五大湖 周辺の経済

五大湖

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/17 04:22 UTC 版)

周辺の経済

五大湖とそれを互いに接続し、あるいは大西洋へとつなぐ五大湖水路セントローレンス海路ミシシッピ川と並び、北アメリカの重要な水路のひとつである。他にもいくつかの運河が五大湖から各地域へと通じている。中でも代表的なのは、1825年に建設されたエリー運河1848年に完成したイリノイ・ミシガン運河である。前者はエリー湖とハドソン川を結び、この運河を経由することで、五大湖周辺とニューヨークが船で行き来できることになる。後者はシカゴからミシシッピ川へと通じ、セントルイスメンフィスニューオーリンズなどミシシッピ川岸の主要都市へと船を進めることができる。このほか、カナダにおいては隣接するアメリカを警戒して、アメリカ領内に接せずに五大湖水路を構築する試みが19世紀に行われ、オンタリオ湖北東岸のキングストンからカナダの首都オタワにまで通じ、オタワ川からセントローレンス川を通って大西洋に到達できるリドー運河1832年完成)[10]や、ヒューロン湖のジョージア湾にあるポート・セバーンから直接オンタリオ湖北岸のトレントンにまで通じる[11]トレント・セバーン水路などが建設されたが、20世紀後半からは重要性が低下し、現在ではもっぱら観光用に使用されている。しかし、現代において最も使用される五大湖から海への水路はセントローレンス海路であり、この水路を通れる最大限のサイズである全長740フィート(226m)、幅78フィート(24m)、喫水26フィート(7.92m)の船舶はシーウェイマックスと呼ばれ、五大湖を航行する船の標準となっている。一方で、主に五大湖内のみを航行する船においてはシーウェイマックスに大きさをそろえる必要は必ずしもないため、これより大きな船も建造されることがある。また、セントローレンス海路は深さや閘門のサイズの関係で世界中の洋上用船舶のわずか10パーセントのみしか海路全体を航行できないとされ、五大湖と海をつなぐ水路のネックとなっている。五大湖水路で最もよく輸送される品目は、周辺で生産される穀物と鉄鉱石である。穀物はセントローレンス海路を使用して海外へと輸出されることが多く、逆に鉄鉱石は五大湖北端の鉱山地域で積みこまれて、五大湖南部の製鉄所地域で使用されることが多く[12]、五大湖内で輸送が完結する傾向があることが特徴である。

五大湖は周辺の州の水道水源ともなっている。周辺の州政府は共同でこの貴重な水資源を管理している。また、周辺の地域は鉄鉱石石炭石灰石といった天然資源も豊富である。

このように、早くから水路交通を開拓し、また豊富な水資源や天然資源を有することで、五大湖周辺、特にアメリカ合衆国側には工業都市が発達し、北アメリカ有数の工業地帯へと成長した。メサビ鉄山などスペリオル湖周辺には鉄山が点在し、ダルースで積みこまれた鉄鉱石は下流のゲーリークリーブランドへと運ばれ、南のアパラチア山脈方面から採掘される石炭と合わせることで、鉄鋼産業の成長を促した[13]デトロイトには自動車産業が発達した。1950年代に至るまで、「コーンベルト」・「フロストベルト」と呼ばれる周辺一帯は隆盛を極めた。しかし、現在では「サンベルト」と呼ばれる南部の新興工業地帯に人口・産業が流出し、デトロイトゲーリーバッファローなど犯罪貧困環境汚染といった都市問題を抱える工業都市も少なくない。

重工業と並んで五大湖周辺の経済を支えているのは観光業である。冷涼であるため、湖内に点在する無数の島々にあるコテージやキャンプ場をはじめとする避暑地が点在し、クルージングやヨット、キャンプなどのバカンスを楽しむ観光客が多い。また、カワカマス目ノーザンパイクマスキー)やサケ類が豊富であり釣りのメッカでもある。趣味的・娯楽的な釣りと合わせて漁業も発達し、マスや白身魚などの漁業収入は地域一帯で年間40億米ドルに達する。


注釈

  1. ^ 厳密には“湖峡”であるが、: straits にあたる日本訳語が“海峡”以外にない。
  2. ^ 現在発見されている隕石孔としては南アフリカフレデフォード隕石孔に次ぐ世界第2位の大きさがある。衝突により五大湖に匹敵する大きさのクレーター湖が出現したと考えられるが、痕跡はいまでは地下構造のみが残る。このときの隕石を起源とするニッケル鉱床が形成された。

出典

  1. ^ National Geophysical Data Center, 1999. Bathymetry of Lake Erie and Lake Saint Clair. National Geophysical Data Center, NOAA. doi:10.7289/V5KS6PHK [access date: 2015-03-23].
  2. ^ National Geophysical Data Center, 1999. Bathymetry of Lake Huron. National Geophysical Data Center, NOAA. doi:10.7289/V5G15XS5 [access date: 2015-03-23].
  3. ^ National Geophysical Data Center, 1996. Bathymetry of Lake Michigan. National Geophysical Data Center, NOAA. doi:10.7289/V5B85627 [access date: 2015-03-23].
  4. ^ National Geophysical Data Center, 1999. Bathymetry of Lake Ontario. National Geophysical Data Center, NOAA. doi:10.7289/V56H4FBH [access date: 2015-03-23].
  5. ^ National Geophysical Data Center, 1999. Bathymetry of Lake Superior. National Geophysical Data Center, NOAA. [access date: 2015-03-23]
  6. ^ National Geophysical Data Center, 1999. Global Land One-kilometer Base Elevation (GLOBE) v.1. Hastings, D. and P.K. Dunbar. National Geophysical Data Center, NOAA. doi:10.7289/V52R3PMS [access date: 2015-03-16].
  7. ^ 「ベラン世界地理体系18 カナダ」p143 田辺裕・竹内信夫監訳 朝倉書店 2009年7月15日初版第1刷
  8. ^ 「ベラン世界地理体系17 アメリカ」p108 田辺裕・竹内信夫監訳 朝倉書店 2008年6月30日初版第1刷
  9. ^ 「世界地誌シリーズ4 アメリカ」p17 矢ヶ崎典隆編 2011年4月25日初版第1刷 朝倉書店
  10. ^ 「舟運都市 水辺からの都市再生」p31 三浦裕二・陣内秀信・吉川勝秀編著 鹿島出版会 2008年2月20日発行
  11. ^ 「舟運都市 水辺からの都市再生」p27 三浦裕二・陣内秀信・吉川勝秀編著 鹿島出版会 2008年2月20日発行
  12. ^ 「世界地誌シリーズ4 アメリカ」p29 矢ヶ崎典隆編 2011年4月25日初版第1刷 朝倉書店
  13. ^ 「世界地誌シリーズ4 アメリカ」p46 矢ヶ崎典隆編 2011年4月25日初版第1刷 朝倉書店
  14. ^ 「世界探検全史 下巻 道の発見者たち」p111 フェリペ・フェルナンデス-アルメスト著 関口篤訳 青土社 2009年10月15日第1刷発行
  15. ^ 「アリステア・クックのアメリカ史(上)」p82 アリステア・クック著 鈴木健次・櫻井元雄訳 NHKブックス 1994年12月25日第1刷発行
  16. ^ 「商業史」p197 石坂昭雄、壽永欣三郎、諸田實、山下幸夫著 有斐閣 1980年11月20日初版第1刷
  17. ^ 「舟運都市 水辺からの都市再生」p36 三浦裕二・陣内秀信・吉川勝秀編著 鹿島出版会 2008年2月20日発行
  18. ^ 倉田亮 『世界の湖と水環境』p67 成山堂書店、2001年、ISBN 4-425-85041-6


「五大湖」の続きの解説一覧




五大湖と同じ種類の言葉


固有名詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「五大湖」の関連用語

五大湖のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



五大湖のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの五大湖 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS