下座音楽 下座音楽の概要

下座音楽

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/05/28 19:59 UTC 版)

誕生の経緯

歌舞伎の発達に伴って舞踊劇と科白劇が区別されたためにその音楽も舞踊音楽と伴奏音楽とに分れ、舞踊音楽は出語り出囃子と称して舞台に出て客前に演奏されたのに対し、伴奏音楽は歌舞伎の内容が舞踊から科白劇に移行するのに従って、舞台に現れては目障りとなるので陰に隠れて演奏する様になった。これを演奏する場所が黒御簾という、舞台下手の黒屏板囲いに黒いをかけた所である。

舞台下手で演奏するので下座と称するという説もあるが[2]化政度以前は舞台上手奥で演奏していた事が錦絵に明らかであり、四国九州には実際に上手にある劇場が残る[2]。元々「下座」とは、「外座」とも書き、舞台上手側の臆病口の前の一角を指し、上方でも江戸でも享保末期にそこが囃子の演奏場所となった。上手の下座が演奏場所となる以前は舞台正面奥に囃子方が居並んで演奏するのが通例だった。演奏場所が下手奥に移されたのは江戸では文政から天保の間で、下手奥に移された後もその場所を「下座」と呼んでいたという[1]。さらに黒御簾が現行の位置と形式になったのは安政頃からである[1]。一方上方では明治末期まで上手側舞台ばな寄りの結界と称した場所で演奏されていた[1]。したがって創始期以来の歌舞伎の囃子全般を指して「下座音楽」と呼ぶのは適切ではなく、この語自体も昭和初期頃に言われ始めたものである[1]。下手に黒御簾が移動された理由は色々あるが、要するに花道の発達につれて花道での演技が多くなり、下手でなくては俳優の所作が困難である事に起因するという[2]

明治以前の文献では「外座」という文字が多く使われており、「下座」よりも古くから伝えられている呼称である。「座」とは座る場所で常に定まって演奏する居所という意味で、舞台の正面囃子方の座る場所を囃子座というが、初期歌舞伎でも同じく一定の常座で演奏された。番附、給金附などの面には唄・三味線・笛・小鼓・太鼓・太鼓と役附が頭に書かれていたのだが、これらの演奏者は常座以外の場所で演奏するので外座と称すという説もある[2]。また、江戸時代には劇場附すなわち座附の専属演奏家の中に旗本の次男など冷飯喰いという有産階級の遊蕩児が楽屋へ入って助演したため座附の者と区別するため外座と称したともいわれる[2]

用いる楽器・曲目

大まかに唄・合方(上方では「相方」)鳴物の3つの曲種に大別され、歌は囃子方の長唄連中の唄方、相方は同じく三味線方、鳴物は同じく鳴物の社中(狭義の囃子方)の職分である。下座音楽は三味線囃子を主体としてこれらを混交して用いる。

唄・合方・鳴物を合わせると優に800曲を越える現行曲目がある。うち東京(江戸)の曲が約6割、上方の曲が約4割で、それぞれに特色が認められる[1]

唄は馬子唄のような素歌(すうた)の他は三味線の伴奏を伴う。また、特殊な演出効果を狙う独吟または両吟での「めりやす」と、数人で歌われる「雑用唄(ぞうようた)」に分けられる。

合方は唄のない三味線曲で、唄が入るとこれを「唄入り」という。合方には地歌長唄端唄義太夫など一部の三味線の手をとったものと独自に作曲されたものがある。

囃子は大鼓小鼓太鼓の四拍子、大太鼓、竹笛(篠笛)を主奏楽器とし、この他胡弓、箏、尺八が用いられることもある。特に大太鼓は囃子の首座を占めて歌舞伎に不可欠な楽器となっている。また、鳴物と総称される寺社の宗教楽器あるいは祭礼囃子や民俗芸能の楽器を採り入れた各種の打楽器や管楽器が広く用いられ、本約鐘・銅鑼・当たり(摺り)鉦・チャッパ・マツムシ・鈴(れい)等の金属製楽器から樽・みくじ箱・ビービー笛の様な雑楽器まで数十種類が助奏に使われる。鳴物は楽器を単独または複数組み合わせて用い、一定のリズムで構成された曲目と効果・描写音楽として見計らいで演奏される曲(例えば大太鼓による風雨の表現)とに分けられ、前者は更に四拍子による能囃子を模したもの、祭礼囃子を模したもの、芝居独自に作調されたもの、演出に関係のない劇場習俗としての囃子(儀礼囃子、儀式音楽)などに分けられる[1]

用法・機能

幕明、人物の出入り・居直り、人物の科白・立ち廻り、髪梳き・物着・濡れ場・殺し・縁切・セリ上げ・だんまりなどの特殊な演出、場面転換、幕切などに演奏される。幕明、場面転換、幕切れでは場面の情景・雰囲気を表し、人物の出入りや科白では役柄・俳優の各・個々の演技といった人物本位につけられ、立ち廻りその他の演出ではその演出全体に対する舞踊の地の音楽に類した性格で関わる[1]

全般的に修飾音楽・効果音楽としての効用が中心であるが、伴奏音楽として技術的に関わる面もあり、動作につく囃子は動き方・テンポに対して技術的に関わり、科白につく合方は科白の内容に適合した旋律・音色・強弱・リズムが要求され声の調子やテンポに対して技術的に関連する[1]


  1. ^ a b c d e f g h i 服部 幸雄,広末 保, 富田 鉄之助, ed. (2000). "下座音楽 げざおんがく". 歌舞伎事典. 平凡社. pp. 167–168. ISBN 4-582-12624-3
  2. ^ a b c d e 早稲田大学演劇博物館, ed. (1969). "下座". 藝能辞典. 東京堂出版. pp. 253–254.


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