北投石 玉川温泉産北投石中の微量成分

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北投石

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/10/31 03:29 UTC 版)

玉川温泉産北投石中の微量成分

微量成分として以下の元素が定性分析で検出された(一部の元素は定量分析)

Th は化学分析と、トリウムエマナチオン (Rn220の古い呼び名、トロンとも呼ぶ) の放射性沈着物の減衰曲線から確認された。Ra は非常に微量なので、固体鉱石の放射能と鉱石の溶液から得られたラジウムエマナチオン (Rn222の古い呼び名、ラドンとも呼ぶ) の半減期から確認された。Ra の親核種である U は、フェロシアン化カリウムとの呈色反応で痕跡量が検出された。Ra の壊変物質の一つである Po は、特異な化学反応と、ビスマス板上に沈着させた Po 薄膜の減衰曲線から容易に確認された。したがって玉川温泉産の北投石の放射能は、ラジウム系列とトリウム系列に属する元素に基づくことが確認された[3]。北投温泉産の北投石にはトリウムは含まれていない[15]

玉川温泉産北投石の縞状構造について

菅沼市蔵は玉川温泉産の北投石には、白色層とかっ色層が規則的に重なった構造が見られる、と報告している[3][4]。このような構造を縞状構造(Banded Structure)と呼ぶ。菅沼は鉛分は白色層に比べてかっ色層の方に多いと報告しているが、その後の調査で白色層の方に鉛分が多いタイプも存在することが判明した。前者を「色正常」、後者を「色異常」と名付けた。どちらのタイプでも、放射能の強さは、白色層の方が強い。「色正常」では鉛分が多いほどかっ色度が強く、「色異常」では鉛分が多いほど白色度が強いことがわかった。鉄含有量と色の強さには明瞭な関係は見出されなかった。放射能の強さに関しては、「色正常」の場合は鉛含有量と負の相関がある(鉛分が多いと放射能が弱くなる)。「色異常」の場合はこの関係が逆になる(鉛分が多いと放射能は強くなる)。鉄含有量と放射能の関係は、色の場合と同様に明確な相関関係が認められなかった[16]

北投石(玉川温泉産)の生成と成因

北投石の成因について最初に言及したのは菅沼市蔵であった。菅沼は以下のような経過をたどって北投石が生成すると推定した。玉川温泉の特徴である高温、強酸性 (96度、pH1 - 2) の源泉水が川を流下して、藍藻 の生育に最適な40度くらいに低下した地点に達すると、川底の岩石(安山岩)の表面に藍藻が付着する。藍藻中に含まれるゼラチン様物質と水中のアルミニウムイオンが、ケイ酸ゾルを凝固させてケイ酸ゲルに変化させ、岩石の表面に吸着したケイ酸ゲルが媒介して、温泉水中の硫酸バリウムや硫酸鉛などの種々の鉱物成分を岩石表面に吸着させる。季節によって変化する水温のために藍藻が死滅したり生育して、その影響によって縞状構造ができる(冬季には積雪のため川に流れ込む水量が減少して水温は高くなり、春には融雪で流入する水量が増加して水温が下がり、藍藻は死滅する)[3][4]

これに対して南英一は、玉川温泉における北投石の産状を詳細に調べたところ、藍藻の生育していないところにも北投石が生成しているので、藍藻は必ずしも必要ではない、としているが、岩石表面に鉱物成分が吸着するにはコロイドケイ酸、ケイ酸アルミニウムが岩石表面に生成することが必要であると推定した。また、水温が高くpHが低いときには白色層が、水温が低くpHが高いときはかっ色層が生成すると、推定した[12]


注釈

  1. ^ 玉川温泉は古くは渋黒温泉と呼ばれていたが、1935年頃現在の名前に改称された[1]
  2. ^ フレデリック・ソディは、グラスゴー大学在任時 (1904 - 1914) に、多数のウラン鉱物についてウラン・ラジウムの比率を実験的に求め、その値が常に 3.4×10-7になることを見出した[10]。この値を北投石(北投温泉産)のラジウム含有量 1.73×10-7%に当てはめると、含まれているはずのウランの量は (1.73×10-7%)÷(3.4×10-7)=0.51% (UO3換算 0.61%) が得られる。

出典

  1. ^ a b 南英一、「玉川温泉の北投石について」『鉱物学雜誌』 1954年 2巻 1号 p.1-24, doi:10.2465/gkk1952.2.1,
    第2卷第1号 正誤表 『鉱物学雜誌』 1955年 2巻 2号 p.107b,doi:10.2465/gkk1952.2.2_107b,
    第2卷第1号,南 英一:玉川温泉の北投石について,著者よりの訂正 『鉱物学雜誌』 1955年 2巻 2号 p.107a,doi:10.2465/gkk1952.2.2_107a
  2. ^ a b 綿秡邦彦、「北投石-その地球化学」『地球化学』 1991年 24巻 2号 p.79-83, doi:10.14934/chikyukagaku.24.79
  3. ^ a b c d e Suganuma, Ichizo (1928). “On the constituents and genesis of a few minerals produced from hot springs and their vicinities in Japan, I. The Akita Hokutolite”. Bulletin of the chemical society of Japan 3 (3): 69 - 73. https://www.journal.csj.jp/doi/pdf/10.1246/bcsj.3.69 2019年4月26日閲覧。. 
  4. ^ a b c d 菅沼市蔵、1925、『硫黄泉秋田鹿湯に産する秋田北投石の成分及び成因』、ラヂウム鑛石研究所
  5. ^ 堀内公子「温泉の化学」『放射化学50年のあゆみ』日本放射化学会 2007年
  6. ^ 飯盛里安「分析化学その他の昔話」『ぶんせき』No.6、1975年、 71頁。
  7. ^ a b c d 飯盛里安「北投石一夕話(ほくとうせきいっせきわ)」我等の鉱物 Vol.10 No.1 pp.37 - 40 1941年
  8. ^ 斎藤信房「日本における放射化学の黎明と進展 (1907 - 1957)」 『放射化学研究50年のあゆみ』日本放射化学会 2007年, NAID 40016915010
  9. ^ Yoshimura, Jun (1929). “The radioactive constituents of Hokutolites and other minerals in Japan”. Bulletin of the Chemical Society of Japan 4 (4): 91 - 96. https://www.journal.csj.jp/doi/pdf/10.1246/bcsj.4.91 2019年4月24日閲覧。. 
  10. ^ 飯盛里安「SODDYの死を悼む」化学の領域 Vol.1,No1 pp.1 - 2 (1957)
  11. ^ 『飯盛里安博士97年の生涯』中津川市鉱物博物館、p.6 2003年
  12. ^ a b 綿秡邦彦、「一つの石の物語(<特集>化学のふるさと)」『化学教育』 1973年 21巻 5号 p.348-353, doi:10.20665/kagakukyouiku.21.5_348
  13. ^ 特別天然記念物盗む/容疑者逮捕/秋田県警・角館署”. Secure Japan. ウェリカジャパン. 2019年1月10日閲覧。
  14. ^ 百島則幸「北投石」『放射化学研究50年のあゆみ』日本放射化学会 2007年
  15. ^ 佐藤傳蔵、南英一「渋黒北投石」『新潟縣外七縣に於ける天然紀念物及名勝』(天然紀念物調査報告;地質鑛物之部 第2輯)内務省 p.41 1927年、doi:10.11501/1899900
  16. ^ 佐々木信行、流郷忍、堀口昇、「縞状北投石中の放射性核種の分布について」『香川大学教育学部研究報告』2012年 第2部 62(2), pp.95-104
  17. ^ 田健治郎伝記編纂会 編 『田健治郎伝』田健治郎伝記編纂会、1932年、516-517頁。全国書誌番号:53009203 NDLJP:1880388/308






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