上座部仏教
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特徴
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聖典
上座部における聖典の本質は、書写された経巻そのものにあるのではなく、それが有情によって記憶・実践・暗誦されていることにこそある(清水2018[46]pp.26-27)。
大乗仏教では後代の仏説ごとに仏典が作られたが、上座部仏教では同一の内容をシンハラ文字など各民族の文字によって記したパーリ三蔵が継承されている。上座部仏教の仏典は「読む」書物というよりも「詠む」書物であり、声を介して仏典を身体に留める伝統が培われた[47]。仏典の継承は口授によって行われるため、戒法の継承は文字経典を求めるより戒や教説を体得した僧侶を招く形で行われる[47]。
教義
上座部仏教では具足戒(出家者の戒律)を守る比丘・僧伽(サンガ(教団))と彼らを支える在家信徒の努力によって初期仏教教団、つまり釈迦の教えを純粋な形で保存してきたとされる。しかし、各部派の異同を等価に捉え、漢訳・チベット語訳三蔵に記録された部派仏教の教えや、さらに近年[いつ?]パキスタンで発見された部派仏教系の教典と上座部のパーリ教典を比較研究する仏教学者の立場からは、上座部は部派仏教時代の教義と実践を現在に伝える唯一の宗派であると評価されるに留まる。
教義では、次のようにされている。限りない輪廻を繰り返す生は「苦しみ (dukkha)」である[48]。この苦しみの原因は、無明[注釈 9]によって生じる執着である。そして、無明を断ち輪廻から解脱するための最も効果的な方法は、戒律の厳守、瞑想の修行による八正道の実践(paṭipatti)であるとする[50][51]。上座部仏教では、釈迦によって定められた戒律と教え、悟りへ至る智慧と慈悲の実践を純粋に守り伝える姿勢を根幹に据えてきた。古代インドの俗語起源のパーリ語で記録された共通の三蔵 (tipitaka) に依拠し、教義面でもスリランカ大寺派の系統に統一されている点など、大乗仏教の多様性と比して特徴的である。
出家者と在家信者の関係は、衆生の無知蒙昧を上から啓蒙するといった、上から下への一方的な関係ではない。自力救済を目指し修行する出家者とは、在家者にとっては自分になり変わって悪行を避ける営みに専念する存在である[47]。俗世の損得で言えば無用な存在ながら、脱俗し悪行を避けて生きる出家者を肯定し布施することで在家者は功徳を積む。十波羅蜜をとるが、波羅蜜は人格形成のための日常的な所作としての位置づけで、大乗仏教のものと順序や名称が異なる[52]。
タブー
国民の90%以上が上座部仏教徒であるタイについて[53]、外務省から教義に則した注意喚起が発信されている[54]。
- 寺院や儀式を侮辱したり、妨害したりする行為は厳しく罰せられる
- 仏像は倒壊したものであっても神聖なものとされている
- 仏像の無断持ち出し禁止
- 僧侶は、絶対に女性(子供を含む)に触れたり、触れられたりしてはいけない
- 身体のうち、頭部は精霊が宿る場所として神聖視されており、頭部に触れることはタブーとされている。子供の頭をなでることもトラブルの原因となる(同様の考えを持つ国として、ベトナム、ラオス、ミャンマーも挙げられている[55])
- 足は不浄とされているので、足裏を第三者に向けて座ったり、間違っても足で人を指すような仕草をすることは避ける
註釈
- ^ この名称は前田慧學の説による[3]。
- ^ テーラヴァーダとは「長老の教え」という意味[4]。
- ^ 佐々木閑は、大乗仏教が部派横断的に多発した運動群であったという考えから、現存の南方上座仏教は一部派というよりも部派の概念では捉えられない前部派的な形態の仏教集団と見ることができるという見解を提出している[11]。
- ^ また、巴: Mahā thera で「大上座」と訳される[15]。
- ^ 「小乗」は「ヒーナ(捨てられた、卑しい、劣った)[17]ヤーナ(乗り物)」の翻訳であり大乗仏教側から見た差別的意味を含む。
- ^ ただし、現存する阿含経典は根本分裂後の部派を経由して伝えられたものであり、口伝で伝承されていた初期仏教の時代の経そのままではないと指摘される[20]。
- ^ スリランカの年代記『島史』や『大史』によると、この部派の呼称は「上座部」(テーラヴァーディン)または「分別説部」(ヴィバッジャヴァーディン)である。また、インド北伝の伝承では、「有分識」を説く部派を玄奘訳の『摂大乗論』無性釈においては「分別説部」とし[28]、また、九心輪思想を唱える分別説部を「上座部」とも呼んでいる[29]。ただし佐々木閑は、上座部は大衆部を除く諸部派の総称でもあり、この呼称をスリランカなどの南方諸国に伝わる部派のみを指す固有名として用いるべきか明らかでないと指摘している[30]。
- ^ テーラヴァーダという言葉の初出は、スリランカの史書『島史』における第一結集にかんする記述のなかにある。ここでは、500人の長老(上座)たちによって結集された法と律の集合が Theravāda と呼ばれている。上座部仏教の研究者である馬場紀寿によれば、これは後発の部派であったと考えられるスリランカ上座部が自らを第一結集の仏説を継ぐ正統派であると主張したことを示すものである[32](馬場紀寿は『島史』のこの文脈において、Theravāda という語を「上座たちによる法と律の集約」については「上座説」、それを継承する集団については「上座部」と二通りに読み[32][33]、上座説を「結集仏説」とパラフレーズしている[34])。
- ^ 法を理解しないこと、すなわち四諦、十二縁起などに対する無知[49]。
出典
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- ^ 「国民を「こじき」にした一族支配、行き過ぎた仏教ナショナリズム──スリランカ崩壊は必然だった」 ニューズウィーク日本版 2022年7月22日(金)18時20分
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- ^ 「ロヒンギャを迫害する仏教徒側の論理」 ニューズウィーク日本版 2018年11月20日(火)14時45分
- ^ 清水俊史「パーリ上座部における正法と書写聖典」、『佛教大学仏教学会紀要 23』pp.19-41, 2018-03-25
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- ^ 「ブッダの智慧で答えます」(Q&A) - 日本テーラワーダ仏教協会ホームページ。
- ^ 宗教 タイ王国.com
- ^ タイ 外務省海外安全情報
- ^ 新潟大学発HELP YOU PROJECT(@helpyou_niigata) 2020年10月14日午前6:52のTweet
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