体育会系 体育会系の概要

体育会系

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/03 14:00 UTC 版)

概説

精神論根性論上下関係、体力の重視を特徴とする。日本では大学クラブ活動(いわゆる体育会に属する)やスポーツ選手養成組織で育まれることが多いことから「体育会系」と呼ばれる。素地は少年野球などの学童向けスポーツや中学校高等学校の運動部の段階で養われている[2]。そうした風潮は欧米社会でもみられる。アメリカでは「ジョック」と呼ばれ、男子であれば野球アメフトの部員、女子であればチアリーディング部に所属することは、ジョックの中でも人気者になれるといった、ステレオタイプがある。(詳しくはジョックを参照)。

日本の部活動やスポーツ界は、先輩(または実力のある上位者)への批判はおろか、疑問を抱くことすら許されない体質、年齢主義的で年功序列・上意下達型の縦社会を形成する場合が多い。例えば大学の運動部を表わす表現に「4年神様、3年貴族、2年平民、1年奴隷」というものや[2]相撲界を表わす表現に「無理偏に拳骨と書いて兄弟子と読ませる」などといったものがある[3][4]。また、いわゆる「文化系」の代表的なクラブ活動と位置づけられている「演劇」「吹奏楽」「合唱」といった公演系のクラブやサークルについても、基本的にチームワークで活動することや運動部と同様に指導者によるスパルタ式指導とそれ相応の体力も要求されるので(発声練習、発声や管楽器を吹くための体力としてランニング、腹筋などの筋トレが行われた時代もあった)、体育会系的な部分が存在しているとされる。

各大学の応援団や体育会系クラブが変わりつつある。かつて(1990年代以前)は厳しい上下関係、飲酒の強要などの通過儀礼が多くあったが、近年の学生の気質や価値観の変化などもあり、部員の確保に困難なことなどから「未成年者に酒を飲ませない」「授業を優先させ、アルバイトを許可制にする」など厳しさを保ちつつ、時代の変化に応じた改革を行う応援団が相次いでいる。またパワーハラスメントなどの認識が社会に広まったことで、先輩部員による度が過ぎた「しごき」と称する厳しい指導などは「鍛錬の名を借りたイジメ」と取られ、見直されるようにもなっている[5]

高校球児の頭髪には年長者を中心とした周囲の固定観念が根強く残る。地方予選を勝ち残り、チームが甲子園に立った時、監督は選手の頭髪を自由化すると、特に年配のOBやファンから「球児らしくない」と苦情が殺到した。しかし、頭を丸めることを強制することは明確な体罰(暴力)と定義されている[6]アメリカ合衆国スタンフォード大学アメリカンフットボール部の河田剛コーチは、「日本人はケガをおしてやり続けることが素晴らしいと思っている。それは間違いであり、早く改善されるべき課題である」と述べている[7]

背景

スポーツライターの相沢光一は、古来に中華帝国他)から伝来した儒教の教えが背景にあるとしている。親や年長者など目上の者は立て、従うという考え方が日本の組織の秩序を維持する上でスタンダードになっており、そうした考え方は中世・近世の若衆宿や武家社会などから近代の軍隊へと受け継がれ、体育会系運動部に根付いたという。また、スポーツは球技系を中心にチーム競技が多いことから、結果的に全体の秩序を守ることにも繋がり、運動部には好都合の価値観だったとも述べている[8]。さらに、運動部だけでなく中等教育を中心とした学校教育においても、体罰の行使や全体の統制重視などをはじめとする、体育会系価値観による教育が管理教育の名のもとに1980年代まで行われていた。

スポーツライターの玉木正之は、日本ではスポーツを「体育」として捉え実践し続けてきた背景があり、学校で行うスポーツの目的がそれを通じた体力養成、人格形成、社会的ルールの体得、協調性ある良き社会人の育成に重点を置いているからで、その「体育的教育観」とスポーツとを混同させ、現在においてもスポーツの場で同様の考えを最優先している指導者が少なからず存在すると述べる。玉木は、スポーツに様々な教育的効果があるのは認めつつも、それを一般社会とは切り離して扱うべきと説いている[9]

また相沢と玉木は、先輩後輩を軸にした体育会系という特殊な縦関係はフィールドの外にも広がり、学校の卒業及び会社の定年退職後も先輩が社会でも優位に立つ、厳密な縦社会が形成されているとしている[8][9]

古代ギリシアの優生思想で、軍国主義的政治を尊ぶ厳格な教育制度はスパルタ式と後世に呼ばれ、こうした人材育成はスパルタ教育と言われる語源となった。男性は、戦争に出ても生きて帰って来れるような健康でしっかりとした子を期待され、質実剛健、忍耐と服従を身につけさせた。スパルタは人類で初めて結婚を制度化し、国民皆兵制度と軍事組織の維持の為の結婚であり、その中で、女性にも体育が奨励され、健康な子を持つことが期待された。女性はまず子作りが最優先とされ「強い子供を産める母体の育成」のために幼少期から厳しい体育訓練を受けていた。このような歴史的事実から転用され、現代日本では厳しい教育一般について、比喩として「スパルタ教育」と呼ばれることがあり、これも「体育会系」と関連付けられることがある。


  1. ^ ルーク・タニクリフ『「カジュアル系」英語のトリセツ』アルク、2017年、92-93頁。 
  2. ^ a b 相沢光一 (2013年2月5日). “今こそ、運動部につきものの行き過ぎた上下関係「体育会系」気質を見直す好機かもしれない(1)”. ダイヤモンド・オンライン. 2013年6月8日閲覧。
  3. ^ 天地人20110408”. Web東奥 (2011年4月8日). 2013年6月8日閲覧。
  4. ^ 情報誌「たけだ通信」No91 エッセー”. 武田病院グループ. 2013年6月8日閲覧。
  5. ^ 産経新聞 2009年6月22日付記事、25面「変わりゆく『花の応援団』」
  6. ^ 2018年6月7日中日新聞朝刊27面
  7. ^ 2018年6月9日中日新聞朝刊29面
  8. ^ a b c 今こそ、運動部につきものの行き過ぎた上下関係「体育会系」気質を見直す好機かもしれない(2/4)”. ダイヤモンド・オンライン (2013年2月5日). 2013年6月8日閲覧。
  9. ^ a b 「野性味」は「体育教育」から生まれない”. 玉木正之公式WEBサイト『カメラータ・ディ・タマキ』 (2010年5月12日). 2013年6月8日閲覧。
  10. ^ 【理不尽な上下関係】公務員の人間関係「体育会系」な5つの特徴【その理由と対策も紹介】
  11. ^ 転職活動でも強い? 体育会系神話”. web R25 (2013年2月17日). 2013年6月8日閲覧。
  12. ^ なぜ体育会系は就職に強いのか(1) - 就活エトセトラ - 就活朝日”. asahi.com (2011年2月26日). 2013年6月8日閲覧。
  13. ^ 石渡・大沢 2008, p. 67.
  14. ^ なぜ体育会系は就職に強いのか(2) - 就活エトセトラ - 就活朝日”. asahi.com (2011年2月26日). 2013年6月8日閲覧。
  15. ^ 「なぜ体育会系は就職に強いのか」(就活朝日)
  16. ^ 石渡・大沢 2008, p. 66.
  17. ^ a b c d 溝上 2015.
  18. ^ ゆとり教育の申し子 「ネコ型新人」こそ時代を切り拓く”. BLOGOS. 2019年2月10日閲覧。
  19. ^ a b c 松原 2016.
  20. ^ 日本大学文理学部闘争委員会書記局 編『叛逆のバリケード…日大闘争の記録』三一書房(原著1991年10月)。ISBN 9784380912320 
  21. ^ 朝日新聞 1968年4月3日付朝刊記事。シリーズ「大学スポーツの周辺」第3回「ストへの抵抗 母校への恩返し? 号令一下の“突撃精神”」
  22. ^ 『星野仙一のすばらしき野球野郎』日刊スポーツ出版社(原著1983年7月)。ISBN 9784817200662 
  23. ^ リクナビNEXT 転職成功ノウハウ『体育会系人間VS文化系人間合う社風・合わない社風』2015年1月13日閲覧
  24. ^ 外資就活ドットコム2015年1月13日閲覧
  25. ^ a b c オトメスゴレン「うわ、体育会系だ」と引いてしまう上司の特徴9パターン2015年1月13日閲覧 [信頼性要検証]
  26. ^ リクナビnext転職成功ノウハウ『体育会系人間VS文化系人間合う社風・合わない社風』2015年1月13日閲覧
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  28. ^ 大学生の集団によるわいせつ系事件 近年の主な事例まとめ
  29. ^ 亜細亜大野球部の5人逮捕 中央線電車内で痴漢
  30. ^ 国士大サッカー部、活動を自粛 選手権も出場辞退 朝日新聞2002年12月2日
  31. ^ 明治大騒音訴訟で賠償命令
  32. ^ 日本大学サッカー部やラグビー部員ら61人、学割悪用し組織的に不正!罰則金642万円納付
  33. ^ 日本大学ラグビー部不祥事の件について
  34. ^ 母校明治大学応援団リーダー部を解散 社長日記 松野不動産 代表取締役 松野誠寛
  35. ^ 車で女性を連れ去ろうとした同志社大ラグビー部員3人を逮捕
  36. ^ 元ラグビー部員に有罪 同志社大わいせつ略取未遂
  37. ^ 本学(同志社大学)学生ラグビー部員の逮捕事件について
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  41. ^ 本学(日本体育大学)学生の大麻に係る事件の本学の対応と事実関係について
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  57. ^ 暴行:サッカー部監督、酔って部員に 神戸学院大、解任 毎日新聞 2011年10月21日
  58. ^ 寺院バイトで下半身露出 甲南大ラグビー部員 OBも同じことを… 産経新聞 2012年4月13日
  59. ^ 明大柔道部員を暴行容疑で逮捕 酒飲んで飲食店員投げる 朝日新聞 2012年4月11日
  60. ^ 急性アルコール中毒で重体の小樽商科大生が死亡
  61. ^ 大阪国際大サッカー部3人、女性乱暴…報告せず 読売新聞 2012年7月5日
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  63. ^ 早大アメフット部:集団のぞきで50人出場停止処分 毎日新聞 2012年9月21日
  64. ^ 明大馬術部:上級生が男子部員に暴行 公式試合出場停止に 毎日新聞 2012年10月5日
  65. ^ 空手部指導で殴られ立腹、回し蹴りでOB死なす 読売新聞 2012年12月8日
  66. ^ 東海大サッカー部で部員同士の暴力問題 当面は活動自粛 産経新聞 2013年5月11日
  67. ^ 駒大部長、部内暴力と報告遅れで謹慎処分 日刊スポーツ2014年6月19日
  68. ^ 関学大柔道部員のスリ、別の学生数人関与か 読売新聞 2014年11月12日
  69. ^ 大商大拳法部:元主将ら3人逮捕 合宿中に部員暴行 毎日新聞 2015年5月10日
  70. ^ 近大ボクシング部監督、女子部員にセクハラ 自宅待機に 朝日新聞 2017年7月11日
  71. ^ 日大アメフト部の危険行為「容認できない」 スポーツ庁長官 NHKニュース 2018年5月14日
  72. ^ 東海大 硬式野球部 無期限活動停止 部員「大麻を使った」 NHKニュース 2020年10月17日
  73. ^ 車から“大麻樹脂”も押収 東京農大ボクシング部員ら販売目的で所持か…逮捕の2人は中学時代の同級生 FNNプライムオンライン 2023年7月13日
  74. ^ 東農大ボクシング部員を逮捕 “販売目的”大麻を寮で所持か テレ朝ニュース 2023年7月23日
  75. ^ 大麻取締法違反の疑いで朝日大ラグビー部員3人逮捕 岐阜 NHKニュース 2023年8月3日
  76. ^ 日大のアメフト部員逮捕 部は無期限の活動停止処分 NHKニュース 2023年8月5日
  77. ^ 近畿大 剣道部学生逮捕 ほかの部員に暴行か 部員は16日に死亡 NHKニュース 2023年10月18日


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