公民館
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公民館の事業
公民館は、目的達成のために、おおむね、次に掲げる事業を行う(社会教育法第22条本文)。
- 定期講座を開設すること。
- 討論会、講習会、講演会、実習会、展示会等を開催すること。
- 図書、記録、模型、資料等を備え、その利用を図ること。
- 体育、レクリエーション等に関する集会を開催すること。
- 各種の団体、機関等の連絡を図ること。
- その施設を住民の集会その他の公共的利用に供すること。
公民館の運営方針
公民館は、公共の施設であることから、次の行為を行ってはならない(社会教育法第23条第1項参照)。
- もっぱら営利を目的として事業を行い、特定の営利事業に公民館の名称を利用させその他営利事業を援助すること。
- 特定の政党の利害に関する事業を行い、または公私の選挙に関し、特定の候補者を支持すること。
また、市町村または特別区の設置する公民館は、特定の宗教を支持し、または特定の教派、宗派若しくは教団を支援してはならない(社会教育法第23条第2項)。
公民館以外の呼称
より多くの人々が施設で交流を深めてもらうよう、公民館を「生涯学習センター」、「交流館」、「地域交流センター」などと言い換える設置者(市町村など)もある。改称を機に、地域の自治組織の活動拠点として住民に運営を委託するケース[7]や、公民館と同等の機能を持ちながらも法律上の「公民館」に該当しないようにすることで営利目的での利用[8]、企業や特定非営利活動法人による利用を解禁するケースがある[9]。また公民館の名称を維持しつつ、住民票や税務書類の発行などの行政サービスが提供できるように「市民センター」などを併設する(という形にして公民館職員が兼務する)ケースもある[10]。 社会教育法に基づかない学習のための集会施設は公民館類似施設として位置づけられ、また各地には集落施設・自治会館等を公民館と称する例があり、これは自治公民館や部落公民館と名付けられている。ただし自治体によっては、「交流センター」などの名称を公民館の代替名称ではなく、公民館を含む複合施設の名称としている場合がある[11][12]。
公民館図書室
図書室が設置されている公民館も存在する[13]。2011年(平成23年)度の社会教育調査によると、日本全国の公民館数は14,681館で、そのうち図書室を有するのは5,858館と設置率は4割程度であった[13]。公民館図書室の数は、公共図書館の整備の進行や公民館の統廃合により減少傾向にある[13]。公民館図書室と一口に言っても、「図書室」という専用の部屋を持たずに公民館内のオープンスペースで本を並べている施設もあれば、図書館と同様の水準で貸し出しを行っている施設もあり、公民館職員が運営するところもあれば、同一自治体内の公共図書館から職員の派遣を受けているところもあるなど、実態は公民館によって異なる[13]。
公民館図書室は1946年(昭和21年)に文部次官が発表した「公民館の設置運営について」の中で示された、公民館の実践部隊としての「図書部」に起源を持ち、1959年(昭和34年)の「公民館の設置及び運営に関する基準」第3条で公民館に設置する施設の例として「資料の保管及びその利用に必要な施設(図書室)」と記載されたことで設置が奨励された[14]。しかし同基準では公民館図書室の役割を規定しておらず、現場では、公民館の活動を補助するための資料の保管や貸し出しを行う施設として認識された[15]。図書館法との関連で見れば、公民館図書室は第29条の「図書館同種施設」ということになるが、同法は図書館同種施設の役割を具体的に示していない[16]。
図書館と公民館図書室の違い
図書館は図書館法で具体的に規定された施設であるが、公民館図書室は図書館法と社会教育法に挟まれたあいまいな存在である[16]。公民館の現場では、図書の収集・貸し出しやレファレンスサービスを提供することを使命とするのが図書館、公民館の活動を補助するために図書の収集・貸し出しを行うことを使命とするのが公民館図書室と認識されてきた[19]。平たく言えば「本と人との関係を作る」のが図書館、「本を媒介として人と人の関係を作る」のが公民館図書室となる[19]。久繁哲之介は図書館法に基づいて「設置」されるのが図書館、社会教育法に基づいて公民館サービスの1つとして「運営」されるのが公民館図書室であるとし、業務内容や機能に大差はなく、実質的には独立した建物ないし複合施設内で中核施設となるような規模の大きいものが図書館、施設内の1室など規模の小さいものが公民館図書室である、と解説している[20]。サービス面から言えば、公民館図書室は図書館ではないため、所蔵資料の複写サービスを提供できない一方、図書館無料の原則に縛られないので(実際に徴収するかは別として)入室料・利用カード作成料・貸出料などを徴収することができる、という違いがある[21]。
公民館図書室の起源である「公民館の設置運営について」で示された図書部の精神に則るのであれば、人間形成と地域づくりに資するために図書の収集・貸し出しを行うことが公民館図書室の役割であるので図書館とは大差ないと言え、公民館活動のための図書だけを収集・貸し出しすることは当初の精神からずれることになる[22]。実際、図書館の代替施設ないし図書館ネットワークのサービスポイントとして機能する公民館図書室は多く[23]、小規模な自治体では将来的に公共図書館へ発展することが期待されていることも多い[23][24]。また公民館図書室でありながら、各都道府県の図書館協会に加盟する公民館図書室も存在し[16][25]、秋田県立図書館のように公民館図書室の積極的な支援を打ち出している図書館もある[25]。
一般市民にとって、図書館と公民館図書室の違いはよく分からないもので、公民館図書室は公共図書館ができるまでの代替施設、ないし「未熟な公共図書館」として受け止められることが多い[26]。すなわち狭い、暗い、蔵書が少ない、蔵書が古いというハード面の問題とレファレンス非対応、専任職員の不在ないし短期間の交代、利用手続きの煩雑性というソフト面の問題を抱えた施設と見なされてきたのである[27]。公民館の現場でも図書の収集・貸し出し・整理など手間がかかる「お荷物施設」と見なされ、十分に活用されていない場合は単なる「お飾り」になっている[28]。そのため公共図書館が開館すると同時に閉鎖される公民館図書室も多い[13]。他方で、住民が図書館と公民館図書室の役割の違いを認識し積極的に公民館図書室が存置される事例[29]や、複数の小規模な公民館図書室を1つの大規模な図書館へ統合しようとするも住民の反対で消極的に公民館図書室が存置される事例もある[30]。
平成の大合併では公民館図書室から図書館に組織変更する事例(綾歌町公民館図書室→丸亀市立綾歌図書館[31]など)や公民館図書室を既存の図書館の分館に変更する事例(伊賀市上野図書館の分館[32]など)が多く見られた。
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- ^ 【地方再考】住民つなぐCo-Minkan/デンマーク参考 新しい「茶の間」目指す『産経新聞』朝刊2017年11月18日(各地域面)
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- ^ 久繁 2016, pp. 88–89.
- ^ 「丸亀市立綾歌図書館 広くなってオープン 旧館の8倍以上に」朝日新聞2005年7月5日付朝刊、香川版33ページ
- ^ 伊賀市上野図書館 2016, p. 2.
- ^ 特に、国立の施設と都道府県立の施設がそれにあたる。ただ、都道府県立の施設でも高知県立塩見記念青少年プラザや高知県立高知青少年の家のように、専用の宿泊施設が併設されていない場合もある。しかし、高知県立高知青少年の家は、ほかの施設(宿泊施設のあるスポーツセンター)と連携して、宿泊施設が併設されていても、専用の宿泊施設が併設されていないものとみなされている。
- ^ 各地に風雨の被害 公民館が倒れる『日本経済新聞』昭和40年8月6日夕刊、4版、7面
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