人生の意義 文学における諸見解

人生の意義

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/08 18:55 UTC 版)

文学における諸見解

ゲーテの見解

ゲーテの『ファウスト』においては金が欲しい、地位や名誉が欲しい、異性が欲しいなどの欲望は、欲望を満たしたとたんに次の新たな欲望が生じ、どこまでいっても満たされない、という「永遠の欲求不満」の状態に置かれてしまう[98]。 『ファウスト』における「人生の意味」「本当の幸福とは何か」「本物の満足とはどのようなことか」というテーマの答えは、自分の欲望の満足へのこだわりは突き抜けて、それを手放し、自己(小我)を超越し、利他の状態に至ったときにはじめて手に入るものだ、ということである[98]

なお、ファウストの心の旅があらゆる学問への絶望から始まるように、人生の意味や真の幸福というのは、学問や思索によって得られるものではないのであり、「人生の意味は○○である」とか「真の幸福とは○○」であるということを書物や文章を読んで学んだところで、それで人生の意味や幸福が得られるわけではなく、実際に「自分の命を懸命に燃やす」ことによってのみ人生の意味や真の幸福はつかむことができる、と表現されているのである[98]

各宗教における諸見解

仏教

原始仏教では四諦を示し、人生に存在する喜びと悲しみ(苦,ドゥッカ)を、渇愛の終止によって消滅させることを練習する(滅諦)[99]。人生の中で、喜びと悲しみの原因を見出すことを実践するのである。たとえば苦の原因の1つは、(phassa)からもたらされる色への執着である[100]。それらはすべてサンカーラ(永続的でないもの)だからである[101]

Attadatthaṃ paratthena bahunā'pi na hāpaye
Attadattham bhiññāya sadatthapasuto siyā.

たとえ他人にとって、いかに大事であろうと、 他人の目的のために、自分の務めを捨て去ってはならない。
自分のなすべきことを熟知して、自分の務めに専念せよ。

—  パーリ仏典, ダンマパダ 12.Attavaggo 10, Sri Lanka Tripitaka Project

奔流する渇愛の流れを、完全に枯渇させ、断ちきった修行僧は、
「今世」も「来世」もともに捨て去る。──蛇が古い皮を脱ぎ捨てるように。 —  スッタニパータ 1.3

ヒンドゥー教

デーヴァナーガリーによるオーム

ヒンドゥー教において人生の目的は、ダルマ(道徳、倫理)、アルタ英語版(富、財産、生計)、カーマ(欲望、性欲、情熱)、モークシャ(解脱,輪廻からの解放)である[102][103]。これら4つの目標はプルシャールタ(Puruṣārtha)と呼ばれている[104]

キリスト教 

イエス・キリストは、唯一の神を知り愛することこそ人間の最も大きな生きる目的だと教えた。そして他の人を愛することが次に大切なことであると教えた。これらの愛は無私の愛である。また、神を知る者には、永遠の命を与えられると述べ、命には永遠の意義があると説いている。イエスの弟子ヨハネも「神は愛である」と述べ、神の愛に倣って生きることが人間の本質であると書いた。[105]

イエスは言われた。「『心を尽くし、精神を尽くし、思いを尽くして、あなたの神である主を愛しなさい。』これが最も重要な第一の掟である。第二も、これと同じように重要である。『隣人を自分のように愛しなさい。』ー マタイ22章37-39(新共同訳)

 「ただ一人のまことの神であるあなたと、あなたがこの地上にお遣わしになったわたしを知ること、それが永遠のいのちを得る道です。」ー ヨハネ17章3(リビングバイブル)

 愛する者たち、互いに愛し合いましょう。愛は神から出るもので、愛する者は皆、神から生まれ、神を知っているからです。愛することのない者は神を知りません。神は愛だからです。ー ヨハネの手紙一4章7,8(新共同訳)

脚注

注釈

  1. ^ ゴーギャンたちは、タヒチの現地人が使う鮮やかな布地を「熱帯のエキゾチズムの典型」として描いたが、これらの布地はもとはフランスからの輸入品だった[1]近代西洋の産物(○○イズム)が非西洋の土着文化として誤解・誤用されているという点で、反西洋主義反合理主義は、タヒチの布地に喩えられる[1]
  2. ^ 大脳の前頭前野は、人間の意志力・計画性・忍耐強さなどを──より専門的には「遂行(=エグゼクティブ)」機能を──担っている[38]。前頭前野は、企業の戦略計画を策定する「経営幹部(=エグゼクティブ)」と似ており、長期的な目標追求や大局的な分析のほとんどを行う[38]。対照的に、前頭前野よりも原始的な辺縁系は大脳の奥にあり、反射的で迅速な行動を促す[38]
  3. ^ この数式の分母には小さな定数を加える必要があり、たいてい分母は定数1を加えられて「衝動性×遅れ+1」になる[40]。この定数が加えられる主な理由は、「衝動性」または「遅れ」が0に近い場合に計算結果(である動機づけ)が、現実を反映しなくなるほど極大化するのを防ぐため[40]
  4. ^ "Additional research will be needed to determine whether finding purpose in life, even if a man does not feel it now, will lead to better health."[44]
  5. ^
  6. ^ 諸宗教を科学や近代社会への対抗概念として、または新しい「科学」的概念として創り直した運動の中心は、ヘレナ・ペトロヴナ・ブラヴァツキー夫人らの神智学だった[89]。言い換えれば、近代に入って諸科学や経済が急速に発展しグローバル化する中で、世界各地の宗教・神話・伝統も一種の「グローバル化」を遂げていった[90]。そこでは多種多様な思想が、社会進化論をはじめとする疑似科学をも取り込んで、折衷的に融合していった[91]。その代表例として考えられているものは以下:

    [91]

  7. ^ 具体例:
    「自分こそは他の人々に先んじて高度な霊性に到達した人間である」
    という思考[92]
    精神的・霊的に「最高度」である者が崇拝され、他の成員たちは、その者の意思に全面的に服従しようとする[92]。こうした想い・考えについて理解しない者や批判する者に対しては、「霊性のレベルが低い」「低級霊や悪魔に取り憑かれている」「動物的存在に堕している」といった差別や攻撃を行う[92]
  8. ^ 具体例:
    「目に見えない世界の法則をついに探り当てた」
    という喜び興奮・楽観と、その裏にある被害者意識や不安[92]
    自分たちの思想や団体が社会によって認知され、一定の批判を受けるようになると、精神的・魂的な楽観が被害妄想へと切り替わる[92]。しばしば陰謀論的であり、「目に見えない」闇の勢力ネットワークが、自分たちを「攻撃・迫害」しており、「真理」を「隠蔽」しようとしている等と思い込む[93]
  9. ^ 具体例:
    「人間の霊魂は死後も永遠に存続する」
    という原始的観念と、近現代科学(現代宇宙論)との混同[94]
    結果として、
    • 人類登場以前または地球誕生以前から、(人間の)霊魂が既に存在していた
    • 歴史上、光の勢力と闇の勢力が戦い続けてきた
    • 人類は別の惑星の文明から地球へ来た、または、有史以前に科学文明を発達させていた

    等の、超古代文明的・超古代史的な妄想が発展していく[94]終末論最後の審判最終戦争論等)も関わっている可能性がある[94]

出典

  1. ^ a b ブルマ & マルガリート 2006, p. 17.
  2. ^ 浦田 2010, p. 106.
  3. ^ 諸富祥彦 2004, p. 137-141.
  4. ^ a b c 神谷美恵子 1980, p. 34.
  5. ^ a b c d 益田 2021, p. 「先延ばししやすいものランキング」.
  6. ^ a b ResearchGate - Piers STEEL
  7. ^ a b SpringerLink - Steel, Piers
  8. ^ 益田 2021, p. 「今日のテーマ」, 「先延ばししやすいものランキング」.
  9. ^ a b c d e 斎藤 2008, p. 203.
  10. ^ 斎藤 2008, pp. 203–204.
  11. ^ Five steps to mental wellbeing”. 国民保健サービス. 2018年11月20日閲覧。
  12. ^ 諸富(2004) pp.166-176
  13. ^ 神谷(1980) p.38
  14. ^ a b 神谷(1980) p.42
  15. ^ 神谷(1980) p.98
  16. ^ Jaspers, K., Psychologie der Weltanshauungen, 4. Aufl., Berlin/Göttingen/Hidelberg, Springer, 1954
  17. ^ Kulenkampff, C.: Entbehrung, Entgrenzung, Ueberwältigung als Weisen des Standverlustes, Nervenarzt 26, p.85-, 1955. [1]
  18. ^ 神谷(1980) p.112
  19. ^ 神谷(1980) p.114
  20. ^ いわゆる離人体験などもこのようなところから理解される(神谷(1980) p.115)
  21. ^ 神谷(1980) p.176
  22. ^ 「意味への意志」への欲求不満からおこってくる神経症は、全神経症の14%を占める、という(フランクル『神経症』)(神谷(1980) p.176)
  23. ^ 神谷(1980) p.181
  24. ^ 神谷(1980) p.183
  25. ^ 神谷(1980) pp.183-184
  26. ^ 神谷(1980) pp.184-185
  27. ^ What is post-traumatic growth? What role does it play in living a purposeful life? - How Purpose Changes our Lives”. Coursera. 2022年8月10日閲覧。
  28. ^ 神谷(1980) p.224
  29. ^ 神谷(1980) pp.222-225
  30. ^ 神谷(1980) p.231
  31. ^ スティール 2012, pp. 119–122.
  32. ^ a b c d e f スティール 2012, pp. 120–121.
  33. ^ スティール 2012, p. 122.
  34. ^ スティール 2012, p. 121.
  35. ^ a b c スティール 2012, p. 120.
  36. ^ a b スティール 2012, p. 132.
  37. ^ a b スティール 2012, p. 72.
  38. ^ a b c スティール 2012, p. 70.
  39. ^ スティール 2012, pp. 51–53, 56, 163.
  40. ^ a b スティール 2012, p. 53.
  41. ^ スティール 2012, p. 66.
  42. ^ スティール 2012, pp. 52–54, 48.
  43. ^ スティール 2012, p. 54.
  44. ^ a b c d Finding meaning in life could improve your health” (英語). Harvard Health (2020年4月1日). 2022年6月1日閲覧。
  45. ^ a b c d e f g h 菱刈 2009, p. 113(八四).
  46. ^ a b c ニーチェ 2016, pp. 217–218.
  47. ^ E. Diener, J.J. Sapyta, E. Suh (1998). "Subjective Well-Being Is Essential to Well-Being." Psychological Inquiry, Lawrence Erlbaum
  48. ^ a b Csikszentmihalyi, Mihaly (1990). Flow: The Psychology of Optimal Experience. New York: Harper and Row. ISBN 0-06-092043-2.
  49. ^ Peterson, Christopher; Seligman, Martin (2004). Character strengths and virtues: A handbook and classification. Oxford: Oxford University Press. ISBN 0-19-516701-5. See brief summary”. 2016年1月4日閲覧。
  50. ^ Seligman, M.E.P. (2002). Authentic Happiness: Using the New Positive Psychology to Realize Your Potential for Lasting Fulfillment. New York: Free Press. ISBN 0-7432-2297-0 (Paperback edition, 2004, Free Press, ISBN 0-7432-2298-9)
  51. ^ Boyle PA, Buchman AS, Barnes LL, Bennett DA. Effect of a purpose in life on risk of incident Alzheimer disease and mild cognitive impairment in community-dwelling older persons. Archives of General Psychiatry. 2010;67:304?310.
  52. ^ Kim E, Sun J, Park N, Kubzansky L, Peterson C. Purpose in life and reduced risk of myocardial infarction among older U.S. adults with coronary heart disease: A two-year follow-up. Journal of Behavioral Medicine. (2):124?133.
  53. ^ Kim ES, Sun JK, Park N, Peterson C. Purpose in life and reduced incidence of stroke in older adults: The Health and Retirement Study. Journal of Psychosomatic Research. 2013;74(5):427?432.
  54. ^ Boyle PA, Barnes LL, Buchman AS, Bennett DA. Purpose in life is associated with mortality among community-dwelling older persons. Psychosomatic Medicine. 2009;71:574?579.
  55. ^ a b c d e 大田 2013, p. 241.
  56. ^ 仲島 2007, p. 62, 67.
  57. ^ 仲島 2007, p. 67.
  58. ^ 株式会社日立ソリューションズ・クリエイト(編) 2017, p. 神の死.
  59. ^ ニーチェ 2016, p. 80.
  60. ^ Jérôme Bindé (2004). The Future Of Values: 21st-Century Talks. Berghahn Books
  61. ^ ibid
  62. ^ Rosen, Frederick (2003). Classical Utilitarianism from Hume to Mill. Routledge, pg. 28; 「正義の基礎としての功利を最も強固に、そしてエピクロスの論を再び主張しだしたのはヒュームとベンサムである」
  63. ^ Amy Laura Hall (2002). Kierkegaard and the Treachery of Love. Cambridge University Press. ISBN 0521893119
  64. ^ Dale Jacquette (1996). Schopenhauer, Philosophy, and the Arts. Cambridge University Press. ISBN 0521473888
  65. ^ Durno Murray (1999). Nietzsche's Affirmative Morality. Walter de Gruyter. ISBN 3110166011
  66. ^ Bernard Reginster (2006). The Affirmation of Life: Nietzsche on Overcoming Nihilism. Harvard University Press. ISBN 0674021991
  67. ^ Richard Taylor (January 1970). Good and Evil. Macmillan Publishing Company. pp. "The Meaning of Life" (Chapter 5)
  68. ^ Wohlgennant, Rudolph. (1981). "Has the Question about the Meaning of Life any Meaning?" (Chapter 4). In E. Morscher, ed., Philosophie als Wissenschaft
  69. ^ McNaughton, David (August 1988). Moral Vision: An Introduction to Ethics. Oxford: Blackwell Publishing. pp. "Moral Freedom and the Meaning of Life" (Section 1.5). ISBN 0631159452.
  70. ^ a b c d e 富増章成『これならわかる哲学入門』PHP研究所, 2008, pp.289-291
  71. ^ a b ブルマ & マルガリート 2006, p. 74.
  72. ^ ブルマ & マルガリート 2006, pp. 73–74.
  73. ^ a b ブルマ & マルガリート 2006, pp. 33.
  74. ^ ブルマ & マルガリート 2006, p. 58.
  75. ^ ブルマ & マルガリート 2006, pp. 185–186.
  76. ^ ブルマ & マルガリート 2006, p. 186.
  77. ^ ブルマ & マルガリート 2006, p. 193.
  78. ^ a b c ブルマ & マルガリート 2006, p. 197.
  79. ^ ブルマ & マルガリート 2006, pp. 18–19.
  80. ^ イアン・ブルマ & アヴィシャイ・マルガリート 2006, p. 18.
  81. ^ a b c イアン・ブルマ & アヴィシャイ・マルガリート 2006, p. 19.
  82. ^ イアン・ブルマ & アヴィシャイ・マルガリート 2006, pp. 18–19.
  83. ^ a b c d e f g ブルマ & マルガリート 2006, p. 130.
  84. ^ a b c ブルマ & マルガリート 2006, p. 129.
  85. ^ 石川 2020, p. 「技術史観」.
  86. ^ ブルマ & マルガリート 2006, pp. 129–130.
  87. ^ 大田 2013, pp. 241–242.
  88. ^ a b c 大田 2013, p. 242.
  89. ^ 大田 2013, pp. 22–23.
  90. ^ 大田 2013, pp. 27–28.
  91. ^ a b 大田 2013, pp. 28–29.
  92. ^ a b c d e 大田 2013, p. 243.
  93. ^ 大田 2013, pp. 243–244.
  94. ^ a b c 大田 2013, p. 244.
  95. ^ 大田 2013, pp. 242–244.
  96. ^ a b c d e 大田 2013, p. 240.
  97. ^ a b c 大田 2013, p. 244-245.
  98. ^ a b c 諸富 祥彦、2005、『人生に意味はあるか』、講談社 pp. pp.78-81
  99. ^ パーリ仏典, 律蔵犍度, 大犍度, 38 Mahakkhandhakaṃ 初転法輪, Sri Lanka Tripitaka Project,
  100. ^ パーリ仏典, プンナ教誡経, Sri Lanka Tripitaka Project「喜悦の滅尽により苦の滅尽がある」
  101. ^ アルボムッレ・スマナサーラ『無我の見方 (「私」から自由になる生き方)』サンガ、2012年、Kindle版、位置No.全1930中 893 / 46%。ISBN 978-4905425069 
  102. ^ The Hindu Kama Shastra Society (1925), The Kama Sutra of Vatsyayana, University of Toronto Archives, pp. 8
  103. ^ see:
    • A. Sharma (1982), The Puruṣārthas: a study in Hindu axiology, Michigan State University, ISBN 9789993624318, pp 9-12; See review by Frank Whaling in Numen, Vol. 31, 1 (Jul., 1984), pp. 140-142;
    • A. Sharma (1999), The Puruṣārthas: An Axiological Exploration of Hinduism, The Journal of Religious Ethics, Vol. 27, No. 2 (Summer, 1999), pp. 223-256;
    • Chris Bartley (2001), Encyclopedia of Asian Philosophy, Editor: Oliver Learman, ISBN 0-415-17281-0, Routledge, Article on Purushartha, pp 443
  104. ^ See:
    • Gavin Flood (1996), The meaning and context of the Purusarthas, in Julius Lipner (Editor) - The Fruits of Our Desiring, ISBN 978-1896209302, pp 11-21;
    • Karl H. Potter (2002), Presuppositions of India's Philosophies, Motilal Banarsidass, ISBN 978-8120807792, pp. 1-29
  105. ^ 「生きる意味」 https://mimemo.io/m/3Rx1XoRXZA4e95E






英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「人生の意義」の関連用語

人生の意義のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



人生の意義のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの人生の意義 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS