入会権 内容

入会権

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/13 04:44 UTC 版)

内容

主体

一定の地域集団(入会団体)であり、入会団体構成員(入会権者)としての資格は、構成員全員の合意によって制定された内部規則によるのが原則であるが、入会団体内部の慣習によることもできる。入会団体は、権利能力なき社団の一形態であるが、権利能力なき社団の内部規律は、当事者(構成員及び利害関係者)全員の同意があれば、変更が可能であり、また、内部規律が時の経過と共に変化していた場合であっても、当事者間に平穏な状態が保たれていたならば、全員の合意が有ったものとして推定されるからである。

一般に,入会権者は,当該地域に居住する全住民ではなく,世帯(又はその世帯主)であるとされる。判例(最判平成18年3月17日民集60巻3号773頁)は,入会権者としての資格を各世帯の世帯主に限定する慣習の有効性について,「入会権の内容,性質等や,……本件入会地の入会権が家の代表ないし世帯主としての部落民に帰属する権利として当該入会権者からその後継者に承継されてきたという歴史的沿革を有するものであることなどにかんがみると,各世帯の構成員の人数に関わらず各世帯の代表者にのみ入会権者の地位を認めるという慣習は,入会団体の団体としての統制の維持という点からも,入会権行使における各世帯間の平等という点からも,不合理ということはできない」と判示し,当該慣習が公序良俗に違反せず有効であるとする。

入会地は、権利能力なき社団の一形態である入会団体の所有物又は合法的占有物であるが、入会地の運用は、それとは別に入会権者が設立した組合、管理組合(まれに農業協同組合)、入会団体の構成とは別の権利能力なき社団等が、共同管理費等を徴収し内部規律を定めている場合もある。入会団体は、入会権近代化法においては、生産森林組合や農地所有適格法人への移行が見込まれている。

利用形態

歴史的には、既述のとおり農村生活のための伐採等がほとんどであり、量的に他の構成員の権利を侵すことはまれで、もし、他の迷惑になる利用を行った場合は、村落における生活上の支障(最も厳しいものは村八分)といった、私的制裁により、秩序が保たれていた。

しかし、共同体の拘束力が薄れる一方で、入会地を経済的に収益する事例が増加するにつれ、構成員の裁量に任せていたのでは、入会地の荒廃及び構成者間の紛争の原因となることが認識され、利用に際しての規定化が進められた。その結果、現在では概ね、

  1. 個人の利用を禁止し、入会集団が直接経営する「直轄形態」
  2. 各構成員に利用区域を割り当てる「分割利用形態」
  3. 入会集団が、利用者と契約し利用させる「契約形態」

のいずれか又はその混合の形態となっている。

管理方法

入会地の管理(特に管理費に関する事項)等については、慣習に従い構成員による会議により行われるが、その議決方法、定足数等についても慣習によっている。

基本的に古くからの慣習であるため、近代的人権に配慮していない規定も見受けられる[1]。しかしながら、入会団体の内部規則は、構成員全員の合意がれば変更が可能であり、構成員全員の決定によって加入を断られた場合は、加入することができない。入会団体への加入を予約する合意が形成されていた場合であっても、加入の予約債権に基づく損害賠償ができるにとどまる。行政機関との総有財産となっている入会地においては、入会権の目的が経済的収益に重点を移していることを鑑み、会計的な開示の面を中心とした改革が求められている。

入会権と採草環境権

環境権の代表的なものとして日照権が有名である。例えば、日照を遮られることによって損害が生じた場合は、日照権によって補償を請求することが認められている。

同様に、採草牧畜が行われている入会地の周囲で開発等が行われ、採草牧畜活動に損害が生じた場合は、入会権に基づく採草環境権によって、補償を請求することが出来る。「入会」という言葉は、採草牧畜という意味も持つため、入会権と採草環境権は混同されることが多いが、分類上は全く別種の権利である(特に、法社会学においては、採草環境権を指して「入会権」と呼ぶ場合があるので注意が必要である)。採草牧畜活動は、土地所有権や借地権によっても可能であり、採草環境権は、土地所有権や借地権に基づいて主張できる。また、入会権は土地に関する権利であるから、入会権者全員の合意があれば、産業廃棄物処分場を営むことも可能である。そのような場合は、入会権はあるが、採草環境権は存在しない。

入会権と損害賠償責任

入会地の保全管理は、各入会権者が単独で行うことができると共に、各入会権者の義務であり、その必要経費は他の入会権者に対し請求することが可能である。過失を原因とする崖崩れ、山火事、倒木等による損害賠償責任は、各入会権者に不法行為を理由とする無限責任があり、共同不法行為として連帯債務となる。

入会権の処分

入会地の処分には原則として入会団体構成員全員の同意が必要である(いわゆる全員一致原則)。もっとも,これと異なる規約又は慣行があれば、全員の同意を要しなくても、公序良俗違反などその効力を否定すべき特段の事情が認められない限り有効であるとされる。判例(最判平成20年4月14日民集62巻5号909頁)は、役員会の全員一致により財産処分が可能となる慣行がある場合においては、役員会の全員一致により入会地の処分が可能であるとした。入会団体が代表者の定めの有る権利能力なき社団に該当する場合は、代表者の権限で入会地を処分できる。なお、入会地と引き換えに得た対価は、構成員全員の総有財産となるのであって、代表者や役員のみに帰属するものではない。

入会権と時効による消滅

入会団体が土地に対して有している実質的所有権(入会権)は、時効消滅しない。入会団体に対して入会権者が有している構成員としての権利(入会収益権)は、一般の権利能力なき社団における構成員としての権利と同じく、「その他の財産権」として20年で時効消滅する(入会団体における入会収益権をさらに別の入会団体で総有している場合であっても、入会収益権は20年で時効消滅する)。

ちなみに、他人(入会団体とは人格を異にする者。第三者のほか、入会権者個人、登記名義人個人など)が、他の者を排除する形で入会地を20年間占有し時効取得をしたときは、結果的に入会権は消滅するが、これは時効消滅ではない。また、入会地が他人名義で登記されている場合において、入会地としての使用実態がなくなり、かつ、入会収益権の保有を示す明認方法も無い場合は、信義則により、入会権者は総有関係から脱退したものとみなされることによって、入会権者の入会収益権は消滅し、結果的に登記名義人の個人所有地となるが、これは時効消滅ではない。

入会地の新規取得

権利能力なき社団の所有関係は(入会団体と同じく)総有であるとするのが判例の立場である。よって,例えば,町内会などの権利能力なき社団が土地を購入し、使用規則を定めたうえで各構成員に開放したならば、それはまさしく入会地である。しかし、明治時代以降に発生したものについては、「入会地」と呼んでも差し支えはないが、「入会地」とは表現しないのが一般的である。


  1. ^ 最高裁2006年(平成18年)03月17日 第2小法廷判決平成16年(受)第1968号 地位確認等請求事件: 入会部落の慣習に基づく入会団体の会則のうち入会権者の資格を原則として男子孫に限定し同入会部落の部落民以外の男性と婚姻した女子孫は離婚して旧姓に復しない限り入会権者の資格を認めないとした会則を公序良俗に反するものとして無効とした。






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