千と千尋の神隠し
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千と千尋の神隠し | |
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Spirited Away | |
監督 | 宮崎駿 |
脚本 | 宮崎駿 |
原作 | 宮崎駿 |
製作 | 鈴木敏夫 |
製作総指揮 | 徳間康快 |
出演者 |
柊瑠美 入野自由 夏木マリ 内藤剛志 沢口靖子 上條恒彦 小野武彦 菅原文太 |
音楽 | 久石譲 |
主題歌 | 木村弓 「いつも何度でも」 |
撮影 | 奥井敦 |
編集 | 瀬山武司 |
制作会社 | スタジオジブリ |
製作会社 | 「千と千尋の神隠し」 製作委員会 |
配給 | 東宝[1] |
公開 |
2001年7月20日 海外:参照 |
上映時間 | 124分 |
製作国 | 日本 |
言語 |
日本語 (各言語による吹替・字幕) |
興行収入 | 316億8,000万円[2][注 1] |
制作のきっかけは、宮崎駿の個人的な友人である10歳の少女を喜ばせたいというものだった。この少女は日本テレビの映画プロデューサー、奥田誠治の娘であり、主人公・千尋のモデルになった[9]。企画当時宮崎は、信州に持っている山小屋にジブリ関係者たちの子供を集め、年に一度合宿を開いていた。宮崎はまだ10歳前後の年齢の女児に向けた映画を作ったことがなく、そのため彼女らに映画を送り届けたいと思うようになった[10]。
宮崎の友人である映画監督ジョン・ラセターの尽力によって北米で公開され、第75回アカデミー賞ではアカデミー長編アニメ映画賞を受賞した[11][注 2]。2016年のイギリスBBC主催の投票では、世界の177人の批評家が「21世紀の偉大な映画ベスト100」の第4位に選出した[12]。2017年にはニューヨークタイムズ選定21世紀最高の外国語映画ランキングで2位に選ばれた[13]。
2016年に行われたスタジオジブリ総選挙で1位に輝き、同年9月10日から19日の10日間、全国5か所の映画館にて再上映された。2020年6月26日より日本372の劇場で『風の谷のナウシカ』『もののけ姫』『ゲド戦記』とともに再上映され[14]、週末観客動員数で1位となった[15](#再上映も参照)。2022年に舞台化。
あらすじ
10歳の少女荻野千尋は、両親と共に引越し先のニュータウンへと車で向かう途中、父の思いつきから森の中の不思議なトンネルから通じる無人の町へ迷い込む。そこは八百万の神々が住む、人間が足を踏み入れてはならない世界だった。町の怪しい雰囲気を怖がる千尋をよそに、探検気分の両親は食堂街の中で一軒だけ食べ物が並ぶ無人の飲食店を見つけ、店員が来たら代金を払えばいいと勝手に食べ物を食べ始めてしまう。両親の誘いを断って食堂街を一人で歩く千尋は、旅館のような大きな建物の前の橋に着き、橋の下を走る電車を見ていた。背後からの気配に気づいて振り返ると少年が立っており、彼は強い口調で「すぐに戻れ」と言う。急速に日が暮れる中[16][17]、両親を探すが、店では両親の服を着た大きな豚が二匹いて、食べ物を食い散らかしていた。千尋の両親は神々に出す食べ物に手をつけた咎で、豚にされてしまったのだ。夜になり[18][19][20]、千尋はトンネルに戻ろうと食堂街の出口に来るが、昼は草原だった場所が大河に変わっており、船から降りてくる怪物のような者達を目にしたことでこれは悪い夢だと思い込む。悪夢が消えることを願って自分が消滅しそうになるが、先程の少年ハクに助けられる。
ハクは、八百万の神々が客として集う「油屋」という名の湯屋で働いていた。油屋の主人は、相手の名を奪って支配する恐ろしい魔女の湯婆婆で、仕事を持たない者は動物に変えられてしまうと千尋に教える。千尋は、雇ってくれるよう湯婆婆に懇願し、契約の際に名を奪われ「千」と新たに名付けられ、油屋で働くことになる。ハクは、本当の名前を忘れると元の世界に戻れなくなると忠告する。ハクもまた名を奪われ、自分が何者であったのかを思い出せずにいたのだ。しかし、彼はなぜか千尋を知っており、自分の名前は忘れても千尋のことは覚えているのだという。一方、千尋にはハクの正体に心当たりがない。
ブタにされてしまった両親を助けるため油屋で働き始めた千尋だったが、彼女は人間であるという理由で油屋の者達から嫌われる。おまけに悪臭とひどい汚れの客の相手まで押しつけられるが、彼女の実直な働きにより、客から大量の砂金が店にもたらされると、千尋は皆に一目置かれる存在になる。千尋は世話をした礼としてその客から不思議な団子を貰う。
翌日の昼[21]、竜の姿のハクは湯婆婆の命令により、彼女と対立している双子の姉の銭婆から、魔女の契約印を盗み飲み込む。強い魔力を持つ銭婆は、ハクに契約印の守りのまじないとヒトガタで重傷を負わせるが、彼は傷つきながらも最上階の湯婆婆の部屋に向かう。傷ついたハクを従業員部屋から見た千尋は、彼を助けようと後をおって、湯婆婆の部屋に入る。その時、千尋の背中にくっついていたヒトガタから銭婆が現れ、千尋の後を追って部屋に入ってきた湯婆婆の息子の坊をネズミに変えてしまう。その隙にハクが尾でヒトガタを叩き破ると銭婆は消える。その後、千尋がハクに不思議な団子の半分を飲み込ませ、体内の契約印と虫を吐き出させ元の姿に戻すが、ハクは衰弱しており気絶する。千尋はハクを助けたい一心で、ボイラー室の老人釜爺から電車の切符を受け取り、危険など顧みずに銭婆の所へ謝りに行く事を決意する。
その頃、客室ではカオナシという化け物が従業員を飲み込んで暴れていた。カオナシは以前客だと思い込んだ千尋に親切にされ、湯婆婆の部屋に行く途中の彼女と再会した際、砂金で千尋の気を引こうとするが、断られてしまっていた。再び彼女と対面したカオナシは、食べ物で千尋の気を引こうとするが千尋は拒否。逆に千尋は団子の残りの半分を彼に食べさせ、カオナシに飲み込まれた従業員達を吐き出させて助ける。そして千尋は、なぜかついて来た坊と、油屋から誘い出したカオナシを伴って銭婆の家を訪れる。銭婆は千尋を穏やかに受け入れ、千尋は銭婆に魔女の契約印を返しハクの行いを謝る。銭婆は千尋に旅の仲間と協力して作った紫の髪留めを贈り、カオナシは銭婆の家の手伝いに雇われる。
一方、目を覚ましたハクは、坊が銭婆の元へ行っている事を湯婆婆に伝える。ハクは坊を連れ戻す事を条件に千尋と両親を解放するよう迫った後、帰る手段のなかった千尋を竜の姿で迎えにいく。ハクは銭婆から許しを得て、千尋と共に油屋への帰路につく。その途中で、千尋は自分が幼い頃に落ちた「川」がハクの正体である事を思い出し、彼女が川の名前を告げた事でハクは本当の名前を思い出す。ハクは、落とした靴を拾おうとして溺れかけた千尋を、浅瀬に運び助けたのだった。
翌朝[22]、臨時休業をしている油屋に帰ったハク達。ハクが千尋と彼女の両親を解放するよう湯婆婆に要求すると、今や千尋の味方となった従業員達もハクに賛同する。味方がいなくなり怒る湯婆婆は、油屋の前に集めたブタの中から両親を言い当てろと千尋に難題を出す。千尋はブタ達を真剣に見つめると、この中に両親はいないと正解を言い当てる。湯婆婆の目論見は外れ、契約書が消滅した事で千尋は晴れて自由の身となり、従業員達に祝福されながら油屋を去る。
昼になり[23]、異世界と人間界の境界のトンネルに帰るため食堂街の出口に着くと、夜は大河に変わっていた所が草原に戻っていた。見送るために一緒に来たハクは千尋に、この先には一人で行く事、この先の帰り道でトンネルを出るまでは振り返ってはいけない事、湯婆婆の弟子を辞めて自分も元の世界に戻るつもりである事を伝え、再会を約束して別れる。千尋は草原を歩き続けると、人間に戻った両親がトンネルの前で何事もなかったかのように待っていた。千尋は思わず振り返りそうになるがハクとの約束を思いだし必死に我慢して振り返らず、トンネルを抜けて人間界に戻った千尋が振り返ると、トンネルは最初に来た時とは違う姿に変わっていた。その後、再び車に乗って引越し先に向かう所で物語は幕を閉じる。
登場人物
主要人物
- 荻野 千尋(おぎの ちひろ) / 千(せん)
- 声 - 柊瑠美
- 本作の主人公である10歳の少女[24]。荻野家の一人娘。すぐいじけて我儘を言ったり両親に頼ろうとする、典型的な都会育ちの一人っ子、現代っ子気質。悪く言えば怖がりだが良く言えば慎重で、家族の中で唯一入る前から異界を怪しんでいた。焦げ茶色の髪をポニーテールにしている。私服は白色に黄緑色のラインが入った半袖Tシャツに桃色の半ズボン。靴下は白、靴は黄色。一人称は「私」。二人称は「あなた」である。千尋やリンを含む湯屋の下働きの少女達の制服は、上下共に桃色の水干[25][注 3]、裸足、何も被らない(水干の上着が桃色とは違う色の少女や水干の袴が桃色とは違う色の少女もいる) 。ちなみに大人の従業員のナメクジ女の制服は2つあり、1つは烏帽子を被り、白い着物の上に赤い袴、白い足袋に草履(赤い袴に桃色とは違う色の水干の上着の女性や袴が赤とは違う色の女性もいる)。もう1つは何も被らず、色や柄のついた着物、裸足に草履。千尋やリンを含む従業員の多くが、掃除や調理の時などにたすきをつける。
- 両親と共に新しい町へ引っ越してきた日に異界へと迷い込んでしまう。彼女の体が消えかけた時、ハクが丸薬を食べさせ元に戻してくれた[27][28]。神への料理を勝手に口にした罰を受けブタにされてしまった両親を人間に戻し、元の世界に帰る為に湯屋「油屋」の経営者である湯婆婆と契約を交わした事で名前を奪われ、「千」と名づけられ下働きをし始める。
- 唯一事情を知った上で、味方をしてくれるハクが差し出した「千尋の元気が出るようにまじないをかけて作った」おにぎり(具のない塩むすび)を食べ、ずっと自分を心配してくれていたハクの優しさと思いやりに触れた事で、大粒の涙を流し感情を露わにする。また、ハクが保管してくれていた私服の中に、引っ越しの際に友人から贈られたメッセージカードを見つけ、自身の名前を忘れかけていた事に気づいた。
- 初めは礼儀知らずで仕事の手際も悪かったが、湯屋での経験を通じて適応力や忍耐力を発揮していき、釜爺やリンとも交流を深める。リンによると、兄役から「リンと千、今日から大湯番だ。上役の命令だ」と言われ、二人がさせられた大湯番は本当はカエル男の仕事であり[注 4]、大湯は汚れた客専門の風呂[注 5]。大湯はカエル男達の千尋への嫌がらせで[31]、風呂釜の中も周りも全く掃除されていなかった。だが釜は後でためた薬湯のおかげで綺麗になった。釜の中を掃除中の千尋にカオナシが渡そうとして、彼女が断り、彼が姿を消す時に落とした大量の薬湯の札の中の一枚を、オクサレ様が風呂に入った後千尋が使い、足し湯ができたので、カオナシと廊下で再会した時に「あの時はありがとうございます」と言った[32]。
- オクサレ様を接客した際には、余りの悪臭に鼻を両手で塞いでしまい湯婆婆に叱られたり、ヘドロ塗れ[注 6]の料金を (ロマンアルバムでは小判[34]、絵コンテでは小判と穴あき銭と記述[33]) 、受け取ると悲鳴を上げて身震いしていた。しかし彼の体にトゲのような物が刺さっており苦しんでいる事を確認すると、従業員達と協力して体から大量のごみを引っ張り出し元の河の神の姿に戻す。河の神を送り出した後、ごみに混じって砂金が発見された為湯屋に大きな儲けをもたらし、湯婆婆からよくやったと抱き締められる。この一件から、最初は人間である事から彼女を嫌っていた従業員達からも認められ周囲になじみ始める。
- 物語終盤ではカオナシ[注 7]にニガダンゴ[36]を食べさせ、飲み込まれた従業員達を助け、魔法で傷ついたハクをダンゴで救い[37]、銭婆とも和解させ、過保護に育てられた坊の親離れに一役買うなど活躍する。ボイラー室で重い石炭を燃える火の中に投げ入れたり、ダンゴを飲み込ませる為竜の姿のハクの口を力づくでこじ開けるなど、見かけによらずパワフルな面もある。彼女は最初、ダンゴを両親に食べさせようと思い、河の神から貰ったその日に一口味見をし、非常に苦かったのであんまんを猛烈な勢いで食べた[38]。就寝時、大量のブタの中の両親を見分けられずダンゴを食べさせられなかったという悪夢を見た。ハクがダンゴにより吐き出した銭婆のハンコに、湯婆婆により彼の体内に入れられた虫がくっついていたが、虫が苦手な千尋が踏み潰した。千尋はその虫が、ハンコの守りのまじないだと思い込み、銭婆に踏み潰した事を謝った。
- 銭婆の家から戻る際に自身とハクの出会いを思い出し、川の名を呼び、ハクに本名を思い出させ、湯婆婆の支配から解放する。湯婆婆からの謎かけに見事正解した事で無事に元の世界に戻れた。見送りに来たハクとは再会を約束して別れた。湯屋を去る時、皆に「みんなありがとう」「お世話になりました」と挨拶をした。
- 宮崎のインタビューでは、千尋が油屋に迷い込んだ期間は3日程度としている(ただし最初に迷い込んできた日を1日目とすると、4日目で元の世界に戻れたという事になる)。
- 契約書に自分の名前を書くシーンでは、「荻」ではなく「获」と書いている[39][40]。
- 千尋役のオーディションには女優の本仮屋ユイカも参加していた[41]。
- ハク / ニギハヤミコハクヌシ
- 声 - 入野自由
- 油屋で働いている色白の謎の美少年。外見年齢は12歳[42][43]。湯屋の男の従業員の中で彼だけが子供に見え、彼の制服の水干は上着が白、袴が青、裸足に草履、何も被らない。緑がかった黒いおかっぱ頭で、常に涼しい顔をしている。湯婆婆の弟子であり魔法使いとしては見習いだが[43]、番頭として湯屋の帳簿を預かっている為従業員達から一目置かれている[44]。作中で初めて千尋と会った時から人間である彼女を助けており、心の支えにもなっている。一人称は「私」。橋の上で湯屋に向かって自分のうろこを吹き飛ばし、目くらましをかけ、従業員達や客達から千尋の姿を見えなくし[45][46]、人間の匂いも遮る。だがこの魔法は、千尋が橋を渡り始めた時から渡り終わるまで息をしなかった場合に効く。彼女が息をすると魔法が解け、皆に彼女の姿が見え、人間の匂いを出す(魔法が解けた時、湯屋の従業員達が「匂わぬか。人が入り込んだぞ」「人臭いぞ」と発言[47])。千尋に丸薬を食べさせた後、腰を抜かし立てなくなった彼女の足の上に手をかざし、「そなたの内なる風と水の名において、解き放て」という呪文をかけ、足が動くようにした[48][49]。食料倉庫の裏口の戸に手をかざして開閉したり、千尋に魔法で湯屋の外階段とボイラー室を見せたりした。
- 釜爺によれば、千尋と同様に突然湯屋に現れ、湯婆婆の弟子になる事を懇願したという。釜爺は「魔女の弟子など、ろくな事はない」と反対したが止め切れず、湯婆婆の手足として利用されるようになった。湯婆婆により体内に虫を入れられた時から、湯婆婆が起きている夜は冷たい性格に変わり、彼女が寝ている昼は元の優しく賢い子[注 8]に戻る。冷たい性格の時は、「ハク様と呼べ」と命令したりする。また釜爺によると、ハクが湯婆婆の弟子になった後 (体内に虫を入れられた後) から顔色が悪くなったという[52]。
- 物語の中盤では、千尋の元気が出るようにまじないをかけて作ったおにぎりを差し出し、食べながら泣く彼女を慰めた。また、元の世界に戻る時の為に私服も保管していた。ヒトガタにより体の表面が傷つけられた時は、ニガダンゴと釜爺が飲ませてくれた薬湯により治った。
- 中盤以降は白竜[53][注 9](たてがみは緑色)の姿でも登場する (幼い千尋も竜の姿のハクに乗った模様[55][56][注 10]) 。正体は、千尋が以前住んでいた家の近くを流れていた「コハク川」という川(小川)の神だった[58][59][注 11] (現在は小川は埋め立てられマンションが建っている[60][59]) 。本名は「ニギハヤミコハクヌシ[61][59][注 12]」(英語版では Kohaku River とされている)で、名前の由来は饒速日命(ニギハヤヒノミコト) や速秋津彦(ハヤアキツヒコ)とされている[36][63]。ロマンアルバムでは本性は蛇と記載[36]。
- 銭婆の家から戻る際に千尋が語った思い出話により、自分の本当の名前を思い出す。千尋と再会した事で湯婆婆の支配(体内の虫)と銭婆の魔法(ハンコの守りのまじないとヒトガタ)から救われた彼は、湯婆婆の弟子を辞める事を決めた。そして元の世界に戻る千尋との別れ際、いつかまた会いに行くと約束した。
千尋の家族
- 荻野 明夫(おぎの あきお)
- 声 - 内藤剛志
- 千尋の父親。38歳[64]。建築会社に勤める[65]サラリーマンで、大柄で恰幅のいい体格。作中で名前は明らかになってはいない。
- 愛車はアウディ・A4(クアトロ)[66]。
- 体育会系で[67]、良くも悪くも肝の据わった性格。基本的にどんな事にも物怖じしない反面、後先考えない行動をとってしまいがちな考えの浅い一面も強く、妻の悠子に呆れられている。
- 引っ越しの際、余り道を確認しないまま進んでしまい不思議の町に迷い込む。千尋や悠子の制止を聞かずに面白がって進み続けた挙げ句、町の飲食店で勝手に食事に手をつけてしまい、妻と共にブタの姿に変えられてしまった。
- 千尋のおかげで最終的には元の姿に戻ったが、ブタになっていた時の事は覚えておらず、異界から出て愛車が落ち葉に埋もれていた際は驚いていた。
- モデルは日本テレビの奥田誠治で、千尋のモデルとなった奥田千晶の父[68]。車の運転や食事シーンに奥田の個性が反映されている[69]。
- 荻野 悠子(おぎの ゆうこ)
- 声 - 沢口靖子
- 千尋の母親。35歳[64]。夫の明夫と同様、作中で名前は明らかになってはいない。
- 不思議の町に迷い込んだ際、夫より先に勝手に食事をし始めてしまい、共にブタの姿に変えられてしまった。
- やや自分勝手な夫に戸惑いながらも、さり気なく夫に寄り添う。娘の千尋に対してはドライに振る舞う事が多いものの、彼女を心配したり気にかけたりする親らしい一面は持ち合わせている。
- 夫同様、最終的には元の姿に戻ったが、ブタになっていた時の事は覚えていない。
- モデルはジブリ出版部に勤務する女性[68]。
- 夫との食事のアフレコは、宮崎駿の用意したケンタッキーフライドチキンを実際に食べながら行われた[70]。
湯婆婆とその関係者
- 湯婆婆(ゆばーば)
- 声 - 夏木マリ
- 湯屋「油屋」の経営者で正体不明の老魔女。目玉だけで人間の顔ほどの大きさがあるほど頭が大きく、二頭身という人間離れした体格。
- 欲深で口うるさく、老獪な人物。その一方で息子の坊を溺愛しており、坊に対しては普段の振る舞いからは想像がつかない猫なで声になる他、ハクの発言で坊がいなくなった事に気づいた際は、口から炎を吐くほどハクに詰め寄り激しく取り乱していた[注 13]。
- 作中で様々な魔法を使っており、名前を奪って支配する契約や、手を触れずに対象物を動かしたり(自身を宙に浮かすことも可能)、鳥に変身して空を飛んだり、手からロープを生成したりする他、両手から魔法弾を放って攻撃するという戦闘能力も有している。
- 人間の世界から迷い込んできた千尋を最初こそ拒否していたが、その時隣の部屋にいた坊のお陰もあるものの、強引で諦めようとしない彼女に半ば呆れながら雇い、契約の際に名前を奪って「千」と名付ける。名前を奪う前に契約書を見て「贅沢な名だねぇ」と言った[71]。油屋が閉まる明け方になると黒いマントに身を包み、コウモリのような姿になって湯バードと共に遠くへ飛び去っていき、油屋が開く夕方に帰って来る。弟子のハクを体内に忍び込ませた虫(ナメクジのような黒い虫(ロマンアルバムなどではタタリ虫[72][25]))で操り、銭婆の持つ魔女の契約印を盗ませる[注 14]などの悪事をさせている。
- 悪事も辞さない横柄な性格だが、一方で経営者としての度量と心意気も持ち合わせており、河の神の汚れを落とし大量の砂金の儲けをもたらしたらちゃんと千尋を褒め称え、腐れ神に近づく事を嫌がった従業員達に千尋を見習うようたしなめている。普段は最上階の自室に籠っており客の前に姿を見せないが、横暴な態度の客がいたら「お客様とて許せぬ」と自ら出て阻止を試みたり、経営者として腐れ神やカオナシなどの客への対応を自ら行うなど、常に全てを従業員に任せっ放しという訳でもない。
- 銭婆の元から戻ってきた千尋に対し、「数頭いるブタの中から両親を当てられたら自由にする」という謎かけを提示し、全頭従業員が化けたダミーのブタを用意するが、千尋に正解を言い当てられた事で契約書が消滅した為、渋々負けを認め彼女を人間界へ帰す。千尋に礼を言われた際には顔を背けていたが、湯屋から去っていく姿を静かに見ていた。
- 銭婆(ぜにーば)
- 声 - 夏木マリ
- 湯婆婆の双子の姉で、坊の伯母。声や容姿、服装、髪型まで湯婆婆と瓜二つで、甥の坊が母である湯婆婆と間違えてしまう程[注 15]。妹と同様に強い魔力を持つ魔女。
- 紙やカンテラなど無生物に魔力を吹き込んで使いながら「沼の底」という寂れた田舎に一人で住んでいる。本人曰く「私達は二人で一人前」だが、姉妹仲は良好とは言えず、妹からは性悪女呼ばわりされている。
- 口調は湯婆婆と似ており、釜爺にも「あの魔女は怖い」と評されている[注 16]。
- 自身に害を及ぼす者は許さず、湯婆婆の命令で魔女の契約に用いるハンコを盗み出した竜の姿のハクに、千尋が紙の鳥と呼ぶ物[74](絵コンテなどには〔紙の〕人形〔ひとがた〕と表記[75][注 17]、絵コンテには紙の依り代(よりしろ)とも表記[76])を差し向けて痛めつけたり、ハンコを盗んだ者は死ぬまで命を食い荒らす守りのまじない[注 18]をかけるなど、評判通り恐ろしい人物であるような印象を見せたが、実際は心優しい性格で、千尋に対しても「助けてやりたい(が、この世界のルール上自分にはどうする事もできない)」と言うなど、欲深な妹より物分かりの良い気質である。
- ハクに代わって謝りに来た千尋を快く家に迎え入れ、千尋と同行していたカオナシやネズミ、ハエドリ達も同様にもてなした上で優しく接し、彼らと共に紡いだ手製の髪留め[78][79]を贈る。その時「お守り」と言った[80][81]。その後に迎えにやって来たハクの事も快く許し、湯屋へと見送った。また、行くあてのないカオナシを「ここにいて私の手助けをしておくれ」と引き取るなど、面倒見も良い。千尋の本当の名を知り「いい名前だね。これからも自分の名前を大切にね」と言っている。
- 坊(ぼう) / 坊ネズミ
- 声 - 神木隆之介
- 湯婆婆の息子。だが湯婆婆のことは「お母さん」や「ママ」とは呼ばず、「ばぁば」と呼ぶ。白い字で「坊」と書かれた赤い腹掛けのみ身に付けており、母親の湯婆婆よりも2周り程はある巨大な赤ちゃんで、銭婆に「太り過ぎ」と評される肥満体型。赤ちゃんとはいえその巨体に見合う重量と怪力の持ち主でもあり、怒ったり暴れ泣きわめいた際はカーテン等も破壊されて隣の部屋にも地響きが起こる。甘やかされて育てられている為、性格はかなり我儘。ジブリスタッフによると、彼の体が巨大なのは、(心が)子供のまま(体が)大きくなってしまった事を、象徴しているという。
- 湯婆婆から「外に行くと病気になる」としつけられており、過保護のもと、湯婆婆の部屋の隣の自分の部屋から出ずに暮らしていた。物語中盤で千尋と2人きりになった際に、千尋の用事を度外視で自分と遊ぶように強要する。千尋は用事があったので逃げられてしまうが、再度千尋の元に向かい再び自分と遊ぶように強要するが、その際に銭婆と出会い、彼女の魔法によって小太りのネズミ(絵コンテには鼡〔ねずみ〕とも表記[82])に姿を変えられる。その後は竜の姿のハクと共に落下した千尋についていき、なし崩し的に千尋と同行するようになる。ネズミの姿の際の移動は、同じく銭婆に小さなハエドリに姿を変えられ共に行動する湯バードに運んでもらっているが、湯バードが飛び過ぎて疲れた際は、湯バードを乗せて自分で歩行していた。
- 途中で銭婆の魔法の効力はなくなっていた為自分の意思で元に戻れるようになっていたが、湯屋に戻って千尋と湯婆婆が対面する時までネズミの姿で行動している。ネズミの姿をしていた際に母親の湯婆婆と会っているが、この姿の間は喋ることができないようで、自分だと気づくどころか汚いものを見るような言動をしてきた湯婆婆に対し、悲しげな表情を見せた後、怒りを露わにした表情を見せている。
- 千尋と出会って初めて外界を冒険した事で、終盤で千尋達と共に油屋に戻った際、頑なな態度で千尋と両親を人間の世界に戻す事を拒否する湯婆婆を「ばぁばのケチ、もうやめなよ」といさめるなど、精神的にも成長した様子。物語序盤では立てない様子だったが、中盤で千尋と遊ぶように強要する際は、立って危なっかしくよろめきながら歩いた。終盤で千尋達と共に油屋に帰り元の姿に戻った際は、しっかりと一人で立っており湯婆婆を驚かせた。千尋と遊ぶように強要したが、ネズミの姿で千尋と同行することで偶然的にもそれを満たすことができたようで、千尋と別れる際は笑顔で手を振りながら彼女を見送っている。
- 頭(かしら)
- 湯婆婆に仕える、緑色の頭だけの怪物。3体いる。中年男性のような顔で、跳ねたり転がったりしながら移動する。
- 言葉は話せず、「オイ」と連続で声をあげるのみだが感情はあるようで、坊が隣の自分の部屋から出てきた際には怖がる姿を見せている。作中では銭婆の魔法によって坊の姿に変えられるが、お菓子をむさぼり食うその姿に違和感を覚えた湯婆婆によって元の姿に戻されてしまい、正体がばれた後はドアを開けて逃亡した。また坊の姿になった際は、ネズミに変えられた坊とハエドリに変えられた湯バードを叩き潰そうとしていた。常に三つ一緒に行動している。坊の遊び相手らしいが、坊の巨大な体と怪力のせいで、彼らにはいじめとしか思えない様子[注 19]。劇中では「頭(かしら)」という名前は呼称されない。
- 湯バード(ゆバード) / ハエドリ
- 首から上は湯婆婆と同じ顔(ただし、顔色は黒い)、体はカラスという不気味な姿の人面鳥。常に湯婆婆に付き従っている。言葉は話せず、カラスのような鳴き声を発する。油屋の見張り鳥[85]。
- 中盤、坊の巻き添えのように銭婆の魔法でハエのように小さい鳥(ハエドリ[86])にされ、以降は終始この姿で、坊や千尋と共に行動する。ネズミに変えられた坊を足でつかんで飛ぶ事もできる。湯婆婆がネズミにされた坊と会った際、気づかずに汚いものを見るような言動をされた事で、坊と共に信じられないと言いたげな表情を見せている。
- 坊とは違い、元の姿には戻りたくないようで[注 20]、最後までハエドリの姿だった。
- 「湯バード」という名前は劇中では呼称されない。
油屋の従業員
従業員の大半はカエル(男衆)[68]とナメクジ(女衆〔主に江戸時代にいた大湯女〈おおゆな〉に相当する〕)[87]であり[88]、ヘビ(ハク)[注 21]と合わせて三すくみの関係にある。
- 釜爺(かまじい)
- 声 - 菅原文太
- 油屋のボイラー室を取り仕切っている黒眼鏡をかけた老人。クモのような姿で、伸縮可能な6本の腕を自在に操り[注 22]、油屋で使われる湯を沸かし、薬湯の生薬を調合する仕事をしている。休憩時間の際は、リンが運んできた漬け物つきの天丼を食べている。湯屋の従業員の中で、彼だけが私服、何も被らない。虫が苦手な為、ハクが吐き出したハンコにくっついていた黒い虫を千尋に追いかけさせた。
- 人間に対する差別意識は無く、突然ボイラー室に現れた千尋に対し厳しめの態度を取りながらも、人間である彼女がいる事に騒ぐリンに「わしの孫だ」とうそをつき庇うなど彼女を気遣い、リンに湯婆婆の所へ連れていくように頼む時に、イモリの黒焼きを彼女に渡した。その後も傷ついたハクを手当し、銭婆の所へ行こうとする千尋に40年前に自分が使い残した電車の切符を渡すなど、千尋をサポートする。
- 部下に石炭を運ぶススワタリがいる。
- 前述の通り仕事には厳しいが、千尋に対しては本当の孫のように優しい一面も見せる。
- リン
- 声 - 玉井夕海
- 油屋で下働きをしている少女。外見年齢は14歳[90][91]。一人称は「オレ」、もしくは「あたい」。二人称は「お前」あるいは「あんた」である。仕事中は腰に前掛けをつける。
- 口調は荒っぽいが性格はサッパリとした姉御肌。人間である千尋を初めて見た時は驚いて戸惑い、少々きつく当たっていたが、彼女の雇用が決まるとハクから半ば押しつけられる形であったとはいえ、雇用してもらえるように頑張った千尋に対し「うまくやったなぁ」と彼女を認め、湯屋の先輩として千尋に仕事を教えて面倒を見る[92]。千尋と共に風呂釜の中を掃除中に、千尋に番台から薬湯の札を一枚持って来させ、札と風呂場の壁の仕掛けの使い方を教えた後、湯を釜に入れる為の樋の先端から垂れる綱を、千尋に引かせたりした。
- 出自は不明で[注 23][注 24]、不本意ながら湯屋で働く自分の運命を呪っており、いつか湯屋を出て海の向こうの町 (湯屋の裏の電車の行き先の町[95]) に行く事を夢見ている。その為、雇い主である湯婆婆に対する忠誠心や敬愛の念などは無く、湯婆婆やハクの事は呼び捨てで呼び、上司であるはずのハク・父役・兄役らに対してもタメ口で話す。
- 彼女の他にも人間の少女と全く変わらない外見をした下働きの少女(主に江戸時代にいた小湯女〔こゆな〕に相当する[注 25])が何人かいる(彼女や他の少女の千尋に対する言動を見る限り、人間ではないと思われる)。他の従業員は人間である千尋を差別的に嫌っているが、彼女にそういった差別意識は無く、千尋に対しても他の従業員と同等に接している。カオナシが見納めになる際は「千に何かしたら許さないからな」と叫んでいた。
- 好物はイモリの黒焼き(油屋では貴重な品で、従業員は皆イモリの黒焼きに目がない)[96]。
- 父役(ちちやく)、兄役(あにやく)、番台蛙(ばんだいかえる)
- 声 - 上條恒彦(父役)、小野武彦(兄役)、大泉洋(番台蛙)
- それぞれ油屋の従業員達と湯婆婆の間の中間管理職的役割を担っており、父役はハク以外の従業員の中で最も地位が高く、兄役はその下という位置づけ[注 26]。兄役は父役のことを「上役」と呼んでいる。
- 番台蛙は番台に座り、様々な薬湯の札を他の従業員に渡す役割を担っている[注 27]。いずれも蛙の化身[88][98]。この3人の制服は、烏帽子を被り(父役と兄役の烏帽子は黒とは違う色) 、水干の上着には色がつき、父役と兄役は白い袴、白い足袋(橋の上でオクサレ様を止めようとするカエル男達の中で、青蛙の隣の番台蛙の[99]、上着とも白とも違う色の袴、裸足、草履がない姿が映る)。ちなみに他のほとんどのカエル男の制服は、上下共に白の水干(上下共に同じ色のついた水干の男性もいる)、裸足に草履、烏帽子を被る。青蛙以外のカエル男は、人間化してジャンプ力を失っている[100]。
- それぞれ、上にはへつらい下には威張るような態度を取るキャラクターとして描かれている。下の者を見下しており、特に人間である千尋を嫌っている。兄役は、風呂を掃除中の千尋とリンに「リン、千、一番客が来ちまうぞ」と言って風呂の準備を急がせた。
- 父役は、千尋がカオナシのいる客室に入った直後に千尋を、心配するように湯婆婆に「千、一人で大丈夫でしょうか」と言ったが、湯婆婆から「お前が代わるかい」と言われ、カオナシが怖くて黙ってしまう場面もあった。
- 兄役は、カオナシが客として振る舞っていた時に幇間もしていた[101]。彼の言葉を誤解して怒ったカオナシに、傍にいたナメクジ女と共に飲み込まれてしまうが、千尋がニガダンゴを食べさせた事で救出される。彼女がカオナシを外に誘い出してからは、父役ともども千尋に対する態度を改め、同じように救出された青蛙と共に湯婆婆から千尋を庇う姿を見せている。
- 青蛙(あおがえる)
- 声 - 我修院達也
- 湯屋で下働きをしている蛙。カエル男の中で彼だけがカエルそのものの姿。ジャンプ力もあり、千尋を最初に見た時などにジャンプしている。カエル男の中で彼だけは髪がない為か何も被らず、制服は青い着物、裸足。砂金に目がなくがめつい性格。橋を渡りきる直前に、人間の言葉を話す彼を見て、驚いた千尋が息をして魔法が解け、人間である千尋を最初に見た。橋の上でハクに魔法をかけられ、気絶させられた上に、人間である千尋を見た記憶を消された[102][注 28]。オクサレ様が湯屋に近づいて来た時に、橋の上で他のカエル男達と一緒に「お帰り下さい」と言った。その直後、青蛙だけがオクサレ様の臭気により気絶した。
- 大湯で砂金探しをしていた所、カオナシの手から出す大量の砂金(土くれ)に目がくらみ、最初に飲み込まれる。その後はカオナシが言葉を発する為に声を借りられていたが、千尋がニガダンゴを食べさせた事で最後には吐き出される。彼女がカオナシを外に誘い出してからは父役、兄役と共に「千のおかげでオレたち、助かったんです」と千尋を庇う様子を見せている。
- ススワタリ
- イガ栗のような形をした黒い体で、その真ん中に二つの目がついている。手足が生えている。釜爺からは「チビ共」と呼ばれている。
- 魔法の力ですすから生まれたらしく、働いていないとすすに戻ってしまう。
- 釜爺の指示で石炭を抱えて運び、ボイラー室の炉に放り込むのが仕事。休憩時間の際は金平糖を食事として与えられている。千尋の服と靴を預かるなど、釜爺と共に千尋を手助けする。千尋に最初に会った時、一匹が自分の体よりも大きい石炭を運ぼうとして千尋の目の前で潰れてしまい、彼女が代わりに運んであげた。彼女が石炭を持ち上げた時、潰れた一匹は手足のない状態で復活したが、彼女の質問を無視して宙を飛び巣穴に戻ってしまった。
- 『となりのトトロ』にも同名の生物が登場するが、こちらでは本作に登場するススワタリと異なり手足がない。
その他
- カオナシ
- 声 - 中村彰男
- 黒い影のような体にお面をつけたような姿をしている。
- 言葉は話せず「ア」または「エ」といったか細い声を絞り出すのみ。コミュニケーションが取れない為、他人を飲み込んで声を借りる。その際はお面の下にある本物の口から話す。飲食するのもこの口からである。姿を消す力を持つ。
- 普段は直立歩行だが、湯屋の従業員の青蛙達を飲み込み、飲食をして巨大化した後、千尋を追う時に四つん這いで走った。後述の人物を飲み込んだ際は、焦げ茶色の短い髪が見える場面がある。
- 相手の欲しい物を手から出す力を持ち、それを手にした瞬間にその人を飲み込んでしまう。ただし、それらは土くれが変化した物に過ぎなかった。
- 橋の欄干で千尋を見かけた時から彼女を求めるようになり、喜んでもらいたい一心で番台から薬湯の札を盗み、千尋に差し出した。雨の夜に、濡れながら湯屋の庭に立っていた彼を見た千尋が客だと思い、戸を開けたままその場を離れた後、彼はその戸から湯屋に入った。
- オクサレ様の一件の後、従業員達の就寝時に、青蛙が大湯で砂金探しをしていた所、砂金をエサに青蛙を丸飲みした。その翌日は砂金で他の従業員達を丸め込み、大量に料理を作らせて、風呂に入りながら暴飲暴食し巨大化した。千尋にも砂金を差し出したが断られ、兄役がやってきて説明すると誤解して怒り、兄役と傍にいたナメクジ女を飲み込んで肥大化していく。その後、千尋を客室に呼び出し再び対面し、料理を差し出すが彼女に断られ、さらにニガダンゴを食べさせられ、嘔吐すると同時に怒りで暴走し、千尋を追いかけている途中に飲み込んだ3人を全て吐き出して縮み、元の姿に戻る。戻った後は大人しくなり、千尋について銭婆の所へ行き、最後は銭婆の厚意でそのままそこで暮らす事になる。終盤までは、高い段差を上る時や千尋を追う時に2本足が見えるだけだったが、最後に銭婆の家の前で千尋達を見送る時には、常に見える2本足がついている[注 29]。
- 英語版での名前は "No-Face"。
- 製作当初は重要キャラではなく、単なる「ハクと千尋が油屋に向かう際、橋の上にただ立っている存在」であったが、結果的に準主役ともいうべきキャラとなった経緯を持つ[105]。
- 鈴木敏夫によって米林宏昌がモデルであるとされていたが[106]、のちに米林本人が後づけであると否定している[107]。
霊々(かみがみ)
神道における八百万神(やおよろずのかみ)で、疲れを癒そうと油屋を訪れる。八百万の名の通り、姿形・性質・性格は様々。ロマンアルバムでは、霊々(かみがみ)と表記[105]。
- おしら様(おしらさま)[108][109]
- 声 - 安田顕
- 福々しく肥え太った真っ白な大根の神として描かれている。裏返した朱漆の盃のような被り物をしている。
- 見も知らぬ千尋と突然出会う事になったが、人間である千尋を見ても驚く事も物怖じする事もなく、付き添えなくなったリンに代わって、湯婆婆の所へ行く千尋に付き添ってくれる。その後は、扇子を持って舞踊を楽しんだり、茶色の正装姿で、帰る千尋を見送ったりしている様子が見られる。ちなみに、霊々が船から降りてくる場面や、千尋が湯屋の外階段を降りる直前に橋を渡る霊々が映る場面でも、正装姿である。2柱(ふたはしら)同時に映るシーンが作中にある。ジブリスタッフによると、この神様(名前の由来になった神様もそうらしい)は、子供が好きなので、千尋に親切にしてくれたという。
- 春日様(かすがさま)
- 1柱ではなく、続々と参集する様子が描かれており、少なくとも数十柱が訪れている。
- 人間のような姿をしていながら体は見えず、それでいて物に影を落とす。見えない体に紫の冠を被り、深緋の官衣を着て、見えない顔には舞楽面の一種である蔵面をつけている。蔵面は舞楽の曲目ごとに描かれる顔の図柄が異なるが、作中のものは曲目『胡徳楽』などに用いられる蔵面である[105]。移動するのに歩いている様子はなく、空中を浮いて滑るように動く。春日様が列をなして船から降りてくる場面では、宙に浮いた蔵面と体の影が移動しているように見える。その後、陸に上がる直前に蔵面から冠と服が現れる。硫黄の上の湯に入っている。おしら様と連れ立ち、扇子を振って千尋を讃えている様子も描かれている。
- 牛鬼(うしおに)[96]
- 大きな頭に鹿の角のような枝角を生やした、ずんぐりむっくりな体形の鬼(牛のような枝分かれしていない二本角の者や、舞楽の曲目『蘇利古』に使われる蔵面をつけ、イカのような手足の者もいる[108])。性格的にも造形的にも、禍々しい妖怪・牛鬼ではなく、地方祭で親しまれている牛鬼(牛鬼#祭礼の牛鬼)の様である。
- オオトリ様(オオトリさま)
- 元は食べられてしまったり、卵のまま生まれてこられなかったひよこの神様だともいわれる[96]。空は飛べないが、ジャンプをする場面はある[110]。
- 大勢で風呂に入っている。外を歩く時、大きな葉を頭にのせている。
- おなま様(おなまさま)
- 牛のような二本角の鬼の姿、手には包丁を持ち、蓑を羽織っているのもなまはげと変わらないが、蓑は稲藁ではなくくすんだ緑色の木の葉でできている(鹿のような枝角の者もいる[108])。
- 一言主様、のの様、あんが様(ひとことぬしさま、ののさま、あんがさま)[111]
- 厨房で働く蛙男達のセリフ中に名前が登場する。一言主様に関しては、オクサレ様が来た時に逃げる霊々の中に赤い冠に「言」と書かれた神が登場している。
- オクサレ様(オクサレさま)[108][112]/ 河の神(かわのかみ)・河の主(かわのぬし)
- 声 - はやし・こば
- 水に溶けた流動性の高い泥が集まって巨大な一塊になったような姿をしていて、這うように移動する。動くたびに泥が体の表面を流動する。その泥は人間が河に捨てたごみと汚れをたっぷり含んだヘドロで、それゆえにすさまじい悪臭を放つ。その臭気は朝食としてリンが調達してきたご飯を、少し離れた所からでも一瞬で腐らせる程危険なもので[注 30]、湯婆婆を始めとする湯屋の者は皆慌てふためきながら迎え入れる事になる。リンがまだ朝食の調達から戻っていなかったので[114]、千尋だけが湯婆婆の命令で、彼から料金を受け取り、世話をした。これほどひどい汚れは千尋とリンが、オクサレ様が湯屋に来る直前の風呂の掃除中に、こびりついた汚れを落とそうとしてためた薬湯[115]では落ちなかった。千尋が足し湯をしようと、薬湯の札と風呂場の壁の仕掛けを使った。その後、ヘドロに足を取られながらも釜へ進んでいき[34]、釜の上の綱を右手で引くと同時に、釜の縁をつかんでいた左手が滑り、釜の中に転落し、底にたまっているヘドロに頭から埋まってしまう[116]。逃れようともがく千尋の体を引き抜いて助け出してくれたのはオクサレ様であった。湯屋の者は、彼を本物のオクサレ様、つまり「腐れ神(くされがみ)」[注 31]だと外見だけで決めつけていて近づかず、リンは釜爺にありったけの薬湯を出すように頼みに行っていて[117]、千尋だけが世話をしていたので、オクサレ様の体に刺さって抜けない棘のような物に千尋だけが気づき、従業員達と協力して引き抜いた事で、長年にわたってオクサレ様の体の表面についたり、飲み込んでしまったごみや汚れが、堰を切ったように吐き出され流れ落ち、神は本来の姿を取り戻す。湯婆婆曰く、正体は「名のある河の主[118][119](河の神[120])」であった。その姿は、河の流れそのものであろう半透明で不定形な長い竜のような体(絵コンテでは白い蛇体[121]、白い竜[注 32]等と記載。ロマンアルバムでも白蛇の身体と記載[122])に、能面の「翁」の仮面の様な顔を持つ[122]、優しそうでありながら神々しいものであった。河の神は「よきかな」と言った後、笑い声をあげながら湯屋の高所にある格式高い唐破風の大戸から飛び去っていくが、去り際には世話になった千尋に謎の団子「ニガダンゴ」を与え、湯屋には大量の砂金を残していった。
- お台所さま(おだいどころさま)[108]
- 千尋が息を止めてハクと橋を渡る際に登場。頭に大きな笠を被り、笠の縁から包丁や鍋等の台所用品をぶら下げている。
- むすびさま[123]
- 千尋が番台蛙に薬湯の札を貰いに来た時に登場。ピンク色の体で葉団扇を持っている。縁結びの神であり、「むすびさま」の愛称はアニメージュ誌上にて読者の一般公募で決められた。
- 石神様(いしがみさま)
- オクサレ様が来た日に、春日様と共に蓬仙湯に予約を入れていた神。名前のみ登場する。
人間
- 理砂(りさ)
- 名前のみ登場する。千尋が引っ越す前に通っていた学校の友人。
- 千尋が引っ越す時、「元気でね また会おうね」と書かれたお別れのカードを、スイートピーの花束に添えてプレゼントした[124][125]。ちなみにスイートピーの花言葉は「出発[36]」。
- 名前を奪われて「千」になってしまった千尋が、お別れのカードに書かれていた「ちひろ」という名前を見て、自分が「千尋」である事を思い出す。
注釈
- ^ a b c リバイバル上映(再上映)を含まない場合の興行収入は304億円[3][4]。2016年のリバイバル上映により合計308億円に[5]、2020年のリバイバル上映により合計316億8,000万円になった[2][6]。2020年12月15日以降は合計金額の316億8,000万円を正式な興行収入記録としている[2]。
- ^ a b Spirited Away Wins Animated Feature: 2003 Oscars - YouTube
アカデミー長編アニメ映画賞 「千と千尋の神隠し」(受賞映像) - ^ 『絵コンテ全集』では赤い水干と記述されている[26]。
- ^ リンは兄役に「あれはカエルの仕事だろう」と言っている[29]。
- ^ 千尋と共に風呂釜の中を掃除中にリンが「この風呂はさ、汚れたお客専門なんだよ」と言っている[30]。
- ^ 資料によっては(人間の)汚物まみれという記述がある[33]。
- ^ 千尋が従業員達の前を通り、カオナシに会う為客室に向かう時「神の嫁(つまり生贄(いけにえ))」と記述されている[35]。
- ^ 『絵コンテ全集』では銭婆のハンコを見て、釜爺が千尋に「さすがはハクだ。命令でしかたなく盗んだんだろうが、湯婆婆にハンコを渡さなかったんだからな」と言った[50]。『ロマンアルバム』では釜爺が千尋にハクもここに来た時は優しく賢い子だったと話したという記述がある[51]。『THE ART OF』台本には、ハクが湯婆婆の弟子になった後 (体内に虫を入れられた後) から目つきがきつくなったという釜爺の発言の記述もある[52]。
- ^ 絵コンテには、長虫という記載もある[54]。
- ^ 『絵コンテ全集』では幼い千尋が川に落ちた描写がある[57]。
- ^ 『ロマンアルバム』では、川の神[43]、彼は小川・コハク川の主という記述がある[36]。
- ^ 『絵コンテ』では、「本当に神様なんです」という宮崎監督の言葉が書かれている[62]。
- ^ 銭婆によってネズミにされた坊に出くわした時には、自分の息子だと気づいていなかった。
- ^ 絵コンテに収録されている釜爺のセリフによれば、契約印があれば湯屋の労働契約を変えることができ、従業員を奴隷にすることもできる[50]。
- ^ 自分を母・湯婆婆と間違えた際は、「お母さんと私の区別もつかないのかい」と呆れた様子を見せている。
- ^ 絵コンテでは「ゼニーバの声 やさしくなりすぎないこと こわいおばあさまです」と注意書きされている[73]。
- ^ 式神(しきがみ)と同様の魔法だろう、とも記述されている[36]。
- ^ このまじないは、千尋が銭婆の元へ届けた頃にはハンコから消えていた。千尋がハンコを返した時「守りのまじないが消えてるねぇ」と言った[77]。
- ^ 魔法で変身させられた坊を叩き潰そうとする場面で、坊に復讐するという記述がある[83]。『絵コンテ全集』では普段の恨みという記述がある[84]。
- ^ 宮崎の演出メモとして「ハエはもどりたくないのです」とある[82]。
- ^ 宮崎は「長虫」という語で竜を指す事があると述べる (ハク[54]) (河の神[89]) 。
- ^ 着ているシャツの袖も腕の長さに合せて同時に伸縮する。
- ^ 最初はイタチかテンが変身した設定だったことと、顔を長くしたのは宮崎監督だという安藤作画監督の発言が記述されている[93]。
- ^ イメージボードでは、リンのイラストの横に「白狐」と記されている[94]。
- ^ 主に江戸時代に湯女(ゆな)と呼ばれる従業員がいたこと、大湯女と小湯女がいて、小湯女は入浴の世話番(下働き)、大湯女は湯治に来た男性客向けのサービスを行っていたこと、千尋(リンや他の少女も)は小湯女という記述がある[87]。
- ^ 絵コンテには「部長と課長とおもって下さい」とある[97]。
- ^ ただし、千尋に対しては差別意識から「そんなもったいない事ができるか」「手でこすればいいんだ」と渡すのを拒否している。
- ^ ハクが(青蛙に)呪文をかけたとする資料もある[103]。
- ^ 「カオナシに早くも足があるのはできすぎだが、つけましょう」という宮崎監督の指示が書かれている[104]。
- ^ リンは「めしが…」と驚いていた[113]。
- ^ 「腐れ神」が何かという疑問の謎解きは作中でなされない。
- ^ 絵コンテの同じページには、白い長虫という記載もある[89]。
- ^ 釜爺の回数券に名が記されている[96]。
- ^ きっかけとなった宮崎と鈴木の面会は、1999年1月の出来事とする記述もある[150]。
- ^ 公開を1年延期して3時間の映画を作るという提案について、鈴木の真意は不明である。映画公開直前の2001年6月20日のインタビューでは「真剣でした。そういう映画を見たかったし」[177]と語っている。一方、公開から10年余りが経った2016年の聞き書きでは、宮崎の提示したプロットについて「正直にいうと、ちょっとバカバカしいんじゃないかと思った」[178]と語っている。しかし、宮崎の前で正直に不満を述べるわけにはいかない。そこで、上映時間が延びてしまうというプロットの弱点をとっさに指摘した、という説明に変わっている[178]。
- ^ 安藤は漫画家の高野文子のファンで、高野のように少ない線のみで人体を生々しく表現することに憧れを持っていた[184]。
- ^ 通常、アニメーションの美術制作は三段階に分けて行われる。背景のイメージをおおまかに描き起こしレイアウト化した美術設定、本番の背景作業に入る前により指針とする絵を描き、色味や物の質感などを詳細に指定する美術ボード、そして実際に撮影に使用される背景素材を各スタッフが分担し描く本番の作業である。『千と千尋の神隠し』では、宮崎が絵コンテで背景を作りこんでいったため、武重は美術設定を制作していない[194]。美術監督#アニメーションでの美術監督も参照。
- ^ 宮崎はアニメーターの近藤勝也の結婚式で目黒雅叙園を訪れたことがあった[201]。
- ^ その名の通り動く背景。手書き作画の場合は、通常の人物の動きと同じように、アニメーターが動きを起こす。本作のようにCGで作画される場合もある。
- ^ 以下は舘野の発言の引用。「当初『小さい子供のための映画』と聞いていましたが、あのお風呂屋さんも湯女がいて、一種の遊郭みたいな場所ですね。昔から宮崎さんが描きたいと思っていて、描けなかった部分だったのかなと思いました。それと、宮崎さんが書いた歌詞に、カオナシが千尋を食べちゃいたいという箇所があるでしょう。賀川(愛)さんが、『ついにホントのこと言っちゃったねぇ』って、種明かししたみたいに喜んでいました(笑)。」[221]
- ^ のちに「ジブリ学術ライブラリー」ブランドでブルーレイ化[228]。
- ^ 市川がジブリ作品の製作に関わったのは本作のみだった[246]。2013年、東宝映画社長となった市川がゴジラ映画の新しい企画(『シン・ゴジラ』)を製作した際には、鈴木が庵野秀明を紹介している[247]。
- ^ 『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』が『千と千尋の神隠し』の保持していた日本歴代興行収入記録を更新する目前での加算であったことから、SNSや電子掲示板および報道において波紋を呼んだ[259]。
- ^ その後、「DVD・VHS本編のクオリティは、その色を忠実に再現したものと認識しております」と変更された[287]。
- ^ a b c インターネット[290]。
- ^ 翌年から名称は東京国際アニメフェアに。コンペティションの名称は途中から「東京アニメアワード」になった。遅くとも2003年からはこの名前が使われていることが確認できる[344]。2014年、東京国際アニメフェアはアニメ コンテンツ エキスポと統合してAnimeJapanにリニューアル[345]。東京アニメアワードは東京アニメアワードフェスティバルとして独立した[346]。
- ^ 日本テレビ開局50周年記念番組として放送。
- ^ 宮崎駿監督のアカデミー名誉賞受賞を記念して放送される。番組序盤には『ルパン三世 カリオストロの城』から『風立ちぬ』まで、宮崎駿監督の全11作品の名シーンを振り返る特別企画が放送された[384]。
出典
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