしては、自らの権限により、上司である管理部次長の指示を求め、工事が行われる本件ビル3階の防火区画シャッター等を可能な範囲で閉鎖し、保安係員またはこれに代わる者を立ち会わせる措置を採るべき注意義務を履行すべき立場にあったと言うべきであり、右義務に違反し、本件結果を招いた被告人Aには過失責任がある[1]
最高裁判所第一小法廷、判例時報1991(1368)

被告人Cの過失について

(要旨)最高裁は被告人Cの過失について「右被告人はプレイタウンの防火管理者として同店に滞在する客や従業員らに対して火災発生の際に避難誘導するなどして安全を担保する注意義務がある。平素から避難経路を策定し従業員を指導したうえで避難誘導訓練をおこない、救助袋の保守管理と同器具を使用した避難訓練をおこなう注意義務もあった。本件火災に際してデパート保安係から火災通報を受けられなかった事情があったとしても、各注意義務を怠った被告人Cの過失は明らかである」とした。

被告人Cは、プレイタウンの防火管理者として、平素から救助袋の維持管理に努め、従業員を指揮して客らに対する避難誘導訓練を実施し、煙が店内に侵入した場合、従業員は速やかに客らをB階段に誘導し[注釈 7]、あるいは救助袋を使用して避難させることにより、客らに対して避難の遅延による事故発生を未然に防止すべき注意義務があった。 被告人Cは、あらかじめ階下からの出火を想定し、避難のための適切な経路の点検をおこなっていれば、B階段が安全確実に地上に避難できることができる唯一の通路であるとの結論に達することは十分可能であったと認められる。被告人Cは、建物の高層部で多数の遊興客を扱うプレイタウンの防火管理者として、本件ビルの階下において火災が発生した場合、適切に客らを避難誘導できるように、平素から避難誘導訓練を実施しておくべき注意義務を負っていたと言うべきである。したがって、保安係員らがいずれもプレイタウンに火災の発生を通報することを全く失念していたという事情を考慮しても、右注意義務を怠った被告人Cの過失は明らかである[1]
最高裁判所第一小法廷、判例時報1991(1368)

被告人Bの過失について

(要旨)最高裁は被告人Bの過失について「右被告人はプレイタウンの管理権原者であり、同店の防火責任者である部下の被告人Cと同様の注意義務があった。また被告人Cが防火管理業務を適切に実施しているかを指導監督する注意義務があったが、それを怠った被告人Bの過失は明らかである」とした。

被告人Bは、プレイタウンの管理権原者として、同店の防火管理者である被告人Cとともに、右被告人が負っていたのと同様の注意義務があった[1]被告人Bは、救助袋の修理または取替えが放置されていたことなどから、適切な避難誘導訓練が平素から十分に実施されていないことを知っていたにも関わらず、管理権原者として、防火管理者である被告人Cが防火管理業務を適切に実施しているかどうかを具体的に監督すべき注意義務を果たしていなかったのであるから、この点で被告人Bの過失は明らかである[5]
最高裁判所第一小法廷、判例時報1991(1368)


以上の検討結果および原審判決を支持したうえで、最高裁判所は3被告人について、最終的な決定を言い渡した。

最終結論

よって、刑事訴訟法414条[注釈 25]、386条1項3号により[注釈 26]、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する[5] — 最高裁判所第一小法廷、判例時報1991(1368)

→冒頭インフォボックス「最高裁判所判例」も参照のこと。


注釈

  1. ^ 素人の女性がアルバイト感覚で客を接待する大衆サロンのこと。キャバクラの元祖。昭和30年代から昭和40年代にかけて主に関西で流行った。別名アルサロとも呼ばれる。
  2. ^ 検察および裁判所が認定した負傷者42人は、全体の負傷者81人のうち、消防士および警察官などのプレイタウン関係者以外の負傷者34人を含めていない。つまり被告人らの過失によって負傷させられたと認定した負傷者数が42人ということである。プレイタウン関係者の負傷者は合計47人であるが、そのうちの5人については、被告人らの過失による負傷とは認定されなかった。
  3. ^ 刑法第211条前段 業務上過失致死傷罪等=業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。
  4. ^ 主要な煙の侵入経路は階段E、Fからであるが、その他の経路としてはプレイタウン専用南側(A南)エレベーター昇降路の2階および3階の天井付近に、手抜き工事によってできたと推定される隙間が開いており、その部分から煙が流入し7階へ上昇した。また3階から7階までを竪穴で垂直に繋ぐ空調ダクト内に設置されていた防火ダンパーが火災発生時に機能せず、事務所前のダクト開口部から煙と熱気が噴出した。
  5. ^ 閉鎖については、ボタンを押すことでシャッターの自重により降下する仕組みで、作業は容易だった。
  6. ^ ハンドルを10回転させたときのシャッター巻き上げ量は約14センチメートルであるから、防火区画シャッターの高さ(長さ)が2.64メートルであることを考えると、巻き上げ完了までに約189回転を要する。裁判所に提出された「防火シャッター開閉所要時間等調査結果報告書」の実験結果によれば、巻き上げ所要時間はハンドルの重さ、疲労による作業効率の低下を考慮しても急ぎで1分20秒、通常で2分半程度である。
  7. ^ a b c B階段とは、プレイタウン専用の南側(A南)エレベータ―西隣に設置されていた特別避難階段である。鉄扉が二重に設置され附室(バルコニー)が備わっていた。7階を除いて他の階の出入口は常時施錠されており、普段から事実上プレイタウン専用階段になっていた。
  8. ^ 1970年9月29日、南消防署主催・防火研究会(福田屋百貨店火災)。被告人A欠席。代理で保安係長が出席。 1970年10月3日、大阪市消防局・説明会(福田屋百貨店火災)。被告人A出席。
  9. ^ 福田屋百貨店火災(宇都宮市)=1970年9月10日早朝4時ころ、地下1階から出火。地下2階を除き8階建ての建物13,285平方メートル(延床面積の92パーセント)が焼損した。負傷者9人。火災原因は不明だが、エスカレーター増設工事に用いた溶接の火花が関係しているとの見方がある。竪穴区画の不備、閉店後の防火区画シャッター開放により建物全体に延焼した。
  10. ^ 1971年5月25・26日、大阪市消防局・夜間査察(田畑百貨店火災)。被告人A立会い。
  11. ^ 1971年6月上旬、南消防署・管内百貨店特別点検(田畑百貨店火災)。被告人A立会い。
  12. ^ 1971年6月1日、大阪市消防局・夜間査察の結果説明および防火指導会(田畑百貨店火災)。被告人A出席。
  13. ^ 1971年6月11日、南消防署・特別点検の結果説明会(田畑百貨店火災)。被告人A出席。
  14. ^ 次のシャッターへ移動する時間も含まれる。
  15. ^ 「職務分掌」とは、企業組織などにおいて職務上の役割や職責を明確化すること。
  16. ^ a b 「キャビネットを取り除き、投げ綱の砂袋を先頭に投下し、袋本体を降下させ、入口枠を起こして、下部取付完了を確認のうえ、降下してください」と表示されていた。
  17. ^ 刑事訴訟法第336条 無罪の判決=被告事件が罪とならないとき、又は被告事件について犯罪の証明がないときは、判決で無罪の言渡をしなければならない。
  18. ^ 「趣意」とは、物事をおこなう際に表明する目的、意見、考えのこと。
  19. ^ 「所論」とは、意見を主張し論じること。
  20. ^ 大阪高裁が証拠として採用したのは被告人Cの以下の供述である。「エレベーターの様子を見るため、急ぎ足で午後10時40分過ぎころ、アーチとクロークの中間付近まで行ったが、その時点では、南側(A南)エレベーター昇降路から流入する煙はそれほど多くなく、右エレベーター付近にいた客やホステスら7~8人は、平穏にエレベーターを待っている様子であったため、これなら混乱なく客を送り出すことができると考え、しばらく同所に立って様子を見ているうちに、午後10時42~43分ころ、南側(A南)エレベーターの昇降路から流入する煙が急激に増加し、右エレベーター前からクローク前付近一帯に煙が充満し始め、暗くなって来たことから、客やホステスらを早急に避難させねばならないと考えるに至り・・・」という内容である。
  21. ^ 被告人Cの煙に関する証言が最も信用できる根拠は、火災直後と火災4か月後に警察の取り調べに対して供述した内容が一貫していること、同被告人の記憶が鮮明なうちに調書が作成されていること、「煙立体図面」なるものは作成者の描画力によって違いがあり、異なる図面を比較することが信頼性の面で困難であること、客などの証言によって作成された図面は、どの時刻の状況なのか定かではなく、客観的な証拠と成り得ないことなどが挙げられる。
  22. ^ 「失当」とは、その主張自体に意味がなく、道理に合わないこと。的外れな主張。
  23. ^ 原審説示によれば「当直保安係員は通常5名のうちの1名が通用口受付、1名が保安室で監視業務を担当していて、防火区画シャッター閉鎖に割ける人員は3名」と認定した。検察の所論では「9時30分までは受付要員は不要であり、4名で右シャッター閉鎖を担当できる」と主張したが、大阪地裁は「9時30分以前でも外部から館内へ人の出入りがあり、受付要員1名は必要」として、検察の所論は採用されなかった。
  24. ^ a b 大阪科学技術センタービル火災(大阪市西区)=1984年4月4日11時30分ころ発生。何者かが仕掛けた時限発火装置から出火し、建物の3階部分473平方メートルを焼損。13時25分ころ鎮火した。滞在者679人は、施設管理者の適切な避難放送と避難誘導によって全員が避難に成功した。猛煙に巻かれた人は219人いたが、人的被害はCO中毒8人で済んでいる。同時に大阪府庁舎でも火災が発生し、大阪府警は犯行の手口や犯行声明から中核派によるゲリラ事件と断定した。
  25. ^ 刑事訴訟法第414条 控訴に関する規定の準用=前章(上告)の規定は、この法律に特別の定のある場合を除いては、上告の審判についてこれを準用する。
  26. ^ 刑事訴訟法第386条1項3号 控訴棄却の決定=控訴趣意書に記載された控訴の申立の理由が、明らかに第377条ないし第382条および第383条に規定する事由に該当しないとき。

出典

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