仙人
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修行法
修行方法には呼吸法や歩行法、食事の選び方、住居の定め方、房中術までさまざまな方法がある。いずれにせよ心身の清浄を保ち気としての「精」を漏らすことは禁物であり、「精」を練り気、神に変え仙人となるための仙丹にまで練らなければならない。また派によっては呪符や呪文を用いることもあった。内丹術を中心とした仙人になるための修行法は「仙道」と呼ばれることが多い。
『漢書』芸文志・方技略・「神僊」には10冊の書名が書かれているが、いずれも現代には伝わっていない。しかしそこに使われた単語から内容を類推できる。「歩引」は馬王堆から発見された図「導引」と等しく呼吸法などを含めた体の屈伸運動で、長生きの法の一つである。「按摩」は現代と同じ意味、「芝菌」は神仙が食べたというキノコ、「黄治」は錬丹術を指す。これらは黄帝や伏羲など神話的人物の技とみなされていた。また『漢書』方技略には他に「医経」(医学の基礎理論であった経絡や陰陽、また針灸などの技法)、「経方」(本草すなわち薬学)、「房中」(性交の技)があり、健康や長寿を目的としたこれらの技法も道教と密接な関係を持った[15]。
『漢書』以外にも様々な法技が行われていた。呼吸法のひとつ「吐故納新」、五臓を意識して行う瞑想の「化色五倉の術」、禹の歩みを真似て様々な効用を求めた「禹歩」などが伝わる[16]。
- 煉丹術(錬丹術・外丹術) - 不老不死などの霊効を持つ「仙丹(金丹)」をねる錬金術。中国で行われた錬金術を煉丹術と呼ぶ。金属の一種であるゴールドではなく、「丹薬」・「金丹」を生成するのが主目的であること、また、丹砂(硫化水銀)をゴールドに変化させるのが基本技術であるからである[17]。仙道の求道者ないし不老不死の探求者(唐の皇帝も含む)が仙薬を服用して水銀中毒になる、などの事例も多かった。
- 房中術 - 陰道・補導の術ともいう。男女が交わり、互いの精気を交換することで不老長生となる技術もある。男性の立場からは採陰補陽、女性の立場からは採陽補陰と呼ぶ。交わることで相手から気を受け取る際、適度に肛門を締めておくことが必要(でないと気が逃げてしまう)。こうして受け取った気は丹田に収容する[21]。
- 導引術(導引) - 呼吸をして体内に気をめぐらせ、手足を屈伸させたり、運動させたりなどして血行を良くする。健康の維持や病気療養、そして不老長生をめざす養生法の一つ。医師で、仙人としても言及される華佗は[22]、5種類の動物の動作を取り入れた導引「五禽戯」を創始した[23]。わが国でも江戸時代には按摩・鍼・灸などとともに日常的に行われていたが、明治以降西洋式体操の導入により廃れる[24]。中国では1980年代以降、導引が再評価され脚光を浴びる。いわゆる気功ブームである[25]。
- 調息(ちょうそく) - 端座してゆっくりと呼吸をととのえ、心身を落ち着けること。不老長生をめざすために気の呼吸法をさかんに研究していたのが『雲笈七籤』巻34で、〈調息に正当な方があれば、延年できる〉とある[26]。
- 胎息(たいそく) - 「鼻や口を通じての呼吸をなるべく抑え、胎児が母胎内で行うと考えられた自閉的な呼吸に近づけ、嬰児の段階で人が先天的に有している清らかな気を凝結させ保持する技法」(長澤志穂による)[27]。
- 辟穀(へきこく) - 五穀を断つこと。断穀、絶穀、却穀、休穀、絶粒、却粒などともいう。乾燥肉(ジビエが好まれた)やドライフルーツを中心に、完全に消化吸収されると考えられた食べ物だけを食べた。中には松の実だけを食べて仙人になった者もいる。また、山中に住む道士たちは、薬効がある野草やキノコを採取して売ることもあった[28]。
- 行気 - 口から古い気を吐き出し、鼻から新しい気を摂取し、全身に気をめぐらし、循環させる方法。技法の種類は時代や人によって異なり、非常に多い[29]。
- 存思(そんし) - 陶弘景(456 - 536)が編纂した『上清経』が説く教え。人の体内にいる神々や宇宙にいる神々をイメージする高度な瞑想[30]。
- 本草 - 中国最古の薬学書は『神農本草経』(2世紀頃)であるが、これに基づいて経験と知識を蓄積し、本草学は一層の進歩を見る。陶弘景は道士であるとともに医師・本草家(薬学者)でもあった。唐代以降、本草書は勅命により編纂されることが多くなり、民間の道士による編纂は減少する[31]。
- 服餌法 - 薬物・食物の摂取による養生法[32]。
- その他 - 霊地、霊木などの気を体内にとり入れる修行もあり、これを俗に「霞を食っている」などという。誤解されがちではあるがこの場合の霞とは朝日と夕日のことを指しており、逆に霧や本当の霞などは食べてはいけないものとされている。
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- ^ 小林正美「劉宋における霊宝経の形成」『東洋文化』第62号、東京大学東洋文化研究所、1982年3月30日、99-137頁。
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