上皇 (天皇退位特例法)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/23 08:34 UTC 版)
称号における論議
「太上天皇」か「上皇」か
明仁の退位後の特例法に基づく「上皇」という称号は、歴史上退位(譲位)した前天皇に用いられた「太上天皇」(だいじょうてんのう、だじょうてんのう)の略称ではなく、あくまで正式な称号である。
光格上皇以前の歴史上用いられた「上皇」は「太上天皇」の略称だったが、退位特例法の法案化の過程での議論の中で、太上天皇が「治天の君」として院政を敷き、天皇が太上天皇により譲位させられたり、太上天皇同士あるいは、天皇と太上天皇間で権力闘争が起きたことから、「二重権威」にあたるとして使用に反対する意見も見られた。
このような意見を踏まえ、同法第3条第1項に「退位した天皇は、上皇とする」と規定しており、この規定により明仁の退位後の称号は「太上天皇」ではなく「上皇」が正式なものとなる。従って、日本の皇室史上初の称号となる。もっとも、退位した天皇の呼称、および国民に馴染みやすい呼称として選定されており、その語源は「太上天皇の略称」である。
「皇太后」か「上皇后」か
「上皇后」(じょうこうごう)も同様に皇室史上初の称号である。皇后は配偶者たる夫の天皇が退位するか、天皇が崩御して未亡人になると「皇太后」(こうたいごう)となる。
直近の例では香淳皇后が昭和天皇の崩御した1989年(昭和64年)1月7日から2000年(平成12年)6月16日に自身が崩御するまで皇太后の身位にあった。皇太后は三后(皇后・皇太后・太皇太后)の身位の1つだが、未亡人の印象が強い「皇太后」という身位を、退位した天皇の配偶者の称号として使用することに対して、不安を覚える者もいた。天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議のメンバーである山内昌之は、次のように述べている。
「 | お辞めになった天皇のきさきの称号として、本当は皇太后がふさわしい。しかし、未亡人(配偶者である夫と死別した女性)というイメージが非常に強く、戦後の政府官報の英語版にも「皇太后は夫を亡くした皇后を指す」と書いてある[注釈 1]。率直に言って使えないと思った[23]。 | 」 |
上記の事情に加えて、天皇の退位が憲政史上初めてであることから「歴史に引っ張られる必要はない。」といった声もあった[24][注釈 2]。現行の皇室典範では、民間出身で婚姻により皇族の身分を取得した女性の称号は、「皇后」・「親王妃(皇太子妃も含む)」・「王妃」など、天皇及び皇位継承権を有する男性皇族(親王・王)の称号と后、妃を組み合わせたものであり、美智子(旧姓:正田)も初の民間出身であることから、それに合わせて有識者会議は、その責任において新たに創作した「上皇后」を用いるべしと最終的に結論を出した[25]。その後、政府の法案に基づく天皇の退位等に関する皇室典範特例法が国会にて可決され、「上皇」と「上皇后」の称号を用いるものと公式に決定された。
2019年(令和元年)5月1日以後、皇太子徳仁親王妃雅子が立后したことに伴い、明仁の皇后であった美智子がその地位にある。
注釈
- ^ 「皇太后」は英語でEmpress dowager(寡婦皇后)と訳されている。英語版のw:Empress dowagerの項目を参照。
- ^ なお、有識者会議のメンバーに日本史学を専門とする歴史学者は含まれていない。
出典
- ^ 宮内庁公式サイト 英語版 Their Majesties the Emperor Emeritus and Empress Emerita
- ^ “ご称号とお代替わりの基本用語” (PDF). 宮内庁 (2019年4月10日). 2019年4月29日閲覧。
- ^ “The key ceremonies in Japan's Imperial succession” (英語). The Japan Times Online (ジャパンタイムズ). (2019年4月28日). ISSN 0447-5763. オリジナルの2019年4月29日時点におけるアーカイブ。 2019年4月29日閲覧。
- ^ 【譲位特例法成立】天皇の退位等に関する皇室典範特例法(全文)、付帯決議(全文) - 産経新聞2017年6月9日[リンク切れ]
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- ^ 「名誉教皇」の称号は引退した司教を「名誉司教」と呼ぶ習わしに基づいて造語された。
- ^ Japanese Emperor Akihito declares historic abdication - BBC
- ^ “天皇在位時代の上皇さまと上皇后美智子さまが|【西日本新聞ニュース】”. (2019年5月24日)
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- ^ “天皇退位、特例法が成立 一代限り退位容認”. 日本経済新聞. (2017年6月9日) 2017年10月6日閲覧。
- ^ 特例法附則第1条(施行期日)。
- ^ 特例法附則第1条第2項(皇室会議の意見聴取)「前項の政令を定めるに当たっては、内閣総理大臣は、あらかじめ、皇室会議の意見を聴かなければならない。」の規定に基づく。
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- ^ 「【譲位】朝日新聞は「生前退位」から「退位」表記に 広報部「内容に応じてふさわしい言葉を」」『産経新聞』、2016年10月29日。2019年1月18日閲覧。
- ^ 新称号、正しい理解に配慮=天皇退位・山内昌之東大名誉教授インタビュー - 時事通信社2017年5月2日[リンク切れ]
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- ^ 東京新聞:天皇陛下、退位まで1年 高輪で仮住まい 皇居・御所改修へ
- ^ 京都事務所の所掌事務を定める内閣府令及び宮内庁組織規則の一部を改正する内閣府令(平成31年内閣府令第25号)第一条。
- ^ 特例法 附則第1条(施行期日)、附則第10条(国民の祝日に関する法律の一部改正)。
- ^ 上皇ご夫妻が大正天皇陵に退位を報告 毎日新聞 2019年6月6日
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