勾配 (ベクトル解析)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/01/26 15:06 UTC 版)
勾配と全微分の関係
写像の線型近似
ユークリッド空間 Rn から R への関数 f の、任意の点 x0 ∈ Rn における勾配は、x0 における f の最適線型近似を特徴づけるものである。即ち、線型近似式は x0 にほど近い x に対して
で与えられる。ここで (∇ f )x0 は x0 における f の勾配であり、中黒は Rn におけるドット積である。この式は f の x0 における多変数テイラー級数展開の最初の 2 項をとったものと同値である。
全微分
関数 f: Rn → R の点 x ∈ Rn における最適線型近似は、Rn から R への線型汎関数であり、x における f の微分係数あるいは全微分係数 dfx, Df(x) と呼ばれる。従って勾配は全微分係数との間に
なる関係で結ばれている。x を dfx へ写す関数 df は f の全微分または全導関数と呼ばれ、これを一次微分形式と解釈して f の外微分と見做すこともできる。
Rn を(長さ n で成分が実数値の)列ベクトル全体の成す空間と見るとき、全微分 df を行ベクトル
と見做して、dfx(v) を行列の積で与えることができる。このとき、勾配は列ベクトル
に対応する。
微分としての性質
U を Rn の開集合とし、関数 f : U → R がフレシェ微分可能とすると、f の全微分は f のフレシェ導関数であり、従って ∇f は U から空間 R への写像で
を満たすものである(中黒はドット積)。
この帰結として、勾配が通常の微分が持つ微分法則を満足することがわかる。
- 線型性
- 二つの実数値関数 f, g が点 a ∈ Rn において微分可能で、α, β が実定数であるとき、線型結合 αf + βg は a において微分可能であり、さらに ∇(αf + βg)(a) = α∇f(a) + β∇g(a) を満たすという意味で、勾配は線型である。
- 積の微分法則
- f と g が実数値関数で点 a ∈ Rn において微分可能ならば、それらの積 (fg)(x) = f(x)g(x) は a において微分可能で、∇(fg)(a) = f(a)∇g(a) + g(a)∇f(a) なる積の法則を満たす。
- 連鎖律
- Rn の部分集合 A 上で定義された実数値関数 f : A → R が点 a において微分可能とする。勾配に関する連鎖律には 2 つの形が存在する。
- 1 つ目は、関数 g を曲線の媒介変数表示、即ち R の部分集合 I から Rn への関数 g : I → Rn とするとき、g が g(c) = a なる I の点 c で微分可能ならば、(f○g)'(c) = ∇f(a) · g'(c) が成立するというもの。ただし ○ は写像の合成である。より一般に、I ⊂ Rk である場合にも ∇(f○g)(c) = t(Dg(c))(∇f(a)) が成立する。ただし t(Dg) は転置関数行列である。
- 二つ目の連鎖律は、R の部分集合 I 上の実数値関数 h: I → R が f(a) ∈ I なる点において微分可能ならば ∇(h○f)(a) = h'(f(a))∇f(a) というものである。
勾配 (ベクトル解析)と同じ種類の言葉
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