分離拡大 性質

分離拡大

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/02/16 08:54 UTC 版)

性質

  • EF が代数的な体の拡大であり、α, βEF 上分離的であれば、α + βαβF 上分離的である。とくに、F 上分離的な E のすべての元の集合は体をなす[15]
  • ELFELLF が分離拡大であるようなものであれば、EF は分離的である[16]。逆に、EF が分離代数拡大で L が任意の中間体であれば、ELLF は分離拡大である[17]
  • EF が有限次分離拡大であれば、原始元をもつ。すなわち、αE であって E = F[α] となるものが存在する。この事実は原始元定理あるいは原始元についての Artin の定理 としても知られている。

代数拡大における分離拡大

分離拡大は任意の代数体拡大において極めて自然に生じる。より具体的には、EF が代数拡大で であれば、SF分離的E純非分離な唯一の中間体である[18]EF が有限次拡大であれば、次数 [S : F] は拡大 EF の次数の分離部分 (separable part)(あるいは E/F分離次数 (separable degree))と呼ばれ、しばしば [E : F]sep あるいは [E : F]s と表記される[19]E/F非分離次数 (inseparable degree) は次数の分離次数による商である。F の標数が p > 0 であるときは、p のベキである[20]。拡大 EF が分離的であることと S = E であることは同値であるので、分離拡大に対しては [E : F]=[E : F]sep であり、逆も成り立つ。EF が分離的でなければ(すなわち非分離であれば)[E : F]sep は [E : F] の非自明な約数である必要があり商は F の標数のベキである必要がある[19]

一方で、任意の代数拡大 EFF純非分離E分離であるような中間拡大 K をもたないかもしれない(しかしながら、そのような中間拡大は EF が有限次正規拡大のとき確かに存在する(このとき KF 上の E のガロワ群の固定体にとることができる))。そのような中間拡大が存在するならば、そして [E : F] が有限であれば、そして S が前の段落でのように定義されていれば、[E : F]sep=[S : F]=[E : K][21]。この結果の1つの有名な証明は原始元定理に依存するが、原始元定理とは独立なこの結果の証明は確かに存在する(どちらの証明も次の事実を用いる。KF が純非分離拡大で fF[X] が分離既約多項式であれば、fK[X] においても既約である[22]。)。上記の等式([E : F]sep=[S : F]=[E : K])は次のことを証明するのに使える。EUF が [E : F] が有限であるようなものであれば、[E : F]sep=[E : U]sep[U : F]sep[23]

F が任意の体であれば、F分離閉包 (separable closure) FsepF 上分離的な F代数閉包の元全部からなる体である。これは F の極大ガロワ拡大である。定義によって、F が完全であることとその分離閉包と代数閉包が一致することは同値である(とくに、分離閉包の概念は不完全体に対してのみ興味がある)。

分離非代数拡大体の定義

分離拡大の理論の多くの重要な応用は代数体拡大の文脈から生じるが、数学において(代数的とは限らない)分離体拡大を研究することが有益な重要な例がある。

F/k を体の拡大とし pkcharacteristic exponent とする[注 3]k の任意の体拡大 L に対し、FL = Lk F と書く(cf. 体のテンソル積)。このとき F は以下の同値な条件が成り立つときにk 上分離的 (separable over k) という。

  • Fpkkp線型無関連である。
  • Fk1/p被約である。
  • FLk のすべての体拡大 L に対して被約である。

(言い換えれば、F分離 k-代数であれば k 上分離的である。)

F/k分離超越基底 (separating transcendence basis) は F代数的独立な部分集合 T であって F/k(T) が有限分離拡大であるようなものである。拡大 E/k が分離的であることと E/k のすべての有限生成部分拡大 F/k が分離超越基底をもつことは同値である[24]

k の体拡大 LFL が整域になるようなものが存在したとしよう。すると Fk 上分離的であることと FL の分数体が L 上分離的であることは同値である。

F の代数的な元はその最小多項式が分離的なときに k 上分離的 (separable over k) という。F/k が代数拡大であれば以下は同値である。

  • Fk 上分離的である。
  • Fk 上分離的な元からなる。
  • F/k のすべての部分拡大は分離的である。
  • F/k のすべての有限部分拡大は分離的である。

F/k が有限拡大であれば、以下は同値。

  • (i) Fk 上分離的。
  • (ii) ただし k 上分離的。
  • (iii) (ii) において r = 1 ととれる。
  • (iv) Kk の代数閉包であれば、k を固定する FK への埋め込みはちょうど [F : k] 個存在する。
  • (v) Kk の任意の正規拡大で FK への埋め込みが少なくとも1つ存在すれば、k を固定する FK への埋め込みはちょうど [F : k] 個存在する。

上記において (iii) は原始元定理として知られている。

代数的閉包 k を固定し、k 上分離的な k のすべての元からなる集合を ks で表記する。すると ksk 上分離代数的であり k の任意の分離代数拡大は ks に含まれる。それは k の(kにおける)分離閉包 (separable closure) と呼ばれる。このとき kks 上純非分離である。別の言い方をすれば、k が完全であることと k = ks は同値である。


  1. ^ 「相異なる根をもつ」(have distinct roots) は「(重複を考えずに)根を2つ以上もつ」という意味ではない。例えば(実係数の)多項式 X − 2 は相異なる根をもち、(X−2)2 (X−3)2 は相異なる根をもたない
  2. ^ 「相異なる根をもたない」(do not have distinct roots) は「相異なる根をもつ」(have distinct roots) の否定である。
  3. ^ k の characteristic exponent は、k の標数が 0 なら 1 で、そうでなければ k の標数である。

出典

  1. ^ a b c Isaacs, p. 281.
  2. ^ Isaacs, Theorem 18.13, p. 282.
  3. ^ a b Isaacs, Theorem 18.11, p. 281.
  4. ^ Isaacs, p. 293.
  5. ^ Isaacs, p. 298.
  6. ^ Isaacs, p. 280.
  7. ^ Isaacs, Lemma 18.10, p. 281.
  8. ^ a b Isaacs, Lemma 18.7, p. 280.
  9. ^ Isaacs, Theorem 19.4, p. 295.
  10. ^ Isaacs, Corollary 19.5, p. 296.
  11. ^ Isaacs, Corollary 19.6, p. 296.
  12. ^ Isaacs, Corollary 19.9, p. 298.
  13. ^ Isaacs, Theorem 19.7, p. 297
  14. ^ Isaacs, p. 299.
  15. ^ Isaacs, Lemma 19.15, p. 300.
  16. ^ Isaacs, Corollary 19.17, p. 301.
  17. ^ Isaacs, Corollary 18.12, p. 281.
  18. ^ Isaacs, Theorem 19.14, p. 300.
  19. ^ a b Isaacs, p. 302
  20. ^ Lang 2002, Corollary V.6.2
  21. ^ Isaacs, Theorem 19.19, p. 302
  22. ^ Isaacs, Lemma 19.20, p. 302.
  23. ^ Isaacs, Corollary 19.21, p. 303.
  24. ^ Fried & Jarden (2008) p. 38.
  25. ^ Fried & Jarden (2008) p. 49.





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