免疫抑制剤 サイトカイン阻害薬

免疫抑制剤

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/27 10:10 UTC 版)

サイトカイン阻害薬

TNF結合タンパク質

腫瘍壊死因子(TNF)-α結合タンパク質は、モノクローナル抗体、またはインフリキシマブ infliximab(Remicade (R)), エタネルセプト etanercept(Enbrel (R)), アダリムマブ adalimumab (Humira (R))などのようなTNF-αに結合する循環性受容体であり、IL-1とIL-6の合成誘導やリンパ球活性化分子の接着を妨げる。TNF-αは多くの自己免疫疾患に関連があるとされる物質で、TNF-αの阻害が関節リウマチとクローン病で有効とされている。エタネルセプトとインフリキシマブという薬がある。関節リウマチ乾癬性関節炎強直性脊椎炎クローン病HIVへの応用は今後も期待される。TNFやTNFの効果は、クルクミンターメリックの成分)やカテキン緑茶成分)などの様々な天然化合物でも抑制される。

こうした薬剤は結核にかかったり、不顕性感染を活性化したりする危険性を高める。インフリキシマブやアダリムマブは、患者が結核に潜伏感染していないか評価し処置を開始してから使うように注意書きがある。

IL-1阻害薬

関節リウマチの骨びらんの進行を遅らせる可能性がある。

抗体

抗体は急性の拒絶反応を防ぐ迅速で有望な免疫抑制法として使われる。

ポリクローナル抗体

異種性のポリクローナル抗体は、患者の胸腺細胞やリンパ球を注射した動物(ウサギウマなど)の血漿から得られる。抗リンパ球グロブリン (ALG) や抗胸腺細胞グロブリン (ATG) が使われる。ステロイド耐性の急性拒絶反応や重篤な再生不良性貧血の治療に使われる。しかし基本的には他の免疫抑制剤の量を減らし毒性を抑えるために併用するものである。

ポリクローナル抗体によりTリンパ球が抑制され、補体系およびオプソニン化によるT細胞溶解がおき、それに続いて脾臓肝臓循環系からの網内系細胞の除去が起きる。この方法で細胞性免疫の反応による移植片拒絶や遅延型過敏症(つまりツベルクリン反応)、移植片対宿主症(GVHD)などを抑制するが、胸腺依存的な抗体産生に影響が出る。

現在市場には2つの製剤がある。ウマ血清から得られるAtgam (R)とウサギ血清から得られるThymoglobuline (R)である。ポリクローナル抗体は全てのリンパ球に作用し、全般的な免疫抑制を起こすため、移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)やサイトメガロウイルスなどによる深刻な感染症を引き起こす可能性がある。こうしたリスクを減らすために、この処置は感染からの適切な隔離が可能な病院で行われる。通常は5日間静脈注射で適切量が投与される。患者は免疫系が血清病の危険がなくなるまで回復するのに3週間ほど病院に留まる。

ポリクローナル抗体の高い免疫原性のため、ほぼ全ての患者はこの処置に対して急性反応を示す。発熱硬直症状、アナフィラキシーが特徴である。その後の治療中に、血清病や免疫複合体性糸球体腎炎を起こす患者もいる。血清病は治療開始後7から14日後に起こる。患者は発熱、関節痛紅斑を示し、ステロイドや鎮痛剤で鎮めることができる。蕁麻疹が出ることもある。高度に精製された血清分画と、例えばカルシニューリン阻害剤や細胞成長抑止剤、糖質コルチコイドのような他の免疫抑制剤を併用することでこの毒性を緩和することができる。最もよく使われるのは抗体とシクロスポリンを同時に使用する組み合わせである。患者はこれらの薬剤に対して次第に強い免疫反応を示すようになり、その効果が薄れたりなくなったりする。

モノクローナル抗体

モノクローナル抗体は特定の抗原に対して作用する。それゆえ副作用はより少ない。特に顕著なものとして、IL-2受容体(CD25)やCD3に対する抗体がある。これらは移植した臓器が拒絶されるのを防ぐために用いられるが、リンパ球の集団構成の変化を追跡するのにも用いられる。将来同様の新薬が期待できる。抗CD25モノクローナル抗体は腎移植の急性拒絶の予防で用いられ、抗CD52モノクローナル抗体はB細胞性の慢性リンパ性白血病の治療薬である。

T細胞受容体に対する抗体

OKT3 (R) は現在認可されている唯一の抗CD3抗体である。マウスIgG2aタイプの抗CD3モノクローナル抗体で、全ての分化T細胞にあるT細胞受容体複合体に結合してT細胞の活性化と増殖を抑える。最も効果のある免疫抑制物質のひとつであり、臨床ではステロイドやポリクローナル抗体に耐性の急性拒絶症状を抑えるのに用いられる。ポリクローナル抗体よりも特異的に作用するため、移植において予防的に用いることもある。

OKT3の作用機構はまだ十分には理解されていない。この分子はT細胞受容体複合体のTCR/CD3に結合することがわかっている。最初のうちはこの結合によりT細胞が非特異的に活性化され、30分から60分後に深刻な症状を呈する。その特徴は発熱、筋肉痛、頭痛、関節痛である。心臓血管系や中枢神経系に生命を脅かすほどの反応を起こし長期療養が必要になる例もあった。OKT3はTCR-抗原間の結合を阻み、T細胞表面のTCR/CD3を構造変化させたり完全に除去したりする。これによりおそらく網内系細胞による取り込みが活性化し、T細胞数が減少する。CD3分子へのクロスバインディングは細胞内シグナルをも活性化し、副刺激分子による他のシグナルを受けなければ、T細胞のアネルギーやアポトーシスを誘導する。またCD3抗体は細胞のバランスをTh1からTh2へ移行させる。

したがってOKT3を用いるかどうかを決めるには、大きな効果だけでなく毒性副作用についても考慮する必要がある。そこには過剰な免疫抑制のリスクと、患者が薬剤を中和して効かなくする抗体を産生するリスクがある。CD3抗体はポリクローナル抗体より特異的に作用するとはいえ、細胞性免疫を著しく低下させ、患者が日和見感染や悪性腫瘍にかかりやすくしてしまう。

IL-2受容体に対する抗体

IL-2は免疫系を調節する重要な因子であり、活性化したTリンパ球のクローン性増殖や維持に必要である。その効果はα、β、γ鎖からなる三量体細胞表面受容体IL-2aによって仲介される。IL-2a(CD25、T細胞活性化抗原、Tac)はすでに活性化されたTリンパ球のみが発現する。それゆえ、選択的な免疫抑制処置にとって特別な重要性があり、効果的で安全な抗IL-2抗体の開発に焦点を当てて研究が行われてきた。遺伝子組み換え技術を利用してマウスの抗Tac抗体が改変され、1998年にbasiliximab (Simulect (R)) とdaclizumab (Zenapax (R)) という2種のマウス-ヒト・キメラ抗Tac抗体ができた。これらはIL-2a受容体のα鎖に結合し、IL-2に誘導される活性化リンパ球のクローン性増殖を抑え、その生存期間を短縮する。両側腎臓移植後の急性臓器拒絶の予防に用いられ、どちらも同様に効果があり、副作用はわずかである。

その他

副刺激の阻害や細胞接着の阻害は重要な研究テーマである。

インターフェロン

インターフェロン(IFN)αは、腎癌慢性骨髄性白血病多発性骨髄腫に用いられている。インターフェロンβは、Th1サイトカインの産生と単球の活性化を抑制する。多発性硬化症の進行を遅延させるために使われる。IFN-γはリンパ球のアポトーシスを誘引する。

ヒドロキシクロロキン

ヒドロキシクロロキン抗マラリア薬であるが免疫調節薬としても知られている。ヒドロキシクロロキンの免疫調節作用は2つの作用からなる。第一の薬理作用はTLRの機能阻害である。全身性エリテマトーデスにおいてDNARNAに対する自己抗体が産出される。これら自己抗体と核酸による免疫複合体はエンドソームにおいてTLRにより認識され、Ⅰ型インターフェロン産出を誘導する。ヒドロキシクロロキンはエンドソームのpHを上昇させることにより、または核酸への直接結合によりTLRの活性化阻害を行う。第二の薬理作用はエンドソームpHの上昇作用を通じて抗原提示を阻害することである。そのた多彩な作用機序が報告されている[8]。皮膚エリテマトーデス、全身性エリテマトーデスの基本的治療薬であり海外では関節リウマチの治療薬でもある[9][10]

免疫調節薬であり他の免疫抑制剤のように易感染性を示さないのが特徴である。内服開始後、血中濃度が定常状態になるまで4ヶ月以上要するため効果発現はゆっくりである。血中半減期も40日と長い。投与初期の副作用としては消化器症状が多い。長期投与ではヒドロキシクロロキン網膜症に注意が必要である。その他の長期投与の副作用として神経障害、筋障害、心筋障害、皮膚の色素沈着などが知られている。

類似薬のクロロキンは腎炎の治療薬として1955年に販売されたが深刻な薬害を起こし、1974年に販売中止になった経緯がある。ヒドロキシクロロキンはクロロキンよりも網膜毒性が低いが網膜症のモニタリングが必要である。

併用注意薬としてはシクロスポリンジゴキシンアミオダロンモキシフロキサシン抗てんかん薬などがあげられる。

オピオイド

オピオイドの長期服用は白血球の移動を妨げて免疫抑制を引き起こすことがある。


  1. ^ a b c MEDLEY 免疫抑制薬
  2. ^ 日経メディカル 免疫抑制薬の解説
  3. ^ 小林節雄, 根本俊和「肺疾患 (気管支喘息) に対する免疫抑制剤の正しい使い方とその評価」『臨床薬理』第6巻第1号、日本臨床薬理学会、1975年、71-77頁、doi:10.3999/jscpt.6.71ISSN 0388-1601NAID 130002041854 
  4. ^ 谷口敦夫「3.従来の免疫抑制薬(シクロホスファミド,アザチオプリン)の使い方」『日本内科学会雑誌』第98巻第10号、日本内科学会、2009年、2500-2505頁、doi:10.2169/naika.98.2500ISSN 00215384CRID 1390001206444489856 
  5. ^ Arthritis Rheum. 2004 May;50(5):1370-82. PMID 15146406
  6. ^ MoM 175: 微小管 日本蛋白質構造データバンク
  7. ^ a b 亀田秀人, 小川祥江, 鈴木勝也, 長澤逸人「4.カルシニューリン阻害薬の使い方」『日本内科学会雑誌』第98巻第10号、日本内科学会、2009年、2506-2511頁、doi:10.2169/naika.98.2506ISSN 00215384CRID 1390282681421201792 
  8. ^ Nat Rev Rheumatol. 2012 Sep;8(9):522-33. PMID 22801982
  9. ^ Ann Rheum Dis. 2019 Jun;78(6):736-745. PMID 30926722
  10. ^ Ann Rheum Dis. 2010 Jan;69(1):20-8. PMID 19103632
  11. ^ Kobayashi T, et al. "Efficacy of immunoglobulin plus prednisolone for prevention of coronary artery abnormalities in severe Kawasaki disease (RAISE study): a randomised, open-label, blinded-endpoints trial." Lancet 2012;379(9826):1613-20. doi:10.1016/S0140-6736(11)61930-2.






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