三四郎 作品背景

三四郎

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/02/24 20:57 UTC 版)

作品背景

明治末期の青年の成長を描いた作品である。当時は、主人公のように地方の人間が立身出世を目指し多数上京していた。作者は一青年の目を通して日露戦争後の日本社会を批評している。三四郎は美禰子や野々宮らと知り合い、郷里、学問、恋愛の三つの世界を見出し、これらが結合した社会の成立を夢想した。この世界の中で三四郎を遊ばせ、無限の可能性のある青年像を描き出している。余裕派と称せられた初期の作品から、これ以降の作品への移行を示す小説であり、また日本で最初の教養小説としても注目される。

三四郎は、漱石の弟子である小宮豊隆がモデルである。小宮は、福岡県仲津郡(明治29年京都郡に編入)久富村(現在の京都郡みやこ町)に生まれ、旧制の福岡県立豊津中学校(現在の福岡県立育徳館高等学校)を経て第一高等学校 (旧制)から、東京帝国大学文学部に進む。三四郎が熊本の第五高等学校出身とされている点は、小宮の経歴とは異なる。なお、育徳館高等学校の校庭には、小宮豊隆文学碑を中心とする「三四郎の森」がある。与次郎も、同じく漱石の弟子の鈴木三重吉がモデルである[注 5]。「三四郎」の名前については、早稲田南町の夏目家の近所に陸軍幼年学校物理学教授田中三四郎[注 6]邸があり、漱石が田中三四郎の表札を見て、主人公の名を思いついたとする説がある[1]


美禰子は、漱石の弟子である森田草平と心中未遂事件を起こした、婦人運動家平塚雷鳥がモデルである。野々宮のモデルは、同じく弟子である、物理学者の寺田寅彦である。広田のモデルは、一高教授の岩元禎、若しくは二高教授の粟野健次郎だといわれている。深見画伯という、浅井忠をモデルにした人物もいる。

三四郎の故郷は「熊本」と誤解されることが多いが、熊本は高校の所在地であり、故郷は福岡県京都郡(旧豊前小倉藩豊津藩〉領)の農村、という設定である。三四郎は、熊本の高校時代のみならず、上京後も、長い休暇のたびに母やお光さんのいる国に帰省している(第11章)。このため、冬休み中に開かれた美禰子の結婚披露宴にも出席できなかった(第13章)。

作中で三四郎と美禰子が出会った東京大学心字池育徳園心字池)は、本作品にちなんで「三四郎池」と呼ばれるようになった。

育徳園心字池(三四郎池)

助川徳是[2]によれば、『三四郎』の各章ごとの時間的構造は、次の通りである。

  • 一 8月中旬か下旬の2日間
  • 二 9月上旬の10日間
  • 三 9月中旬から10月中旬の35日間
  • 四 10月下旬から11月3日の13日間
  • 五 11月上旬の2日間
  • 六 11月上旬の2日間
  • 七 11月上旬のいちにち
  • 八 11月下旬の2日間
  • 九 12月上旬の10日間
  • 十 12月上旬のいちにち
  • 十一 12月上旬の10日間
  • 十二 12月上旬の9日間
  • 十三 翌年2月か3月の7日間

注釈

  1. ^ 『朝日新聞』は『こゝろ』に次いで2014年10月1日から『三四郎』の再連載を始めた。
  2. ^ 後に「三四郎池」と称される。
  3. ^ 郡立豊津実業女学校(現福岡県立育徳館高等学校)の創立は明治45年4月であり、小説の舞台を明治40年とすると、時代が合わない。このため、明治31年6月開校の小倉高等女学校(現福岡県立小倉西高等学校)の間違いかと思われる。また、豊津ではなく小倉の女学校であれば、当時はお光さんの自宅からの毎日の通学は困難で、平日は学校の寄宿舎に入っていたと想定され、「女学校をやめて家に帰ってきている」という表現とも平仄が合う。
  4. ^ 同郷人「勝田の政さん」の従弟で、三四郎の母から後見を頼まれている。母がそのお礼に贈った国の名産「ひめいちの粕漬け」を知らないことから、同郷人ではない可能性がある。
  5. ^ 執筆にあたって「君や小宮の手紙を小説のうちに使おうかと思う」と三重吉に手紙を送り、三重吉も連載当時ひそかに自任していたが、作中で与次郎が広田先生の金で勝手に馬券を買う場面が描かれると「流石の小生も愛想をつかし」モデルを辞退したいと小宮豊隆宛てに手紙(1908年11月16日)を出している(「三四郎の風景」朝日新聞2014年12月25日)
  6. ^ 石垣綾子」の父

出典

  1. ^ 『日本文壇史: 回想の文学, 第 13 巻』伊藤整、講談社, 1996、p113
  2. ^ 助川徳是「『三四郎』の時間」 重松康雄編『原景と写像 近代日本文学論攷』1986年 所収


「三四郎」の続きの解説一覧




三四郎と同じ種類の言葉


固有名詞の分類

映画作品 うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー  愛に叛く者  三四郎  JOY ジョイ  波の数だけ抱きしめて
フジテレビのテレビドラマ 金メダルへのターン!  オレンジの季節  三四郎  な・ま・い・き盛り  娼婦と淑女
NHKのテレビドラマ 先生の秘密  月曜劇場  三四郎  さわやか3組  疾風のように
日本テレビのテレビドラマ サンダーマスク  越前竹人形  三四郎  雑居時代  37階の男
毎日放送のテレビドラマ 狼・無頼控  青春の門  三四郎  夜光の階段  あまから太閤記
朝日新聞の連載小説 ドナウの旅人  青い山脈  三四郎  ひとがた流し  体の中を風が吹く
銀河テレビ小説 ゼロの焦点  となりの芝生  三四郎  お入学  体の中を風が吹く
夏目漱石の小説 三四郎  彼岸過迄  坊つちやん  吾輩は猫である  夢十夜

英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「三四郎」の関連用語

三四郎のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



三四郎のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの三四郎 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2023 GRAS Group, Inc.RSS