上水道 水道水の水質

上水道

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/24 05:17 UTC 版)

水道水の水質

水道水(家庭用炭酸化の有無にかかわらず)には、ボトル入りの水には含まれていないフッ化物が含まれている。フッ化物は虫歯の予防に大きな影響を及ぼし、口腔の健康を維持する上で不可欠であると考えられているため、これは重要である。ほとんどのボトル入り飲料水にはフッ化物が含まれていない[20]。ただし、2012年の時点では、アイルランド以外の西ヨーロッパ諸国には水道水フッ化物添加はほとんど行っていない[21][22]

水道水が飲める国

世界で水道水が飲める国は少なく、以下の16カ国が安全に水道水が飲めると言われている[23]

  • 日本
  • アラブ首長国連邦
  • オーストラリア
  • ニュージーランド
  • アイスランド
  • アイルランド
  • スウェーデン
  • フィンランド
  • ドイツ
  • オーストリア
  • クロアチア
  • スロベニア
  • モザンビーク
  • レソト
  • 南アフリカ
  • カナダ
  • フランス

水質基準

WHO

世界保健機関(WHO)では、各国が水質基準を設定する際の参考となるよう飲料水についての水質ガイドラインを定め勧告している[24]

日本

日本における水道法(昭和32年6月15日法律第177号)が定める水質基準は、同法4条2項を受けて制定された水質基準に関する省令(平成15年5月30日厚生労働省令第101号)および平成20年4月1日から施行されたその一部改正(平成19年11月14日厚生労働省令第135号)により、51項目の検査項目・検査方法及び基準値が定められている。同水質基準においては、たとえばカドミウム水銀などについてそれぞれ許容値が定められており、大腸菌(平成15年4月1日より従前の「大腸菌群数」から変更)は検出が許されない。これに適合しないと日本国内において「水道水」として供給できない。

水道法に基づく水質基準は日本国内に一律に適用され条例で変更することはできない[24]

また、上記「水質基準」とは別に、水質基準に準じて検出状況を把握し、管理すべき項目として「水質管理目標設定項目」があり、農薬などの目標値が定められている[25]

なお、1980年代後半までは鉛製給水管が使用されたものの、水道水中への鉛の溶出が問題視されたため、近年は他の材質の給水管への取替えが進んでいる。しかし、2009年(平成21年)度の調査では、未だに約7,500kmの鉛製給水管が残っていると報告されている[26]

米国

米国では安全飲料水法(SDWA)で健康に関わる項目からなる第一種飲料水規則(NPDWR:National Primary DrinkingWater Regulations)と水道利用に関わる項目からなる第二種飲料水規則(NSDWR:National Secondary Drinking Water Regulations)が規定されている[24]。ただし、第二種飲料水規則には法的拘束力は無い[24]

EU

欧州委員会の定めたEU飲料水指令の基準を遵守しなければならず、さらに各国はそれより厳しい上乗せ基準を設定することができる[24]

オーストラリア

連邦政府の水質基準はガイドラインとされており、各州政府がその基準を義務とするか、目標とするか、それよりも厳しい基準にするか決定する権限をもつ[24]

高度浄水処理

日本の上水道では、蛇口地点で塩素が0.1 mg/L以上含まれていなければならず、これによって大腸菌等のバクテリアの発生を防いでいる。水道の元となる取水した原水が十分に清浄であればこれだけで十分清潔な水道水が供給できるが、原水そのものが汚れたものであれば、多くの次亜塩素酸ナトリウム次亜塩素酸カルシウムを加えてバクテリア塩素殺菌する必要がある。

この塩素は、原水中のフミン質と呼ばれる主にバクテリアの腐敗によって生じた、多様な有機化合物群と反応してトリハロメタンと呼ばれるヒトの発ガン性物質が出来るので、塩素臭による不快感と共に、あまり水道中に加えることは出来ない。また、塩素に耐性を持つ特定の原虫が混入したりすることもあり、こういった汚れた原水で飲用の上水道を作る技術として、水の高度処理技術が生まれた。

高度浄水処理では、微細な穴の開いた膜を通したり、活性炭を使用する、オゾンを吹き込むなどのコストの掛かる方法をとる[27]シンガポールでは2003年から、下水を逆浸透膜で浄化する高度濾過技術を使った「ニューウォーター」(NEWater)計画を進めている。(日本東京都では、既に行われている)

硬水軟水

上水の元となる原水がミネラルを多く含めば、上水道で供給される水もそのままミネラル分の高いものとなる。ミネラル分の内でもカルシウムイオンとマグネシウムイオンの割合が高いものが硬水と呼ばれ、低いものが軟水と呼ばれる。通常はこの2つイオンの量を炭酸カルシウムに換算して、1リッター中に200 mg以上含まれるものが硬水で100 mg以下のものが軟水と呼ばれる。

欧州や中国の大部分は一般に硬水が多く、それに適した蒸し料理や油炒め料理、長時間煮込む料理が発達した。日本や米国は一般に軟水が多く、日本ではうまみを引き出した料理や緑茶が発達し、米国では欧州由来のコーヒーが本来の味を引き出せるために薄くなった[27]


  1. ^ a b c d 増田正直「中水道についての検討」『水利科学』第13巻第3号、水利科学研究所、1969年8月、39-56頁。 
  2. ^ 水道の現状について”. 厚生労働省. 2024年2月25日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j k l 宇都宮市水道100周年下水道50周年史 通史編”. 宇都宮市. 2024年2月25日閲覧。
  4. ^ a b c d e 昭和59年度経済技術協力評価調査(フィリピン・インドネシア-上下水道セクター編)”. 国際協力事業団. 2024年2月25日閲覧。
  5. ^ a b c d e f g (3) 上水道施設”. 総務省. 2024年2月25日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g h i 第2章 近代水道の創設”. 堺市上下水道局. 2024年2月25日閲覧。
  7. ^ 第12編 上水道・工業用水道編”. 茨城県. 2024年2月25日閲覧。
  8. ^ 石井啓文『小田原の郷土史再発見』夢工房、2001年。 NCID BA75977282 
  9. ^ 小野芳朗 2001, p. 177.
  10. ^ 小野芳朗 2001, p. 144.
  11. ^ a b c d e 竹中勝信「アメリカ合衆国の上下水道の概要(前編)」(PDF)『水道』第56巻第1号、水道技術研究センター、2011年1月、2017年2月12日閲覧 
  12. ^ 猪本有紀「寄稿 世界の水問題に取り組む商社」(PDF)『日本貿易会 月報』第656号、日本貿易会、2008年2月、 オリジナルの2016年3月4日時点におけるアーカイブ。 
  13. ^ 100兆円の市場を争奪する世界の「水メジャー」って何者?”. R25.jp. R×R(ランキンレビュー). リクルート (2009年4月23日). 2009年4月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年4月25日閲覧。
  14. ^ a b c 寿命超えボロボロ…日本の水道の悲惨な実態 | 週刊女性PRIME”. 東洋経済オンライン (2018年12月20日). 2020年4月27日閲覧。
  15. ^ 改正水道法の概要”. 厚生労働省. 2009年4月25日閲覧。
  16. ^ “関西の水処理技術アピール 財界訪中団がフォーラム”. 日経Ecolomy. (2013年4月20日). http://eco.nikkei.co.jp/news/today/article.aspx?id=NN002Y005+13042009 [リンク切れ]
  17. ^ O&M事業の実績(抜粋)”. ジャパンウォーター. 2016年11月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年7月6日閲覧。
  18. ^ 三次市から浄水場を全面受託』(プレスリリース)ジャパンウォーター、2002年11月11日。 オリジナルの2012年8月2日時点におけるアーカイブhttps://archive.is/3NtG 
  19. ^ a b c d 竹中勝信「アメリカ合衆国の上下水道の概要(中編)」(PDF)『水道』第56巻第2号、水道技術研究センター、2011年2月、2017年2月12日閲覧 
  20. ^ MD, Robert H. Shmerling (2016年11月3日). “Water, water everywhere” (英語). Harvard Health Blog. 2020年11月10日閲覧。
  21. ^ Water Fluoridation Status in Western Europe” (英語). Fluoride Action Network (2012年8月8日). 2020年11月10日閲覧。
  22. ^ Statements from European Health, Water, & Environment Authorities on Water Fluoridation” (英語). Fluoride Action Network (2012年6月11日). 2020年11月10日閲覧。
  23. ^ 『水に流せない「水」の話』 ISBN 978-4041003831
  24. ^ a b c d e f 日本と先進国との水質基準の比較に関する考察”. 公益財団法人 水道技術研究センター. 2020年7月20日閲覧。
  25. ^ 水質基準”. 東京都水道局. 2007年4月4日閲覧。
  26. ^ 鉛製給水管布設替えに関する手引き 資料編(平成24年3月)” (PDF). 厚生労働省. 2014年7月20日閲覧。
  27. ^ a b c 建築設備技術者協会 2002.
  28. ^ アメリカ合衆国環境保護庁 Cross-Connection Control Manual
  29. ^ a b No.802 水道水とカシンベック病”. 国立保健医療科学院. 2020年7月20日閲覧。






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