ヴァイオリン 奏法

ヴァイオリン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/01/07 03:37 UTC 版)

奏法

基本姿勢

ヴァイオリンの演奏姿勢(左端)

左肩(鎖骨の上)にヴァイオリンを乗せ、顎当てに顎を乗せて押し付け過ぎないように挟み込み、ヴァイオリンを高く持ち上げるように構える。左手でネックを持つが、演奏中に左手で楽器を支えると手首の動きが阻害されるので、左手は添える程度にする。

体を少し左に傾け、左腕を胸側に少し近づけるが、上腕を胸に密着させてはいけない。そして両腕の距離を詰める(ように意識する)。目線は指板と平行になるようにする。左手の指で弦を押さえ、右手で弓を操作する。弓の操作をボウイング(bowing)と呼び、一見単純な動作だが音色を大きく左右し、熟練を要する。[20][22][23]

ポジショニング

第一ポジションの音
青線は左手親指の大略の位置を表し、上から第一ポジション、第二ポジション、第三ポジション。

ヴァイオリンにはギターのようなフレットが無いので、開放弦以外では演奏者が正確な音程になるように押さえる必要がある。左手の人差し指、中指、薬指、小指で弦を押さえるが、このとき左手親指の位置が音程を定める基準となる。

各弦は、指で押さえない状態(開放弦)から人差し指、中指、薬指、小指の順で押さえると一音(二度)ずつ高い音になり、小指で押さえた状態が右となりの弦と同じ音になる。この状態が第一ポジション(first position)である。例えばD線では、何も押さえない開放弦のままではD(レ)、人差し指を押さえるとE(ミ)、中指でF(ファ)、薬指でG(ソ)、小指でA(ラ)となり、右となりのA線と同じ高さになる。楽譜などでは人差し指から順に、それぞれの指を1、2、3、4と表記する。

第一ポジションから左手を少し手前に動かし、開放弦より二音高い音(第一ポジションより一音高い音)が出る位置を人差し指で押さえるのが第二ポジション(second position)、三音高い音が出る位置を人差し指で押さえるのが第三ポジション(third position)である。第一ポジションより半音低い位置を押さえる半ポジション(half position)もある。

高ポジションを利用するのは基本的には第一ポジションではとることのできない高い音程を出すためであるが、音色を変化させるためにあえて用いるときもある。E線の華やかな音を避けたり(A線を用いる)、G線の高ポジションにおける独特の美しさを出す場合である。しかし、高ポジションではわずかな位置の狂いで音が大きく外れてしまい、低ポジションよりも影響が大きいので、弾きこなすには熟練を必要とする。

ビブラート

、手首、指のいずれかを動かすことによって弦を押さえている指を前後させ、音を上下に素早く振動させて深みを与える。左腕を動かすことによってその動きを指先に伝える方法、左手の手首から先を揺らす方法、指のみを揺らす、などの方法がある。

オーケストラにおいてビブラートを常時かける現在の習慣は20世紀中頃に世界に広まったもので、それ以前はビブラートは装飾音、あるいはソリストのものであると認識されていた。バロック音楽などを演奏する古楽オーケストラはもちろんのこと、ロジャー・ノリントンニコラウス・アーノンクールといった古楽系の指揮者が現代オーケストラを指揮する場合には、基本的にノン・ビブラートによる演奏を要求することが多い。

重音(奏法)

歴史的な擦弦楽器では、弓は張力を小指で調整していたため、張力をゆるめることで3または4つの弦に同時にふれさせることができた。現代のヴァイオリンはその構造上、弓で弾く場合は完全な和音は通常2音が限界である(ピッツィカート奏法を用いれば4和音も可能である)。3音、4音の和音を出すには、弓で最初低音の2弦をひき、素早く高音の弦に移す。ただし、やや指板寄りの箇所を弓で弾くことで3音同時に出すことも可能である。

バッハ無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータでは4音同時の和音が多く要求され、しかもそれがポリフォニックに書かれているため、これを正確に現代楽器で表現できる、弓の木が極端に曲がったバッハ弓と呼ばれるものが存在する。ウジェーヌ・イザイ無伴奏ヴァイオリンソナタでは、5音や6音の和音が用いられている。これは一種のアルペジオである。

フラジオレット

弦を指板まで押さえ込まず、軽く左手の指で触れることにより、高く澄んだ音色が得られる。ハーモニクスと言う場合もある。

ピッツィカート

弦を弓で弾かずに、指で弾(はじ)く奏法。楽譜には pizz.(ピッツ)と書かれる。 はじき方は決まっておらず、右手人差し指や中指を使うことがほとんどであるが、左手で行う奏法もある(左手でのピッツィカートは、音符の上に+と書かれる)。通常は、ヴァイオリン本体を顎に乗せ、弓を持ったまま指で弾く(他、楽章全てがpizzだけで構成されているときなど、弓を持つ必要の無い場合は弓を置いて行うこともある)が、ラヴェルボレロなど、全てがpizzでは無いがpizzの指定が長いときは、ギターのように腰のあたりにヴァイオリン本体を抱えて弾く場合もある。

弦を親指と人差し指でつまんで指板に叩きつけ、破裂音を出すバルトーク・ピッツィカートと呼ばれる奏法もある。バルトークによって発案されたとされるが、実際にはマーラー交響曲第7番などですでに用いている。

コル・レーニョ

弓の木の部分で弦を弾く(叩く)奏法で、固く打楽器的な破裂音が鳴る。

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトヴァイオリン協奏曲第5番の3楽章などで使われている。

スル・ポンティチェロ

sul ponticello(駒の上で)は、駒のごく近くの部分の弦を弓で演奏することにより、通常よりも高次倍音が多く含まれる音を出し、軋んだような感覚を得る奏法である。ごく近くを指定するときは、アルト・スル・ポンティチェロ(alto sul ponticello:高い駒の上で)と言う。代表的な例では、ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲集『四季』の「冬」第1楽章に用いられる。

スル・タスト

sul tasto(指板の上で)は、指板の上の部分の弦を弓で演奏することにより、通常よりも高次倍音を含まない音を出し、くぐもったような、あるいは柔らかく鈍いような感覚を得る奏法である。

スコルダトゥーラ

通常、低弦からG-D-A-Eの順で調弦されるが、楽器本来の調弦法とは違う音に調弦(チューニング)する奏法である。


注釈

  1. ^ 特に新品の弦は初期伸びにより簡単にチューニングが狂ってしまう
  2. ^ 当然各奏者はステージに上がる前にチューニングを済ませているので、実態としてはステージパフォーマンスの一つである。

出典

  1. ^ 下中直也 編『音楽大事典』全6巻 平凡社 1981年
  2. ^ 「一冊まるごとヴァイオリン」p127 アルバート・チョンピン・チュワン著 田中良司訳 芸術現代社 2013年11月15日初版発行
  3. ^ 「カラー図解 楽器の歴史」p110-111 佐伯茂樹 河出書房新社 2008年9月30日初版発行
  4. ^ 「一冊まるごとヴァイオリン」p139 アルバート・チョンピン・チュワン著 田中良司訳 芸術現代社 2013年11月15日初版発行
  5. ^ H. F. オルソン(著)、平岡正徳(訳) 『音楽工学』 誠文堂新光社、1969年
  6. ^ 「一冊まるごとヴァイオリン」p125 アルバート・チョンピン・チュワン著 田中良司訳 芸術現代社 2013年11月15日初版発行
  7. ^ 自由ヶ丘ヴァイオリン「6. スクロール 左後頭部 。」 アーカイブ 2016年6月28日 - ウェイバックマシン
  8. ^ 「一冊まるごとヴァイオリン」p138 アルバート・チョンピン・チュワン著 田中良司訳 芸術現代社 2013年11月15日初版発行
  9. ^ 「カラー図解 楽器の歴史」p110 佐伯茂樹 河出書房新社 2008年9月30日初版発行
  10. ^ 安藤由典 『新版 楽器の音響学』 音楽之友社、1996年 ISBN 4-276-12311-9
  11. ^ 「カラー図解 楽器の歴史」p71 佐伯茂樹 河出書房新社 2008年9月30日初版発行
  12. ^ 杉山真樹、松永正弘、湊和也、則元京「バイオリンの弓に用いられるペルナンブコ材の物理的・力学的特性」木材学会誌、40(9)、905-910 (1994)。
  13. ^ 報道発表資料-ワシントン条約第14回締約国会議の結果概要について 日本国環境省 平成19年6月18日 2016年8月28日閲覧
  14. ^ マックスプランク研究所の研究発表: Materials for Violin Bows Archived 2014年1月3日, at the Wayback Machine.
  15. ^ 「一冊まるごとヴァイオリン」p21 アルバート・チョンピン・チュワン著 田中良司訳 芸術現代社 2013年11月15日初版発行
  16. ^ 中澤宗幸『ストラディバリウスの真実と嘘』世界文化社、2011年、103ページ
  17. ^ 「一冊まるごとヴァイオリン」p41 アルバート・チョンピン・チュワン著 田中良司訳 芸術現代社 2013年11月15日初版発行
  18. ^ 大木裕子,古賀広志、「クレモナにおけるヴァイオリン製作の現状と課題」『京都マネジメント・レビュー』 2006年 9巻 p.19-36, 京都産業大学マネジメント研究会
  19. ^ 「一冊まるごとヴァイオリン」p195 アルバート・チョンピン・チュワン著 田中良司訳 芸術現代社 2013年11月15日初版発行
  20. ^ a b Auer, Leopold., Violin Playing As I Teach It, Dover Pubns;New edition, 1980, ISBN 0-486-23917-9
  21. ^ 年表 鈴木バイオリンについて”. 鈴木バイオリン製造株式会社. 2022年3月20日閲覧。
  22. ^ Menuhin, Yehudi., Six Lessons With Yehudi Menuhin, W W Norton & Co Inc., 1981, ISBN 0-393-00080-X
  23. ^ Fischer, Carl., Art of Violin Playing, Carl Fischer Music Dist, 1924, ISBN 0-8258-0135-4





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