優性 メカニズム

優性

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/10/27 04:19 UTC 版)

メカニズム

大抵の場合、優性の性質はその種の普通の形質であり、劣性のものはそうではなく特殊なものである例が多い。これは、たとえば一遺伝子一酵素説で考えれば分かりやすい。

この説では、遺伝子は酵素の設計図であると見る。その酵素が作れることでその生物はある形質を発現できる。劣性の遺伝子はその設計図が壊れたものと考えれば良い。その遺伝子をもつ生物はその酵素を作れないので、その形質を発現できず違った形になる。これが劣性の形質である。

優性の遺伝子をもつ個体と劣性の遺伝子をもつ個体とが交配すれば、その子は優性遺伝子と劣性遺伝子をヘテロに持つことになる。その体内には正しい設計図と壊れた設計図が共存するので、正しい酵素と壊れた酵素が同時に作られる。その結果、数が少なくはなっても正しい酵素が作られることにより、その形質は発現できることになるであろう。つまり見掛け上は劣性の形質は出現しない。

ただしヘテロ接合となって酵素の量が減少したため、優性形質の発現に十分な酵素の量を生産できない場合もある。このとき典型的には不完全優性となり、ハプロ不全と呼ばれる状態になる。

上記は最もよくある機能喪失型の変異である。一方で、変異によりタンパク質の活性が上がったり、通常とは異なる機能を得るような、機能獲得型の変異が起きた場合は、その新しい機能が優性になる。

この他に、優性阻害(ドミナントネガティブ)と呼ばれる、変異型の遺伝子産物(タンパク質など)が、正常型の遺伝子産物の働きを阻害する現象がある。正常型を阻害する(ネガティブの)効果が優性(ドミナント)なため、この名がついている[7]。ドミナント・ネガティブは、複合体を形成するタンパク質でよくみられる。多くのタンパク質は、複数のタンパク質が組み合わさった多量体またはオリゴマーの状態で活性を示すが、複合体に1つでも変異体が入ると正常に機能しなくなる場合、変異型の存在により正常型の働きが阻害される。両親から受け継いだ一対の遺伝子のうちどちらかが正常であれば、確率的には正常な複合体も存在するが、活性は強く抑制される。例として4量体で活性を示すp53遺伝子がある[8]


  1. ^ 「優性」「劣性」用語使わず 日本遺伝学会が言い換え
  2. ^ a b ジャン・ドゥーシュ「進化する遺伝子概念」p58 みすず書房、2015年
  3. ^ 中村運 「生命科学の基礎」2003年 p41
  4. ^ 例えば、以下の教科書には全てメンデルの法則として「分離の法則」「独立の法則」と記されているが、優性に関しては「法則」とは書かれていない。「キャンベル生物学」2007年、J.F. クロー「遺伝学概説」1991年、「ハートウェル遺伝学」2010年、「アメリカ版 大学生物学の教科書 分子遺伝学」2010年 (原著「LIFE」)、澤村京一「遺伝学」2005年
  5. ^ 「優性の法則」を法則と呼ぶことの問題点は他にもある。1組の対立遺伝子がある形質に完全優性を示しても、別の形質に対してはそうとは限らない。例えば豆の丸とシワを決める対立遺伝子は、その遺伝子が生産する酵素の量に注目すれば完全優性にはなっていない。
  6. ^ 武部啓「遺伝学」 p5、第三版、1993年
  7. ^ 渡邉淳「診療・研究にダイレクトにつながる遺伝医学」羊土社、2017年
  8. ^ “The role of mutant p53 in human cancer”. The Journal of Pathology 223 (2): 116–26. (January 2011). doi:10.1002/path.2784. PMID 21125670. 
  9. ^ 安田徳一 『初歩からの集団遺伝学』p88、裳華房、2007年。
  10. ^ a b 「ハートウェル遺伝学」p60 2010年
  11. ^ a b Myths of Human Genetics John H. McDonald, University of Delaware
  12. ^ a b Myths of Human Genetics Earwax type John H. McDonald, University of Delaware
  13. ^ Myths of Human Genetics Hitchhiker's thumb John H. McDonald, University of Delaware
  14. ^ Myths of Human Genetics Tongue-rolling John H. McDonald, University of Delaware
  15. ^ Myths of Human Genetics Hair whorl John H. McDonald, University of Delaware
  16. ^ 正常多様性形質の分子遺伝学的研究 科学研究費助成事業 研究成果報告書 平成25年6月19日





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