不法行為
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/13 06:12 UTC 版)
概説
不法行為は、民法学上、事務管理や不当利得と同じく、法律の規定により発生する法定債権として位置付けられている。不法行為責任は、契約責任のように特定の法律関係にある者の間にのみ生じるものではなく、特定の法律関係にない者の間においても一定の要件の下に生じうることに特徴がある[3]。
この制度は、契約と並んで債権法中の主要な地位を占め、理論上も実際上も極めて重要な法制度であり大きな社会的機能を有する[4][3]。
制度趣旨
不法行為制度は人類の歴史とともに始まるとされ、加害者の処罰、被害者の満足、損害の填補、社会秩序の回復、反社会的行為の防止といった機能を有するとされる[3]。
その後の民事責任と刑事責任の分化や保険制度の普及の結果、不法行為制度における加害者の制裁・処罰や社会秩序の回復の機能は後退し、不法行為制度の現代的機能は損害の填補や将来における不法行為の抑止に重点が置かれるようになっている[5][6]。
過失責任の原則
古くはゲルマン法における原因主義のように行為者は侵害という結果を生じた場合には責任を負うものとする法制がみられたとされる[7]。
その後、初期市民社会の成立とともに不法行為の成立要件についても厳格に解されるようになり、不法行為の成立には行為者に対する非難可能性として過失(主観的な予見可能性)が必要であると解されるようになり、それは資本主義勃興期において個人の自由な活動を保障する機能を果たしたとされる[7][6]。
過失責任の原則は不法行為の成立要件として故意または過失を要するとするもので、その下での不法行為制度は個人の自由な活動に対しての最小限度の限界を画するものとして機能しており、過失責任の原則は民法上の重要な法原則として今日もなお妥当する[8][9]。
しかし、産業革命を経て、巨大な資本の下に高度な科学的設備をもつ企業が登場するとともに自動車の普及など社会生活は複雑化の度合を深め、民法典の解釈としても不法行為要件の緩和が図られてきたとされる[10]。
日本においても個人の自由保障を重視して、民法典においてはあくまで過失責任原則を維持し、無過失責任は特別法の制定に待つべきとの立場が採られたとされ[11]、実際、高度成長期の急激な経済の発展や社会生活の大きな変化によって多くの特別法の制定を促し、また、被害者救済という目的を達成するための制度として、損害保険・傷害保険、各種の賠償責任保険、公的救済制度などが発達するに至った[12][6]。
一般不法行為と特殊不法行為
日本法では不法行為については原則として故意または過失によって他人の権利・利益を侵害した場合にその損害賠償義務を負う(民法第709条)。これを一般不法行為といい、原告が被告の故意・過失の立証責任を負う過失責任主義をとっている。一方、民法(民法第714条以下)及び特別法において立証責任の転換や無過失責任の規定が設けられるなど一般不法行為における原則が修正された特殊不法行為が定められている[13]。
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