優先権 優先権の概要

優先権

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/21 18:46 UTC 版)

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優先権制度を利用した特許出願の例。上記の例では、2008年4月に甲がX国で発明aの特許出願Aをし、2008年6月に乙がY国で発明aの特許出願Cをし、2008年12月に甲がY国で発明aの特許出願Bをしている。このままでは、Y国での甲の出願Bは、乙の出願Cにより拒絶されるが、甲が出願Aを基礎に出願Bについて適法に優先権を主張した場合、出願Bは、出願Cにより拒絶されず、逆に出願Cは出願Bにより拒絶される。

優先権は、優先権を認める何れかの国に出願をした時点で発生するが、優先権の存続期間(優先期間)、すなわち優先権が発生してから優先権を主張できるまでの期間は限定されている。したがって、優先権を主張する場合は、優先権が発生した出願から優先期間内に出願をし、その出願の際に優先権が発生した出願を特定して、優先権を主張する意思を表示する必要がある。

適法に優先権の主張がされた場合、優先権が発生した出願の日(優先日)を基準に新規性進歩性などの特許要件が判断されるので、出願審査において有利となる。すなわち、優先権を主張した出願の前に公知となっていた技術であっても、優先権が発生した出願後に公知になったものであれば、その技術の存在を理由に出願が拒絶されることはない。

日本の特許制度において、優先権とは、パリ条約に基づく優先権(パリ優先権)と、特許法41条1項・実用新案法8条の規定に基づく優先権(国内優先権)の2つがある。

特許制度は各国ごとに規定されており、特許権の効力も各国の国内にしか及ばないので(属地主義)、発明等により特許等を受ける権利が発生しても、特許を取得するには必要な全ての国で出願しなければならない。しかし、他国に出願するためには、各国語への翻訳や必要書類の準備、代理人の選定などに時間がかかるため、この間に他者に先を越されれば権利を取得できず著しく不利益となる。これを避けるためにパリ優先権制度が設けられた。

また、日本の特許出願・実用新案登録出願を基礎に特許協力条約(PCT)の国際出願について優先権を主張した場合、その優先権は国内法令で定めるところによるため(PCT8(2)b)、パリ優先権の規定と平仄を合わせるために国内優先権制度が設けられた。国内優先権については、日本の特許出願・実用新案登録出願を基礎に日本の特許出願・実用新案登録出願についても優先権を主張することができ、優先日を確保しつつ実施例・改良発明の追加を行うことができるので、包括的かつ漏れの無い権利取得を図ることができるという利点もある。


  1. ^ 適法な優先権の主張の効果として、先の出願の時にされたものとみなされる(出願日が遡及する)と説明されることがあるが、登録要件を先の出願時で判断するに過ぎないため、この説明は正確ではない。
  2. ^ パリ条約の同盟国の国民は、パリ条約第3条の規定により同盟国の国民とみなされる者を含む(第43条の3)
  3. ^ 世界貿易機関の加盟国の国民とは、世界貿易機関を設立するマラケシュ協定附属書1C第1条3に規定する加盟国の国民をいう(43条の3)
  4. ^ 現在は明記しなければ全締約国を指定したものとみなす(PCT規則4.9(a))
  5. ^ なお、謄本の代わりにそれと同様な内容を有する公報若しくは証明書で、その同盟国の政府が発行したものを提出しても良い(同項)。また、特許出願・実用新案登録出願の場合は、第1国若しくは工業所有権に関する国際機関と電磁的方法によって書類を提出可能であると経済産業省令で定める場合には、必要書面を提出することで優先権証明書の代わりにできる(43条5項)。
  6. ^ 特許法・実用新案法では、優先日から1年4月、分割・変更・46条の2第1項の出願から3月のうち遅く満了する期間。意匠法・商標法では、出願日から3月以内。複合優先の場合は、基礎となる出願の中で最先の日が優先日として起算される逐条20版(p177)






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