事前面接 違法派遣の事例

事前面接

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/10 18:10 UTC 版)

違法派遣の事例

事前面接を理由とする労働者の2重雇用による労働者供給事業禁止規定の違反、多重派遣、偽装請負などの違法派遣は、職業安定法44条と労働基準法第6条の違反のため法律上は同類型となる。

被害者の対応策

告発状・告訴状の送付先

事前面接がおこなわれた場合は速やかに刑事告訴または刑事告発することが肝要である。刑事告訴・告発では連絡先を記入した書面と告訴状(告発状)を検察警察に内容証明郵便または書留で送付することが慣例となっているが、本人の告訴・告発の意思確認のために後日、検察庁に訪問する必要がある。

2重雇用関係による労働者供給事業、それに伴って推認される中間搾取(労働基準法第6条違反)についての告訴状(告発状)の送付先には

  1. 検察直告班または検察官
  2. 労働基準監督署または労働基準監督官

がある。

職業安定法第44条についての告訴状(告発状)の送付先には

  1. 検察直告班または検察官
  2. 警察または司法警察員

があるが、職安法による労働者からの告訴は検察官直受(直告班)のみが報道されている。警察での告訴受理は親告罪が多数を占める傾向にあるので[20]、職安法違反等の知能犯事件は警察とは親和性が低く、十分な証拠が揃っていたとしても職安法等の事業法での告訴・告発が警察で受理される可能性は極めて低い。しかし証拠が不十分な場合では捜査能力が限定される検察よりも、一時捜査責任をもつ警察が望ましいが、証拠不備のために不受理になるものと想定できる。

職業安定法違反事件は知能犯を主に取り扱う検察の捜査になじむ事案であるので、十分な証拠がそろっており一時捜査が不要と思料される場合は検察に対して行うのが賢明である。なお、職業安定法は国と事業者との間の法律であるため、労働者は第三者にとどまり、刑事告訴ではなく刑事告発とすべきとの法解釈も存在するため、告訴・告発を行う際にはあらかじめ、告訴または告発とすべきかを検察に対して確認をとるべきである。

検察への直接告訴・告発を端緒にした事件の割合が警察に対して圧倒的に高いことは統計上でも裏付けられている。検察統計年報によると、平成19年の既済事件数(交通事件を除外)438,346件のうち、告訴・告発を端緒とした事件は11,187件となり、全体の2.4%であるが、そのうち4,728件が検察官による告訴・告発の直受け事件である。この中から公務員からの告発を除くと9,402件が一般からの告訴・告発で、さらに起訴件数は2,446件、不起訴件数は6,936件で起訴率は26.1%である。比較的相談のしやすい警察署での告訴・告発件数が検察と同程度であるこは考えにくい。その理由として告訴・告発の受理による担当刑事への1次捜査責任と送検のための事務処理による過度な負担を防ぐために、警察が受理をしぶり告訴・告発が検察に集中しているとの指摘が法曹界では以前よりある。

労働基準監督署については職業安定法を管轄しておらず、告訴を受理することはできない。管轄は都道府県労働局となるが、司法・捜査権を持たないため、所轄の検察・警察の捜査協力に応じて対応することとなる。

刑事告訴・告発に先行して都道府県労働局、公共職業安定所に対して指導・監督の申し立て書を郵送で送付することができる。仮に労働局などから指導票が発行された場合は、その事実をもって刑事告訴・告発の重要証拠とすることができる。指導票が発行されたということは、労働局は刑事告発ができるだけの証拠があるということであり、業者側で改善しない場合は、告発に踏み切るか、行政処分を行うことを意味している。従って指導票や是正勧告書がでるように申し立てすることを、告訴・告発のための事前準備として捉えることもできる。

疎明資料・証拠

告訴状に添える資料の例として、

  1. 事前面接日時の決定連絡や面談についての連絡の音声記録またはメール
  2. 事前面接時のスキルシートの写し(必須ではない)
  3. 事前面接の音声記録(ICレコーダー、テープ録音機等)
  4. 契約書
  5. 関係者一覧表
  6. マージン率の通知書(中間搾取の参考資料だが必須ではない)
  7. 関連する行政指導履歴(労働関係所局に照会)

資料は誤字をなくし整理をして捜査官の理解を得やすいような工夫をする。最初の段階から拒否できないレベルの告訴状を作成することが肝要である。

労働局による行政指導は、是正が認められないときに警察に刑事告発の要請を行うことを前提としているため、行政指導の履歴は決定的な疎明資料・証拠となる。

罰則

職業安定法第44条の労働者供給事業の禁止規定違反

罰則の適用には被害者による刑事告訴・告発か関係諸局・内部関係者による刑事告発が必要となる。犯罪構成要件となる強制労働、中間搾取の立証も必要となるが、事前面接などの違法派遣では中間搾取が必然的に認められるため、労働基準法第6条違反の告訴・告発を同時または先行して行った大日本印刷子会社にたいする多重偽装請負事件(刑事)などの事例がある。

  • 職業安定法第5章第64条、1年以下の懲役または100万円以下の罰金

処罰は派遣元、派遣先の両者(被告訴人)に科される。会社の代表者、人事責任者、採用担当者などが罰則の対象となる。

告訴取り下げに金銭的補償を伴う裁判外の私法上の和解も可能である。告訴人から金銭を要求することは恐喝とみなされる危険性があるので、被告訴人から働きかけがない限り金銭による和解は現実的ではない。

労働基準法第1章第6条違反(中間搾取の禁止)

中間搾取とは法的にはピンはねをさす。従って事前面接による違法派遣(2重の雇用関係)、または指揮命令による偽装請負は、派遣元による中間搾取となり、派遣先はその行為を幇助したことになる。尚、2重派遣や2重偽装請負であれば、2重の中間搾取に該当する。

罰則の適用には労働者による刑事告訴か関係諸局・内部関係者による刑事告発が必要となる。

  • 労働基準法第13章第118条、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金

両罰規定(労働基準法第121条)

労働基準法第1章第6条違反については両罰規定が設けられている。労働基準法第121条には

この法律の違反行為をした者が、当該事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為した代理人、使用人その他の従業者である場合においては、事業主に対しても各本条の罰金刑を科する。

とあり、事業主(中間搾取行為をした事業者の経営担当者、労働者に関する事項について事業主の為に行為をするすべての者)と事業主の代理人についても処罰が科される。被害を受けた労働者は派遣先および派遣元の会社、従業員などに対して刑事告訴を行える。


  1. ^ 労働者供給事業業務取扱要領 厚生労働省 職業安定局 平成24年10月
  2. ^ 労働者派遣の要点栃木労働局 職業安定部 需給調整事業室 平成25年4月1日
  3. ^ 最終改正 平成24年厚生労働省告示第475号平成24年 厚生労働省告示 第475号
  4. ^ 厚生労働省の指針は関連する判例が存在しないため行政上の判断で策定されたものと見られる。
  5. ^ a b c d e 第8回今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会議事録厚生労働省職業安定局 平成20年6月27日
  6. ^ a b 今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会 報告書 厚生労働省 職業安定局 平成25年8月20日
  7. ^ 中央大学
  8. ^ 近畿大学法科大学
  9. ^ 労働政策研究・研修機構
  10. ^ 東洋大学
  11. ^ 法政大学
  12. ^ 早稲田大学
  13. ^ 東京大学
  14. ^ 派遣労働を恒常的・永続的な制度にし、労働者派遣法を大改悪する労働政策審議会労働力需給制度部会の報告書骨子案(公益委員案)に反対する声明 自由法曹団 平成25年12月18日
  15. ^ 今後の労働者派遣制度のあり方について一般社団法人 日本経済団体連合会 2013年7月24日
  16. ^ 「【秋葉原通り魔事件】犯行使用のナイフとは別の刃物も所持 過去30年で被害最悪か」産経新聞2008.6.8
  17. ^ a b http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/090128/crm0901280130001-n2.htm
  18. ^ http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/090117/crm0901171228004-n1.htm
  19. ^ 「貧困とテロとクーデター」 月刊日本共同講演会
  20. ^ 加藤俊治、P6-9 Q&A 実例 告訴・告発の実際、立花書房


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